地元の村の聖なる山、白岩山
白岩山
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播但国境付近、越知川と猪篠川に挟まれた地域に900mを越す山塊がある。その中で、西から東に稜線をせり上げ、頂上にドーム状のコブを乗せた山が白岩山(しらいわさん)である。
播但自動車道を走るたびに、車窓からこの山を眺めていた。高気圧におおわれた秋晴れのある日、以前から気に止め、そして憧れていていたこの山に登った。
コンクリート舗装の林道を歩き、渓沿いの登山道を上っていった。きれいに下刈りされたスギの林は風通しがよく、ひんやりした渓の空気が心地よい。
スギの植林地帯を出て、頂上が近づくと高い木がなくなった。ササが多くなり、穂をつけたススキが風に揺れている。アセビは、もう赤緑色の小さなつぼみをつけていた。ヒノキも植林されているがどれもまだ背が低い。その中に、暗灰色の安山岩の巨岩がごつごつと露出し、それらが全体としてドーム状の頂上をつくっていた。
山頂の岩の上に立つと、高度感を十分に感じた。南には、大きく秀麗な姿の笠形山が座っている。そこから右へ、七種の山々、明神山、雪彦山、暁晴山が並ぶ。暁晴山の右奥に薄く見えるのは三室山のようだ。昨年の秋に歩いたフトウガ峰から段ケ峰への水平に近い滑らかな稜線が見える。快晴に近いが、やや白く靄っているようでもあった。
白岩山頂上から笠形山を望む(手前はつぼみをつけたアセビの木)
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下山して、車を止めたところに戻ると、年輩の方が一人木材を削る作業をされていた。その方に、白岩山について次のような話を教えてもらった。
植林される前は、山の上の方には広く笹原が広がっていた。視界を遮るものがない頂上からは、遠く飾磨やその向こうの瀬戸内海に浮かぶ船まで見えた。地元の人は、この笹を刈り、それで屋根を葺いていた。笹の屋根は茅などよりずっと強く、葉が落ちても茎はずっと傷まなかった。この笹(クマザサ)を、この辺ではイザサと呼び、それが猪篠(いざさ)の地名となった。小学生を連れて上がったことがあったが、そのときは猪篠の村の中からまっすぐに登っていった。急勾配で、かなりきつい登りということであった。
実は前日、猪篠に住む友人に偶然会った。「白岩山?それはうちの山や。よく登っている。小学生が毎年登っているし、元旦に登ったりもする。それに、山火事の時にもよう行った。頂上の案内板を書いたのは、自分や。」という話を、その友人から聞いていた。
林道を登っていったとき、スギの木立の間から白岩山の頂上が突然現れる地点があった。岩が積み重なったその頂上のドームに朝日が当たり、そこには崇高な気配が宿っていた。
白岩山の南麓に在り、その山に抱かれた猪篠の村。この村にとって、白岩山は生活の場というだけではなく、聖なる山として誇り高くそびえる山なのである。
山行日:2000年9月18日 |