雪彦山A  大天井岳(811.1m)・地蔵岳
   神河町  25000図=「寺前」


岩場の連続、大天井岳から地蔵岳を経て虹ヶ滝へ


地蔵コルを隔てて地蔵岳を望む

 天に向かって屹立する岩峰群、雪彦山。
 前回は、といっても15年前にもなるが、大天井岳から大回りしたが、今回は大天井岳から地蔵岳を経て虹ヶ滝に下った。切り立つ岩にクサリ場の連続する険しいコースである。

 大小のガレ石の埋まる登山道をいきなりの急登。すぐに汗がふき出した。山の空気は、たっぷりと水蒸気を含んでいた。梅雨はまだ明けていない。
 露頭はチャート。古生代の終わりごろ、深海底に放散虫の死骸などが積み重なってできた岩である。岩の表面が濡れていて、つるつると滑りやすかった。

 遠くからほら貝を吹く音が聞こえてきた。古くから修験の行場であったこの山ならではの音の風景である。
 急な登山道には、地上に浮き出た杉の根が岩にからみついていた。岩や根に手をかけて、体を引き上げていった。

急な登山道の木の根階段

 不動岩は、表面がでこぼこ。火山礫凝灰岩で、白亜紀後期、今から7000万年前の岩石。時代が、ぐんと新しくなった。
 そこから道は、大小の岩の間を縫ってジグザグに上っていた。すると、表面がうすオレンジ色の流紋岩が現れた。雪彦山の岩峰をつくる流紋岩の岩床の下部である。
 道はいつの間にか、はっきりした尾根をたどっていた。急登が続いた。

 展望岩は、斜めの階段状に露岩が広がっている。流紋岩にできた数方向の節理によって割れたものだ。
 岩に立つと、雪彦山の切り立つ岩壁が現れた。朝、山頂付近にかかっていた霧が晴れ、薄雲を透かした光にその峻嶮の岩肌を浮かび上がらせていた。

展望岩から雪彦山岩峰群を望む

 展望岩から少し登ったところに、小さな平坦面があった。ここには、行者堂跡の標識があった。
 ときどき現れる露岩を見ながら、まだまだ続く急坂を登った。行く手に大きな岩が立ちはだかり、道はそこから左へトラバースしていた。

 今日最初のクサリ場を下って小さな谷を渡ると、出雲岩の下に出た。高さ30m。見上げると、オーバーハングした岩のひさしが空に突き出している。
 下には割れ落ちた岩が何層にも積み重なっている。その岩を越えて進むと、背割り岩。まっすぐに走る岩の割れ目を、クサリを頼りに登る。

出雲岩の下部

 出雲岩の左を巻くように登っていくと、覗き岩に出た。南が大きく開け、夢前川源頭部の山や谷が眼下に広がった。
 4本の支流による侵食から残された山並みが、こちらに向かって放射状に広がっている。幻想的ともいえる、特徴ある地形である。岩の先端に、何輪かのコオニユリが咲いていた。

覗き岩からの眺め
コオニユリが咲いていた

 覗き岩の横にはセリ岩。今回も、この狭い岩のすきまを通り抜けることができた。ヨカッタ・・・。
 急で狭い尾根に岩場が続いた。岩を乗り越えたり、縫ったりしながら登りつめると、大天井岳の山頂に達した。

 岩の積み重なった山頂。一番高いところにミズナラが立ち、その下に祠が祀られている。その周りに、この山の常連さんたちがのんびりと憩っていた。
 週一で20年来も登っている人もいて、岩の間に隠されたビールや、増えてきたヒルをどうよけるかなどの話で盛り上がった。

 南に連なる山並みは白く霞み、七種の山々や明神山の山影が空を限っていた。ここからの明神山は、山頂もその脇の小明神も丸くて愛嬌があった。

大天井岳山頂 山頂からの展望

 山頂を北に下ると天狗岩。その先で、地蔵岳に向かう道が分かれていた。ここからが、このコースの醍醐味。地蔵岳方面に下っていった。
 切り立つ岩盤が連続していた。岩肌はなめらかで、足場があまりない。固定されたクサリに体重をあずけて、どんどん下る。

クサリ場を下る 連続するクサリ場

 岩棚で体を前向きにすると、目の前に地蔵岳が見えた。地蔵岳は、緑で埋まった樹林の中から、塔のようにそびえ立っていた。
 地蔵コルから踏み跡が地蔵岳に向かっていた。「ここからは危険!」の標識が緊張感を高める。

 岩峰の下まで進み、岩に手をかけた。流紋岩の流理は、大天井岳手前から急角度で立っていて、それと近い角度で切れ落ちている。
 岩の表面は、磨かれているようになめらか。よく見ると、小さな足場に先人たちの踏み跡が光っている。
 そんな手がかりやステップを探りながら、岩をよじ登った。

登路より望む地蔵岳

 地蔵岳の尖峰の上。まわりはどこも深く切れ落ちている。南に大天井岳と不帰岳の岩峰が近く、そのすべてが視野に入らない。
 山頂には、風格ある山名プレートが一枚置かれていた。

地蔵岳頂上

 地蔵コルに戻り、虹ヶ滝をめざして下った。土の急坂は、木の根が階段替わり。岩壁には、クサリやロープが固定されていて、それを伝わって下った。
 岩がむき出しになった谷は、山側につけられたロープを頼りにへつって渡った。まだまだ続く急な下り。木の根、木の幹、とび出した岩、手に触れるものは何でもつかんで、後ろ向きになって下った。

 地蔵岳の岩塔の下、丸く突き出した展望岩に下り着いた。そこから見上げる、地蔵岳東壁。前面を節理ではがし落とした黒い岩肌が、谷から空に向かって屹立している。
 手前には、ノリウツギの白い花が咲いていた。

展望岩より見上げる地蔵岳の岩壁 展望岩に咲くノリウツギ

 展望岩からも、クサリやロープの激しい下りが続いた。ようやく足元に水の音が大きくなり、虹ヶ滝にたどり着いた。
 岩の間から吹きだした水が、何度も飛び跳ねながら勢いよく下っている。谷の上から吹く風が、ほてった体に気持ち良かった。

虹ヶ滝

 滝の下で流れを渡って左岸へ。左岸の道を下り、途中で大きく曲がって再び沢へ下る。しばらく、谷の中の岩を下った。
 こんなところにも、道の下に石垣が残っていて驚いた。賀野神社への古くからの参詣の道である。
 やがて、右岸の山道に出て、その道を下った。

山行日:2016年7月10日

板根登山口〜出雲岩〜大天井岳〜下山道分岐(天狗岩)〜地蔵岳〜虹ヶ滝〜板根登山口
 大天井岳に登ってから、地蔵岳を経由して虹ヶ滝に下る雪彦山の小回りのコースである。
 下山道分岐から虹ヶ滝までの下りは、急崖にクサリ場が連続している。また、虹ヶ滝に達してからは、谷を渡ることがあるので増水時は危険である。

山頂の岩石 雪彦山層 流紋岩 白亜紀後期
 雪彦山の岩峰群は、流紋岩でできている。この流紋岩は、超丹波帯の地層や白亜紀後期の雪彦山層に貫入した岩床であると説明されている。
 ただ、岩峰で観察した流紋岩の流理構造はどこも垂直に近かった。本当に岩床なのか、それとも火山岩頸と考えた方がいいのか、周辺の地層の調査もふくめて検討する必要がある。
 詳しくは、「雪彦山 そびえ立つ流紋岩の岩峰群」を参照して下さい。

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