不整合が2つに分ける、猫崎半島の地質と岩石
砂州、竹野浜から陸繋島、猫崎半島を望む

 兵庫県最北端に位置する猫崎半島は、竹野川の河口から細長く日本海に突き出た岬である。猫がうずくまったような姿に見えることからこのように名付けられた岬は、もともと賀嶋と呼ばれる島であったものが砂州によって陸続きとなった陸繋島(りくけいとう)である。砂州の北側には白い砂の竹野浜が広がり、海水浴場として親しまれている。
 猫崎半島の上部は照葉樹の深い緑に包まれているが、山脚部は岩壁が急傾斜で海に切れ落ち迫力ある風景をつくり出している。

 半島の南部は、新第三紀中新世の北但層群豊岡累層(約2000万年前)の凝灰岩などから成っている。一方、北部は、新第三紀鮮新世の照来層群高山累層(約200万〜300万年前)に属する宇日(うい)流紋岩から成っている。
 半島の西側に広がる波食棚の上を歩けば、これらの地層や岩石、両者の不整合、あるいはポットホールなどの波による侵食地形が観察できる。


海岸に広がる波食棚と海食崖
凝灰質砂岩の波食棚
 
凝灰質砂岩とシルト岩の互層から成る海食崖
 
 竹野浜海水浴場を過ぎ、猫崎半島に少し入った地点に駐車場がある。ここから半島の西側の海岸に下りることができる。
 足元に広がる平坦面は、波の侵食によってできた「波食棚」である。この波食棚は、ゆるく傾斜した凝灰質砂岩の地層からできている。
 打ち寄せる波はまた、波食棚の陸側に「海食崖」をつくっている。この地点の海食崖は、凝灰質砂岩とシルト岩の互層からできている。
 これらの地層は、新第三紀中新世の北但層群豊岡累層(約2000万年前)に属している。
 
地層に見られる構造とポットホール
凝灰質砂岩に見られる葉理とノジュール(左上)
 
波食棚につくられたポットホール
 
 波食棚や海食崖の地層を見ると、地層面と平行に黒く薄い縞模様が入っているのが分かる。これは、黒色泥岩の薄層がつくる葉理(ラミナ)であり、ゆるく湾曲していたり、斜交しているものが観察できる。
 また、波食棚の砂岩層の表面には、径1〜3cm程度のボール状のかたまりがとび出したものが見られる。これを取り出して観察すると、砂粒の間を充填している方解石がきらりと光る。これは、石灰分が濃集してできたノジュールであり、持って帰って薄い塩酸に入れるとさかんに発泡した。

 波食棚の上には、径30cm程度の円形の穴や長径100cm程度の楕円形の穴がいくつもあいている。これは、波食棚の岩盤に生じたわずかな窪みに小石が入り、波浪の力でその小石がくるくるとまわって周りの岩石を削り取り、窪みが大きく深くなったもので、ポットホール(甌穴 おうけつ)と呼ばれている。ポットホールは、安富町鹿ケ壺などの河床などでも同じ原理でできている。
 
海食崖の凝灰岩・軽石凝灰岩
海食崖の地層
 
 
海食崖の軽石凝灰岩
 
 波食棚の上を少し北に進むと、高さ10m程度の大きな海食崖が現れる。淡緑色の凝灰岩の成層した地層である。
 この地層の中ほどに、表面がゴツゴツした軽石凝灰岩の地層がはさまれている。この地層には、径1,2mm〜2,3cmの軽石、および火山弾・火山礫・火山岩塊などが含まれ、それらの色も白・オレンジ・ピンク・エンジと多様である。火山岩塊には、流理構造が見られる。
 
地層の走向と傾斜を測る
 北に進むと、波食棚の岩石は礫岩に変わった。
 礫岩中にはさまれた緑色の凝灰質砂岩の地層で走向と傾斜を測った。このあたりは、走向NS、傾斜25°E。はじめの海食崖の地層は走向N40°W、傾斜20°Eだったので、全体的にゆるく褶曲(しゅうきょく)していることが分かる。

 なぜか、測定する者によって、微妙にその数字が違うぞー。
 写真は、佐藤さんが測っているところを荻野さんと藤井さんが見ている。
礫岩にはさまれた凝灰質砂岩にクリノメーターをあてる
 
 
緑色凝灰岩と含礫火山礫凝灰岩の互層
 正面に、淡緑色と黒色の縞模様からなる海食崖が見えてきた。
 淡緑色の地層は凝灰岩である。
 黒く見える地層は、ハンマーで割ってみると内部は緑色であった。この岩石は、緑色の凝灰岩の基質に濃緑の火山礫や1cm以下の小さな角礫を含んだ含礫火山礫凝灰岩である。
 この互層は、風化や波食に強い含礫火山礫凝灰岩の方が表面にとび出している。 
緑と黒の縞模様、互層
 
波打ち際は全面露頭
 半島から西へとび出した小さな岬である。下の白っぽい地層は、緑色凝灰岩。上の褐色の地層は、火山岩塊を含む凝灰角礫岩である。火山岩塊には、流理構造が普通に見られる。
 海岸線は海食によって複雑な地形をつくり出している。海はそこから急に深く切れ落ちている。
 この少し先まで、半島波打ち際に遊歩道がつけられている。ところどころに、猫崎半島の地質や植生についての解説プレートが埋め込まれている。
海に突き出した岬
 
不 整 合
北但層群豊岡累層と照来層群高山累層宇日流紋岩の間の不整合
 
不整合の一部を拡大
 
 遊歩道は、目の前に大きく立ちはだかる高さ約30mの岩壁によって断ち切られる。
 岩壁下部の成層した緑色凝灰岩は、ここまでずっと続いてきた北但層群豊岡累層の地層である。
 岩壁上部は、下位の緑色凝灰岩を不整合におおう、照来層群高山累層に属す宇日(うい)流紋岩である。この流紋岩には、垂直方向の節理が発達している。
 写真の黄色い線が不整合面を示し、見かけ上北へ35°傾いている。流紋岩の節理は、不整合近くで弱くなったり、細かくなってやや湾曲したりしている。

 流紋岩は、岩壁から割れ落ちてその下に積み重なった岩塊で観察される。緑灰色のガラス質流紋岩で、非常に硬くハンマーでたたいてもなかなか割れなかった。最大5mmの石英・長石とそれらより小さく緑色の鉱物に変質した黒雲母・角閃石の斑晶を含んでいる。流理構造は認められない。
 この流紋岩は、ここから半島の先端部まで分布している。半島の上の尾根道を歩いていたとき、柱状節理によって割れた流紋岩の柱が並び立つ不思議な光景を見た。
 
登山記録「兵庫県最北端、日本海にそそり立つ猫崎半島賀嶋山」へ

■岩石地質■ 凝灰岩・火山礫凝灰岩・軽石凝灰岩・凝灰角礫岩・凝灰質砂岩・シルト岩・礫岩(新第三紀中新世 北但層群豊岡累層)
          ガラス質流紋岩(新第三紀鮮新世 照来層群高山累層宇日流紋岩
■ 場 所 ■ 豊岡市竹野町 25000図=「城崎」
■探訪日時■ 2003年8月6日、2003年9月16日

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