兵庫県最北端、日本海にそそり立つ猫崎半島賀嶋山
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| 竹野浜海水浴場と猫崎半島賀嶋山(2003.8.6撮影) |
兵庫県最北端(猫崎灯台より) |
兵庫県の最北端・猫崎半島は、その姿が猫の姿に似ているところから名付けられたという。賀嶋とも呼ばれ、もともと島であったものが砂州によって陸につながった陸繋島(りくけいとう)である。砂州の北側は、竹野浜海水浴場として夏は多くの人たちで賑わっている。
この南北に細長く伸びた岬の最高所が標高141.4m賀嶋山である。山の上部は、照葉樹の濃緑で深くおおわれている。一方、山脚部は切り立った海食崖をつくり、人も緑も寄せ付けぬ迫力で海に落ち込んでいる。
この夏、仲間三人と共に地質観察を目的としてこの岬に踏み込んだ。そのときは、蚊の猛襲にあって地質観察どころではなくなり、賀嶋公園の少し先であえなく退却した。今回は、そこから歩を進め、賀嶋山の山頂を越えて岬先端の猫崎灯台まで歩いてみた。
賀嶋公園より賀嶋山
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駐車場から賀嶋公園までは、コンクリートの遊歩道が整備されている。
草原に桜の木の植樹された賀嶋公園に立つと、目の前に海が開け、右手に目ざす賀嶋山が海から突き出していた。岩に波が打ち寄せる音に、ミンミンゼミの声がうるさく重なる。海を前にして夏来たときのことを思い出していると、またしても蚊の襲撃が始まった。
賀嶋公園から岬を先に進んだ。初め道は草木に埋もれかけていたが、すぐにまたはっきりしてきた。道の傍らに並ぶ石仏にお参りする人は、ずっと昔に絶えているようだ。それでも人の歩いた跡があるのは灯台の巡視のためだろうか。あるいは、釣り人が磯の穴場を求めてここを歩くのかもしれない。
賀嶋山への上りは、うっそうとした森の中を歩く。トベラ・モチノキ・ヤブツバキ・ヤブニッケイ・タブノキなど、潮風に耐える性質をもった樹木が多い。
樹冠は葉の緑におおわれているが、その下の幹には葉をまったくつけていない。灰褐色でなめらかな樹肌の幹は、ゆるく複雑に曲がりながら斜面に斜めになって並び立っていた。葉の隙間からわずかに見える薄い水色は、どこからが海でどこからが空なのか分からなかった。空を飛ぶトンビの影が樹冠の上をすばやく動いた。
兵庫県最北の三角点が草に埋もれた賀嶋山山頂には、その他の人工物が何一つなかった。
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| 賀嶋山山頂付近 |
道の下は海に落ち込む絶壁 |
賀嶋山を下ったコルあたりがもっとも狭く、左右の岩壁が急傾斜で海に落ちている。コルを少し上ったところから、道は96mピークの東を巻いて岬の先端に伸びていた。葉脈と葉柄が赤いアカメガシワや、葉裏が銀白に光るマルバグミを見ながら急斜面を下りていった。最後の草木を分けると、真白い灯台が眼下に迫り、その後には青い海が大きく広がっていた。
最北の地に立つ灯台の足元に座って、海と向かい合った。波が岩に打ちつけ白く泡を湧き立たせている。潮目が緩く湾曲してずっと北へ伸びていた。遠くに白い点のように見える漁船が二つ三つ、波の上を浮き沈みしている。
水平線は、白い大気の層で縁取られて、くっきりとした線を描いていた。その大気の白は、上にいくほど青みがかって、そのまま空の青に溶け込んでいた。
海から吹く緩やかな風に、斜面に群れるススキの穂が黄金色に揺れた。ツリガネニンジンやナデシコ、それにヤマハッカやシロヨメナが、灯台の下で小さく可愛い花を付けていた。
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| 猫崎灯台 |
猫崎灯台から北を望む |
山行日:2003年9月16日
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