これは、2006年2月に啓林館「教育実践賞」審査員特別賞をいただいたものです。受賞後、啓林館のHPで発表されました。このページは、それを当HP用に編集しました。
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第5回 啓林館「教育実践賞」について
教育実践賞

総合的な学習「神戸で学ぶ"いのち"と"防災"」での地震の学習



兵庫県市川町立市川中学校

橋元 正彦

1、はじめに

 阪神・淡路大震災から10年を迎えた今年,本校では中学1年生(3クラス83名)を対象として,総合的な学習「神戸で学ぶ"いのち"と"防災"」を行った。これは,震災の教訓から命の尊厳を学び,地震を知って防災に関する意識と実践力を高めることをねらいとしたものである。
 神戸でのフィールドワークを中心として,その前後に"いのち"を見つめる学習,地震に関する学習,防災に関する学習を行った。
 ここでは,この取り組みのなかで地震に関する学習の部分を主に報告する。
2.学習の目的

 今回の総合的な学習の目的を,次のように設定した。

(1) 神戸市内には阪神・淡路大震災(1995.1.17)の慰霊碑・追悼碑・モニュメントが多くつくられている。それらをフィールドワークで巡り,震災を伝えようとする「こころ」に触れて,生命のかけがえのなさや支えあうことの大切さを学ぶ。

(2) 私たちの住む市川町でも,南海地震・山崎断層地震など,大きな地震が予測されている。地震を科学的にとらえ,地震を理解した上で,防災(減災)の方法や実践力を高める。

(3) 総合的な学習として取り組む中で,自ら学ぶ力を身につける。また,班で協力することの大切さを学ぶ。
3.指導の流れ

(1) 「阪神・淡路大震災」を知ろう
(2) 神戸市内フィールドワークの提案
  読み聞かせ「あの日をわすれない はるかのひまわり(指田和子・鈴木びんこ PHP研究所 2005)」
(3) 各学級での班編成と役割分担
(4) 各班のフィールドワーク計画
(5) 学年授業「地震を知ろう」
(6) 神戸市内フィールドワークの取り組みを実行委員から発表
(7) 神戸市内フィールドワーク事前指導
(8) 神戸市内フィールドワーク
  (震災モニュメント巡りと「人と防災未来センター」での学習)
(9) 個人での新聞づくり
(10)学習発表会

※指導時数は,(5)が1.5時間,(4)・(9)が2時間,(8)が1日,それ以外は1時間。
※これと並行して,道徳の時間に「がんばれ,神戸(わくわく道徳資料集中学年 東洋館出版社 2001より)」,及び「語りかける目(明日に生きる 阪神・淡路大震災から学ぶ 防災教育副読本(中学生用) 兵庫県教育委員会 1997より)」を題材にした授業を行った。
4.実践の記録1 「阪神・淡路大震災」を知ろう

 本校の位置する市川町は,神戸市の北西約55kmのところにあり,阪神・淡路大震災を起こした兵庫県南部地震では震度4を記録した。生徒たちは,当時のようすを親から聞いたり,テレビを見たり,本を読んだりしていくらかは知っている。しかし,まだ幼少であったために地震そのものの記憶はない。
 そこで,この学習のはじめに「阪神・淡路大震災」とはどのような災害だったのかを伝えることにした。

授業の展開

(1) 当時の新聞を見る

阪神・淡路大震災の翌日から数日間の新聞を見せ,写真や記事を紹介した。
 非常体制で発行された地震翌日の神戸新聞には,「なんということが起きたのか。兵庫県の南部を襲った地震は,想像を絶する被害をもたらした。」と記され,1面には炎上し黒煙の立ち上る神戸市街の写真が載せられている。「大都会 瞬時に崩壊」「がれき下 家族が…」などの見出しが大きい。
 朝日新聞には,「まるで地獄絵 息のむツメ跡」の見出しの下に,阪神高速が崩壊し落下しそうになったバスの写真などが載せられている。
 地震2日後の19日の朝日新聞には,地震に引き続いて起こった火災で焼け野原になった神戸市内の写真が衝撃的である。行方不明になった家族を捜したり,被災地から避難するために不通になった線路の上を歩いたり,破裂した水道管からあふれた水をくんだりしている人びとの様子も紹介されている。
 新聞の発行日を追うごとに,被害の状況が少しずつ明らかになり,死者数が増えていくのがわかる。避難所での厳しい生活や生活確保のための懸命の動きなどとともに,死因の9割以上が圧死であったことや,関西は関東に比べると防災意識が薄かったことなども報道された。
 2月8日には,震度7の地域が須磨から西宮まで20kmに及んでいたことが確認されたと報道されている。

(2) 震災のVTR

 震災のドキュメンタリー番組を15分程度に編集したものを見せた。地震でゆれ動く街のようすや,破壊された建物や道路,被害を受けた人々のようすが生々しく伝えられている。

(3) ワークシート「阪神・淡路大震災を知ろう」

 阪神・淡路大震災の概要について書かれた文を読んだあと,ワークシート(資料1)に記入することでこの地震と被害について確認した。

 

5.実践の記録2 学年授業「地震を知ろう」

 一学年全員を対象として,「地震を知ろう」の授業を行った。これは,地震の伝わり方や,地震の起こるしくみを理解させ,市川町ではどのような地震がどのくらいの可能性で発生すると予測されているかを知ることをねらいとしたものである。
 授業は,プレゼンテーションを中心として,いくつかの実験を行いながら進めた。生徒には,学び取ったことを記入するためのワークシートを準備した。

授業の展開

(1) 地震の基本1 震源と震央

 震源と震央の意味を説明したあと,兵庫県南部地震の震源が淡路島北端部の地下約16kmであったことを確認した。

(2) 地震の基本2 地震のゆれ

 地震を伝える波には2種類あることを説明し,次の実験を行った。
<実験:P波とS波>
写真1 ばねを使った地震波の実験
 ばねをステージの上からつるし,下の端を上下にゆらしたときの波(縦波)と左右にゆらしたときの波(横波)の伝わり方を観察させた(写真1)。次に,下の端で発生した波がばねの上の端につけた家に届くまでの時間を計った。実験結果を,下表に示す。

波の種類 1回目 2回目 3回目 平均
縦波(P波) 0.48秒 0.48秒 0.45秒 0.47秒
横波(S波) 0.56秒 0.63秒 0.62秒 0.60秒


 この実験は床の上で行うと,ばねと床との摩擦のために縦波が横波より遅くなってしまう場合が多い。ばねを上からつるすによって,縦波が横波より速いという実験結果を得ることができた。また,地下の震源から地表へ地震波が届くようすがよりとらえやすくなった。

 実験のあと,縦波をP波ということ,横波をS波ということを説明した。そのあと,兵庫県南部地震のときの神戸海洋気象台の地震計の記録を見せて,P波は初期微動として現れ,S波は主要動として現れることを話した。

(3) 地震の基本3 震度とマグニチュード

震度の意味を説明し,0〜7の10段階に分かれていることを説明する。
<クイズ:次のゆれの震度は?>
 「震度3」と「震度6弱」の室内のようすを漫画で示し,ワークシートの震度の解説表を参考にしてそれぞれの震度をあてさせた。「震度6弱」が想像以上に強いゆれであることに驚いていた生徒が多かった。
 次に,マグニチュードの説明をする。マグニチュードが1大きくなれば,地震のエネルギーが約32倍になることを説明したあと,生徒に次の問いを考えさせる。
 @ マグニチュード7は,マグニチュード6のエネルギーの何倍か。
 A マグニチュード8は,マグニチュード6のエネルギーの何倍か。
 B 兵庫県南部地震のマグニチュードは,いくらだったか。

 Aの答えを64倍とした生徒が多かったが,1024倍とした生徒の意見を聞いて納得した。

(4) 地震はなぜ起こるか

地下の岩石に力が加わると,どうなるかを次のように実験して見せた。
<実験:岩石に力が加わると・・・>
 1枚の発泡スチロール板を左右から押して,どうなるかをたずねた。「折れる。」という答えが返ってきたが,「いや,折れない。」と曲げてみせた。さらに力を加えて発泡スチロール板を大きく曲げ,岩石もこのようにひずみながらエネルギーをためていることを説明した。
 さらに,力を加えると,発泡スチロール板は大きな音を立てて割れた。このとき,たまっていたエネルギーは一挙に解放される。岩石が地下でこのように破壊されるのが,地震の原因であると説明した。
 次に,世界での地震の分布を見せて,日本列島が地震の多発地帯であることを示した。この理由をたずねると,「プレートがぶつかっているから」と答えた生徒がいた。
 ここで,日本付近のプレートの図を示し,日本付近では4つのプレートがぶつかりあっていること,このプレートの動きが岩石に力を加えて地震の原因をつくっていることを説明した。

(5) 地震のタイプ

地震には,「プレート境界型地震」と「内陸直下型地震」の2つのタイプがあることを話した。まず,「プレート境界型地震」がどのようなしくみで起こるのかを,次の実験で示した。
<実験:「プレート境界型地震」の起こるしくみ>
写真2 お風呂マットを利用したプレート境界型地震の発生モデル
 市販のお風呂マットを利用して,大陸プレートと海洋プレートをつくった。大陸プレートを一人の生徒に持たせ,もう一人の生徒に適当に曲げた海洋プレートをその下にもぐり込ませた(写真2)。
 このとき,大陸プレートがある程度引き込まれると跳ね上がるように,押す角度や力を調節させる。この大陸プレートが繰り返し周期的に跳ね上がる現象が,「プレート境界型地震」を起こしていると説明した。
 「内陸直下型地震」の起こるしくみは,断層の模型と図を示して説明した。このとき,地下では活断層が動き,このタイプの地震も繰り返し起こることを説明した。
 兵庫県南部地震は,六甲ー淡路断層帯に属する活断層の一部が活動したものである。この地震で,淡路島北西部の海岸沿いにあらわれたのが延長10kmに及ぶ野島断層である。六甲―淡路断層帯を図で示し,野島断層の写真を見せた。

(6) 市川町で起こると予測されている大きな地震

 これから市川町で起こると予測されている地震について,山崎断層帯地震と南海地震の話をした。
――山崎断層帯地震――
写真3 中国自動車道安富付近 断層線谷を走る
 生徒たちは,「山崎断層」の名をよく知っている。地図を見せながら,この断層帯がいくつかの断層からなっていることを話し,その断層の位置を示した。 
 山崎断層帯は,断層線谷の地形が明瞭でその上を中国自動車道が通っている。山崎断層帯のなかの安富断層の断層地形や中国自動車道の写真(写真3)を見せながら,生徒たちが日ごろよく見ている地形が活断層による地形であることを話した。
次に,断層破砕帯の露頭写真(写真4)を見せ,次の実験を行った。
<実験:断層破砕帯の岩石>
 露頭写真の地点で採集してきた頁岩(ペルム紀 超丹波帯山崎層)を手に持ち,少し力を加えるとぼろぼろと崩れる(写真5)。断層付近の岩石は,繰り返し動いてきた断層の運動によって,このようにもろく壊れやすくなっている。
 このような岩石は風化・侵食を受けやすいので,安富断層に沿って谷地形が発達したことを話した。

写真4 断層破砕帯の露頭 安志峠付近 写真5 断層破砕帯の岩石 山崎層頁岩

――南海地震――
 南海地震は1946年から起こっていない。また,1854年から起こっていない東海地震は,東南海地震や南海地震と連動することが多い。このような活動歴から,南海地震は近く起こる可能性が予想されていることを話した。
 「東海・東南海・南海の三つの地震が発生した場合の想定震源域と想定震度分布図(中央防災会議 2003.9.17)」を見ると,3地震が連動して発生した場合,市川町付近は震度5弱程度,そして東海から四国太平洋側を中心に震度6弱以上の地域が広がっている。
 このとき,建物の倒壊・津波・斜面崩壊・火災などにより,最悪で24,700人の死者が出ると予測されている(中央防災会議 2003.9.17)ことも伝えた。
このあと,予測されている地震の可能性について次のクイズを出した。
<クイズ:地震の可能性>
今後30年以内に起こる可能性はどれくらいでしょう。右と左を線で結んでみましょう。

<正 解>

山崎断層地震 → 最大5%   南海地震 → 50%程度
中央構造線地震 → 最大1%   交通事故で負傷 → 20%
火事 → 2%

※ 地震の可能性は,地震調査委員会の「活断層及び海溝型地震の長期評価(2005.4.13現在)」による。

(7) 地震との共生

 最後に「神戸が私たちに教えてくれたこと」という形で,この学習を次のようにまとめた。
 地震は,繰り返し必ず起こる。神戸で起こったことが,私たちの身の回りでいつ起こってもおかしくない。自分や家族のいのちを守り,地震の災害を少しでも少なくするためには,まず地震を科学的に知ることである。
 そして,防災の知識を身につけ,被害を最小限にとどめるための備えをしておくことが大切である。神戸は,私たちにどのように「地震と共生」していくかを考えることの必要性を教えてくれた。
 

「神戸で学ぶ”いのち”と”防災”2」へ続く