「兵庫の山々 山頂の岩石」 TOP PAGEへ 地質岩石探訪へ これは、2011年10月12日に姫路市立白鷺中学校で行われた「第46回 兵庫県中学校理科教育研究大会」で紙上発表したものです。 河原で行う野外観察と小石の標本づくり 神河町立神河中学校 教諭 橋元 正彦 1.はじめに 中学校の学習指導要領(文部科学省,2008)で示された理科の内容には、地学分野の野外察が含まれている。この野外観察は、実際にはどれくらい実施されているのであろうか。三次(2008)は小中学校における実施状況を明らかにするために、全国から15の地域を抽出して、質問紙における調査を行った。その調査結果として、中学校での野外観察の実施率は、全国では11.9%(151校中18校が実施)と報告している。兵庫県における実施率は、兵庫県南部、及び兵庫県西部ともに0.0%であった(抽出校数は不明)。 実施できない理由としては、「野外観察を行う適当な素材や場所がなかったから」が一番多く(75.9%、複数回答可)、授業時間や交通手段がないことなどがそれに続いている。
中学校での地学分野で野外観察に適しているのは、地層の重なり方が観察できる露頭である。兵庫県の場合では、丹波市〜篠山市に分布する篠山層群の地層、三田盆地から神戸市西部にかけての地域や淡路島北部に分布する神戸層群の地層、但馬の北但層群の地層、淡路島南部の和泉層群や大阪層群の地層、神鍋山の火山灰の地層などが観察しやすい。 一方、全県に分布している花こう岩類や、播磨地方に多い後期白亜紀の火砕流堆積物は、地層の観察が難しいと思われる。舞鶴帯や丹波帯・超丹波帯の地層も県内に広く分布しているが、変形を受けていることが多く、中学生の野外観察としては扱うのが難しいことがある。 また、クラス単位で野外観察を行う場合、露頭にある程度の大きさが必要である。市街化され地域では露頭の数や大きさが限られている場合が多く、山間部でも野外観察に適当な露頭が見当たらない場合がある。 そこで今回、野外観察として実施するのが比較的容易で、小石の標本づくりも同時にできる河原での野外観察の実践を紹介する。 2.授業の計画 兵庫県は、日本列島の約5億年といわれる歴史の中で、そのほとんどがそろっている地質の宝庫といわれている。最近では約1億1000万年前の篠山層群下部層から恐竜(丹波竜)をはじめとする多くの化石が発見され、全国的にも注目を集めている。また、1995年に活断層が動いて発生した兵庫県南部地震は、大地の変動や防災についてのさまざまなことを私たちに教えてくれた。 地域で見られる教材は、生徒たちにとって身近であり、学習への興味・関心を呼び起こす。そこで、単元「大地の成り立ちと変化」では、できるだけ多くの地域教材を効果的に扱うようにしている。岩石や鉱物の観察は、兵庫県で採集したものを使うようにした。岩石の種類では、養父市には三郡帯の結晶片岩、南あわじ市の沼島には三波川帯の結晶片岩が分布し、神河町にもホルンフェルスが分布しているので、変成岩についても取り上げた。
3.野外観察 神河中学校は、兵庫県のほぼ中央部に位置している(神崎郡神河町上岩25番地の1)。校区内や校区周辺の地質は、主に白亜紀後期の火山活動によってできた溶結凝灰岩などの火砕流堆積物や、マグマが地下で固まった花こう岩類から成っている。また、一部に丹波帯の泥岩が花こう岩の貫入による熱変成を受けてできたホルンフェルスが分布している。野外観察に適した露頭は、残念ながら学校の近くには見当たらない。 そこで、市川の河原における野外観察を計画した。河原では、流水の作用による運搬や堆積がどのように行われているのかを見ることができる。また、小石を集めて岩石の標本を作ることができる。河原の小石からは、その上流にどのような岩石が分布しているかが分かり、そのことから地域がどのような地質から成り立っているのかを考える手がかりを得ることができる。 野外観察を行った地点は、学校の北3.5km、市川に架かる福井橋の下である(神河町大河)。ここには、市川の上流域としては比較的大きな州が発達している。州には小石が堆積し、堤防から河原へ下りる階段もあって観察に適している。2010年3月16日、5時間目と6時間目を理科の授業として野外観察を実施した。現地までの交通は、町のバスを利用した(無料) (1) 周囲の地形と地質 福井橋の上から、周囲の地形を見渡し、この地域の地形と地質の説明を行った。 橋の周囲は、標高500〜800mの山々が取り囲んでいる。これらの山々は、後期白亜紀の火砕流堆積物からできている(峰山層、大河内層)。岩石としては、溶結凝灰岩が多く、これに凝灰角礫岩や流紋岩などがはさまれている。今から、約7000万年前、日本がまだ大陸の東にくっついていて、恐竜が生きていた頃、ここで激しい火山の噴火があった。大規模な火砕流が何度も発生し、地下のマグマが抜けたために地表が陥没してカルデラをつくった。地下では、マグマが固まり深成岩をつくったことなどを説明した。 その後の隆起と侵食によって、現在は厚い火砕流堆積物の深い部分が地表に現われ、またそのころできた深成岩も顔を出している。 市川の流れるこの谷は、市川の流れが山々を削ってできたこと。田んぼや家並みの広がる平野は、市川を流れる水が運んできた泥や砂、あるいは礫が堆積してできた沖積平野であることなどを説明した。 (2) 流水のはたらきの観察 福井橋の上から市川の流れを見て、流水のはたらきについて観察した。川は橋の少し上流で大きくカーブを描いている。主にどのあたりで侵食が行われていて、どのあたりで堆積が行われているかを観察した。生徒は、水の流れの緩急によって、侵食や堆積が行われることが理解できた。 流れの外側は、侵食に抗するためにコンクリートの護岸がつくられている。流れの内側は、州(寄州)が発達し、大小の石が広がる河原となっていた。
(3) インブリケーションの観察
次に、左岸に移動し、河原の礫の堆積のようすを観察した。礫の大きさは、最大のもので長径70cm、20〜30cmのものが多く、その間を数cmの小さな小石が埋めている。 20〜30cmの大きさの礫に注目させ、並び方や向きに何か特徴がないか観察させた。ここでは、それほど明瞭ではないが、礫が同じ向きに傾いて並ぶインブリケーションが観察された。 インブリケーションは,覆瓦構造あるいはインブリケート構造とも呼ばれている。これは,川の流れによってできる堆積構造の一つである。礫は水流のはたらきによって下流側へ転がり,できるだけ抵抗が少なくなるように,安定した状態で止まろうとする。その結果,屋根に瓦を重ねたように礫の平らな面を上流側に傾けて並ぶ。 どの河川でもインブリケーションの観察が可能であるが、兵庫県では日本海に注ぐ岸田川などで特に明瞭に観察することができる。 (4) 河原の小石の採集
河原に下りて、小石を採集した。小石の大きさは、標本箱に入る2〜3cm程度。できるだけきれいな(風化していない)ものを探し、持ってきたレジ袋に入れた。 泥岩や花こう岩(花こうせん緑岩)などは分かりやすいが、ここですべての石に名前をつけることは難しい。いろいろな種類を40個程度集めることにした。一番多い溶結凝灰岩には、白・緑・赤褐色などさまざまな色のものがあった。また、生野鉱山から流れてきたと思われるカラミや、ガラス・れんがなどの人工の石もふくまれていた。 前日の雨による増水で河原の一部が水につかっていたが、どの生徒も腰を落して水や河原にまみれるようにして小石を探した。泥岩、砂岩、溶結凝灰岩はすぐに見つかった。生野鉱山のカラミも多い。人工の石もれんがや瓦など多様で、ガラスが球のようにまん丸くなったものもあった。安山岩や花こうせん緑斑岩が少なく、それらを何とか見つけようとしている生徒がいた。白くてきれいなアプライトを見つけて喜ぶ姿や、記念に家に持って帰るのだと葉理の発達した砂岩をかかえている姿などが見られた。 岩石に名前をつけるために、生徒一人一人に資料「神河町大河で採集できる市川の小石」を配っておいた。しかし、資料の写真と比べてみても、溶結凝灰岩や変質岩などの同定は難しい。生徒たちは、石を持って次から次へと質問に来た。40分間の採集時間はあっという間に終り、生徒たちは名残惜しそうに河原を離れバスに向かった。 学校へ持ち帰った小石は、スポンジたわしを使ってきれいに洗い、新聞紙の上に広げて乾かした。これで、2時間にわたる野外観察を終えた。
次の時間は、標本づくりの室内作業を行った。はじめに、同じ種類の石をかためて仲間分けをした。 次に、資料「神河町大河で採集できる市川の小石」を見ながら石に名前をつけて、その番号シールを貼った。 資料の中の@〜Fの岩石は、比較的たくさん見られた。G〜Kの岩石は、採集できていることもできていないこともあった。これ以外に、流紋岩やチャートもわずかに見つかった。 最後に、番号シールの貼られた小石を標本箱に入れてできあがりである。標本箱は、100円ショップで購入したポリプロピレン製の透明な箱を利用した。 4.おわりに 学校の周辺に地層の観察に適当な露頭がないこともあって、河原での野外観察を行った。実際に自然の中で山を見ながら過去に起こったことに思いをはせることによって、生徒たちは郷土の大地の成り立ちをより身近なものとしてとらえることができたように思う。 また、川の流れ方や、砂や礫の堆積のようすから、侵食や運搬や堆積などの流水の作用がどのように行われているかを見てとることができた。 市川の河原では、生徒たちは楽しそうに生き生きと小石を採集した。室内での標本づくりにおいても、石に名前をつけて番号シールを貼ったり、標本箱に入れて整理したりすることを嬉々として行った。 市川の河原で採集した小石の標本は、次時の「神河町の大地の成り立ち」で使用した。河原の石は上流の地質を反映しているので,その標本を利用して地域の成り立ちを考えることもできたように思う。 5.参考・引用文献 橋元正彦 ,2009,岸田川の河原の礫の覆瓦構造(インブリケート構造).地学研究 58,109-113. <資料「神河町大河で採集できる市川の小石」に関して> ※Cの花こう岩としたものは、花こうせん緑岩、あるいはトーナル岩に分類される。しかし、これらの岩石は花こう岩類としてまとめることができるので、ここでは花こう岩とした。この岩石の中の黒雲母・角せん石は、緑泥石などに変質しているので緑色に見える。 ※Eの生野鉱山のカラミは、岩石とはいえないが、市川に特徴的なので標本に加えることにした。カラミは鉱滓とも呼ばれる。 ※Fの人工の石は、生徒たちの生活に身近な瓦、れんが、ガラスなどである。興味を広げるために取り上げた。 |