神 鍋 山 火 山 群          兵庫のもっとも新しい火山活動  
  兵庫県には、日本海側に第四紀火山が分布している。代表的なのが、玄武洞、扇の山火山群、神鍋山火山群である。いずれも、主としてアルカリかんらん石玄武岩からなる。この中で、神鍋山火山群がもっとも新しく70万年前〜6000年前に活動したとされている。
 神鍋火山群は、豊岡市日高町を流れる稲葉川に沿って並ぶ7つの火山から成る。地形的には、お椀をかぶせたような形をしたスコリア丘である神鍋山・大机山・ブリ山などが目立つ。また、神鍋山・大机山・ブリ山の活動では、玄武岩質の溶岩を流出させている。
 神鍋山一帯は、この火山地形を利用して、冬はスキー、夏はパラグライダーやグラススキーが楽しめる観光地として賑わっている。また、流出した溶岩の先端部にできた滝、溶岩こぶ、風穴など、火山活動によってできた見どころも多い。
円山川左岸の玄武岩溶岩の露頭
ポイント1:円山川左岸(JR江原駅南西)

 神鍋火山の噴火では、スコリアの放出の他、溶岩が流出した。この神鍋溶岩は、神鍋山から約13km稲葉川に沿って流れ下り、その先端は円山川の左岸まで達して急崖を形成している。JR江原駅の南西に、堤防から円山川に降りる階段がある。階段を下りきったところで、溶岩を観察し採集した。
 溶岩は、灰色で緻密なカンラン石玄武岩。とことどころに気泡が見られる。緑色透明のカンラン石の斑晶が肉眼でも観察できる。20倍双眼顕微鏡下では、短冊状〜針状の斜長石の結晶、それを埋める輝石らしい結晶が観察された。

十戸滝
ポイント2:十戸滝(じゅうごのたき)

 神鍋溶岩はいくつかの溶岩流から成るが、稲葉川ではその中のひとつ十戸溶岩の先端で落差5mの滝をつくっている。滝のすぐ上流に駐車場があり、小橋を渡って川沿いを下流に進むと、十戸滝に降りる道がある。降りた地点は十戸溶岩の底にあたり、オーバーハングした大きな岩塊の上から、滝がとうとうと音を立て流れ落ちていた。また、溶岩の底はガサついた赤褐色のクリンカー(溶岩のかけら)が付着している。これは、流れていく溶岩の底が早く冷却し、進んでいく上の溶岩の下敷きになって壊されたものである。
 十戸滝の上流に戻り、河原で溶岩を観察した。灰色の緻密なカンラン石玄武岩であるが、1mm程度の細かい気泡が著しく多い。カンラン石の斑晶は、ポイント1の岩石より小さく1mm以下である。このカンラン石を20倍双眼顕微鏡で観察すると、コロコロした六角状の形であることがわかる。緑色透明であるが、コバルト色の干渉色がところどころで見られる。

ポイント3:栃本の溶岩コブ

 栃本地区の稲葉川右岸では、溶岩コブが見られる。これは、長さ34m、幅8mにわたって玄武岩が馬背状に盛り上がり、中が空洞となったものである。どのようにしてできたかというのは、いくつが説があるようだが、案内板には「稲葉川に沿って流れた溶岩流の一部に川の水が混入し、ガスの膨張によって持ち上がった」と説明されていた。
 溶岩コブのすぐ上流には、二段滝が見られる。

スコリア層露頭(一部)
ポイント4:神鍋山南麓スコリア層露頭

 神鍋山の南麓にスコリア層の大きな露頭があり、日高町教育委員会による新しい案内板が立っている。スコリアとは、火山放出物の一種である。マグマが空中に飛ばされた際に、急激な圧力の減少によってマグマ中のガスが放出され、多数の気孔が生じることがある。マグマのSiO2成分が多い(流紋岩〜安山岩質マグマ)と白っぽくなり「軽石」となるが、SiO2成分が乏しい(玄武岩質マグマ)と黒っぽくなり「スコリア」と呼ばれる。
 この露頭の下の部分は、非成層のスコリアの集まりで、地滑りでここまで滑ってきたものと考えられている。その上位には、細かく成層したスコリア層が重なっている。神鍋山が、何回も噴火をくり返し、放出されたスコリアが堆積してできたスコリア丘であることがよく分かる露頭である。この露頭の傍らに、径50cmに及ぶ火山弾が転がっていた。
スコリア 火山弾(表面は一部パン皮状)

神鍋火山火口
ポイント5:神鍋山火口

 神鍋山を登れば、神鍋山火口に出る。深さ40mの火口は、繭形をしていて2つの火口が重なったものであることがわかる。火口縁には周囲750mの遊歩道や展望台が整備されていて、気持ちよくハイキングができる。

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■岩石地質■ 第四紀 更新世〜完新世 かんらん石玄武岩・スコリア
■ 場 所 ■ 豊岡市日高町 江原、十戸、栃本、神鍋山 25000図=「江原」 「栃本」 「神鍋山」
■ 交 通 ■ JR山陰線江原駅下車、神鍋行きバス利用
          国道312号線から国道482号線に入り、神鍋方面に向かう
■探訪日時■ 2000年7月29日、30日

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