氷ノ山 ホードー杉(1115m) 養父市 25000図=「氷ノ山」
氷ノ山、黄葉のブナ林に立つホードー杉
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| ホードー杉 |
生野峠あたりで降り出した時雨も、車が八木川にかかる頃には上がってきた。宝引山にかかる虹を正面に見ながら、八木川を溯り、福定や大久保の民宿街を抜けると登山口に着いた。
大久保川に沿ったコンクリート道を歩き始めた。谷の向こうの山肌は、もう一面が赤や黄に染まっていた。頭上のトチノキの大きな葉も色づいている。
小さな橋を渡り、二股を左にとると、正面に高丸山の丸い山頂が見えた。山を見ていると、1羽のノスリが上空を横切った。白い翼の下面を見せながら、ゆっくりと何度も輪を描いて空高く舞い上がり、やがて視界から消えていった。
谷の田畑が途絶えると、コンクリート道から草におおわれた細い地道に変わった。登山道を示す標識も古く、半分朽ちていた。その道はすぐに谷から離れ、右手の斜面を上っていた。
心地よい山道だった。古い落ち葉の上に、新しい落ち葉が重なっている。はじめは、植林された杉林と自然林が交互に現れた。低いところではまだ緑色だったミズナラの葉は、上るにつれて褐色に変わっていった。
標高870mあたりまで上ると、地形が広がり、道の傾斜もゆるくなった。あたりはミズナラの多い自然林。ウリハダカエデの葉が赤く染まり、右手にはスキー場のススキの原が大きく広がっていた。ススキの原の上には、高丸山、鉢伏山、高坪山と続く山並みがゆるやかな稜線を引いていた。
再び傾斜が増したが、そこを抜けるともう稜線が近かった。ススキの中に続く道をゆるく上っていった。道沿いにはウメバチソウが白い花をつけ、日当たりの良いところにはアキノキリンソウが咲いていた。リンドウの花は、まだねじれて閉じてた。
やがて、鉢伏山と氷ノ山をつなぐ稜線に達した。そこから、谷を隔てた南側に見える山肌は、赤や黄に鮮やかに染まっていた。その中のありこちに、数本ずつ集まった杉のかたまりが、濃い緑色で散らばっていた。
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| ミズナラと鉢伏山スキー場 |
稜線の手前から見る大平頭付近 |
そこから、稜線の登山道を上っていった。傾斜はきつく、木製の丸太階段やロープが備え付けられていた。地面には、ブナ、ミズナラ、リョウブ、クリ、コシアブラ、トチノキ、ウリハダカエデ、オオイタヤメイゲツ……新しい落ち葉が降り積もっていた。
急坂を上ると、1171.5mの三角点が埋まっていた。そこに、探していたホードー杉への分岐があった。
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| 稜線に達した地点から南に伸びる主尾根 |
ホードー杉に向かって、ゆるく広がる斜面を南東へ下った。あたりは、鮮やかに色づいたブナの原生林。古い大きなブナの木が何本も立っていた。
大きなブナの木を見上げると、何十本もの枝が樹冠に向かって広がり、白っぽい枝と黄色やオレンジ色に染まった葉の色のコントラストが美しかった。雲間より射し込んだ光が木に当たると、木の上のすべての葉が天から降ってくるような錯覚を覚えた。
林床のササの中をブナの木を縫ってつけられた道を進むと、その突き当たったところに1本の古いスギの木が立っていた。木の周囲にはロープが張られ、1枚の案内板が立っている。ホードー杉だった。
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| ブナ林の黄葉 |
黄葉のブナ |
株元には、いくつものコブが盛り上がり、樹皮の縞模様は複雑に曲がっている。幹は株の上で2つに分かれ、さらにその上で何本にも分かれて四方に広がっている。
株元は内部が大きな空洞になっていて、落雷に遭ったのか一部が焦げて炭になっていた。それでも木を見上げると、上の枝から青々とした葉を出して、推定年齢500年の今でもなおたくましい生命力にあふれている。
幹周1150cm、樹高20m……兵庫県下最大の杉である。ホードー杉の呼び名は、この地方の方言である「ホードェー」(なんと大きな)に由来しているという。
スギの幹には、リョウブやカエデが根を下ろしそこから細い幹を生やしていた。これらの木や周りをとりまく木々の紅葉が、この一本のスギの古木に秋の彩りをそえていた。
ここを去ろうとしたとき、根元から木の間越しに氷ノ山の山頂が見えることに気がついた。かねてから訪ねてみたかったホードー杉……。ホードー杉は、氷ノ山に抱かれた深い森の中で、圧倒的な存在感をもって私を迎えてくれた。
『秋に染まる氷ノ山』に続く
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| ホードー杉 |
山行日:2008年11月1日