小野アルプスの流紋岩
 来住(きすみ)山地は、小野市と加古川市の境界に沿ってほぼ東西に延びる山並みである。標高は、最高でも惣山(小野富士)の200m。標高150m前後の小さなピークをつないだ稜線には、ところどころに岩盤が大きく露出し、この山容から「小野アルプス」と呼ばれている。
 この山地全域にわたって、白亜紀の相生層群伊勢累層(『北条図幅 地質調査所 1995年』では有馬層群鴨川層とされている)の流紋岩が分布している。
 ここに分布する流紋岩の岩相は、大きく2つに分けられる。一つは流理構造が発達したものであり、もう一つは自破砕構造と球顆構造が発達したものである。

流理構造を示す流紋岩
 流理構造が発達した流紋岩は、岩倉峠より東の部分(総山、アンテナ山、惣山でよく観察できる)と最も西に位置する宮山に分布している。斑晶に乏しく、直径数mmの球顆が観察できる部分もある。岩石の色は、褐色(総山付近)・赤褐色(アンテナ山付近)・灰白色(惣山付近)と様々である。新鮮な部分は少なく、全体的に風化変質や珪化が進んでいる。流理構造の縞模様に沿って、板状の割れ目が発達している。

流理構造
 火成岩体で、成分(色)・結晶度・組織・構造(気泡など)をことにした部分が重なり合うかまたは柱状・板状結晶がほぼ平行に配列するかして、冷却時におけるマグマの流動線がみられる構造。(『増補改訂地学事典 平凡社 1981年』より)

流理構造による縞模様
縞模様に沿って板状の割れ目が発達している
左は、アンテナ山山頂付近で採取した流紋岩である。
 流理構造による幅1mm程度の細かい縞模様が見られる。斑晶として、白く粘土鉱物化した長石と、角閃石と思われる長柱状の黒色鉱物が少量含まれている。その長柱状の黒色鉱物は、流理構造による縞模様と平行に並んでいる。岩石の色は、褐色を帯びた灰色であるが、流理面はオレンジ色を呈している。
流紋岩(横10.5cm)
流紋岩に見られる球顆構造
 球顆構造が発達した流紋岩は、岩倉峠の西の紅山から岩山にかけて分布している。斑晶に乏しく、流理構造はほとんど観察されない。
 球顆は極めて粗粒であり、大きいものでは直径が30cmにも及んでいる。球顆は、珪質で硬く、岩盤の表面では丸く突出していたり、逆に抜け落ちたりしている。球顆には同心円構造が見られ、厚さ1cmから数mmの殻をもっている。

球顆(スフェルライト)
 珪長質のガラス〜隠微晶質火山岩中にみられる径2〜3cm以下(ときにより大きいものあり)の球体・だ円体で、針状の長石、細粒の珪酸鉱物などの放射状集合体。しばしば円心層状構造が発達。(『増補改訂地学事典 平凡社 1981年』より)


球顆構造(直径約cm)
球顆の内部が抜け落ち、殻だけが残っている
流紋岩に見られる自破砕構造
 球顆構造が発達した岩倉峠の西の紅山から岩山にかけての流紋岩は、自破砕構造を示している。成層した溶岩ではなく、大小の流紋岩の破片が集まってできた塊状無層理の岩体である。そのため、岩層は極めて不均質で脆く、ハンマーで叩くと細かく不規則に砕ける。斑晶に乏しく、まれに見られる流理構造も細かくとぎれている。

自破砕溶岩
 溶岩の一部が固結した後も他の部分が流動するために、固結部が破砕された溶岩。厚い溶岩流の内部や火道から押し出される溶岩に見られる。(『増補改訂地学事典 平凡社 1981年』より)

自破砕構造
 流紋岩の破片が集積している(ボールペン方向の流理構造を示す破片と鉛筆方向の流理構造を示す破片が接している)
紅山南稜
紅山南稜の景観 紅山南稜の流紋岩(表面の穴は、球顆の抜け落ちた跡)
 
 自破砕構造と球顆構造のために非常に脆い岩石であるが、全体的に珪質であるために硬い。このために、風化浸食から残され、紅山に見られるような岩稜の尾根をつくったと思われる。
 流理構造は、貫入した岩脈あるいは流出した溶岩が、その流れを残しながら固結したことを示している。また、自破砕構造は、溶岩の内部あるいは周縁部、または火道付近で見られることが多いとされている。このような産状から、この岩体の成り立ちを考えることは興味深い。 

登山記録「小野アルプス、12の小さな峰をつないで歩く」

■岩石地質■ 流紋岩(白亜紀 相生層群伊勢累層) 
■ 場 所 ■ 小野市・加古川市 25000図=「三木」「社」
■ 交 通 ■ JR加古川線「小野町駅」より
■探訪日時■ 2001年12月24日

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