3 記憶の軌跡


 木の葉のざわめきの記憶が、そこが森であったことを彼に教える。
 禍々しい人声と犬のけたたましい吠え声が森の奥に響いている。
 誰かが、小さな彼の体を抱えて走っていた。
 夜の森を、息を切らしながら。
 幼い彼は怯えるというよりも呆然としながら、走っている誰かの腕にしっかりと抱えられていた。
 これが、彼の最初の記憶だった。
 そして、それはこう続く。
 人と犬の声が背後の森の闇に迫ってきたころ、断続的な破裂音と細いが凶悪な衝撃波とが、幼い彼をしっかりと抱えて走り続けた者のすぐそばの空を切る。
 そして、とうとうその衝撃波の一つが、彼を抱えていた人物の体をいくつもかすめ始め、
 ついに命中し、幼い子もろとも草むらに倒れ込む。
 舌打ちして起き上がった男の顔が、月光の中に見てとれた。
 現在の自分によく似ている、精悍な若い男の顔だった。
 男は幼い子の無事を確かめると、強くこう命じるのだ。
「逃げろ。お前だけでも逃げるんだ。ここをまっすぐ行けば村がある。東のはずれの家のおばさんがかくまってくれるはずだ。」
 声も出せないでいる彼に構わず、男は行けと何度も激しく叫んだ。
 そして首にかけていた何かを自分の首から幼い子のそれに移すと、こう言った。
「いつかあの子に伝えてくれよ。俺はいつまでもお前が好きだったってな!!」
 男は限りなく苦い笑顔で笑った。そして呆然としている幼い子の背中を行けと突き飛ばす。続いて起こった早く行けという怒号に背を押され、子供は泣きながら駆け出すのだ。
 最古の記憶はそれだけで、その後は今へと続く思い出となる。



 目を開けると、そこには先程の三姉妹のほか、あの幼女と、そして見知らぬ人々がいて、目覚めた彼をじっと見守っていた。
「気分はどう?」
 そう問いかけてきたのは、少女達のかたわらにいた女性だった。年齢不詳。だが、姉妹の下2人(妹達は黒髪なのだが、長女は栗色の髪なのである)と同じく、豊かな黒髪を持ち、>その落ち着いた物腰から彼女達の母親と察した。。
「はあ……まあ。」
 ベッドの上に起き上がり、どことなくぼんやりとした頭でそう言うと、その姉妹の長女がやれやれというように溜息をついた。
「よかったあ。心配したんだから。」
「俺……。」
「地下で倒れてたんだよ。もう、びっくりしちゃった。」
 姉妹の三女が言う。
「一体どうしたの?」
 長女の言葉に、若者は頭をかきながら答えた。
「よく分からないんだ。何だか頭がぼうっとして、まるで自分が自分じゃないみたいになって……。」
 そこで若者は言い淀んだ。
 あの時自分の中にそそぎ込まれた感情……それは紛れもなく、今彼のベッドの側で心配そうにこちらを見ている可愛らしい幼女を、殺そうとするものだった。しかも、それは彼の意識したものではなく、強引に彼の意識の中へ割り込んできたのだ。
 何故あんなことになったのか……考えるのも身震いするようなことだった。
「一体俺……どうしたんだろ。」
 失神の原因を考えているにしては深刻過ぎる表情の彼を見て、ベッドの周りにいる大人達……アバランチのメンバーの中には、不吉な影が心をかすめていくのを感じた者もいた。
 己が己でなくなる……同じことを言いながら、もっと沈痛な表情で苦悩していた若者を、彼らは過去に1人知っていたからだ。
「それはそうと……君がザックスなのか?」
 淡々とした調子で尋ねたのはヴィンセントだった。
 その名に若者は反応したが、それは意外なものだった。
「親父を知っているんですか!?」
 若者は嬉しそうに叫んだ。だが、メンバーは余りの意外な言葉に唖然とした。
「……親父って……ザックスのこと?ザックスがあなたのお父さん?」
 ティファが尋ねると、若者は屈託のない笑顔で答えた。
「ええ!いやあ、嬉しいな。親父のことを知っている人に出会えたなんて。……どうかしたんですか?」
 言葉の途中で全員の不自然な絶句に気付くと、若者は不思議そうに尋ねた。
「……う、ううん。ただ、ザックスに子供がいたなんて、初めて聞いたから。私も、それほどザックスを知っているわけじゃないんだけど……。」
 だが、若者は首を振ると屈託なく言った。
「俺も親父の記憶ってあんまりないんです。すごくちっちゃい時の記憶が最初で最後で……お袋に至っては、この写真くらいしか手がかりないんです。あ、もしかしてお袋のこと、知りませんか?こっちの女の人だと思うんですけど。」
 そう言って、若者は首に掛けていたあのロケットを取り出し、中に入れていた写真を開けてティファに示した。それは、ティファの目にはどうしてもザックスとエアリスにしか見えない若い男女のものだった。



 若者の名はザイードと言った。
 育ったところはザックスと同じくゴンガガ村で、ザックスの両親に育てられた。
 しかし、父母の記憶は無い。それどころか、幼い頃の記憶自体、ある時を境としてそれ以前がぷつりと途切れているのだ。
「親父が俺を抱えて、森の中を走っていたんです。何だか、誰かに追われてたみたいで。でも、親父はその内に撃たれて、俺だけでも逃げろって言ったんです。」
 父親のことで彼が覚えているのはそれだけだった。
 ザックスが彼に逃げろと行った所は、ザックスの伯母の家だった。幼い頃からザックスを可愛がっていたこの伯母は、真夜中に飛び込んで来た、甥にうり二つの幼い子を見ると、即座にかくまってくれた。そして翌日、弟夫婦のところへ連れて行くと、彼らは幼児が首に掛けていたロケットの写真の女性を見て、これは少し前に尋ねてきた、息子の恋人に相違ないと断言し、そしてこの子供は2人の子供なのだろうという結論に達した。
 だが、幼い子供は森の中の記憶以外に父親の記憶がなく、それ以前のことは母親のことはおろか、自分の名前すら覚えていなかった。
 そこで、祖父母は彼にザイードという名をつけ、息子の忘れ形見として大切に育ててくれたのだが、2年前に祖父が、そして今年の始めに祖母が亡くなった。
「で、親父の遺言のことがあるし、何より俺、お袋のこと何も知らないから、旅に出ようと思ったんです。」
 ザイードは言った。
「それって……あなたがお父さんと逃げていたのって、いつごろのこと?」
 ティファは尋ねた。
「15年前……メテオ事件の少し後くらいだったそうです。俺、メテオ事件って覚えてなくいけど。」
「15年前っていうと、アンタいくつだったんだ?」
 バレットが尋ねる。
「5歳……ってことに一応なっているけど、俺、正確な歳なんか分からなくて。誕生日なんか、仕方ないからじいちゃんとこに引き取られた日になってるんです。」
 メンバー達はそっと視線を交わした。ザックスは20年前、ニブルヘイムの事件の時にエアリスの前から姿を消している。当時エアリスは17歳で、子供がいたとしてもそれほど不思議な話ではなく、彼が5年後のメテオ事件の少し後くらいの時期に5歳ほどだったとすれば、一応計算は合う。
「お袋のこと……心当たりありませんか?」
 若者は期待を込めた真剣な口調でティファに尋ねた。ティファは頷いた。
「ええ。その写真の人なら……知ってるわ。ここにいるみんな。上の娘も覚えてる。」
 それを聞くと、ザイードはぱっと喜色を浮かべた。
「彼女の名はエアリス……私達の仲間だったの。でも、もう亡くなったわ。メテオ事件の時、セフィロスに殺されてしまったの。」
 その途端、ザイードの表情からは見る間に笑顔が消えた。
「殺された……?セフィロスに……?」
 かつての英雄だったセフィロスの名も、現在では悪魔に等しいものとなっている。その悪魔が母を殺したという余りの事実に彼は唖然となったらしい。
 そう言って、ティファはエアリスとザックスの息子と名乗った若者に、15年前の出来事を語ってきかせた。
 今はセフィロスを倒した「英雄」と賞されるクラウドとアバランチのこと。
 そして「古代種」エアリスのこと。
 そして星の危機のこと。
 話を聞いたザイードは、まず、彼らがかの英雄・アバランチであることを知り、
「俺、大変な人達に助けてもらったちゃったんだな……」
と恐れ入り、それから首を振って呟いた。
「そうか。死んでたんだ……。」
 恐らく、それはいくらか覚悟していたことなのだろう。だが、やはり再会の期待もあったに違いない。それを断たれてしまったとあって、やはり寂しそうな表情は隠せなかった。
「お墓、どこか分かりますか?それから、他に身内の人とか……」
 続いてそう尋ねたのは、恐らく母に繋がりのあるものを知りたかったのだろうが、それに対してもティファは残念な答えしか出来なかった。
「残念だけど、彼女のご両親も神羅のために死んでしまっているの。育てのお母さんがいらっしゃったけど、10年ほど前に亡くなったっていうし……。」
 エアリスの養母・エルミナは、しばらく娘と暮らしたミッドガルにとどまっていたのだが、やがて病を得てミッドガルの家を処分し、カームの知人を頼って移り住んで間もなく、治療の甲斐なく亡くなったと、その知人からジュノンにいたリーブ宛に連絡があったのである。
「遺体も、忘らるる都の湖で水葬にしたから、特にお墓というのも無いし……。」
「そうでしたか……。」
 ザイードはうなだれてしまっていた。
「でも驚いたな……父さんが英雄クラウドの親友で、母さんはその仲間だったなんて。」
 敢えて淡々と言おうとしているらしい彼を、だがメンバーは複雑な思いで見つめていた。彼らの胸には、奇妙な違和感があったのである。
「あのね……」
 そんな全員の思いを代弁して、そう呼び掛けたのはやはりティファだった。それを告げるのは、彼には残酷な仕打ちであることは百も承知だったが、口を閉ざして告げるべき真実を告げなかったために起こった悲劇を知っているだけに、彼女は言わずにはいなかった。
「あなたには悪いのだけど……私、エアリスはあなたのお母さんじゃないと思うの。」
「え?」
 ザイードはやや意外というように彼女を見た。
「私もエアリスを昔から知っていたわけじゃないから、その前にエアリスに子供がいたかどうかなんて分からないけど……何と言うか、エアリスはなんでもよく話してくれる人だったから、もしもそうならあなたのこと、私達に話してくれたと思うの。」
 もしもエアリスに子供がいたと分かれば、神羅は絶対に放っておかなかっただろう。
 だからあるいは、生まれた我が子をいずこかへ隠したことも有り得るが、あの時、もしもそのようなことがあったなら、エアリスは子供の安全を案じて、絶対に彼らに話していたはずである。
 無論、うがった見方をすれば、エアリスはクラウドに想いを寄せていたから、彼に知られたくなかったとも考えられるが、それにしては、クラウドに向かってザックスに寄せる想いを素直に口にしていたし、そういうことを隠すようなエアリスでもない。
 そして、そんなティファの後を受けて、ヴィンセントがエアリス母親否定説に論理的な補強をしてみせた。
「それに、そのザックスはソルジャーだったのだろう?ならば、その子供を産んだならば、彼女もジェノバ化されていたはずだ。」
 それを聞くと、ザイードは数回瞬きした。
「そうか。もしも俺の母さんだったら、その人もジェノバに……。」
 そう言って考え込んだところを見ると、これまで余りその事実を考えていなかったらしい。
「その人は、違ったんですね。」
「ああ。」
 ところがその時、ナナキが何故かザイードの希望をつながせてやろうとするように言った。
「でも、エアリスは古代種で、普通の人とは違うから、案外普通の人みたいに分からなかったとか。」
 ジェノバ化された人間は、細胞が浴びた魔晄の輝きが目の虹彩にあらわれる。だが、ヴィンセントは更に首を振ってみせた。
「確かにな。だが、あの娘は死んだ。ジェノバならそんなことはないはずだ。」
「でもそれなら、セフィロスだって宝条だって死んだじゃないか。ザックスだって……」
「でも、ザックスは生きていたわ。少なくとも、ザイードと別れるまでは……」
 その言葉に、何人かの顔に微妙な表情が走った。
 この15年間、彼らは一つの奇妙な悪夢を心の内側に隠している。
 彼らは戦いの中で、多くのジェノバ達の「死」を見てきた。セフィロスや宝条、その他多くの哀れなジェノバの犠牲者達が、皆彼らの目の前で死んでいった。
 だが、その彼らに死を与えた者は、不死の呪いを受けた我が身を呪い、隠すことを選んだのだ。
 何故、彼には死の祝福が下らなかったのか。
 そして、もしもそれがジェノバの呪いのせいというなら、死んでいった者達はどうしたのか。
 或いは、考えるのも恐ろしいことだが、あの時彼らは本当に死ねたのだろうか……。
「エルミナさんがおったらなあ。エアリスさんがこの人のお母さんかどうか、一発で分かるんやけどなあ。」
 ケット・シーが溜息混じりに言った。
「神羅の情報網で調べられないか?ま、今は無理でもよ。」
 シドが問うたが、ケット・シーの答えははかばかしくなかった。
「けど、それで調べられるんやったら、とうの昔にエアリスさんにお子さんがおるて分かって、あの時追っ手がかかっとるはずですわ。それが分からないっちゅうことは、よっぽどうまく隠しはったか、或いは違うっちゅうことになりますやろ。」
「うーむ。」
 そこで、それまでじっと俯いていたザイードが再び顔を上げた。
「俺……その忘らるる都ってところへ行ってみます。」
 決着のつかない数々の疑問に沈み込もうとしていた一同は、再びそこで若者に注目した。
「もしもそのエアリスって人が俺のお袋でなかったとしても、親父がこれを届けたいと思った人なのは確かだと思うんです。だからせめて、これを届けたいんです。」
 その言葉の後ろには、やはり長年母だと思い続けた人を諦められないという思いが感じられたが、彼がその言葉を口にするのはどんな思いなのか、分からない者はいなかった。
「忘らるる都はボーンビレッジの先だよ。行くのは危険過ぎるよ。」
 ユフィが言ったが、若者の意志は揺るがなかった。
「旅に出た時から、多少のことは覚悟してます。それに、みなさんも行ったんでしょう?何とかしますよ。」
「それはいいけどよ、でもあんた、神羅に追われてるんだろ? 今の神羅のトップは冷血女だ、見つかったら、あんたもその子も分子分解装置行きだぜ?」
 バレットの言葉に、ザイードははたと気が付いてメルを見た。
「そうだ、メル、それより先にお前をうちに帰してやらなくちゃいけないんだった。」
 メルはじっと無邪気な目で若者を見上げている。
「その子は一体何なんだ?」
「俺が捕まってたところにこいつも捕まってたんです。ついつい連れて来てしまったんだけど……」
そう言って、ザイードは幼児の方へベッドの上を移動した。
「そう言えばお前、おうち、分かるか?」
「……。」
 幼女は答えなかった。
「お父さんの名前、分かる?」
 ティファのこの問いにも、やはり答えはなかった。まだ、やっと3歳になったばかりくらいの子供なのだから、答えられなくても或いは仕方ないかも知れない。
「おうちのこと、何か覚えてないか?お父さんやお母さん、いなかったか?」
 ザイードがそう問うたのは、幼い頃の記憶が一切無い自分のことを考えたからだったが、幼女はこっくりと頷いた。
「うん。」
「おうちに、お父さんやお母さん、いたの?」
 マリンが視線を彼女の高さに合わせてやると、メルはもう一度頷いた。
「うん。」
「ほかには?」
「ママと、パパと、おにいちゃんと、おねえちゃんと、おねえちゃんと、おねえちゃんと、おにいちゃんと……」
 メルは回らぬ舌で答えた。幼い子供の言うことだからか、余り要領を得ないが、取り敢えずどうやら彼女には家族の記憶はあるらしい。
「みんな、きっとメルのこと、捜してるよ。大丈夫、私達でおうちを見つけてあげるからね。」
 マリンは幼女の髪を撫でながら言ったが、だがヴィンセントは悲観的な反応を示した。
「それは無論そうするべきだが……問題はその子の家族が無事かどうかだ。」
「なんでさ?」
 ユフィの問いに、ヴィンセントは答えた。
「その子は捕まっていたのだろう?恐らくその両親や兄弟もジェノバ化されている。或いは一緒に捕まったとは考えられないか?」
 その問いかけに、一同は沈黙で応じた。そうでないという保証などどこにもないからである。
「ジェノバって……こいつも、俺も、ジェノバだからってことで捕まったんですか?」
 ザイードが唖然とした口調で問うた。
「ジェノバ狩りだ。」
 バレットが唸るように答えた。
「元の神羅のお嬢さんがやらかしてるんだ。ジェノバ細胞を持った奴らを、片っ端からとっつかまえて、逆らったら殺しちまうっていう……。」
「そんな……じゃ、こいつもですか!?」
 そう言ってメルを示すと、ヴィンセントは苦い口調で一言いった。
「多分な。そしてもしもそうならば、私も恐らく狙われるだろう。」
「あなたも?」
 ザイードはまじまじとヴィンセントを見た。ヴィンセントの瞳は血のように赤く、ジェノバ化された人間特有の、青緑に輝く瞳ではない。
「私は元の神羅にちょっと特殊な改造をされたんだ。だが、この体もジェノバに侵されている。もっと正確に言えば、ジェノバによって生み出された怪物と融合させられているというか……だが、いずれにせよ、連中の目的はジェノバ細胞を持つ者の全滅だ。捕まれば分子分解で跡形もなく消滅させられる。」
「そんな無茶苦茶な!」
 ザイードは憤慨した。
「それなら……オイラもそうかもしれない。」
 ナナキが気弱な口調で言った。
「オイラ、宝条に何の実験されたんだか、分からないけど……」
「2人とも、気弱にならないでよ!」
 ティファがたまりかねたように叱りつけた。
「いくらジェノバだからって、あなた達が死んでいい理由なんてどこにも無いのよ! ザイードもメルも……私はあなた達が殺されるなんて、絶対に許さないんだから。」
「ティファだけじゃねえよ。俺達ゃ全員、あの女の企みなんざ、クソくらえだ。」
 シドがそう言うと、ザイードは瞬きした。
「あの女って?」
「マルグリット神羅……ジェノバ狩りの張本人だ!!クソっ!」
 バレットが叫んだところで、ティファは何を思ったのか、ふと表情を改め、娘達の年少の者達に向かって命じた。
「セレン、エレン、メルも一緒に行って、お台所で食事の支度をして。もうごはんは出来てるから、食器出して待ってて。」
「はあい。じゃ、メル、行こ。」
 母親に言われて、2人は軽快に幼女を連れて部屋を出て行ったが、そののどかな言葉は、娘達を部屋から出すための口実に過ぎないと分かったのは、少女達が元気よく返事をして出ていったあとのことだった。
「それじゃあ……もしかしたらメルの家族も……」
 ティファは声をひそめて言ったが、それは不安に満ちていた。
「そうだな。捕まっているだけならいいが、或いは……」
「そんな……」
 あの愛らしい幼女の両親や兄姉は、既にあの冷酷なマルグリットの手によって殺されているのかもしれない。そんな想像に、一同は暗澹とした表情を見合わせた。
「……おい、ザイード。その施設っての、どこあるかわかるか?」
「はあ……まあ、おおよその位置は。」
 それを聞くと、バレットは険しい表情のまま、満足そうに頷いた。
「よし、それじゃあやるぞ、みんな。」
「やるって、何をでい?」
 シドの問いに、バレットは勢い良く言った。
「決まってらあ!その分子分解装置とかいうガラクタ、ぶっ壊しに行くんだよ!」

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