金と義と家族と……


第4章 〜“亡き妻”との出会い〜


何日経っただろうか。カイエンはベッドの上にいた。腹部が、ひどく痛い。
「ここは・・・・。うっ!」
「駄目です、まだ起き上がっては。」
ベッドの傍らには女性がいる。鼻筋のよく通ったなかなかの美人である。
「あなたは・・・・。」
「私はローラです。あなた、この町の前に倒れていたんですよ。ビックリしました。」
そういわれると、そんな記憶が無い事も無い。確か、シャドウやマッシュと一緒に魔大陸を脱出して・・・・
「そうだ、崩壊でござる!あの日から、あの日から何日経ったでござるか!?」
「・・・・一月です。あなた、ずっと眠っておられたんですよ。」
カイエンはローラから詳しい事情を聞いた。崩壊のときのこと、ケフカのこと。
「そうでござるか・・・・。」
「はい。とにかく、あなたはケガが治るまで、ここでゆっくりなさって下さい。」
ローラはそう言って部屋を出た。
それから1週間程で、カイエンの傷は完治した。カイエンはその日から早速、ローラの内職の造花作りを手伝い始めた。無論、ローラも最初は遠慮した。しかし、そのうちに自ら進んでカイエンに作り方を教えるようになる。カイエンも、不器用なてつきで次第に上手く作るようになっていく。ローラにとってもカイエンにとっても、安らかな時間が流れていた。カイエンは、あのドマ領の毒事件以来初めて“平穏”というものを手にしたような気がした。同時に、カイエンはローラに対して何か言い表せない感情を抱き始めるようになっていた。ローラには、亡き妻の面影がある。こうして談笑していると、まるでかつてのドマ城の光景が目の前にまざまざと浮かんでくるようだ。
「ねぇ、あなた。明日のお休みは何処に出かけます?」
「それが・・・・、すまぬ!明日は臨時で陛下の護衛をせねばならんのだ。」
「えーっ!パパの嘘つき!明日は一緒に出かけるって言ってたじゃないか!!」
カイエンはごねる息子を抱き上げ、こう言った。
「シュン。パパのいない時は、お前がママを守るんだぞ。そんなダダこねてる場合じゃないだろう。」
「ボクが、ママを?」
「そうだ。明日も、しっかり守るんだぞ。」
こんな記憶も、今では遠い日の1ページになってしまった。不意に、目から泪が溢れた。
「どうしました、カイエンさん?」
ローラが驚いて尋ねる。
「・・・・え?」
カイエンには何のことか分からない。目の辺りに手を当てると、水がついた。
「い、いや・・・・すまぬ。何でも無いでござるよ。」
カイエンは見苦しいほど狼狽しながら、再び造花を作る手を動かし始めた。



何事も無く3ヶ月が流れた。この間カイエンは、ずっとローラの家で造花作りに精を出していた。ローラは常にカイエンには明るい笑顔を見せてくれる。しかし、時々彼女は酷く悲しい顔をした。その度ごとにカイエンは不思議がって理由を尋ねるのだが、彼女は常に、何でもないと言う。しかし、カイエンは間もなくその理由を知ってしまう。
ある日、珍しくローラが朝寝坊をした日、カイエンが家の外にある伝書鳩の泊まり木の所へ言ってみると、1通の手紙が届いていた。差出人は、ローラ。宛先は、モブリズにいる彼女の恋人宛である。どう考えても、返って来たものとしか思えなかった。
「ローラ殿、こんな手紙が来ているでござる。」
カイエンがそれを見せた途端に、彼女はそれをひったくるようにカイエンの手からもぎ取り、机の引出しにしまいこんだ。彼女は何とか誤魔化し通そうとしたが、カイエンの澄んだ目を見るとウソはつけない。
「一体、何の手紙でござるか?」
「・・・・ずっとこうなんです。カイエンさんが来る前からずっと送っているのに、いつも私の出した手紙がそのまま返って来るんです。」
ローラは、泣き出した。あまりに不憫であった。
「・・・・モブリズでござるな?」
「え?」
「拙者が直接出向いて確認を取ってくるでござる。」
カイエンは自分の愛刀を腰に携えた。
「ローラ殿、この3ヶ月の間のこと、本当にかたじけないでござる。拙者、この恩義に報いるためにも、必ずモブリズで確認を取ってくるでござる。では。」
カイエンは振り向かず、町を出た。出てすぐ、何とあのガウに会った。
「ガウ殿・・・・。」
「おおっ!ござる。ひ・さ・し・ぶ・り。」
「いやいや、久しぶりでござる。」
二人は5分ほど談笑した。そして、
「ガウ、獣が原で強くなる。ござるは、どうする?」
「拙者は1度モブリズへ行かねば・・・・。」
その時、ガウの口から驚愕の言葉が飛び出す。
「モブリズ、無いぞ。」
「・・・え?」
「ケフカが、潰した。」
ガウはそのまま行ってしまった。カイエンは愕然となった。しかし、あそこまで言った手前、ローラの所には戻れない。途方に、暮れた。



「美しいでござる・・・・。」
カイエンは谷間を臨む雄大な景色に心打たれた。微妙に靄がかかり、いくつもの山々が連なって見える。ここでカイエンは、ローラの所から連れてきた伝書鳩に手紙をくくり付け、離した。手紙は、カイエンの書いたものである。ここは、ゾゾ山山頂。
カイエンはここで生活する事に決めた。ローラには自分が代わりに手紙を送る。それでいいと思った。こうすれば彼女は悲しまないで済む、そう思うと何か嬉しくなった。
手紙を受け取ったローラは、思わず吹き出した。そして、泣いた。無論悲しさのせいでもあったが、それ以上にカイエンの優しさが嬉しかった。
カイエンは、毎日造花作りをした。手紙と一緒に一日一束ずつ送った。そして、ほぼ10ヶ月の月日が流れ、懐かしい仲間たちが彼を迎えに来た。
「カイエン!」
「ん・・・・?おお、マッシュ殿!エドガー殿も。」
彼は仲間たちから、世界の実情を聞いた。それは、かつてローラに聞いた時よりもずっと酷い。
「よし。拙者も行くでござる。これ以上世界をこのままにはしておけないでござる!」
そう言って、彼はローラに最後の手紙を出した。
愛するローラへ
   私は遠いところへ派遣される事になったでござる。
   そこからは、もう手紙は出せない。
   でも、私はいつでもあなたのことを思っております。
   どうか、お元気で・・・・
一行は、ゾゾ山をあとにした。

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