金と義と家族と……


第2章 〜再会、そして再びの別れ〜


「こっちが、カイエン。んで、こっちがガウだ。」
マッシュは、無事ナルシェへ辿り着いた。同行者はドマの戦士カイエンと獣が原の少年ガウ。
「ドマ戦士、カイエンでござる。」
「ドマ・・・・ドマって言えば!毒を・・・・。」
エドガーは言いかけた言葉を飲み込んだ。横にいるマッシュが目配せしたからである。
「いや・・・・、その・・・・。」
「いやいや、お気に召されるな。」
カイエンは口では気にしていないと言う風であったが、目は、酷く寂しかった。
「帝国は、自軍の将軍も殺そうとしたぞ。」
と、そこへロックも帰って来た。同行者は見慣れぬ女性が1人。
「そちらは?」
「いや、その・・・・。」
ロックは口篭った。余程言いにくい人物なのであろう。
「私は・・・・、元帝国将軍セリス。」
と、その時いきなり椅子から立ち上がった者がいる。カイエンであった。
「き、貴様があの悪名高いセリス将軍か!マランダ国を滅ぼしたという・・・・。」
「ま、待ってくれ。確かに昔はそうだったかもしれない。でも、今は違うんだ。」
「そこをどいて下され!拙者がこの手で、成敗してくれるわ!」
マッシュを除く皆は、カイエンの異常ともとれる反応に驚いた。エドガーはマッシュを部屋の隅に呼び出し、詳しい事情を聞いた。
「ど、どうしたんだ?あの人。」
「実は、毒で家族を・・・・。」
その時、
「大変だぁ!帝国が来たぞぉ!!」
「もう来たか!皆、今すぐ幻獣の所へ向かうのだ!」
カイエンとセリスを除き、皆一斉に所定の場所へ向かった。
「仕方ない・・・・。一旦処分は預けておくでござる。」
「よかろう。私が敵か味方かその目で見極めるがいい。」
2人も、急ぎその後を追った。



帝国軍は何とか追い払われ、同時にカイエンのセリスに対するわだかまりも解けた。
「本当に済まなかったでござる。」
さすがカイエンはドマの戦士である。自分の信念は頑として曲げないが、それが間違いであったりすることが分かると、頭を下げて筋を通す。
「もういいですよ、カイエンさん。」
セリスもかつては帝国で一軍を担っていた女将軍なので、全く気にはしない。
「それより、一刻も早くティナを追おう。フィガロの西の方へ飛んでいったらしい。」
「しかし、また帝国がここを襲う事は充分有り得る。2手に別れるんだ。」
相談の結果、世界的に大きなコネがあるエドガー、補佐役としてその弟マッシュ、そしてマッシュがナルシェに連れてきた男カイエンの3名が、ティナを探しに行く事に決まった。
フィガロ城に地中移動機能があることは、もはや世界的に有名な事であるので、ここでは敢えて詳しくは書かない。とにかく、3人はその機能で山一つ隔てた村、コーリンゲンに着いた。
「シャドウ!シャドウじゃないか!!」
マッシュは、パブにてあの男を見つけた。バレンの滝において別れたシャドウである。しかし、見知っているはずのカイエンは、話し掛けようとはしない。この2人、帝国陣地で出会ったときからウマが合わなかった。カイエンは、出会ったその時は、それほど悪印象を持ってはいなかった。彼がシャドウに嫌悪感を抱いたのは、バレンの滝でのシャドウの発言であった。
「オレの役目はここまでだ・・・・。金の分だけ働いたぜ。」
これがカイエンには癇に触った。なぜ、金なんかで仲間になったり、仲間をやめたりすることができるのか。人間と言うのはそんな軽いもので結びついているんじゃあない、というのがカイエンの持論である。ウマが合うはずは無い。
「また、オマエか・・・・。どうも簡単には縁が切れそうに無いな。犬のエサ代3000ギルでどうだ?」
シャドウは、―――無論金と引き換えにではあるが―――同行を申し出た。
「反対でござる!」
頑強に反対したのはカイエンである。
「しかし、私たちはこの辺の地理に明るくないし・・・・。シャドウがいる方が探しやすい。」
「兄貴の言う通りだぜ。何で反対するんだよ、カイエン。」
マッシュはその理由を知らない。カイエンは誰にも語っていなかったのである。
「・・・・分かったでござる。」
渋々納得した。



3人はシャドウの案内でジドールまで行き着いた。上流貴族のみが暮らす町ジドール。この町には競売所などといった貴族の町ならではの場所が多数存在している。ここから追われた没落貴族や下部階層の者たちは、ここから南東に30kmの山あいにゾゾというスラム街を形成した。
「今日はここで一泊だな。」
4人は宿を取った。
そしてその夜・・・・、カイエンは眠れず、テラスに出た。夜風が心地よい。この辺りはドマより幾分か寒冷であるため、まだ夏であるのに夜風は冷ややかである。しかし、テラスには先客がいた。
「誰でござるか?」
カイエンは声をかけるが、返事は無い。その反応ですぐに誰がいるかは分かった。
「シャドウ殿でござるな?お主には少し言う事があるでござる。」
「・・・・・・・・」
返事はしない。
「お主は本当に金のみで動いているのでござるか?お主が我々に尽くしてくれているのを見ると、とてもそうは思えないのでござるが・・・・。」
シャドウは黙って立ち去ろうとする。
「待つでござる!答えるでござる!!」
「・・・・金だよ。オレにはそれしかないさ。」
カイエンは沈黙してしまった。やはりこの男とは分かり合えない、と改めて思った。
翌朝、確かな筋から情報を仕入れ、4人はチョコボでジドールを発った。
「ところで何処へ行くんだ?」
マッシュは情報収集には参加していない。当然、目的地も知らない。
「ゾゾだ。そこへ向かって飛んでいくのが目撃されたからな。」
ゾゾ・・・・・。先程も書いたが現在はスラム化しており、世界会議で危険指定レベルBとなっている。(余談だが、この危険指定レベルには下から順にD〜SSまでが設定されており、SSになると例えば封魔壁の洞窟といったおおよそ常人の立ち入れないものになる。なお、帝国首都ベクタはSであるが、これは一般人をベクタに入れないための帝国側の方便である。)
「ゾゾか・・・・。モンスターの巣窟だ、注意したほうがいい。」
シャドウが皆を気遣うように注意を促す。それでも、彼は勝手に仲間を抜ける時がある。このギャップがカイエンには理解できない。
「こっちだ・・・・。」
ゾゾまでの道案内もシャドウである。どこの地理にも明るい。程無く到着した。



ゾゾの探索は、存外楽に済んだ。
「ティナ!」
薄汚れたビルの最上階で発見されたティナは、幻獣の姿であった。ひどく昂奮している。
「これ、刺激を与えてはならん。」
横にいる老人に言われた。年の頃は7,80といったところだろうか、信じられないほど長い髭と杖を持っている。
「あなたは?」
「ワシはラムウ、幻獣じゃよ。幻獣狩りを逃れてここに隠れ住んでおる。」
皆、言葉を失った。まさか目の前にいるこの老人が幻獣であるとは、とてもではないが信じ難い。
「まさか・・・・、あの伝説の・・・・。」
マッシュのこの呟きが、その場にいる全ての者たちの心中を代弁していた。幾分か落ち着いたエドガ―はこう切り出した。
「ティナは、どうすれば元の姿に戻るのでしょうか?」
「ふむ。ここにはワシを含めて4人の仲間がいるが、どうすることもできん。じゃが、帝国首都にいる他の仲間たちなら、その子を元の姿に戻せるやもしれん。ワシの命ももう長くは無い。この命、魔石に変えてお主らに託そう。」
ラムウは一瞬で魔石化した。遅れて到着したナルシェ残留メンバーも、1度合流した。
次の目的地がはっきりし、南の大陸への渡航手段を考えねばならない。
「とにかく、メンバーを分けよう。」
まず、本人たっての希望により元帝国将軍セリス、そして、セリスに着いて行くと言うロックの2人が、南の大陸への渡航メンバーに決まった。
「あとは、5人の中から・・・・。」
エドガーがそう言いかけた時、
「4人の中からだ・・・・。オレはここで抜けさせてもらう。」
シャドウ、離脱。しかし、カイエンがその肩を思いっきり掴んだ。
「待つでござる。お主、本気で言っておるのか?まだそんなことを言うのでござるか!?」
ジドールの宿屋での一件があったので、自然、語調が荒くなる。シャドウはカイエンの手を冷静に振り解き、言った。
「・・・・契約は終わった。縁があればまた雇ってくれ。」
一瞬でその場から消えた。
「あの人、仲間じゃなかったのか?」
事情を知らないロックが、マッシュに尋ねる。マッシュが答える間もなく、カイエンが荒々しく言う。
「あんなのは仲間でも何でもないでござる!拙者、済まぬがナルシェに戻らせてもらうでござる。少し考え事をしたい。」
「お、おいカイエン・・・・。」
呼び止めようとするマッシュを、エドガーが制した。
「行かせてやれ。私とお前がセリスたちに同行しよう。ガウ君、済まんが君はカイエンさんと一緒にナルシェへ戻ってくれ。」
ガウは二度頷き、急いでカイエンの後を追った。カイエンは、既に見えないところまで歩いていた。
「ござる、待て!」
カイエンは聞き慣れた声に振り返った。ガウである。
「ガウ殿・・・・。」
「マッシュのアニキから言われた。オレも一緒に戻る!」
カイエンは黙って歩き始めた。
「ござる、どうした?」
それでも、ガウはお構いなしに話し掛ける。ここにガウを選んだエドガーの知略があった。何も会話がないと、カイエンは思い詰めてしまう恐れがある。ガウであればその心配は無い。ガウの存在でカイエンの心は幾分か和らぐだろう。
(シャドウ殿・・・・)
道中、カイエンはずっとシャドウことばかり考えていた。いまだに、彼の行動が不可解でならない。4〜5時間ほどで、2人はナルシェへ帰り着いた。

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