〜 5 〜
激戦の続く空域を、黒い影が他を遙かに凌駕するスピードで通り過ぎる。
人智を超えた力、存在…魔人キールだ。
だが魔人は今、何か釈然としない思いを抱いていた。
「……いくら一度見失ったとはいえ、もう追いついてもいいハズ…」
彼の追う相手、カインの事だ。キールはまだ、彼を捉えられずにいた。
『…カインの力が以前より上昇しているのか?』
確かにそれはあるだろう。ジャンクションは心の力。
意思が強ければ強いほど、その力もより高まる。
今、ルシアンを助け出そうとするカインの意思は、
これまで以上の力を生み出しているに違いなかった。
しかし…キールには理由がそれだけとは思えなかった。
何故なら、自分自身の内面に妙な違和感を感じていたからだ。
「何か、ザワザワする…心地悪い感じだ……くそ、なんだっていうんだ?」
空いている左手の平を見る。見た目は変わらない。だが、いつもと何かが違う。
「く……余計なことは考えるなッ 今は、ヤツを倒すことだけを!!」
キールはその左手で髪を掻きむしるように振り乱した。
陰鬱な気分ごと振り払うかのように。
通常以上の強力な重力子フィールドに守られたエスタールは、
溢れんばかりの敵艦隊の中、奇跡とも言える猛進撃を続けていた。
絶えず火を吹き続ける全砲門とフィールドのおかげで、
敵もなかなか有効な攻撃を与えられずにいる為だ。
だが、決して楽に進んできたわけではない。
火器管制、重力子の調整、フィールドを張るタイミング、
破損個所の修復など、艦員達は限界を超えた仕事量をこなしていた。
それでも、艦長からは更に上の要求が出される。
「まだだ、もっと速度を上げろ!」
ギムレットが急ぐのには理由がある。
カインのこともあるが、それ以上に魔力源となっている子供達がいつまで保つかが心配だった。
彼らが力尽きれば、エンジンも重力子フィールドも格段に出力が下がってしまう。
その為には、この数知れぬ敵艦隊の群中、
一刻も早く首都にまで辿り着かなくてはならなかった。
だから誰も文句は言わない。
急ぐことが、自分たちの為に全力を尽くしてくれる子供達への負担を減らせるのだから。
そんな彼らの前に、それまでになく厳しい壁となって立ち塞がるであろう存在は、
もうすぐそこまで迫ってきていた。
「あと少しで首都圏か……ん?」
ギムレットは、スクリーンに映る敵艦が妙な動きをしているように見えた。
まるで、道を空けるように…。
「艦長、敵艦隊が陣形を変えています!」
間髪入れず、スプモーニが察知し報告する。
「どういうことだ?」
「判りません…が、どうも退避行動に近い動きに見えます。」
「退避? 馬鹿な、我々を素通りさせるというのか?」
「いや、むしろ後方から来る何かの為に、道を空けるような……なッ!?」
その時スプモーニのみならずブリッジの全ての者たちが、
二つに分かれた敵艦隊の間から現れた異様な‘存在’を目撃し、同時に驚愕した。
それは黄金の、巨人。
「な、なんだあれは…」
「艦長、巨人の右斜め後方にフォルト級艦を確認!イェーガーです!!」
そのフライアの報告は、巨人の正体をある程度推理するヒントとなった。
「イェーガー…ジェノサイダーか! とするとあれは機械兵?」
「しかもただの機械兵じゃないよ! こ、これは……」
計測値と睨めっこしていたリッキーが呻いた。
「…波動エネルギー充填中!
以前のイェーガーの二倍以上だよ!!……もう、くる!?」
「パナシェ、かわせぇぇ!!」
「おう! …くうッ」
真横に倒される舵。同時に、艦全体が衝撃で激しく揺らいだ。
あまりに強力な荷電の為、ブリッジの照明が明滅する。
「く…状況は!?」
「左部装甲、11.6%溶解! 航行に支障はありません。」
「間一髪だったな…重力子の影響を受けない、波動砲…やっかいな兵器だ。」
やっかいどころか、まともにやったんでは殆ど勝ち目無しだな…
ギムレットは、本音は心に留めておいた。
と、それまでスクリーンに映るイェーガーを見つめていたスプモーニが、
突然立ち上がった。そして後方の席を振り返る。
「ミスティ君、暫く仕事を変わってくれないかい?」
いきなり名指しされた分析係のミスティは、どぎまぎしてつられて立ち上がる。
「は、はい?…一体どういう…」
スプモーニはそのままツカツカとミスティに寄ると、
「頼むよ、今度私のお手製パスタをご馳走するから。」
と耳元で囁いた。思わず頬を染めたミスティは、なんとなく頷いてしまう。
「良かった。じゃあ頼んだよ。」
そのままスプモーニはブリッジの出口へと歩く。
艦橋要員たちは皆訳がわからず見送っていたが、
約二名…ギムレットとパナシェは理解した。
「……“戦神の目”、復活か?」
キャプテンシートの横を通るスプモーニに声を掛ける。
「ついでに小隊一の色男ってのもなァ」
振り返ってパナシェもからかい口調で言う。
「よしてください、昔のあだ名ですよ。」
スプモーニは笑って…しかし目だけは笑わず、その意思を二人に伝えた。
それは、嘗ての戦友だけに通じる、瞳の言葉。
「……死ぬなよ。」
「ジェントルはデートの約束を破らないのですよ。」
そう言ってスプモーニは再び笑みを見せ、
「…じゃ。」
軽く敬礼すると、ブリッジを後にした。
「……メガ波動砲をかわしたか…さすがだな、エスタール。」
ジェノサイダーの指揮官・ホーセズ=ネック少佐は無表情ながら珍しく相手を賞賛した。
何度も辛酸を舐めらされた相手だけに、彼にとってもエスタールは、
ただのモルモットではない特別な存在になってきているのかもしれない。
「だが、超機械兵“ドルメン”の相手には些か不釣合いだな。
ふむ…ドルメンのデータを取る為には、もっと強力な相手でなければ…」
ホーセズはエスタールとは反対方向の、首都に近い空域を見た。
そこには既に先行しているカインがいる筈だ。
「……よし、ドルメンは首都防衛に向かわせろ。
此処は、イェーガーとアリニュメンで十分だ。」
「は!」
ブリッジ要員はホーセズの命令どおりに操作を始める。
ホーセズはそれを視認しながら、傍らのマイクを取った。
「聞こえたな、S=C1。首都に向かえ」
《了解!…小僧への復讐は任せるって、C2のヤツにお伝えくだせぇ。》
スピーカーの無効側から、人格の粗暴さを思わせるような声が響いたかと思うと、
ドルメンはゆっくりと反転して首都に向け飛び立つ。
その姿を確認し、ホーセズは直ちに新しい指令を下す。
「待機中のアリニュメンは全て出撃。同時にイェーガーの波動エネルギー充填開始!」
「は!」
そしてスクリーンには、
イェーガーのカタパルトから放出される数多くの機械兵が映される。
それを見て、ホーセズは薄く笑った。
「随分手間取ったが…勝負あったな。これで終わりだ、エスタール。」
再び戻ってエスタール。
その鑑内各所で艦員達が忙しく働く中、ヨシノは一人廊下を疾走していた。
「ヨシノ、どこ行くんだ!? お前は第一ブロックの守りのはずじゃあ…」
見留めたスタッフの一人が声をかけたが、その言葉は最後まで続かなかった。
ヨシノのあまりの形相に、気圧されたのである。
一心不乱に走るヨシノの目指すものはただ一つ。
「……ジェノサイダー! 今度こそ終わらせてやる!!」
革命軍ににとってもセントラ軍にとっても、最後の戦いになるであろう今回の作戦。
それは、ヨシノにとっても復讐の最後のチャンスであった。
やがて彼は艦内で最も喧噪に満ちた場所…ドックへと辿り着く。
そこでは出撃準備中の艇や、破損個所の応急処置をしている艇、
また被弾して甲板から戻ってくる艇などで溢れかえっていた。
そんな中、ヨシノは辺りを見回しながら猛然と走る。
そして近くに見留めた一人のメカニックを捕まえると、
「使える船は無いのか!?」
と、問いただす。
ヨシノの剣幕に驚いたメカニックは、目を白黒させながらもなんとか答える。
「こ、ここにあるシップは全部補修中だよ。使えるのは全部出てる。」
「シップでなくていい。小型の二人用の…」
「バードか? 無茶だぜ。
機械兵が来てるのに、バードなんかで出たら一瞬で落とされるぞ!」
「それでも!!…それでも、某は……」
強く握りしめられた拳の内からは、紅い流れが滲み出し、水滴となって床に模様を作った。
そのヨシノの奮える肩を、背後から叩く者がいる。
振り返ると、そこには先程ブリッジを出たスプモーニが大きなケースを片手に立っていた。
「スプモーニ殿!? どうして、こんなところに…」
「来たまえ、ヨシノ君。」
そう言ってスプモーニは振り向きざまに即、駆け出す。
ヨシノは理由も解らずに後を追った。
やがて二人はドックから甲板に出る。
外に出ると、回りの敵鑑の多さと激しい戦闘に圧される。
が、スプモーニは意にも介しないといった風で、更に走っていく。
ヨシノとて、今更恐怖は感じない。そのままの速度でスプモーニを追う。
そして甲板の右端の辺りまで辿り着いたところで、スプモーニは漸く立ち止まった。
そこには整備されたバード級艇が、カタパルトに設置されていた。
「これは…」
「予め、一機確保しておいた。おそらく、必要になると践んでな。」
スプモーニは微笑して、ヨシノの瞳を見た。
「行きたまえ。君の意志は、変わることは無いんだろう?」
「スプモーニ殿…」
頷いてヨシノは、バードのバイクのような操縦席に跨った。
「…カタパルトと操縦システムの調整で、
真っ直ぐイェーガーに向かえるようにはなっている。
が、多少の操縦は必要になるが、出来るかい?」
「なんとか、直進は出来る。…鍛錬しておいた。
皆が船の修繕に忙しい時分、某はそれくらいしか出来なかったからな。」
ヨシノは自嘲して笑った。スプモーニはその肩を励ますようにポンポンッと叩いた。
「普通なら、敵艦に辿り着く前に落とされるだろう。
だが、直進に全推力を注いだ設定をしているから、
ある程度は捉えられる前にかわせる速度だ。
残りは、私が後方から援護する。」
説明しながら、バードのエンジンに火を入れる。
同時に、カタパルトも発射準備を完了する。
「援護?…何から何まで忝ない、礼を言う。」
「礼を言うのはこっちの方さ。
私に、昔の私を取り戻させてくれた。」
ハっとするヨシノに向かって微笑んで、
スプモーニはカタパルトの射出レバーを下ろした。
途端、ヨシノを乗せたバードが凄まじい勢いで甲板を走り、
そのままエスタールから飛んでいった。
「行きたまえ…そして、帰ってくるんだ。」
見送りながらスプモーニは呟くと、
気を取り直したように持ってきていたケースを開ける。
そこには数多くの銃器が入っていた。
そこから一丁取りだすと、金色の弾丸を一つ込めた。
「…さて、サムライの心意気を邪魔する無粋な連中に、一泡吹かせてやろうかな。」
早速ヨシノのバードを見つけて群がる機械兵に、スプモーニは銃を向ける。
「波動エネルギーを研究していたのは、自分たちだけだと思うなよ!!」
銃から激しい光が零れ、辺りは輝きに包まれた。
「波動弾…ハイパーショット!!!」
引き金を引いた瞬間、銃口から凄まじい量の光の帯が弾き出される。
それはヨシノのバードを掠め、付近の機械兵数体を包み込んだ。
更に光は直進し、イェーガーを掠めて彼方に消えた。
光が終息したとき、飲み込まれた機械兵は完全に消失していた。
「…やれやれ、私のビスマルクが一撃でおシャカになってしまった。
まあ、もうヨシノ君に追いつける距離には機械兵はいないがね。」
スプモーニは砲身の吹き飛んだ銃を投げ捨てる。
「波動弾もまだまだ未完成だな…後はエスタールの護衛だが、
仕方ない、普通の弾でいくか。」
言いつつ、傍らのケースから新たな銃を取り出す。
「対戦車ライフルで飛空艇と機械兵相手にどこまでやれるか…面白い。」
スプモーニは不敵に笑って、丸眼鏡を外した。
かわりに、懐から取り出した別の眼鏡を掛ける。
それは、右目の部分にレンズの代わりに黒い宝石がはめ込まれていた。
「久しぶりに…いくぞ、G.J.アサルトドアー!“ターゲッティング”!!」
ジュエルが輝き、彼はエスタールに迫る機械兵の一つに狙いを定める。
「シュート!!」
狙いを定めた瞬間にライフルは火を吹き、弾丸は機械兵の間接部に直撃する。
途端、機械兵は被弾箇所からスパークして爆発した。
「あらゆるものの急所を見切る…ターゲッティング。
後はそれを狙うだけだ。」
しかし、高速で飛び回る機械兵の、
それも一部分を狙って撃つということは並外れた射撃の腕でなければ不可能だ。
神業、と呼ぶに相応しい。
「さあ、どんどんいこうか!」
スプモーニはライフルで次々と機械兵や飛空艇を落とし始めた。
「まさか、こんな…」
ホーセズは驚愕していた。
敵が波動エネルギーを使ったというのも驚きだったが、それ以上に、
たかが生身の人間が扱うライフル程度で次々と
機械兵がやられていくという事実の方が衝撃的だった。
「どうなっている? エスタールのデータには、こんな事象は無かった筈だ…む?」
続いて、強い揺れが艦全体を襲う。
「どうした!?」
「敵のバード級が、甲板に突っ込んできました!!」
「馬鹿な、衝突する前に落とせなかったのか!?」
「それが、さっきの敵の波動砲の影響で、誘導機器に支障が…」
「おのれ!」
ホーセズは珍しく激昂して手元のコンソールを叩いた。
「急いでバードの残骸を確認しろ! 何か、あるはずだ!」
「は!」
部下は慌てて作業を始める。
それを見ながら、ホーセズは歯を噛み締めた。
「こうまでもデータが通用しないなど…エスタールめ!」
完璧なデータ収集能力を持つはずのジェノサイダー、故の苛立ちであった。
イェーガーの甲板上で大破し、モウモウと煙を上げるバード級艇。
その確認をするために、艦内用の機械兵が二体、近付く。
機械兵は始め数メートル程離れて眺めていたが、
やがて意を決したように(無機物のマシンに言うのはおかしいのだが)、
直接触れる距離にまで接近しようとした――瞬間。
ザンッ ザンッ
刹那の間に二つの斬撃音が響いたかと思うと、
二体の機械兵は双方とも既に縦に真っ二つとなっており、同時に燃え上がった。
炎を背後に浮かび上がったシルエットは、侍。
「此処だ…‘俺’は紛れもなく此処にいる
……あの日以来、求め続けた処に! 待ち続けた、この時に!」
異常を察知した機械兵と甲板員の銃撃が、ドックの方から迫ってくる。
ヨシノは正に、それ目掛けて駆け出した。
「守護石、沙羅曼陀!」
刀身が火焔に包まれ、真っ赤に燃える。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!
桜華流・改!『火焔海』!!」
振り下ろした刀が甲板を斬ると、そこから炎が溢れ出し、
津波となって敵軍に押し寄せた。
「ぐあああああっ」
「ぎゃあぁ!」
炎は何人かの生身の人間の断末魔もろとも、
機械兵を焦熱地獄に包み込んだ。
ヨシノはそれを一瞥もせず、艦内へと入っていく。
炎の中を走るその姿は、鬼人。
「奴らを倒す為ならば、鬼ににも魔にもなってみせよう!」
その遙か上空を行く、黒い飛空艇が一つ。
エルクスの操るハイシップだ。
「アハ、なんか燃えてるよ♪」
イェーガーの甲板の惨状をモニターで眺めながら、
ベリーニは可笑しそうに言った。
エルクスはそんなベリーニに構わず、
前方スクリーンに映る一点…エスタールだけを見つめている。
「…それにしても、我が軍は何をやっているのだ!?
これだけの数がいながら、エスタール一艦を墜とすどころか、
止めることすら出来ないとは!
このままではみすみすセントラル・シティまで侵入を許してしまうではないか!」
己の感情で動いているとはいっても、やはりエルクスは軍人である。
神聖なる首都への敵の侵攻は、耐え難いものであった。
「ま、仕方ないんじゃない?
“じぇのさいだ”はあんな調子だし、
並の飛空艇の砲じゃあ、あのふぃーるどは破れないよ。」
ベリーニは嘲るように言った。
「フン。…ならば、私がフィールドに対する戦い方の見本を示してやる!!」
エルクスは一気に操縦桿を倒すと、エスタールに向けて超加速した。
「兵器が通用しないなら、直接乗り込んで叩けばいいだけだ!」
近付くにつれ、当然エスタールからは砲火が飛んでくる。
それをエルクスは、ハイシップの性能と凄まじい操縦テクニックで悉くかわした。
いや、多少掠っても構わず進んだ。
「わあ、ジェットコースター♪」
喜ぶベリーニとは対照的に、エルクスは必死の形相。
「保て、まだ墜ちるな! 彼処に辿り着くまでは…!!」
その時、エスタールを目前にして、
突然ハイシップの四機のエンジンのうち、一機が火を吹いた。
「な、何!?」
慌ててモニターを拡大してみると、
エスタールの甲板にライフルを構えた男が一人立っている。
「アイツが!?」
その男に対し、二人は同じ言葉をまるで違うニュアンスで叫んだ。
一人は驚嘆、一人は嬉々として。
「アイツ、面白〜い! 遊んでこよっと♪」
ベリーニはそのまま上部ハッチへと向かう。
「お、おい…」
だがエルクスが声をかける前に、ハッチは開かれた。
「やれやれ、まさか敵方にも同じ事を考えていた人間がいたとはね…」
スプモーニは愚痴りつつも、二撃目を撃つ。
それは的確にハイシップの二つ目のエンジンを沈黙させた。
が、それでもハイシップは真っ直ぐに向かってくる。
「く、頑丈な船だ!」
三発目を構えたとき、その艇から何かが飛び出してきた。
「…な、子供!?」
そう、その何かは間違いなく子供の姿をしていた。
「キャハハハハハ、遊ぼうよう!」
言いながら子供が手を振り下ろすと、凄まじい雷撃がスプモーニを襲う。
「く!?」
間一髪、転がって避ける。
それまで立っていた場所は、黒く焦げ装甲の一部が消し炭のようになっていた。
と、足場が激しく揺れる。否、艦全体が揺れた。
その間にハイシップがエスタールの左上部艦壁に突っ込んだのだ。
「ち、しまった…」
舌打ちもそこそこにそこへ走り出そうとすると、
その目の前に先程の子供が舞い降り、立ち塞がった。
「ダメだよ、キミはボクと遊ぶんだから。」
その子供…ベリーニは屈託のない笑顔を向けてきた。
だが、スプモーニは油断しない。先程のサンダガを放ったのは彼なのだ。
「そう簡単には行かせてもらえそうにないな…」
スプモーニは手にしたライフルを捨てると、
かわりに上着の背から二丁の拳銃を取り出し、構えた。
その姿を見、ベリーニは舌なめずりする。
「さあ、どうやって遊ぼうかな…ヤツらの前の肩慣らしには調度いいや♪」
その目は何者をも震えさせる、獲物を狩る獣の目だった。
「まさか彼奴のおかげで救われるとはな…」
半壊したハイシップを降りたエルクスは、その皮肉に笑った。
「都合良く穴も空いてくれたし…私にも運が向いてきたかな?」
そして破れた装甲から、エスタールへ二度目の侵入を敢行する。
「今度こそ…私のこの手で、エスタールを墜としてみせる! 全ては、あの方のために…!!」
内部の通路に降り立ったエルクスは、腰のサーベルを抜くとそれを手にして走り出した。