〜 9 〜

 

       「こ、これは…」

       屋外に出たカインとヨシノの見つめる先には、空中で激しい攻防を繰り広げるエスタールがあった。

      「こんな近くまでエスタールが来ていたのか…」

      無理もない、とヨシノは思う。ギムレットは仲間を切り捨てられるような人間では無かった。

       それは、時に指揮官としてはマイナスに働くこともあるだろう。

      しかし、そういう人柄の艦長だからこそ、皆がついてきた、という面も勿論、ある。

       だが、人柄だけで解決するほど物事は甘くはない。

      現状はどう贔屓目にみても、エスタールの苦戦は露わである。

      「見ちゃいられないな。このままでは…」

      しゃべりかけたカインに対し、ヨシノは手を口の前にやって、静かに、という仕草をした。

      「…?」

      「…誰か来る。」

       続いて、ヨシノの視線の先を見る。そこは工場の建物の出入り口だ。

      そして、そこから三つの人影が現れる。 同時にヨシノが刀を抜いて、斬りかかった。

      「わっ!?」

      「!?」

      ギリギリで刃を止める。その先には、ウォルナッツの顔があった。

       思わず、そのまましゃがみ込む。その後ろには、アンシャンテとリッキーもいた。

      「うはぁ、びっくりした。死ぬかと思ったぜ。」

      「申し訳ない。…しかしウォルナッツ殿、どうしてココに?」

      「そうだ、動力炉を破壊に行ったんじゃなかったのか?」

       カインも皆の元へ歩み寄って聞いた。

      「そ、そうだ、こうしてる場合じゃないぜ、魔力炉が大変なんだ!」

      ウォルナッツは慌てて立ち上がる。

      「魔力炉が、壊しちゃダメで、システムダウンが、暴走の、爆発で…」

      一気に捲し立てるが、一向に要領を得ない。しかも、相手は機械は不得手な二人である。

      「もう、ちょっと黙ってて!」

       アンシャンテが割って入る。

      「簡単に言うと、このままじゃ動力炉…

      魔力炉が暴発して、皆吹き飛んでしまうから、管制塔に行って止めなきゃいけないのよ。」

       あまりにも簡略な説明だが、切実さを伝えるには十分だった。

      「しかし、ここから管制塔に向かうのは…」

       ヨシノが工場敷地内の、最も高い建物を見上げた。今いる地点からは、かなり離れている。

      しかも、屋外を走らなくてはいけない。そこは、空中戦の残骸や流れ弾の降る危険な進路だ。

      機械兵を始めとする、敵部隊に見つかる可能性もある。

      「…よし、俺が囮をやる。」

      しばし考えていたカインが、口を開いた。

      「囮?」

      「ああ。空の敵は今、皆エスタールに向いている。

      そこに俺が加われば、敵の目は新たに参戦した俺に集中するだろう。暫くは時間が稼げる。」

      「でも、危険すぎるわ!」

      アンシャンテがそう言うのも当然である。

      工場空域は、圧倒的多数の敵に埋め尽くされているのだ。

      いかにカインが得体の知れない新参者であろうとも、心配はする。

      「……全員が危険に晒されるよりはいいさ。ヨシノは三人に付いててくれ。」

      「しかし、カイン殿!」

      だが、カインは既に構えを取っていた。

       一瞬、ずっと黙ったままのリッキーを見やる。

      カインは、敢えてオーベルの行方については問うてはいなかった。 それは、ヨシノも同じである。

       二人とも、知らなかったが、‘知っていた’のだ。 そしてそれは、今確認することでは無かった。

      悔恨は、後で良い。今は、出来ることをするのみ。

      「………飛ぶッ!!」

      カインは一気に上空へと跳躍する。

       それを見ていたヨシノ達だったが、

      「行こう、カイン殿の意志を無碍にはできん!」

      そのまま三人を伴って走り出した。

       ヨシノのの言葉が沁みる、リッキーであった。

 

        カインは常人では考えられないほどの跳躍を見せたが、

      それでも戦闘空域にまで到達するのがやっとであった。

      そこからさらにジャンプしなくては、敵を落とすことは出来ない。

      「ならッ!」

      カインは手近なシップ級飛空艇を足掛かりにして、さらに飛躍する。

      「なんだ!?」

      突然の揺れに乗組員達は動揺する。

       だが、揺れがおさまる前に、再び激震が襲う。

      カインがそのまま攻撃したのだ。

       乗組員達は状況把握する間もなく、艇が航行不可能になったのを知った。

      「そ、総員退避!!」

       暫時の後、そのシップ級は、動力部から誘爆しながら沈んでいった。

 

      「あれは!?」

       とある建物の非常階段を駆け上がっていたキールは、空中で突然炎を上げた友軍の艇を見上げた。

      「……あんなことが出来るのは……」

       キールは初めて笑みを浮かべた。瞳には、ギラギラとした闘志を灯しながら。

 

      「ちっ、敵が動きすぎる!」

       前回のように陣形の固まっていない戦場では、

      さすがのカインも次の飛空艇に飛び移ることが出来なかった。

       仕方なく、一度降下し、着地する。

      「く、もう一度……!?」

       カインは瞬間、凄まじい殺気を感じた。

      「見つけたぞ、カイィィィィィィン!!」

      「お前は!」

       打ち下ろされた剣。受け止める槍。衝撃が火花となって散る。

      「キール…キール=アンペリアル!!」

      三階位置の階段から飛び降りて攻撃してきたのは、紛れもなくキールであった。

       二人は瞬時に跳び下がって間合いを取った。 キールはその大剣を片手に、構える。

      「ふ、名を憶えていてくれたとは光栄だな。

      …なら、今度はその名をせいぜいあの世ででも広めてくれ!」

       キールは空いていた左手をカインに向けた。

      「ファイラ!!」

      激しい炎が巻き上がり、カインを襲う。

      「くっ、こんな時に!」

       カインは炎をかわそうと、跳び下がった。

      と、目の前の炎の中から、己の身が焦げるのも構わず、キールが飛び出してきた。

      「な、なに!?」

      「臆したな、カイーン!!」

      キールの刃が唸る。

       カインはなんとか身を捩ってかわそうとしたが、剣は鎧のない右肩を掠った。

       鮮血が飛び散る。

      「ぐッ」

      「まだまだァ!」

       キールは休むことなく剣戟を浴びせてくる。

      カインは後退しつつ、槍を以てなんとか受け止める。

      「以前より、さらに速い!?」

      「当然だ、貴様を倒す為なら、いくらでも強くなってやる!!」

       激しい気迫は威力となって、カインを圧した。

      だが、カインとてやられているばかりではない。

      「おおおおッ!!」

      「む!?」

      カインは気合いとともに槍を振り、強力な一撃を繰り出す。

       その速度は正しく神速の如しだったが、キールはそれすら見切り、かわした。

      しかし、そのことで二人の間に間合いが出来る。カインの狙いはそれだった。

      「はあッ!!」

      刹那の溜めのあと、カインはジャンプした。

       自分の得意の戦法で、一気に勝負を着けようというわけだ。

      「フン、そうくるだろうと思ったよ。」

      キールはカインを見上げると、余裕の笑みを浮かべた。

      と、同時に、キールのアーマーの胸にはめ込まれた宝石が輝く。

      「見せてやるぜ、新しいG.J.…ケーツハリー!!」

      キールの周りの空気が、気流となって渦巻く。

      「ソニック・ダイブ!!」

       気流に包まれたキールの身体は、弾丸の様に上空へと弾き出された。

      「何!?」

      見下ろしたカインは驚きを隠せない。

       すぐ足下にまでキールが迫る。

      「見たか!空中戦が貴様だけのものだと思うなよッ!」

      「…付け焼き刃のジャンプで、いい気になるなッ」

      カインは槍を振り下ろす。交錯する刃。

       しかしカインの攻撃は止まない。

      二人は刃を交えながら降下していくが、キールは受け止めるのがやっとだ。

      やはり、空中ではカインの方に分があった。

      だが、キールの余裕は消えない。

      『コイツ…まだ何かあるのか?』

      「ふ、ケーツハリーの能力はジャンプだけではない!!」

      キールは一度剣を退くと、高速で振り抜いた。

      「ソニック・ソード!」

      「なに!?」

      カインは見えない威力を感じ、身を退ける。と、その左足に衝撃が走った。

      「ぐッ…?」

      見ると、足には鋭い刀傷があり、血が紅い線を描いている。

      「かまいたちか!?」

      「そうだ。このタイミングでかわすとは、さすがだな。だが、連撃も可能なんだぜ!?」

       キールは激しく剣を振り回した。

      「ソニック・ソード、ショット!!」

      無数のかまいたちが、カインを襲う。

      「ぐっ…あうッ」

      そうこうしているうちに、地面が壁となって眼前にまで迫ってきた。

       二人は、同時に着地した。空中で崩した体勢を、整え直した見事な着地だ。

      しかし、二人の様子は大きく異なる。

      キールは僅かな焦げ痕とかすり傷程度だが、カインは身体と鎧に無数の切り傷を受けていた。

      出血も、少なくない。

      「ふ、やはりさすが、だな。致命傷が一つもない。空を得意とするだけのことはある。」

       キールは有利な状況でも、過信しない。

      このレベルの闘いになると、一瞬の油断は勝敗を大きく左右する。

      しかも、自分に一度煮え湯を飲ませた相手である。過小評価はしようもない。

      「だが、真空刃を出せるのは空だけではないぜ。」

      何かを裂くような鋭い音をたて、キールの周りに風が集まり、気流となる。

       それに対し、カインは出血も構わず、槍を向ける。

      「ふ、地上でどこまでやれるかな……いくぞ、ソニック・ソード、ショット!!」

      キールは再び剣を幾重にも振り、かまいたちを放ち出す。

       それに対し、カインは退くことなく、逆にキールに向けて飛び込んできた。

      「な!?」

       かまいたちがカインの身を斬る。が、カインは構わず突っ込む。

      その強力な脚力で、一気にキールの懐にまで入った。 そして槍の一撃がキールを狙う。

      「ぐっ!」

      キールはなんとか剣で受け止めたが、同時にかまいたちも消えた。

      「き、貴様…」

      「驚くことはない。お前の真似をしただけだ。」

      「チィィッ!」

       キールは剣を振り上げたが、体勢的にカインの突きの方が、先に出た。

      その槍の一撃は、キールの左胸の宝石を正確に突く。

      「うぐッ」

       その威力で数メートル程弾き飛ばされる。

      「あうっ…お、おのれ……な?」

       立ち上がろうとしたキールの胸の上で、G.J.がひび割れ、

      そこに封じ込められていたエネルギーが、自然界へと四散した。

      「ケ、ケーツハリーが…」

      「勝負あったな。」

       その様を見届けたカインは、踵を返す。

      「待て、決着はまだ…」

      キールはダメージの残る胸を押さえながらも、立ち上がった。

      「…俺にはやらなければならないことがある。いつまでもお前の相手はしていられない。」

       振り返りもせずそれだけ言うと、カインは再び跳躍した。

      その姿は、遙か上空の戦域に突入、見えなくなった。

       その光景が、キールには、妙に癇に障った。

      「お、俺は……俺は眼中に無いというのかッ!!」

      見上げた顔を下ろす勢いそのままで、拳を激しく地に打ち据えた。

      「…おのれ、おのれ…」

       次第に憎悪の感情が、増大していく。

      「おのれッ、カイン=ハイウィンド!!俺は…俺は諦めんぞ、俺は、必ず貴様をッ!」

       叫び、一頻り怒りの念を吐き出すと、辺りを見回す。

      「バード、バードは…くそッ、この辺には無いか!」

       キールは、自らを戦場へと導く翼を求めて、またも駆けだした。

 

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