〜 10 〜
フォルト級艦『アンゴスチュラ』のブリッジにて、ロブ=ロイは指揮をとる。
「…機械兵の参戦で、流れは定まったか…」
ロブは、被害報告の少なくなった自艦の状態を、
キャプテンシート付属のモニターで確認しながら呟いた。
「……それは、いい。徒に部下を死なせずに済むからな。だが…」
納得は、いかなかった。突然、総出撃した工場守備艇隊。その意味が、どうしても掴めない。
「我が艦と、ジェノサイダーが在れば、戦力としては充分すぎる程だ。
何故に、最終防衛ラインである工場付属艇を、出す必要がある…?」
冒す必要のない危険を、わざわざ冒す。その真意は…
「誰かが、わざと戦力を消費させたがっている、とでも言うのか?」
と、そこまで思考を展開させた瞬間だった。 ロブの感覚に、何かが奔る。
「!?……この感じ……キール? 何か、あったのか?」
「艦長!」
呼ばれて、意識を現実へと引き戻される。
「どうした!」
「友軍のシップ級が、突然落とされました!…あ、また一機!」
「何!?モニターに出せ!」
即座に、モニターに拡大映像が映される。
そこには、各部を爆壊させながら沈みゆく、シップ級が確かにあった。
「バカな、エスタールとは反対方向じゃないか? 何故落ちる!」
そこまで言いながら、はたと気付く。 出撃前に、ザルツ将軍から聞いた言葉。
『だが、救助された連中がおかしなことを言う。飛んでくる人間に墜とされた、とな。』
「キールの狙い……カイン=ハイウィンドが動いたかッ!!」
「おおおおおッ!!」
カインの気合いと槍とが、シップを貫く。 間を置くことなく、新たに翔る。
そのまま上空で、自らの撃破したシップが墜ちていくのを確認した。
「これで、やっと三つか!」
さすがに、こうまで混戦した戦域では、前のように次々と墜とすことは出来ない。
とりあえず、建物の屋上に着地する。
「もっと、敵の集中しているところを叩かなくては……む?」
空域を見渡したカインに、エスタールが映った。所々から煙を上げ、時折、爆光が光る。
そして周りには、無数の光が飛び回っている。機械兵の噴出光だ。
「あのままでは…くそ、二、三機墜としたくらいじゃ、焼け石に水か……何!?」
見つめるエスタールから、感じるものがある。それは…誰かの危機。
「……ルシィか!?」
カインは守るべきものへと向けて、飛翔した。
「もっと弾幕を張れ! 機械兵を近づけるな!!」
ギムレットの怒号がブリッジのみならず、艦全体に響き渡る。
だが、その気合いのみでカバーするには、いかんせん敵の数が多すぎた。
「第6機銃砲座、破壊されました!」
「居住区装甲板破損率、36%!!居住区にいる者は撤退せよ!」
作戦序盤と同じように、被害報告が溢れる。しかも、今回はエスタール本体のダメージだ。
「……ジェノサイダーめッ」
ギムレットの、もう何度噛んだか解らない下唇には、淡く血が滲んでいた。
空中に動員されている機械兵は30を数える。
最新式のトルーパーを装備した機械兵の動きを、
後付けのエスタールの機銃で捉えようとは、どだい無理な話である。
「………白兵戦になる、か……」
プロ軍人の少ないエスタールでは、それだけは避けたかった。
だが、このままでは確実に機械兵の侵入を許してしまうだろう。
「戦闘員、非戦闘員を問わず、銃火器を装備しろ!急げ!!」
ギムレットが命令を下すのと、ブリッジの扉が開いてポロムが飛び込んでくるのと、殆ど同時であった。
「ギムレットさん!」
「ポロム君、何やってる!? ココは危険だ、艇の中心部にルシアン達といろって、言っただろう!?」
多分に怒り混じりの声だが、ポロムも怯んでいる場合ではなかった。
「パロムが部屋から飛び出して行っちゃったんです!それを追って、ルシィさんも!」
「なんだと!? こんなときに…」
「か、艦長!!」
耳を打ったのは、驚いたカプリの声だ。
「今度はなんだ!?」
「そ、その二人が、甲板に…」
「何!?」
ギムレットは手元のモニターで自艦の甲板を確認する。
そこには確かに男の子一人と、それを追う少女と小竜が映っていた。
「な…何をする気だ?」
「パロム君、どうする気!?」
ルシアンは、先を行くパロムを必死に追いながら、叫びかけた。
その頭上では、敵の機械兵と、エスタールの砲が飛び交っている。
パロムは振り返ると、親指を立て、
「決まってんだろ、オイラも戦うんだよッ!」
と、ウインクして見せた。
「で、でもカイン君が戦っちゃ駄目だって…」
「相手はロボットなんだろ?なら、人じゃない。」
「そういう問題じゃ…あ、危ない!!」
ルシアンの声に、パロムは前に向き直る。見ると、一機の機械兵が向かってくる。
「へ、オイラの力、見せてやる!…むぅぅぅぅんッ」
パロムは両手を合わせ、魔力を集める。手の内から、緑の光がこぼれ出す。
そして機械兵が右手内蔵の銃を放とうとしたその刹那。
「くらえ、サンダラ!!」
右手を高々と上げて振り下ろすと、それに併せるように天から降り注いだ雷が、機械兵に直撃した。
機械兵はショートして、パロムの前に落ちた。
「す、すごい…」
思わず駆け寄るのも忘れて、呆然と見つめるルシアン。
「へ、どうだ! オイラの手にかかればこんなもの!」
得意そうに鼻の頭を擦るパロムだが、ルシアンはそれよりもその後ろに注目した。
「パ、パロム君、まだッ」
「え? げげっ」
なんと先程の機械兵が、所々スパークさせながら立ち上がったのだ。
「しつこいヤツだな…ならコイツで!」
パロムは、腰に挿してあったロッドを取り出す。
「凍りつけ!ブリザラ!!」
パロムの魔力が冷波に変わり、ロッドの先から飛び出した。
冷波を浴びた機械兵は、あっというまに氷に包まれた。
「ふっふっふ、今度こそ…」
「きゅぇぇぇぇっ」
今度はルーザが敵を示す。上空から機械兵が飛んできた。
「新手!?」
「えーい、勝利ポーズさせろっての!!」
そう言いつつも魔力を集約する。
「もいっちょ、ブリザラ!!」
冷波によってジェット噴射口を凍りつかされた機械兵は、
エスタールに届くこともできず、地へと墜ちていった。
「よっしゃ!ファンファーレだ!!」
「いちいちポーズ付けるのやめなよ、またすぐ来るッ!」
ルシアンの指す先には、新たな機械兵。
「あーもう、やりにくいっ!!」
ブツクサ言いながらも、また雷をヒットさせるあたり、さすがに天才を自称するだけのことはあった。
だが今回は間が悪かった。落とした機械兵のすぐ後ろに、次の機械兵が迫っていたのだ。
「うわわ、魔力が間に合わないッ」
「パロム君!」
咄嗟に、パロムを庇って抱きしめる。 そのすぐ横に、機械兵の放ったグレネードが直撃した。
「きゃあっ」
直接のダメージは無かったが、爆風によって、パロムを抱えたまま吹き飛ばされた。
その勢いは、想像以上に激しかった。甲板の端を更に超える。
「…せめてッ」
ルシアンは抱えたパロムを、甲板の方へ放り投げた。
普通では考えられない腕力。まさに、火事場のなんとやら、である。
「あいてっ」
パロムは頭をぶつけながらも、甲板に乗れた。
だが、ルシアンの身体は、そのまま空に投げ出されてしまう。
「ルシィ姉ちゃん!?」
振り返ったパロムの視界から、ルシアンが消えた。
「きゃあああああああああああああああああああああああっ」
かん高い悲鳴を残して、ルシアンが遙か空高くから、地上へと落下していく。
その速度はかなりのものだが、体感速度は更に凄まじい。
ぐんぐん大きくなる大地を前に、思わず目を閉じた。
瞬間。
「え?」
グンっと、身体が軽くなる…もしくは、浮き上がるような感覚を覚える。痛みも何もない。
それどころか、高速感も無くなり、ただゆっくりと降下しているような感じだ。
「……死んじゃったから、痛くないのかな?」
「バカ言うな、人に苦労させておいて。」
「!!」
聞き覚えのある声。ホッとする声。欲しかった声。
開いた瞳に、自分を見つめる蒼の瞳が映る。
「カイン君!!」
カインは、ただ肯いた。
そしてルシアンを抱えたまま、出来る限り減速して降下していき、地上に降り立つ。
「…おい。」
「ん?」
「着いたぞ。」
言われてルシアンは、かじり付いていたカインの首から手を離す。
と、すぐさま地に下ろされた。
「むぅ〜」
「膨れるのはこっちの方だ。何であんな処に出ていた?死ぬところだぞ。」
カインは、声に、多少怒気を持たせて言った。
「だって…」
言いかけて、ルシアンは自らを止める。パロムを気遣ったのだ。
尤も、後ですぐばれるのであろうが。
その、ルシアンの様子に、何かしら感じたのであろう。
カインも、それ以上理由を追及しようとはしなかった。けれども。
「…約束は、守らなくちゃな」
カインが上を指す。その方を見ると、ルーザが二人を追ってきていた。
「ルーザちゃん!…ゴメン、ゴメンね、守れなくて…」
いきなり抱きしめられて、呻く間もないルーザであった。
カインは一時和らいだが、戦場ではそうそう気を緩めてもいられない。
「とにかく、一度エスタールに戻って……!?」
二人と一匹を、突如として巨大な影が包んだ。
「な…!?」
仰ぎ見ると、深紅の装甲が目に入る。
「フォ…フォルト艦!?」
艦底の機銃が一斉にカイン達に向く。全容を確認する間もない。
「ルシィ!」
カインは横っ飛びに、ルーザを抱いたままのルシアンを抱えた。
だが、一つ跳びで全機銃のロックから外れられるほど、アンゴスチュラは小さくは無かった。
「カイン君!」
「……逃げてる暇はない?…ならッ!」
「目標、地上の革命軍兵士。機銃、一斉射!!」
ロブの掛け声と共に、全ての機銃が火を吹いた。
地上が煙幕に包まれる。 機銃は、暫く連弾し続けた。そして。
「…よーし、撃ち方止めい!………やったか?」
舞い上がった煙が、次第に晴れていく。その下から、銃弾でボロボロになった地表が現れる。が。
「…何だ、あれは?」
何も無くなったはずの、アンゴスチュラの真下の地に、蒼い壁……
盾が、ぽっかりと浮かぶように在った。
「……生命反応確認!目標は生きています!」
「何!? あの盾は、あれだけの銃弾に耐えると言うのか?」
ロブは驚いて、スクリーンに映し出された盾を確認する。
傷一つ、無い。そして、その下からカイン達が姿を覗かせた。
カインは溜め息を吐いた。あの瞬間、槍を再び盾に変えたのである。
「…それにしても、あれだけの攻撃も防げるなんて……盾の強度が上がっている?」
カインはふと、試練の山での出来事を思い出した。
あの時、刃はその時々の状況で、その強度を変えた。状況とは、カインの心の動きである。
「……ルシィが、居たからか?」
カインは、抱きついたままのルシアンに目を向けた。カインの胸に、顔を伏せたままである。
無理もない。
「…ルシィ。」
「へ?」
呼びかけに応じて、漸く顔を上げる。
「アタシ、生きてる?…なんで??」
「死んだと思うのは一度で十分だろ? いくぞ、第二波が来る。」
掴まってろ、というカインの言葉に、ルシアンは大人しく頷いて、また顔を埋める。
「はあっ!」
左手に盾、右手にルシアンとルーザを抱えたまま、カインは地表すれすれに飛んだ。
一人なら上空に飛んで攻撃することも、遠くまで一気に退避することも可能だろうが、
危険な上空にルシアンを連れていくことも出来ない。
人一人と小竜を抱えていては、速度も劣る。とりあえず、艦下から出ることを第一とした。
十分に距離を取り、着地する。
「これで……!?」
カインは、自分達が再び影に覆われるのを見た。
見上げれば、また、アンゴスチュラ。
「バカな、短距離加速が可能なのか?……いや、それより何故、たかが二人の人間を追ってくる?」
空中を切り裂く音が響く。耐久ギリギリの高速で飛行するバード。
乗っているのは、キールである。工場内で、放置されたバードを見つけたのだ。
「……何故だ? 空にはカインの闘気がない?」
と、キールの視界に、深紅の艦が入る。
「アンゴスチュラ? 何故あんな低空で……!!」
キールに戦慄が走る。アンゴスチュラの下方に、確かに求める波動を感じたのだ。
「カインが、いる?……ロブ、何をする気だ、そいつは俺の!!」
「すまない、キール。我が軍の為には、ここでヤツを倒すべきなんだ。それに…」
キールを、カインと戦わせることに、拭いきれない不安があった。
「…例え、憎まれても構わん。お前を、死なせるよりはッ…」
ロブは、苦悶の表情を浮かべた。
「……目標は捕捉したな。二撃目、撃てぃ!!」
「きゃあああああああっ」
ルシアンは盾の下で悲鳴をあげる。
先程以上の弾丸の雨が、二人に降り注ぐ。 衝撃が、盾を通して伝わってくる。
「く、保つのかッ?」
カインの頬に汗が流れる。
ブレイブブレイドは、カインの心力による武器だ。
それの力を上げることは、それだけ消耗するということだ。徐々に疲労が表れてくる。
「カイン君、大丈夫?」
カインの消耗を感じ取ったルシアンは、恐怖よりも心配が強くなった。
精神疲労だけではない。盾に奔る衝撃は、カインの身体…その斬り傷に響く。血が滴る。
「心配ない、大丈夫だ。お前は必ず…うっ!?」
激しい爆発が、盾の上に巻き起こる。
機銃だけではなく、爆雷まで落とされたのだ。
そして二度目の銃撃が止む。
が、カインは盾を背に、身の下にはルシアンを庇う形で、伏してしまった。
「カイン君!」
ルシアンはカインの仰向けにカインを見上げると、カインは既に意識の限界まで来ていた。
その背で、盾が短剣へと変形してしまう。もはや、盾の形を留めることも出来ないのだ。
「く…か、身体が…」
「カイン君!!」
二度目の呼びかけに、目を開ける。心配する少女の顔。
それは、自分たちの命を心配しているのではなく、カインの身そのものだけを、心配しているのだ。
『お、お前だけは……』
背後で、再び機銃が狙うのが解る。 このままでは、まともに銃弾を浴びてしまう。
カインは、出来るだけその身をルシアンの上にする。壁になる気であった。
「……お前だけは、守ってみせる!!!」
突如、二人の間から蒼い光が溢れ出す。
「え?」
「なッ?」
光の元はルーザ。その額の宝玉だ。
「こ、これって…」
瞬間、カインの心に何かが響く。
『……その竜とジャンクションするのです。心を、再び一つに……』
「何?…誰だ?……ジャンクション??」
「カイン…君?」
見下ろすと、ルシアンが不安げに見上げている。
「悩んでる暇は、ないか……ルーザ!!」
「きゅえええええ!!」
カインは立ち上がると、ルーザを目の前にした。
「いくぞ、ジャンクション!!!」
カインの身体からも蒼い光が沸き上がり、ルーザの光と合わさって、その身を包んだ。
「な、なんだ、あれは!?」
近辺にまで来てバードを降りたキールも、アンゴスチュラのブリッジのロブも、その光を目撃する。
いや、その戦域にいた全ての者が見たに違いない。
「あれは!?」
「…カイン殿?」
「兄ちゃん!!」
誰もがその動きを止めて、蒼い光を見つめていた。
側にいたルシアンは、眩しさの中にありながら、
目を閉じるのも忘れて、光に瞳を奪われていた。
「カ、カイン君………きゃあ!!?」
今までで一番激しい光が吹き出し、辺りを蒼に染める。
『…おぉ……おおおおおおおおおおおおおおおおおッ』
「!?」
ルシアンは、確かにその咆吼を聞いた。
と、共に、光の中心に浮かぶ人影も見た気がした。
『……俺が…………変わる?』