〜 6 〜

 

       しばらく後、カイン達がドックに戻ると、ガフが戻ってきていた。

      「よお、待ってたぜ。艦長が会いたいってよ。」

      「艦長?…俺達にか?」

      「他に誰がいるってんだよ。さ、ついて来な!」

       そうカインを促し、先程も向った出入り口へと歩いていく。

      仕方なく、カイン達も追った。

       出入り口の扉が左右に開く。そこは、小部屋だ。

      「? なんだ、ここ?」

      パロムが訝しげに小部屋を見まわす。

      「エレベーターも知らないのか? ま、乗れよ。」

       ガフはまだ納得いっていないパロムを押し込む。続いて皆も乗り込んだ。

      エレベーターは割合広く、全員乗ってもまだ余裕がある。

       ガフが壁際のボタンを押すと、扉がしまって、機械音ともに動き始めた。

      「え? ゆ、床が動いてる?」

      ポロムは驚いて転びそうになる。カインはそれを受け止めた。

      「大丈夫か?」

      「え、ええ、すみません……カイン様は、不思議じゃないんですか?」

      「……まあな。同じようなものがバブイルの塔にもあったからな。」

       そうこうしているうちに、エレベーターが止まる。

      「着いたぜ、最上階だ。」

       扉が開く。その先には廊下が続き、左右に幾つかの扉、そして一番奥に一際大きな扉があった。

      「あの先がブリッジだ。」

      「あ、あのガフ?」

      途端にルシアンが尻込みする。

      「……ああ、まだ言ってないけど…ばれてるな、間違い無く。早めに謝った方がいいぜ?」

      「……うぅ〜〜〜。」

      「大丈夫だよルシィ。理由を話せば艦長だって……」

      「それはどうかな。ギムはそういうことには厳しいぞ。」

       元気づけようとしたリッキーに、クラーレットが水をさす。

      「ううぅ〜〜〜。」

      「クラレ、何も怖がらせるようなことを言わなくても……」

      「私は客観的に物事を述べただけだ。」

      そんな三人を笑いながら見ていたガフだが、

      「ま、行ってみないことには始まらねえさ。それに、早く行かないとオレまで叱られるからな。」

       そうお気楽に歩き出した。

      「え〜い、なるようになれ!」

       ルシアンも後に続く。思い切りはいい方だ。

      それは、無理矢理作戦について来たことからも解る。

       パロムとポロムは、そんな廊下さえ物珍しげに見まわしている。

      鉄で囲まれた住居なんて、それだけで彼らには未知のものなのだ。

      そして彼らは、先の不安より目の前の好奇心の方が強く出て当然の年齢でもある。

       カインは、そうはいかない。「艦長」の人物しだいでは、自分達はどうなるか解らない。

      さらに、元の世界に戻る手立てだって、何一つ見つかってないのだ。

       その不安は、臆病なのではなく、戦士として必要なものだ。

      ただカインは、不安に押しつぶされる程ヤワではないし、

      どちらかというと「そういう」不安は感じない方でもある。

      「……確かに、なるようにしか、ならないな。」

       廊下もそう長いわけでもなく、すぐに一番奥の扉の前にたどり着いた。

      ガフが扉横のスイッチを、何かしら操作する。と、同時に扉が開いた。

      「シャンディ=ガフ、入ります。」

      この時ばかりはガフも背筋を伸ばし、名のってから部屋に踏み入れる。

      だが、緊張した風ではなく、すぐにいつもの調子に戻る。

       続いて、カイン達も入る。

      その部屋――ブリッジは、多少広めな感じがするだけで、ただっぴろいワケではない。

      ただ、前方の巨大モニターと、その下の計器類、操作系統は、やはり圧巻である。

      その部屋の中央やや前方には、身の丈程ありそうな巨大なレバーがあり、

      一人の男がそれを掴んでいる。操舵であろう。

      他には例のモニターの前に幾つか座席があり、数名のブリッジ要員が腰掛けてなにやら操作している。

       そして部屋の後方は一段高くなっていて、そこにも座席が添え付けられている。

      「おお、来たか。」

      その座席に座っていた男が腰を上げ、段を降りてカイン達の前に立つ。

       年の頃は三十代半ば過ぎ、といったところか。大柄な男で、落ち着きと頼り甲斐を感じさせる。

      髪は刈り込んだ短い銀髪。よく焼けた肌は、歴戦の強者を思わせる。

       その後ろに、もう一人の男が控えていた。細身だが無駄なく鍛えられた肉体。

      後頭部で束ねられた長い黒髪は、解けば腰までとどきそうだ。

      気難しげで意志の強そうな顔立ちは、どこか近寄りがたい雰囲気だ。

      異国を思わせる服と、腰から下げた長剣が印象的だ。

      (……エッジの使う片刃剣に似てるな)

       カインはそんなこと思いながら、二人を観察した。

      「なんだ、ヨシノも来てたのか。」

      ガフが後方の男に声をかけた。

      「…………ん。」

      ヨシノと呼ばれたその男は、軽く頷いただけだ。やはり、独特の雰囲気を持っている。

      「こいつも、知らない人間は確認したい性質(タチ)だからな。」

      代わって銀髪の大男が応えた。さらに、続ける。

      「それはそうと、君がカイン君だな。それに、パロム君とポロム君。」

      「ああ、そうだ。」

      カインが応える。大男は満足げに頷いた。

      「私はこのエスタールの艦長、ギムレット=コーディアルだ。よろしく。」

       大男・ギムレットは手を差し伸べる。カインも握手した。大きくて力強い手だ。

       ギムレットはニカッと白い歯を見せた。どうも、艦長というより前線で戦う戦士の方が似合いそうだ。

      「ヨシノ、君も自己紹介くらいしたらどうだ?」

      ギムレットに言われ、ヨシノはカインの方に向き直す。

      「……某は、オウカ=ヨシノ。この船の武士(もののふ)だ。」

      表情も変えず、それだけ言うと再び黙り込む。

      「……やれやれ、愛想ないな。まあいい。それよりカイン君達に話があるんだが…」

        ギムレットの視線が動く。その先には…

      「…その前に、ルシアン、何故お前が出撃した?」

      「ギクッ」

      ルシアンが身をちぢこめる。

      「あちゃあ、やっぱバレてたか。」

      ガフは肩をすくめた。大して困った風でもない。

      反対に、リッキーはハラハラしているのがすぐ解る。

      「今回の偵察任務は、ガフ・クラレ・リッキーの三名だけに任せたハズだ。何故、お前が出た?」

      ギムレットが繰り返し聞く。さすがに、ルシアンも黙っていることは出来なくなる。

      「……今日は、どうしても行きたいところがあったの。だから、ガフ達が偵察してる間に……。」

      「行きたいところ?」

      「…………」

      再び、黙ってしまう。

      「今日は、ルシィのお父さんとお母さんの命日なんです!だから…」

      見かねてリッキーが言った。それで、ギムレットも気付いた。

      「そうか、それでセントラルの旧家まで行って来たのか。」

       それで、カインにも合点がいった。

      政府に追われるような女の子が、わざわざ危険を冒してまで一人で行動していたのには、

      そういう理由があったのだ。

      「……だが、それがどういう事態を招くか、解らないでもあるまい。

      敵艇と好戦したのも、それが原因なのだろう?」

      さすがに、ギムレットは鋭い。

      ただの偵察で発見された程度なら、敵にも七艇もの飛空艇を準備する暇はないはずなのだ。

      とすれば、早い段階で連絡がいったことになる。

      「お前のワガママで、艇一つが落ちかけたんだ。

      例えどんな理由があったとしても、許されることではない。」

       ルシアンは視線を地にして、身を震わせている。それは、怒りや憤りではない。

      彼女にも、自分の行動の責任の重さが解っているのだ。すまなさでいっぱいだった。

       さすがにリッキーも、もうサポートすることが出来ない。

      それはやはり、ギムレットの言うことが正しいと解るからだ。

      「…当分、謹慎だ。わかったな?」

      「……はい。」

      「よし、部屋に戻れ。」

      「……はい。」

       ルシアンは一礼すると、ブリッジを後にした。

      「ルシィ!」

       リッキーも後を追ってブリッジを出る。

      「ギム、ちょっと厳しいんじゃねえか?ルシィだって、まだ感情が先に立つ年頃だぜ?」 

      閉まる扉を見ながら、ガフが言った。

      「だからこそ、叱ることも必要なんだ。

      もっと自分の立場を自覚してもらわないと困る。それに、彼女は戦士じゃない。」

       ギムレットは、伏し目勝ちに言った。彼とて、ルシアンの気持ちはよく解るのだ。

      「立場、ねえ。確かにモスコー、カルーア両博士の娘たるルシィは、

      言ってみれば革命軍の象徴みたいなもんだ。だけど今からそれを求めるのは、ちょいと酷じゃねえか?」

       そのガフの言葉に頷きつつも、

      「……だが、状況はもう差し迫っている。急がざるを、得ないんだ。」

      苦悶の表情で、ギムレットは答えた。

      「象徴、か……」

       カインはつぶやく。彼は、かつてバロンの象徴「赤い翼」の隊長として、苦悩していた男を知っている。

      象徴であるということで背負うものは、あまりに大きいのだ。

      「ああ、すまない、すっかり内輪な話になってしまったな。」

       当初のするべき話を思い出したギムレットは、再びカイン達の方を向く。

      「カイン君、キミの“力”は、ディサローノで撮ったVTRで見せてもらった。

      すさまじいまでの強さだ。生身で艇を落とせるとは……」

      「何が、言いたい?」

       カインは、ギムレットの微妙なニュアンスに即座に気付く。

      「う、む。単刀直入に言おう。君の力を、我々に貸して貰いたい。」

      「力?」

      「そうだ。我々には、物資も人員も不足している。

      たった一人で戦況を覆せる君の力は、我々には大変魅力的だ。

      できたら、革命軍に加わってもらえないだろうか?」

       ギムレットのその言葉は、まったく予想しなかったワケではない。だが。

      「……俺に、戦争しろっていうのか?」

      「まあ、そういうことだな。」

      「冗談じゃない。俺は人間同士の戦争なんて、もう御免だ。

      はっきりいって、元の世界に戻れればそれでいいんだ。

      なんでわざわざ他所の世界で戦争しなくちゃならないんだ?」 カインは言い放った。

      「兄ちゃん、そりゃちょっと冷たすぎだぜ?」

      パロムが咎める。

      「お前は、黙ってろ。」

       いつになく厳しい表情を見せる。

      カインは、パロムが人と戦争したことはないことを解っていた。させたくなかった。

       それを読めるほど、パロムも成長してない。頬を膨らまさせる。

      「……だが、元の世界に帰る方法は見つからないんだろう?それなら、しばらくこの世界にいることになる。

      と、云う事は、君達はヤツらに追われるぞ。」

       ギムレットの言うことは合っている。カインはセントラの艇を、四つも落としたのだ。

      「それなら、ココにいるのが一番安全なのではないか?子供達にとっても。」

      「…………。」

      「ずるいやり方かもしれんが、我々も必死なんだ。

      それに君自身、我々に賛同してくれているように感じるが?」

      「……!」

       カインは、本音の部分を突かれたような気がした。

      理念に賛同、というよりも、すでに仲間意識の方が出来あがりつつある。

      元来、それをこのまま放り出せるような人間では無かった。 それに……もうひとつ。

      「まあ、すぐに答えを出してくれとは言わない。

      一晩休んで、明日、もう一度聞こう。それで駄目なら、私も諦めるよ。」

      「…………。」

      「部屋は用意してある。ガフ、案内頼む。」

       ギムレットは部屋のキーとなるカードを、ガフに渡した。

      「ああ、解った。そんじゃ行こうぜ。」

       ガフはブリッジを出て行く。カインも、なんとなく重い足取りながらついていく。

      扉は閉まり、ブリッジには数名の要員と、ギムレット・ヨシノ・クラーレットが残った。

      「クラレ、どう思う? 彼は力を貸してくれるだろうか?」

       ギムレットは傍らのクラーレットに聞いた。

      「……さあ、どうだか。敵ではなさそうだが、いづれにせよ得体の知れない奴だからな」

       クラーレットは壁に寄りかかりながら言った。

      「ふむ、相変わらずだな、お前も。ヨシノはどうだ?」

       ヨシノは目を閉じて何やら思いに耽っていたが、やがて目を開くと、

      「……彼は異文化の人間だが、どこか武士の志と似たものを感じる。それだけだ。」

      それだけ言うと、再び目を閉じた。

      「結局、彼次第ということか……」

      ギムレットはキャプテンシートに戻ると、その大きな体を深く沈めた。

 

 

       走っている。どこまでも、先へ先へと走っている。

        (ここは、どこ?)

       解らない。だが、とにかく急がなければならないことは、知っていた。

       何故なら、彼女の大切な者達も走っていたから。

       そう、彼女は一人じゃない。

       右には、男性が一人。左には、女性が一人。

        (……パパ、ママ!!)

       そう、それは彼女の両親だった。両親は彼女の手を引き、ただひたすらに走っていた。

       とにかく、少しでも離れたかった。

       早くしないと、追ってくる。だから、逃げなければならなかった。

       だが、「それ」は確実にやってくる。

      「いたぞ!こっちだ!!」

      「!!」

       男の声と、迫る幾つもの足音。飛び交う銃声。

        (…………………………ッ!)

       彼女は、声にならない叫びをあげる。本能的な恐怖。

              キュンッ

       間近で銃声がしたかと思うと、急に右手を引く力が無くなる。

        (……パパ?)

       彼女の父は、脇腹を押さえ蹲っている。

       それを待っていたかのように、追っ手の男達が横一列に並び、父親を狙う。

       そして鉄の筒は一斉に火を吹いた。

      「あなたッ!!」

        (ママ!?)

       彼女の母親は、夫の前に身を躍らせた。全身に銃弾を受ける。

      「カルーア!!」

      「やった!魔女を仕留めたぞ!!」

       父親の叫びと、追っ手の声が交錯する。

        (ママ?…………ま、じょ?)

      「カルーア!カルーアしっかりしろ!!」

       父親が撃たれた妻を抱き上げる。

      「……に……げ、て…あなた………ルシィ…………」

       息も絶え絶えに、母親は言う。

        (……ママ? どうしたの?)

      「………ごめん、ね、ルシィ…………」

       その言葉を最後に、動かなくなる。ただ、流れゆく多量の血。

        (……ママ?……ママ、ママ、ママ!!)

       応えは、ない。

      「……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

      「……………………………………ッ!!」

       目を覚ます。そこは、自分の部屋。窓の外には、流れゆく星空。

      「…ア……タシ…?」

       自分の手の平を見る。滲む、汗。

      「夢、か。……最近、見てなかったのに……」

       ベットから起き上がる。窓から射し込む月明かりに、長い黒髪が照らされ、映える。

       気分は、沈んでいる。心もどこか、揺らいでいる。

      「…おかしいよ、ルシィは強い子でしょ?」

       手鏡を覗き、無理に笑顔を作る。が、すぐ消える。

      「………星でも見よっか。」

       そのままドアを開け、部屋を後にした。

 

 

       ルシアンが甲板に出ると、誰かが中央に立っているのが見えた。

      「………………カイン君?」

       気付いて、振り返る。そう、カインだ。肩には、ルーザが乗っている。

       ルシアンはカインの処へ近づいて行く。

      「お隣、いいですか?」

      「……ああ。」

       カインは素っ気無く応えると、再び空を見上げた。

       ルシアンも同じく空を見上げる。満天の星だ。

      「…カイン君は、何してるの?」

      「……空を見ている。」

      「ふーん。…ココ、気に入ってくれたんだ」

      「………まあな。」

       そして、沈黙。ルーザが欠伸する。

          ………。

      「……ルシアンは、何をしにきた?」

      「ルシィでいいよ。…星を見に来たの。あと、月。」

       月は、薄赤く輝いている。

      「綺麗、でしょ?」

      「………赤い月は、モンスターの巣だぞ。」

      「嘘ッ……本当?」

      「本当さ。尤も、俺の世界の話だがな。」

      「ふ〜ん。………アタシの世界は、どうなのかなあ?……」

       また、沈黙。ルーザは肩から降り、身を丸めて眠り出した。

          ……………。

      「……カイン君、ごめんね、こんなことに巻き込んじゃって。」

      「…気にするな。俺が勝手にやったことだ。」

      「ガフに聞いたの、ギムがカイン君を仲間にしようとしてるって。」

      「…………。」

      「……気にしなくていいからね。」

      「…………。」

      「…カイン君、戦いたくないんでしょ?死なせたくないんでしょ?」

      「…………。」

      「だから、戦わなくていいよ。アタシ達のことは忘れて、どこかへ……」

      「…………。」

      「……その方が、いいと思う。」

      「…………。」

      「………ううん、アタシ、嘘つき。ホントは、カイン君にいて欲しいって想ってる。」

      「…………。」

      「力を貸して欲しいって想ってる。」

      「…………。」

      「傍にいて欲しいって……想ってる。」

      「…………何か、あったのか?」

       カインが聞く。いつになく弱さを見せるルシアンに、何かを感じたのだ。

      「……夢を、見たの。」

      「夢?」

      「……アタシのママは、魔学研究者だったの。

      魔学を飛空艇に応用できないかって、研究してて、

      それで、科学者で飛空艇技師でもあったパパと知り合った。」

      「パパとママは、愛し合うようになって、結婚して、アタシが生まれた。」

      「しばらくは、幸せな日々が続いたの。でも、長くは続かなかった。」

      「急に戦闘魔学の技術が上がったの。魔法玉の威力も何倍も強くなった。

       それで、セントラはたくさんたくさん戦争するようになった。」

      「不信に思ったママは、魔学研究所の最深部を調べに行ったの。そしたら……」

      「……?」

      「……そしたら、何人もの魔女が、試験管に閉じ込められていたの。

      そして、魔法の力を吸い取られていた」

      「!!」

      「そして、ママに言ったの。殺して、殺して……って。」

      「魔女はね、どんなに苦しくても、力を吸い取られても、死ぬことが出来ないの。

      次の世代に魔力を継承するまでは。」

      「でも、その時ママが『助けたい、楽にしてあげたい』って思ったら、

      目の前の一人の魔女の体が光って、そして、亡くなったの。」

      「……ママは、魔女になれる器を持っていたのよ。」

      「それからママは、度々そこを訪れて、苦しんでる魔女の力を継承していったの」

      「始めは研究所の人も気付かなかった。

      死なないはずの魔女だけど、吸収のしすぎで限界を超えたんだろうって。」

      「でも、やがてママが継承してるってことがバレたの。

      ママの魔力が高まり過ぎて、隠せなくなったのよ。」

      「ヤツらは、今度はママの魔力を狙ってきたわ。研究所員として、協力しろって。

      でも、ママもパパも、勿論断ったわ。戦争に協力するなんて、御免だって。

      そしたら、命を狙われるようになった。だから、私達は逃げ出したの。」

      「でも、途中で見つかって、ママは……撃たれて殺された。

      パパはなんとかエスタールまでアタシをつれてってくれたけど、撃たれた傷が元で死んじゃったわ。」

       ルシアンは目を落とした。

       だが、カインには引っかかることがあった。

      「……魔女は、死なないんじゃないのか?」

      「…………多分、もう誰かに継承してたんだと思う。研究所に見つからないように。

      だってあのとき、ママの体は光ったりとかしなかったもの。ただ、撃たれて亡くなっただけ。」

      「………………。」

       いつも明るいルシアンからは、想像もできない出来事。

       カインは、心中で自分のするべきことを自分に問い直す。そして。

      「……お前、前に言ったな。本当の強さがどうとか。」

      「え?……う、うん。」

       突然の問いかけに、ルシアンはカインを見上げる。

      「……お前は、強いよ。俺なんかよりも、ずっとな。」

      「そ、そんなこと………」

      「…しばらく、その強さを調べさせてもらうとするか……傍で、な。」

      「え、それじゃあ…!」

       ルシアンがカインの前に出る。

       素直に、喜びの表情。

       カインは思わず目を逸らした。

      「か、勘違いするなよ。……俺はただ、自分が強くなりたいだけ、だからな。」

       何を動揺している?…再び自分に問い掛ける。

       カインは自分の中に何かしらの変化を感じていた。

      (やはり、ペースが狂う……)

       ルシアンはそんなカインをクスクスと笑って見ている。

      「む……本当に、自分の為だからな。」

      「解ってますって、カイン様♪」

       茶化されながらも、カインは悪い気はしなかった。

      「きゅえええええっ」

      いつのまに起きたのか、ルーザが声をあげる。

      「あ、もう日が……」

       ルシアンは眩しげに東の空を見つめる。

       カインも眩しげではある。ただ、日の光に対してではなかったが。

       今日も、よく晴れそうだ。

       カインは、朝日と供に何かが心に射し込んでくるような気がした。

 

               第一章・終 

                    

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