DESIRE 8



飛空挺を手に入れて1ヶ月経った。
その間、私達はカイエン、ガウ、シャドウ、リルム、ストラゴスを見つけた。
ティナは、戦う力がないからと子供達とモブリスの村で暮らすそうだ。
もっとも、ある程度落ち着いたらまた迎えに行くつもりだが。
後一人・・・後一人残っているのは承知だったが私はかなりわざとその後の行動を遅らせた。
みんな気づいているだろう。
そんな風に2週間過ごしただろうか。
セリスが、夜に私の部屋に来た。
そう言えば、セッツァーと会った後セリスは前よりもセッツァーと仲良くなっていた。
それを見たくないと、私は引きこもりがちになっていた。
「エドガー、そろそろ・・・ロックを捜しましょう。」
セリスは私が言われたくなかったことをついに言ってしまった。
でも、拒否できない。
全員で、ケフカを倒しに行くことはみんなで話し合って決めたことだ。
ロックがいなければ、誰もケフカの居る”がれきの塔”へは行こうとしない。
「わかった・・・。」
それだけ言うのが精一杯だった。
「エドガー・・・怒ってるの?」
予想外なことを訊かれて、面食らってしまう。
「どうして?」
「最近、あんまり喋ってくれないし。いつも部屋にいるか、フィガロ城に出かけちゃってるじゃない。」
「フィガロ城に出かけるという表現はおかしいな。私は、里帰りをしているだけだ。」
「どっちだっていいじゃない。」
「ストラゴスや、リルムだってサマサの村に帰ってるじゃないか。マッシュだって、ダンカンとかいう”おっしょーさま”のとこに帰ってる。何も変わりはしないよ。」
セリスは、ゆっくり近づいてきた。
「何かあったの?」
「何もないよ。」
「だって、前は結構みんなの前に出てたじゃない。最近は、ずっと部屋にこもって・・・。何してるの?」
いつになく、セリスがしつこく感じた。
「そんなことが聞きたいの?」
「教えてくれる?」
「教えるも何も、別に何もないよ。ちょっと・・・今後のフィガロのことを考えてるだけだ。」
「そう?ならいいけど・・・。」
セリスは、まだ腑に落ちないという顔をしている。
「嘘だよ。ケフカのことも片付いていないのに、フィガロのことなんか僕一人で考えてるわけないじゃないか。そういうことは、フィガロ城で大臣達としてる。」
セリスは訳が分からないと言う顔をしている。
「君こそ、最近セッツァーとばっかり一緒に居るみたいだけど?今度はセッツァーに惹かれてるの?」
セリスが顔をしかめる。
「どうしてそんなこと言うの?」
「僕の問いに答えてよ。セッツァーが良いのか?」
「セッツァーは、仲間じゃない。遊びに誘われたら、断らないし。お菓子をくれたら、お礼だってするの。ただ、それだけじゃない。」
「遊びってどんな?」
「そりゃ、セッツァーだもん。賭事だけど・・・。」
「へぇ・・・でも、セッツァーのことだ。それだけではすまないだろ?」
私はセリスの腰を捉えるとさっと組み敷いた。
こうやってやる時のセリスの一瞬見える怯えた顔がたまらなく好きだ。
滅多にしない表情だから・・・。
「エドガー??どうしたのよ。おかしいよ。」
「おかしい?僕は、結構子供じみたところがあるようでね。ほら、小さい男の子って好きな女の子に意地悪するだろ?アレと同じだよ。」
「エドガー・・・。」
セリスの顔が赤くなる。
「不安なんだ。ロックが居たら・・・また君を僕からさらって行ってしまうんじゃないかって・・。それにセッツァーもセリスのこと本気になっちゃったみたいだし。
僕はフィガロ王だから・・・王だから最終的にセリスを自分の物にはできないし・・・。解ってても僕以外の男と君が幸せそうに笑ってるのを見ると・・・辛くて・・・。」
セリスが安堵の溜息をもらす。
「だから、セッツァーと私が一緒にいるときは部屋にこもってたの?」
私は無言で頷いた。
「バカね、エドガーって・・・。」
私はセリスに促され起きあがる。
「私、セッツァーのこと全然そういうふうに見てないよ。そりゃ・・・ロックはまだわかんないけど・・・。なんか、こんな風に言ったら私って嫌な女だね。ゴメンね。でもエドガーはきっと本心聞きたがると思って。」
セリスは私に抱きついた。
いや・・・抱きついたと言うより、子供をあやすように抱いたと言うべきか。
「エドガーって・・・すっごく不器用なんだね。でも、ロックも今まで一緒に戦ってきた仲間だから・・・必要よ。」
セリスは私の背中を撫でる。
「わかってるんだ。私だって、ロックが居なければがれきの塔へ行くつもりはない。それでも・・・。ロックが居ると不安なんだ。セリスの気持ちがロックに傾いてしまうんじゃないかと思うと・・・気が気じゃなくて。」
「大丈夫。何も変わらないよ。」
私は首を横に振る。
変わらない?
変わらないわけないんだ。
いずれはどちらかを選ばなければならない。
あるいは、ケフカを想って一生一人で居るか・・・。
それでも、子供のように駄々をこねていたらさすがに見捨てられそうだから・・・。
「私には本当に今だけ側に居てくれればいい。」
そう呟いて、セリスの胸に体重をまかせた。


ロックの居場所は、密かにセリスとマッシュがつきとめていて、私達は”フェニックスの洞窟”へ向かった。
かなり複雑な構造になっていて、二手に分かれなければならなかった。
「それじゃあ、戦力的なことを考えて一番強いマッシュと、その次のエドガーは別々にしないとね。いい?」
セリスの言葉に皆が頷く。
「んー・・・じゃ、マッシュのほうは、カイエンとガウにそれからリルム。エドガーの方は、シャドウとストラゴスと・・・それから私。セッツァーは、飛空挺をお願い。それでいい?」
セリスが言ったパーティは、バランスが良かったので、皆頷いた。
「悪いな、戦力にならない男で。」
セッツァーが皮肉っぽくそう言った。
「違うわ。貴方しか飛空挺を守ることは出来ないじゃない。」
セリスはそう言うと洞窟内に入っていった。
セッツァーは顔を赤らめて飛空挺内に消えた。



・・どのくらい洞窟内をウロウロしただろうか。 私もみんなも疲れがたまってきていた。
「もうちょっとだ。みんな頑張れ!!」
一番元気そうなマッシュの声が聞こえた。
セリスは、私の横で息を荒くして歩いている。
セリスは、力はあるが体力はないから相当辛いだろう。
「セリス、回復しておくか?」
「ありがとう、エドガー。じゃあ、ちょっとだけお願い。」
私は、セリスにケアルラをかけた。
「いつになったら最深部まで行けるのかな?」
さすがに体に堪えてるのだろう。セリスが珍しく弱気なことを言った。
「さぁな。だが・・・経験からしてもう少しで最深部につくと思うのだが。」
シャドウが、宝箱を開けながら言った。
「ロックもここにいるようだ。ほら。」
シャドウは宝箱をセリスに見せた。
「空っぽ・・・。」
セリスが呟く。
「あの泥棒が宝箱を見逃すわけはないからな。」
私は苦笑混じりに言った。
「ロック・・・。」
セリスは密かに呟いた。
もっとも私には聞こえていたが。
「兄貴!!ロックだ!!ロックが居る!!」
突然マッシュが叫ぶ。
私達はその方向へ走った。
「ほら、あそこ!!」
マッシュが指さす。
「ロック・・・。」
セリスが呟きながらその方向へ歩いていく。
私達もそれに続いた。
「セリス??それに・・・みんなも。」
ロックが驚いたように呟く。
「ロック、こんなところで何してるんだ?」
「いや・・・ちょっと・・。」
私の問いにロックは口ごもる。
「フェニックス・・・。ロック・・・レイチェルさんを?」
セリスの言葉にロックは何も言わなかった。
「ロック・・・。」
セリスが捨てられた猫のような顔をする。
これを想像していたから・・・ロックには会いたくなかった。
自分のためでもある・・・。
だけど・・・ロックはきっと一人になればレイチェルを蘇らそうとすると解っていた。
それを見て辛いのはセリスだ。
「外、飛空挺あるんだろ?乗せてくれよ。」
ロックはそう言うと足早に出口へ向かった。
それにみんなも続く。
私と、マッシュ・・・それからセリスを残して。
マッシュは、私とセリスから少し離れて私達を見守っているようだった。
「セリス、行こう。」
セリスは首を横に振った。
「エドガー・・・。なんか・・・私バカみたい。ロックが私じゃなくて、レイチェルさんに似てる私が好きだって解ってたのに。
ロックは私じゃなくて、レイチェルさんを愛してるって解ってたのに・・・。
それでも、ロックが未だにレイチェルさんの蘇生を諦めてないこと知ったら・・・凄くショックで・・・。死にそうなほど・・・悲しいよ。」
セリスは、俯いた。
「セリス・・・。」
私はセリスを抱き寄せた。
「やっっ!!」
「セリス・・・?」
セリスは、力一杯私を拒絶した。
両手で、私の胸を思い切り押し飛ばした。
セリスが・・・初めて私を拒絶した。
「ご・・ごめんなさい。」
セリスはそう言うと出口に凄い速さで走っていった。



「兄貴・・・行こう。」
私は、あまりのショックで立ち尽くしていた。
マッシュの呼びかけにも答えられない。
マッシュが近寄ってきて私の頬当たりを私のマントで拭う。
気がついたら、私の両眼から涙がこぼれ落ちていた。
「解ってたんだ・・・。セリスはなんだかんだ言って私よりロックを好きなことを・・・。解ってたけど・・・セリスの言うことを信じてた。信じたかった。けど・・・。」
「兄貴・・・。」
「セリスも・・・レイチェルのことで傷ついただろうけど・・・私も傷ついた。」
マッシュが私を慰めるように抱き寄せる。
「ゴメン、オレ・・・何してあげたらいいか・・・。」
私は、大きく首を横に振った。
「帰りたくない。みんなのとこに・・・。誰にも会いたくない。」
「兄貴。でも、帰らないと。」
「嫌だ!!」
「兄貴!!兄貴も辛いだろうけど、オレも辛いよ。セリスも悲しくてわけわかんなくなってたんだよ。だから、大丈夫だから。」
私は、マッシュに促されるまま皆の所に帰った。
瞳が赤いのを隠しながら・・・・。

Back  Next