DESIRE 7



案外すんなりとマッシュは見つかった。
マッシュは大柄なので、かなり目立つ。
マッシュを見たとたんセリスは駆け出し、マッシュに抱きついた。
私もそれに続いた。
「なんだよ、兄貴もセリスも・・・。」
人前で抱きつかれてマッシュはかなり焦っていた。
「マッシュ!!無事だったんだな。」
正直、一人で居るときはみんな死んでしまったのではないかと思っていた。
だが、こうして二人も見つけれた。
「当たり前だろ、兄貴。オレがそんなに簡単にくたばっちまう奴だと思うかい?」
「いや、お前が生きているのを信じてたよ。」
「兄貴・・・・」
折角いい雰囲気を作っているのに後ろからセリスに頭を殴られた。
「はい、そこ!!兄弟でラヴシーンしない!!」
「ラヴシーンって・・・。」
マッシュは照れているようだ。
「マッシュ・・・そこで照れるからますます妖しくなるんだ・・・。」
マッシュは顔を赤くしたまま高らかに笑う。


マッシュに会えた後、私達はフィガロ城に戻った。
「マッシュに会えたのは良いけど、あんまりのんびりもしていられないわね。」
「そうだな・・・。」
マッシュはセリスと私の会話をつまらなそうに横で聞いている。
「マッシュがいれば・・・強いから心強いけど・・3人だけじゃ・・ね。他の仲間にも会いたいし。」
セリスが大きく溜息をつく。
じゃぁ・・誰を捜す?決めておかないとつらいだろ。」
「そうねぇ・・・。目的なしで世界を回るのは難しいし。
私達交通手段は、徒歩とフィガロ城だけだから世界中回れないしね。」
私とセリスは考え込んでしまった。
「セッツァー探せばいいじゃん?あいつ飛空挺持ってないかな?」
マッシュの言葉に私もセリスもハッとする。
「そうね、セッツァーならブラックジャック号以外の飛空挺持ってるかもしれない。」
セリスがセッツァーを必要としていることに少し嫉妬心が沸き上がるが・・・
今はそれどころでないのは、百も承知のこと。感情を表さないでおいた。
「じゃ、そのセッツァーはどこにいる?」
「そりゃ、今から情報集めに行くしかないだろ、兄貴。」
「セッツァーは・・・何処かの酒場に居るわよ。」
セリスが断言した。
「何で解るんだい?」
マッシュが訊ねる。
「ブラックジャックが落ちちゃう時、セッツァーが絶対何処かの酒場にいるからって叫んでた。場所も言ってたけど、聞こえなかった。」
「へぇ、セッツァーとセリスそこまで親密になってたんだ。」
皮肉っぽく言ってやると、セリスは急いで否定した。
「違うわよ!!セッツァーは、みんなに叫んでたの!セッツァーの一番近くにいたティナには聞こえてたと思うんだけど・・・。」
「へぇ・・・気づかなかったな。」
マッシュが感心したように呟く。
しばらく間を空けてマッシュが城外へ向かった。
「どうしたんだ?マッシュ。」
「オレ、その辺の街の酒場に行って探してみるよ。」
「じゃあ、私達も・・・」
セリスが駆け出すと、マッシュはそれを止めた。
「いや、セリスは兄貴とここにいてくれ。」
マッシュは私に気を使っているのか、そんなことを言った。
「でも・・・」
「大丈夫だよ。近くの街回ってくるだけだから。兄貴、チョコボ借りてくぞ。」
「ああ、気をつけろよ。」
マッシュはにかっと笑うと、足早に駆けていった。
「大丈夫かな?マッシュ。」
「大丈夫だよ。セリスは心配性だね。チョコボまで使うのに、大丈夫だよ。本当にここから近いから。」
セリスは納得したように椅子に座った。



マッシュは、以外と早く帰ってきた。
しかも、マッシュには珍しく息を切らせて、部屋に飛び込んできた。
「どうしたんだ?マッシュ。そんなに慌てて。」
「どうしたってもんじゃないぞ、兄貴!!セッツァー居たよ!!」
セリスも私も同時に立ち上がる。
「話しかけたけど、取り合ってくれなかったからさ。二人を連れていこうと思って戻ってきたんだ。」
セリスはマッシュの話を全ては聞かずに駆けだした。
私達もそれに続く。
マッシュの言ったとおり、セッツァーは近くの街の酒場で、たくさんの酒瓶を開けていた。
「セッツァー・・・」
セリスが真っ先に呼びかける。
「セリス!」
セッツァーは椅子を倒して立ち上がる。
「こんなに飲んで・・・体壊したらどうするの?」
「セリスの居ない世界じゃ、酒もまずいしな。」
「そういうこと言ってるんじゃなくて・・・。」
セリスとセッツァーの何気ない会話でも嫉妬してしまう。
「セッツァー、私達と一緒に来てくれないか?」
私の言葉にセッツァーは不快そうな顔を見せる。
「それはできない。オレはもう戦いたくないんだ。」
「どうして?セッツァー。」
セリスの問いにセッツァーは答えない。
「私達、飛空挺がないと困るの。セッツァー飛空挺持ってない?」
「持ってないよ。ブラックジャックはいかれちまっただろ?」
「本当に持ってないの?飛空挺ないと、ケフカを倒しに行けない。」
「ケフカを倒すなんて、やめちまえばいいだろ?長い物にはまかれろ・・だ。」
セッツァーの言葉にセリスは勢いよくセッツァーを拳で殴る。
バキッといい音がした。
「セリス!!」
慌ててマッシュがセリスを止めるが、セリスはなおもセッツァーを殴ろうとする。
「セッツァーのバカ!!バカバカバカ!!」
セリスは目に涙をためている。
「この世界でケフカを倒せるの、私達しか居ないんだよ!!みんなを助けてあげようって思わないの?」
セッツァーは唇から流れ出した血を拭う。
「オレは、普通の男だよ。だから・・・怖いんだ。」
「セッツァー・・・。」
セッツァーは椅子を元に戻し、また酒を飲み続ける。
「セッツァー・・・体に悪いってば。」
セリスは、中身のある酒瓶を取り上げる。
「放っといてくれ!!」
「セッツァー・・・」
「出て行けよ!!みんな出て行け!!」
セッツァーは今までにないほどの勢いで叫ぶ。
セリスは、酒瓶を持ったままさっと出ていく。
マッシュもゆるゆるとそれについていく。
「セッツァー・・・。怖いのは、お前だけじゃないし、傷ついているのもお前だけじゃない。セリスは大好きなおじいちゃん・・・シドを失ったんだ。それでも、ああやってちゃんと前を向いてる。恥ずかしくないのか?」
私の言葉にセッツァーは俯いた。



酒場の外に出ると、セリスは地べたに座っていた。
マッシュもその横にしゃがんで二人で何か話していた。
「どうする?」
上から話しかけると、二人ともこっちを見上げた。
「兄貴・・・」
マッシュもセリスも立ち上がった。
「私、もう一回だけセッツァーにお願いしてみる。」
「一人で?」
私の問いに、セリスは頷いた。
「そう。じゃあ、ここで待ってるよ。」
「うん。じゃ、行って来るね。」
セリスが酒場の中に入った後、マッシュが私の顔をじーっと覗き込んだ。
「何?」
「いや、そんなすんなり行かせて良いのかなって思って。」
「そりゃ・・・良いってわけじゃないけどさ。僕の一存でセリスの行動決めるのはどうかと思って・・・。」
「兄貴にしては、珍しい綺麗事言うんだな。それとも、そんなに余裕もてるようなことがあったとか?」
マッシュがにやっと笑った。
「生憎・・・余裕持てるどころか心配でいけないよ。」
私はしゃがんでいるマッシュの横に自分も腰を下ろしマッシュに寄りかかる。
「兄貴・・・通行人が見てるぞ。」
「同じ顔だ。誰もそういう仲とは思やしないよ。それに、私のこの容貌では、とても乞食には見られることはない。何も恥ずかしくないだろう?」
「そう言う問題なのか・・・。」
マッシュがぼそっと呟いた。
「話戻すけど・・・。心配だったら何で止めないんだ?別にセリス一人で行かせる必要もないじゃないか。」
「だって・・・。セリスとセッツァーが喋ってるとこなんて、見たくないじゃないか。」
マッシュが吹き出す。
「兄貴ってさ。すっごい大人だと思ってたら、意外と可愛らしいとこもあるんだよな。ロックとかが見たらびっくりするだろうな。」
「そりゃ、こんなこと言えるのマッシュだけだし。」
「嘘つけ。セリスにも言ってんじゃないのか?」
「何で解った・・・?」
マッシュは、にかっと笑って私の問いには答えなかった。
「まぁ、セッツァーならセリスとどうにかなる心配はないな。セリス、セッツァーのことそんな目で見てないから。」
「何でそんなことまで解るんだ?もしかしたらって事もあるだろ?」
「大丈夫。安心して良いよ、兄貴。セリスはセッツァーのことお兄ちゃんとかそういう目で見てるから。」
何故そこまでマッシュが解っているのか解らない。
でもマッシュはかなりの確信を持って言っている。
確信がなければこんなに強く励ましてくれたりしない。
「マッシュ、セリスを覗き見でもしてるのか?」
ふざけて言ったつもりだったのだがマッシュは顔をパッと赤くした。
「いや、覗き見っていうか・・・ほらさ、兄貴がセリスのこと好きだって言うから、ついついセリスに目がいっちゃって・・・。」
「マッシュ?」
「だから、兄貴のために他の奴の邪魔しようと思って・・・兄貴がいないときもセリスのこと見てたんだよ。」
私はかなりショックだった。
マッシュは素直に白状しているところから見ても、自分でも気づいていないが。
セリスに惚れているんだ。
あるいは、気づいていても私のために知らないフリをしているか・・・。
どっちにしろ、よくできた弟だ。私のためにセリスを見てたというんだからな。
多分、それは嘘ではないのだろう。
「マッシュ、お前良い奴だな。」
私の言葉にマッシュはまた顔を赤らめる。



酒場から二人が出てきた。私もマッシュも立ち上がる。
セッツァーは少し顔を赤らめていた。
「可愛いセリスのためなら仕方ないからな。親友の墓を暴くのは好まないが・・・オレとダリルの飛空挺に乗せてやるよ。」
「ダリル??」
私とマッシュの声が重なる。
「オレの亡き親友だ。」
セッツァーは私達よりも前に進みそう言った。
私もマッシュもそれ以上訊かなかった。
「そのダリルさんの墓ってここから近いところにあるんだって。今すぐ行こう。」
セリスが私の手を引く。
「そんなに慌てなくても・・・」
「何言ってんの、エドガー!!飛空挺手に入れたら、また仲間探しだよ。急がなきゃ。」
「そうだな。」
セリスは無理をしているのか、にっこり笑っている。
本当はつらいはずなのに。
仲間を集めたら・・・ケフカを・・・
それでも笑っていられるとは・・・セリスは羨ましいほどに強い。
「何考えてるんだ?王様。可愛いセリスちゃんは先に行ってしまったぞ。」
セッツァーが私の耳元でささやく。
「ああ、わかってるよ。」
「言っておくけど、セリスは渡さないよ。王様と一緒にいてもセリスが可哀想なだけだからな。」
「なっっ・・・・」
「だって、王様だろ?自分の立場解ってるのか?王様の嫁になるなら、王妃ってことになるんだろ?セリスがそんなガラだと思ってるのか?」
「セッツァー・・・お前気が早いんじゃないか?」
「そこまで考えてない奴にセリスを任せられないな。」
セッツァーは、どんどん私の神経を逆なでしていく。
悔しいが、セッツァーが言っていることは間違っていない。
「そう思うなら、お前の好敵手はロックだろ。」
「セリスが、”一番最初にエドガーと会って、2,3日二人でマッシュを捜してた”って言うからな。一応・・・。」
セッツァーはそう言うと私から離れセリスの方へ駆けていった。
セリスはいつの間にかマッシュと二人で談笑していた。
「自分で選んだことだからな・・・。」
私はそう呟くとゆっくりセリス達の方へ向かった。

Back  Next