DESIRE 6



セリスより先に目が覚めた私は、まだ背中に回されている手を解き出港の支度をした。
「じゃあな、セリス。」
私はセリスの額に軽くキスをした。
セリスが目覚めればついてくるだろうが、セリスは熟睡しているように見えるし・・・。
このままお別れかな。
もっとも、仕事が終われば私が迎えに来ればいいのだが・・・。
もう一度、セリスを抱きしめ、部屋を出ようと思った。
「・・・ケフカ・・・」
寝言だろうか?セリスが別の男の名前を呼ぶ。
ひどい嫉妬心に襲われるが、ロックでないだけマシだと思い部屋を後にする。
「ボス、おはようございます。もう出発するんですか?」
宿屋の酒場で盗賊達が待っていた。
「ああ。みんな準備は整ってるだろ?」
私はそう言いながら、宿屋を後にする。盗賊達もついてきた。
「そう言えば、昨日の女は?」
盗賊の一人が私のそばに寄ってきて問う。
「さあね。置いてきた。」
私はしれっとそう答えてやった。
港につくと、船が一艘待ちかまえていた。
「これです、ボス。」
「そうか。じゃあ、出発しよう。」
私は、一番最後に乗り込む。
振り向くと、セリスらしい影が追ってきていた。
セリスだと確認すると、船を出す。
フィガロまでの道のりは、危ないがセリスなら大丈夫だろう。
アルテマウェポンは、ちゃんと使えるのだろうか?
まぁ、セリスは魔法があるから死にはしないだろうな。
私は、無理はしないようにと祈りながら、先を急いだ。


「ボス、こっからフィガロ城に入れますよ。」
盗賊達に案内され、懐かしいフィガロ城へ入る。
自分の城に泥棒の様に入るなんて、滑稽だと思いつつ、城を歩き回る。
「う・・・。」
人の声が聞こえ、駆け寄る。
「大丈夫か??」
「へい・・か???」
酸素が足りてないらしく、非道く弱っている。
「待っていろ、すぐ助けてやる。」
私は機械室に足を運ぶ。
盗賊達は、その向こうの部屋に用があるようだが、
機械が動くようになれば、私はそれで良い。
機械室から盗賊達が焦る声が聞こえた。
勢いよく機械室のドアを開ける。
「こんなものが絡まっていたのか・・・。」
その光景に、唖然とした。
無数の触手が機械という機械すべてに絡まっていた。
「ここはオレに任せて、お前達は先に行け!!!」
盗賊達は一瞬躊躇したが、自分の身が可愛いのか先へ進んだ。
「私にこれが始末できるかな・・・。」
思わず呟く。
触手がこっちへのびてくる。
持っていた剣で、応戦してみるが・・・数が多すぎて、意味がない。
その時、視界の端にセリスが映った。
セリスは、刃の出ていないアルテマウェポンを片手に呆然と私と触手を見ている。
「ボケッと突っ立ってないで、手伝ってくれよ、セリス!!」
染めていた髪の毛の色が、いつの間にか落ちていた。
「エドガー!!!!やっぱりエドガーじゃない!!」
セリスは嬉しそうにそう言うとアルテマウェポンを構える。
それまで刃の出ていなかったアルテマウェポンは、これでもかと言うほど大きな刃を出した。
「大丈夫。私戦える!」
セリスはそう言うと、
私の目の前に飛び込んできて私にからみつく触手をすべてまとめて斬り落とした。
「エドガーには指一本触れさせない!!」
セリスに守られている私は、端から見たら情けないのだろうが私は死ぬほど嬉しかった。
私が何かをする必要もなく、セリスは触手をすべて斬り落としてしまった。



「エドガー!!!」
セリスが私の胸に飛び込んでくる。
その拍子に機械の陰に二人で倒れてしまった。
その横を盗賊達が”ボスが死んだ”と嘆きながら通っていく。
「エドガー!!アルテマウェポン壊れてなかった!!」
盗賊達が去ったのを確認してセリスが叫ぶ。
「え・・?アルテマウェポン壊れてたのか??」
「うん・・・。何回も使おうとしたのに全然発動しなくて・・。でも今ちゃんと発動してたでしょ?私エドガーから貸して貰ったこれ、大切にしてたから焦ってたんだけど・・・良かったぁ・・・。」
「セリス、アルテマウェポンは闘う気力がある者だけに力を貸す・・・そういう武器なんだよ。君、闘う気力なくしてたの?」
セリスは顔をパッと赤くする。
「・・・だからエドガー探してたんだけど・・・。」
意外な言葉に耳を疑う。
「どうして僕なの??」
「おじいちゃん死んだときに、みんなも死んじゃったんじゃないかと思って・・・不意にエドガーにアルテマウェポン返せなかったなって思って・・・ロックのバンダナ見つけたけど、それも返さなきゃいけないし・・・でも先にエドガーに会ってそれからロックのとこに行っても大丈夫かなって・・・。違う。えっと・・・。」
セリスはコンフュでもかけられたかの様な混乱状態だ。
「セリス・・・それじゃ分かんないよ。」
セリスは唇をかみしめる。
「だから・・・・。わかんないけど・・・。とにかくエドガーに会いたかった。何もする気力なくなった私を助けてくれそうな気がして・・・。」
セリスは私の顔をマジマジと見つめる。
「やっぱり・・・エドガーといると頑張るぞ!!って感じよね。」
「はぁ??」
セリスの訳の分からない言葉に困惑する。
「いいのいいの。私もよく分かんないから気にしないで。とにかく私はエドガーが好きだってコト!!」
あんまり無邪気に言われるから返す言葉がなかなか出ない。
「・・・あのねぇ、セリス。そういうコト言うと男は誤解しちゃうんだよ。」
「あら?エドガー誤解しちゃった??」
セリスはとぼけた調子で言った。
「いや・・・。君の本命解ってるし・・・。本命はロックで・・・僕はセカンド・・いや、サードか??」
ふざけたつもりだったのだが・・・セリスは急にまじめな顔をする。
「私って、そんな風に見えるの?」
かなり真面目な口調でそう訊いてくる。
浮気性という意味か、ロックが本命で・・・という意味か解らなかった。
「違うの?」
返ってくるわけない言葉を期待してしまう自分がたまらなく嫌だった。
「エ・・・エドガーが3番目なわけないじゃない!」
セリスの口調がふざけ口調に戻った。
「そうか・・・じゃ、僕は何番目?」
「順番なんてつけないわよ。」
「ふーん・・・みんな均等に愛しちゃうんだ。怖いね、君って。」
かなりの時間沈黙が走った。
「セリス?」
調子に乗りすぎたかと思い、セリスの顔を覗き込む。
「ゴメン、セリス。調子に乗りすぎた・・。」
セリスの目は涙でいっぱいになって潤んでいた。
「・・・迷うくらいなら均等に愛せた方が良いのにね。」
「それ、本気?」
私の問いに、セリスは静かに首を横に振る。
「本気なわけないじゃない。・・・・でも・・。」
「いいよ、解った。言わなくていい。」
ロックの名前が出てきそうな気がして慌てて止めた。
折角二人きりなのにロックの名前は聞きたくない。
「ううん、聞いて。」
セリスは、私の嫌がる言葉を聞かせようとする。
「いや、いいよ。」
「ダメ!!聞いてよ!!」
「いいって言ってるだろ!!!」
つい、怒鳴ってしまった。
セリスは、何も言わなくなった。
「ゴメン・・セリス・・・。」
私はセリスを抱き寄せ髪を撫でる。
セリスは全然抵抗しなかった。
「ねぇ、エドガー・・・。どうして聞いてくれないの?」
「・・・ゴメン・・。嫌なんだ。君がロックの名を口にしてしまいそうな気がして。・・・今だけは誰も僕と君の邪魔をしない・・・。だから・・・。」
セリスは私の頬を両手で挟む。
「それでも聞いて。貴方に誤解されたくないから。」
私はゆっくり首を横に振る。自分が情けない表情をしているのが解る。
自分でロックの名を口にするのは構わない。
でも・・・今のセリスにだけは・・・。
「セリス・・・。今だけでいいから・・・その手も、髪の毛も、瞳も、口も・・・すべて僕のもので居て欲しいから・・。だから・・・。」
セリスは私の言いたいことが解っているのか、柔らかく微笑む。
「貴方がそう望むなら、今の私は貴方の物で居ても良い。けどね、どうしても聞いて欲しいの。魔大陸が崩壊した後・・ずっとエドガーに会ったら言おうと思ってたコトがあるの。だから、聞いて。」
私は、何も言わずに頷いた。
「あのね、エドガー・・・。私・・分かんなくなっちゃったの。ロックに会ったときは・・・私ロックに惹かれてた。でも、それはケフカと同じコト言ったから・・・。”守ってやる”って。ケフカと重ねてたのね。そしたら・・・ロックも同じ様なこと言ったの。私とレイチェルさんが似てるって。でも、レイチェルさん見たとき、どう見ても私には似てなかった。ケフカとロックが似ていないように。」
確かに、レイチェルとセリスは私の記憶上似ても似つかない。
性格も違いすぎる。
「私は、過去のケフカをロックに求めて。ロックは、今は亡き恋人を私に求めて。いつか・・・セッツァーに言われちゃった。”ロックはセリスが好きなんじゃない。セリスの中に微かに存在する『レイチェル』が好きなんだ”って。本当にそう。でも、私もロックの中のケフカが好きなんだから、何も言えないよね。」
「いつまで続くんだ?」
セリスがロックのことばかり話すから、さすがに耐えきれなくなった。
「これからよ。」
セリスはさらっと答えるとまた話し始める。
「そんなので、悩んでたら・・・。マッシュが”兄貴はセリスが好きなんだ”って・・・毎日のように言うようになっちゃって。私、エドガーに”嫌い”って言われてたから、否定してたんだけど・・・。」
セリスが小さく溜息をつく。
「それから??」
唇を噛んで黙ってしまったセリスを促す。
「私・・・ロックのことが好きなんだろうなって思いながら、エドガーのこと気にしてた。嫌いって言われてるのに、自分で可笑しかったけど。エドガーに皮肉言われたりするのもすっごく嬉しくて。多分今までそんな人が居なかったからかな。」
私の胸が高鳴る。
「エドガーが、私のこと好きって言ってくれたときも、凄く嬉しかった。そういえば、ロックは私に好きって言ってくれたこと・・・ないんだよね。」
セリスが小さく笑う。
「そんなこと言われたら、誤解しちゃうよ。」
「されても仕方ないわね。だって、私ロックが好きなのか、エドガーが好きなのか・・・ケフカなのか分かんなくなっちゃったし。」
多分・・・ケフカが一番なのだろう。
でも、ケフカは倒さなければならない。
それをセリスは解っているのだろうか。
「でも・・・私、ケフカを殺すの。自分の手で。魔大陸の時によくわかった。彼は昔の彼じゃない。私の好きだったケフカは死んじゃった。絶対・・・ケフカを倒す。」
セリスは拳を握りしめる。
「協力してくれるよね?」
私は静かに頷いた。
セリスは柔らかな微笑みを見せてくれた。
「でも・・・僕と君だけじゃ、どうにもならないな。」
「エドガー!!!」
突然セリスが叫んだ。
「何?」
「マッシュ!!マッシュ探しに行こう!!!」
「マッシュを・・??」
セリスは、私に気を使ってくれたようだ。
確かに、私は今マッシュのことを思い浮かべていた。
「マッシュ、ちょっと情報入ってるの。・・・私エドガーに早く会いたかったから、探さずに来ちゃったけど。すぐ、探しに行こう。」
セリスは、私の右手を握る。
私は強く頷いた。

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