DESIRE 5 魔大陸が崩壊して、一年経った。 盗賊達が入った部屋の外から、盗み聞きする。 部屋のベッドにセリスをおろす。 4 「こんな辺鄙なところでどうやって暮らしてたんだ?」 5 ニケアにつくと、もう大分夜が深くなっていた。 6 セリスがすぐ隣の部屋にいるためか、なかなか寝付けない。 7 ようやく落ち着いたセリスは、私に体重を預け、うとうとしていた。
1
あの後誰にも会っていない・・・。
ずっと一人だ・・・。
誰でも良い・・誰かに会いたい。
みんな無事なのだろうか・・・?
私は、今盗賊達のボスとして、ニケアに来ていた。
「ボス、酒場に行かないかって、みんなが・・・。」
「ああ、解った。すぐ行こう。」
手下に誘われて、酒場に足を運ぶ。
気は乗らないが、信頼を得るためだ。仕方ない。
酒場に着くと、盗賊達に歓迎されたが、生憎バカ騒ぎをするつもりはなく、酒場の隅で一人で酒を飲む。
ふと、扉が開く鈴の音がする。金髪の女性が入ってきた。
「セリス??」
思わず呟くが、すぐ首を横に振った。
「まさかな。」
自嘲気味の笑みが浮かぶ。
私は、フィガロ王国の国民を助けに行かなければならないというのに・・・。
何をしていても・・・何を考えていてもすぐに頭をちらつく・・・。
セリスは・・・無事だろうか・・・?
酒場が騒がしくなった。
盗賊達が酒場と同じ建物内にある宿屋にぞろぞろ移動している。
「何事だ?」
目があった、盗賊に聞く。
「あ、ボス。一緒に行きませんか?何でもすごい美人が宿屋の一室でストリップを見せてくれるそうで。」
「どんな女性だ?」
言葉に怒気が含まれる。
「さっき入ってきた、長い金髪の・・・背の高い女です。」
私の怒気に気づいたのか気づいていないのか、盗賊は慌てている。
長くて、金色の髪・・・背が高い・・・。セリス・・・??
何故か胸騒ぎがして私も盗賊達の後を追った。
2
セリスじゃないのなら、用はない。少しの可能性にでも賭けたかった。
「だから、長くて、金色の髪の毛の男知らないか聞いてるのよ。背は・・・私より10cmくらい高いかしら。」
よく聞こえないが、声がセリスっぽいような気もする。
「だからさっきから、交換条件だって言ってるだろ?あんたがここで脱いでくれるんなら教えてやるぜ。」
思わず溜息が漏れる。盗賊とは、こんなモノなのだろうか。
「ふざけないで!!!街のおばちゃんがあんた達に聞けばわかるかもしれないって言うから、来たのよ!わからないのなら、用はない!!」
「怖い姉ちゃんだな。美人が台無しだ。」
もし、それがセリスに向けられた言葉なら、横っ面を思いっきり殴ってやりたい。
「そんなことどうでも良い!知ってるの?知らないの??」
「わかんない姉ちゃんだな。ここでストリップしろっつってんの。それとも、ストリップの意味がわかんないのか?」
一瞬沈黙が走った。
「や・・・なにすんの!!ヤダってば!!やめて!!」
女が叫んだ。
体中から、冷や汗が出る。
心臓が高鳴るのが解った。
この声は・・・
「おとなしくしてろ!!」
「やっっ!!!―――――――っ!!!」
聞き取れない金切り声が上がる。
私はもう飛び出しかかっていた。
「エドガ―――ァァ!!!!」
ものすごい音と共に私は部屋の中に飛び込んだ。
ベッドの上に転がされて数人の盗賊に押さえつけられ、上半身脱ぎかかったセリスが涙目を見開きこっちを見ている。
「エドガー・・・?」
「ボス!ちょっと、この女が黙らないから・・・。」
私は盗賊を睨み付ける。
「ボス??」
私は、構わずセリスに近づき、抱き上げる。
「いいか、これはオレの女だ。手を出すなよ。」
盗賊達は、慌てて肯いた。
「エドガー・・・髪の色・・・染めたの?」
私は、セリスの問いには答えず、隣の部屋に入った。
3
「エドガー??エドガーなんでしょ?ねぇ?」
「オレは、ジェフ。悪いけど、人違いだ。」
「だって、エドガーって呼んだら、助けに来てくれたじゃない。」
「知らないな。たまたまタイミングがあっただけだろう。」
「じゃ、何で助けてくれたの?」
「レディに失礼なことをするのは、不本意なのでね。」
セリスは、ふくれっ面を見せた。
・・・・可愛い。
「やっぱり、エドガーじゃない。」
「レディに優しくするのは、世界の常識だよ。」
「さっきの人たちは優しくなかったわよ。」
「常識がない奴らだからな。」
セリスは大きく溜息をついた。
「ところで、何故エドガーという男を探してるんだい?」
「え・・・?・・・だって・・・仲間を探さないと一人だから・・・。」
セリスはうつむいた。
「それなら、エドガーじゃなくても他を探せばいいじゃないか。」
セリスの答えに期待して、そんなことを言ってみた。
セリスは、しばらく何も答えなかったが、そのうち口を開いた。
「・・・なんだか・・・エドガーに一番会いたかったの。」
現金だが今までの暗い気分が一気に明るくなったのを感じた。
「へぇ・・・。その男のこと好きなの?」
「エドガー、いい加減にしてよ。」
セリスに睨み付けられた。
セリスが睨んでも可愛いだけなのだが。
「オレは、ジェフだよ。」
セリスは立ち上がった。
「なら、ジェフさん。私、帰るわね。」
「帰るってどこに?」
セリスには住むところはないはずなのだが・・・。
セリスはしばらく考えて口を開く。
「・・・娼館よ。」
自分の顔が非道く歪むのがわかった。
「本当なのか?」
「そうだったとしても、貴方には関係ないわ。」
セリスの挑戦的な目に嘘を見抜く。
「明日の朝、ここを出る。港に船があるだろう?」
セリスは無言で頷く。
「あの船に乗って行くんだ。」
「だから???」
「いや・・・なんでもない。」
ここまで言っておけば、セリスはついてくるだろう。
「そう・・・。じゃ、さよならジェフさん。」
セリスは、立ち上がると足早にドアの方へ向かった。
「どこ行くんだい?」
セリスは首だけ振り向いた。
「さっきも言ったでしょ。娼館よ。」
「ダメだろ、そんなとこ居ちゃ。」
セリスに近づき肩を抱くと、
「ジェフさんには関係ないでしょ。」
と、軽く突き飛ばされてしまった。
「君みたいな、綺麗な女性がそんなことしてるかと思うと、毎日通いたくなるからね。破産しちゃたまらないじゃないか。だから・・・・。」
私が近づくとセリスは微かに身を引いた。
構わず顎を捉え強引に上を向かせる。
「ここにいてくれなきゃ困るんだ。」
「嫌。」
即答だった。
「どうして、知らない人の言うこときかなきゃいけないのよ。」
「オレの言うことをきいて貰うんじゃない。きかせるからだ。これでも盗賊のボスを務めてる身だよ?」
セリスは鼻で笑う。
「似合わないわよ。」
「そう?」
「盗賊って、もっと荒っぽくて、乱暴よ。さっきの人たちみたいに。」
「そうしてほしいの?」
セリスの顔が一気に赤くなる。
「いい加減にしてよ、エドガー!!」
「オレはジェフだよ。」
ジェフという名前にかなり慣れたようで、
セリスに呼ばれても前のように動揺せずにサラリと言葉が返せる。
良いのか悪いのか解らないが・・・。
「何でも良いから、離してくれない?帰りたいの。」
セリスが溜息混じりに言う。
「ダメだってさっきから言ってるのに、わかんないレディだね。」
その言葉に反応したのか、セリスは、腰にさしていた武器に見えない武器・・・アルテマウェポンをさっと取り出し構えた。
だが、アルテマウェポンの刃は出ていない。
セリスの顔が、苦く歪む。
セリスは悔しそうに舌打ちした。
「どうしたんだ?」
「なんでもない。」
セリスはそう言うと、言葉とは裏腹に沈んでいた。
アルテマウェポンは、戦える者だけに力を貸す、素晴らしい武器らしいが・・・。
アルテマウェポンが発動しないということは、セリスには闘う力がない?
それとも、闘う必要がないから発動しないのだろうか。
セリスはアルテマウェポンをしまうと、溜息をつく。
「お願い・・・、毎日おじいちゃんにお花をあげてるの。今日はまだだから。だから、帰らないと。」
セリスは今までとはうってかわってか細い声で言う。
「おじいちゃん??」
「シドよ。私が目覚めるまで介抱してくれてたの。一年も。でも・・・そのせいで体悪くしちゃって・・・。」
セリスの目が潤む。
「死んだのかい?」
セリスは無言で頷いた。
セリスの様子から、さっきのように嘘というわけではないようだった。
「そうか。じゃ、オレも行こう。」
「え?」
「今日一晩だけでも一緒に居たいから。君に逃げられちゃたまらないじゃないか。」
セリスは、私を見上げていつものように笑った。
「エド・・・ジェフって、優しい人ね。」
セリスにそんなことを言われたら、どんな男だって顔を赤らめてしまうだろう。
「さぁ?どうかな。」
私の言葉にセリスは、小さく声を上げて笑った。
「油断してると襲われちゃうよ。」
そう言って、セリスの手を取りベッドに崩れる。
もちろん何もするつもりはない。
ちょっとした遊び心だ。
セリスが反応しないのでおそるおそるセリスの顔を覗いてみた。
視線がぶつかる。
セリスはにっこり笑っていた。
「・・・襲われても良いの?」
「大丈夫よ。誰も襲えっこないもの。」
セリスはなお笑っている。
かげりのない笑みに、こっちが戸惑ってしまう。
「それに・・・貴方は私にそんなことしないわ。」
「どうして?」
「相手が私だからよ。」
セリスが自信ありげな笑みを見せる。
私は身を起こすと、咳払いをした。
「確かに、今はそんなつもりはなかったが・・・次は知らないぞ。」
せりすは、微かに声を上げて笑う。
「そうね。」
納得したかのようだったが、明らかに次がないことを確信している声だった。
セリスがシドと暮らしていたという家を見て呆気にとらえる。
小島の一軒家・・・。小島と言うよりは、孤島といった感じで・・・。
「毎日、魚をとってたの。魚しか食べられないんじゃ、弱って死んじゃうよね。」
セリスは、シドの墓の前に来る途中買ってきた黄色の花を供える。
「おじいちゃん、黄色が好きだったの。」
セリスは、嬉しそうにそう言った。
私は軽く相づちを打つ。
「おじいちゃん、私もう一人じゃないよ。」
セリスはそう呟いた。
セリスはしばらく墓の前で目をつぶると、さっと立ち上がった。
「これでいいわ。行きましょう。」
私は、シドの墓の前に跪き、セリスを守ってくれてありがとう・・と、
セリスに聞こえないように呟いた。。
セリスは当たり前のように私の横にぴったりくっついてきた。
逃げられるかもしれないとも思ったのだが・・・。
宿に着くと、自分から指定された部屋に入っていく。
「もう、遅いから寝ると良い。」
そう言って、セリスの部屋から出ようとすると、セリスは首を傾げた。
「貴方は、他のところで寝るの?」
「そうだよ。」
「どうして?」
セリスは、戸惑ったようにそう言った。
「君と一晩一緒にいて、理性が保てるとは思えない。」
本心だった。
ケフカがかけた魔法とやらは知っているが・・・それでも・・・。
「そう。」
セリスはそう言うとベッドの中に潜ってしまった。
「おやすみ。」
私はそう言って、部屋の電気を消して部屋を出る。
部屋を出ると、盗賊達が集まっていた。
「ボス、あの女と寝るんじゃ・・・。」
「寝ないよ。」
私がそうきっぱり答えると、盗賊達は呆気に捉える。
「ボス・・・熱でも・・・。」
盗賊の一人が私の額に手を当てる。
「熱なんかない。」
私はそう言うと、盗賊の手を払いのける。
「じゃぁ、どうして?」
盗賊達は、私が女性を連れ込む=一夜を共にすると思いこんでいるらしい。
まぁ・・・その通りなのだが・・・。それはお遊びであって・・・。
「彼女には手が出せないんだ。」
苦笑しながらそう言うと、盗賊達がまたもや呆気に捉える。
「そうそう。彼女に手を出したら、そいつの命はないと思った方が良いな。」
私は盗賊達にそう言い残すと、自分が取った部屋に入った。セリスの部屋のすぐ隣だ。
盗賊達の何とも言えない声がまだ聞こえていた。
セリスは、眠れているだろうか?
何度水を飲んでものどが渇く。
仕方ないので、ベッドの中で身を横たえていた。
もう、夜中の2時だから、セリスも眠っているだろうな・・。
ふと、ドアが開く音が聞こえた。
真っ暗な部屋に一層暗い影が入ってくる。
影がベッドの横に落ちた。
私はベッドの上にあるスタンドの電気をつけた。
最初に目に入ったのは、見事なまでの美しい金糸・・・。
スタンドの薄暗い黄色の光に照らされて輝いている。
「セリス??」
セリスは、私のベッドの端にもたれかかっていた。
「御免なさい。起こしてしまった?」
私は急いで身を起こした。
「いや、どうせ寝付けなかったし。」
セリスは潤んだ瞳で私を見上げる。
「泣いていたの?」
私の問いにセリスは答えようとしない。
「セリス?」
セリスは唇をかみしめ涙を我慢しているようだった。
「我慢しなくて良いよ、苦しいだろ?」
私はセリスの綺麗な髪を撫でた。
セリスは、爆発したように私の体に飛びかかってくる。
バランスを崩して、そのまま倒れてしまった。
端から見たら、セリスが私を押し倒しているように見えるんだろうなと思うと、
なんだか滑稽だった。
「心細くて・・・眠れないの・・・。みんなに会いたい。」
セリスはそう言いながら私の服を濡らすくらい泣きじゃくる。
セリスは、少し身を起こして私の顔を覗き込む。
「ねぇ、ジェフは本当にジェフなの??エドガーじゃないの??」
とっくに正体がばれていると思っていたから、これには驚いた。
セリスはジェフ=エドガーと確信していたわけではなかったのだ。
ここで、エドガーだと言ってしまったら、今までの努力がすべてダメになってしまう。
でもそれを置いてでもエドガーと名乗りたかった。
でもそれをすれば・・・。
「セリス・・・すまない。」
セリスは一層激しく泣き出した。
エドガーじゃないなら、それでもいい。今だけ、エドガーだって思わせて。」
私は、セリスを強く抱きしめた。
セリスが私に・・・エドガーに執着してくれることが嬉しかった。
セリスにとっては、ただの仲間の一人でも・・・。
「眠い?」
私はセリスを撫でながら問う。
「うん。ちょっと・・・。」
ちょっとどころか大分眠そうなセリスは小さな欠伸をしながら答える。
「自分の部屋に行って寝る?それとも、ここに居る??」
「ここに・・・居たい。一人じゃ眠れそうにない。」
セリスの答えを聞いて、私はセリスをベッドに寝かせ、
ベッドの横に椅子を置いて自分はそこに座る。
「ジェフは寝ないの?」
セリスが勢いよく起きあがって、訊いてくる。
「ベッドは一つしかないからね。」
そう答えると、セリスは私の腕を軽く引っ張った。
「寝不足は体に毒よ。目の下にクマができてる。私は良いから、寝たら?」
「君こそ、夜更かしはお肌に良くないよ。折角綺麗な肌なのに。」
セリスが顔を赤く染める。
「じゃ・・・じゃぁね。二人で一緒に寝ちゃえばいいのよ。ベッド大きいし。」
「いいの?」
「いいも何も、ここ貴方の部屋じゃない。」
セリスは無邪気に笑う。
「そうじゃなくて。何があっても知らないよ。」
「貴方は何もしないわ。」
「どうしてわかる?」
セリスは私の頬を両手で触れる。
「目が・・・エドガーと同じ優しい目してる。それなのに、私に非道いことするわけないわ。」
私はセリスの腕をとって、ベッドに転がす。
「そのエドガーも君を狙ってたんじゃないか?」
覆い被さられているのに、セリスは余裕の笑みを見せる。
「そうかもしれないけど、彼は躊躇したもの。」
「それにね・・・貴方の目、全然本気じゃない。本気な人は凄いのよ。」
セリスに胸の内を見透かされたようで、何も言葉が出ない。
私は深い溜息をついた。
「確かに君の言うとおりだ。」
「でしょ?だから、ベッドの中で寝なさい。私が添い寝してあげるのよ?光栄でしょ?」
セリスは幼い子供に言い聞かすように私の頭を撫でる。
「添い寝してあげるのは、オレの方だと思うんだけど。」
「どっちだっていいじゃない。」
セリスはそう言うと目をつぶって寝てしまった。
私の視界にセリスの顔は入らないけれど・・・。
その両手だけは、私の背中に回されていた。