DESIRE 3 「セリスは、魔大陸には連れていかない。」 休むとは言ったものの、私はなかなか眠れなかった。もう夜はだいぶ更けている。 「エドガー、セリス知らないか?」 4 「セリス?話ってなんだい?」
1
飛空挺内での会議で、私はみんなに断言した。
「どうして?私行くわ!!」
セリスは、やはり不満そうな顔をしている。
「ダメだ。」
「エドガー、セリスはオレが守るからさ。連れていってやろう。」
ロックだ…。
「もっとダメだな。」
「どうして?私のことが嫌いだからなら…貴方が残ればいい!!」
セリスは、どうしても行きたいようだ。
「違うよ、セリス。魔大陸は危ないし、きっとケフカもいるよ。レディはここに残す。それから、子供と老人もな。あとはそれを守る男を残して…私を入れて3人のみだ。魔大陸に行くのは。」
皆がシーンとなる。私は皆から見たら身勝手に見えるのだろうか。
「なら…オレはここに残るぞ。」
“守る”という言葉に反応したのか、ロックははりきっている。
「そうだな…。魔大陸には、私とマッシュと、それからセッツァーで行こう。飛空挺に残るメンバーもいつでも戦闘に入れるように各自準備しておけ。カイエン、皆をヨロシク。」
「承知致したでござるよ。エドガー殿。…だが元帝国軍将軍殿なら、連れていっても良いのではござらぬか?」
カイエンの言葉にセリスは身を乗り出す。
「そうだ!!私は元将軍!!足手まといなんかにならない!!」
セリスは、“帝国軍の常勝将軍セリス”の顔になっている。
「だから、ダメなんだ。ケフカがいるんだぞ?また利用されたらどうする!!!」
ついムキになって、怒鳴ってしまった。視界にうつる全員が、あっけにとらえている。
「エドガー…怒鳴ることないだろ?」
ロックはおそるおそる言っているかんじだ。
セリスは、勢いよく体の向きを変えると、飛空挺内の部屋に走り去ってしまった。
ロックも後からついていく。
「エドガー殿。少しばかり言い過ぎたのでは、ござらぬか?貴殿の言う、“レディの扱い”とかけ離れているように思えるでござるよ。」
どこでどう変わったのか、カイエンはセリスのことを信用しているようだ。
それは良いことなのだが。
「私には、私なりの考えがあるんだ。」
「大人になるでござるよ!!エドガー殿!!」
カイエンの声は、私の声を遮った。
「拙者には、今のエドガー殿はただのダダッコに見えるでござるよ。」
「カイエン…。」
カイエンは、渋い笑みを浮かべて私の肩をたたく。
「素直になるでござる。“セリスが心配だから、死んで欲しくないから行かせたくない”そう言えば、いいのでござるよ。」
っ!!!カイエンは気づいていたのか??
端から見たら、今の私の顔はタコのように真っ赤になっていることだろう。
(そう言えば、オルトロスは、紫だったな…。)
「まだまだ若いようでござるな、エドガー殿。」
カイエンは、そう言うとガウを連れてどこかへ行ってしまった。
私の視界には、いつの間にかマッシュとティナしかいなかった。
「エドガー、セリスのこと愛してるの?」
唐突にティナがきいてくる。ティナは、愛に興味があるようだからな。
「さぁね…。」
私は苦笑を浮かべる。
「よくわかんないけど…セリスもエドガーのこと愛してるといいわね。」
「ティナは、無邪気で可愛いね。」
私は、ティナの頭をなでる。
「エドガー!!頑張って!!」
ティナは、そう言い残すと甲板に走り去った。
「兄貴、カイエン気づいてたんだな。」
「私はてっきり、マッシュが告げ口したのかと思ったよ。」
「そんなわけないだろう?」
私は、軽く笑ってごまかした。
「…セリスは、私をますます嫌ってしまったかな?」
ふとそんな言葉が出た。マッシュの前だと何でも口を滑ってしまう。
「セリスは、兄貴のこと嫌いじゃないよ。むしろ好きなんだと思うけどなぁ。っつーか、前に好きって言われたんだろ?」
「仲間としてな。」
「だったら、嫌いなわけねーよ!」
マッシュは、私の背中をバシッと叩く。少々痛いが、口には出さなかった。
「な、兄貴。セリスも解ってくれるよ。今日はもう暗いし一晩ゆっくり休もう。
そんで、明日セリスを説得すればいい。」
「そうだな。」
2
マッシュは、セリスは私のことを嫌っていないと言ったが…果たして本当にそうだろうか。
私は、嫌われてるような気がしてならない。
私の部屋のドアをノックする音が聞こえた。
セッツァーの飛空挺内は、たくさんの部屋があるので、
だいたい一人に一部屋与えられている。
ガウの希望で、カイエンとマッシュとガウは同じ部屋らしいが。
…ああ、あとリルムとストラゴスも一緒だったな。
マッシュは、寝るのが早いから、こんな時間までは起きていないだろう。
ロックは、さっさと寝てしまったとセッツァーが言っていたし…。
セッツァーも、もう休むと言っていた。他に私に用がありそうな奴がいるだろうか?
……セリスか?
「誰だ???」
その声に反応するように、客人は名乗らず部屋の中に入ってきた。
「…セリス?」
客人は、セリスだった。少しばかり目が赤いような気がする。泣いていたのか?
「どうしたんだ?こんな夜中に。」
セリスは黙って、私の前に立つ。
「どうしても、連れていってくれないの?」
か細い声でセリスが言う。
「ああ。」
私は即答した。
「どうして?ケフカや、ガストラにあったら、私が裏切るかもって思ってる?」
「違うよ。」
まだそんなことを気にしていたのか…。
「じゃあ…どうして??」
私は黙ってセリスを見つめた。
「答えて、エドガー!!」
「君がセリスだからだよ。」
何も考えずに、そんな言葉が出た。ふざけてると思っているだろうか。
「ふざけないで!!!」
ふざけているわけじゃない。
「セリス、私だって未知の地に行くのは怖いよ。でも、私は男だから。女の子にそんな思いさせたくないんだ。」
「私怖くなんかない!!元帝国軍将軍セリスよ!未知の地なんてもの慣れてるわ!!貴方だって、帝国から私の話を聞いたことあるでしょ?」
確かにあるが…。
「どうしてそんなに行きたがる?」
セリスは固まったかのように動きをとめた。息すら止めていたかもしれない。
やがてゆっくり口を開く。
「ケフカに会わなければならない。ケフカに会いたいの…。」
かすかだが、強い声だった。憎しみを含んでいるような声じゃない。むしろ……
「私は、君はレオ将軍に惚れているのだと思っていたが…。」
セリスの頬が赤くなる。
「違うの!!レオ将軍は憧れていただけ!!」
「じゃあ、ケフカは?」
セリスは、唇をかみしめ黙った。その大きな瞳から大粒の涙がこぼれる。
私は、セリスを抱きかかえると、自分の膝の上に座らせた。
「セリス?」
呼びかけには応じず、セリスは激しく首を横に振った。
「セリス、ケフカのことが好きなの?だから…迷ってる?」
セリスの動きが止まる。
「違う…。私は…ケフカなんて……。」
確信の持てない、ふるえた声だ。
セリスは、もう一度強く唇をかみしめた。赤い唇から、血が流れる。
私は、衝動的にベッドに押し倒していた。
「なっ…エドガー???」
おびえた瞳で見つめられる。
「君がどうしても行きたいって言うなら、行けないようにしてやるまでだ。」
私は、血がたれているセリスの唇に自分の唇を重ねた。
セリスは、私の胸あたりを叩いて、必死に抵抗する。
「エドガー!!やだっ!!離して!!!」
「離してといわれて、離す奴はいないと思うけど?
私は、セリスの口を左手で覆って、自分の唇をセリスの首筋に持っていった。
力が入っていた、セリスの体から力が抜ける。あきらめたのか?
「セリス?」
私はセリスの顔を覗き込んだ。
セリスは目を閉じ、静かな呼吸をしていた。
その両瞼からは、涙の筋が顎の当たりまで続いている。
気を失ったのか?このくらいのことで?そんなにも私を嫌っているのか?
ロックだったら…受け入れていた?
私は寝ているようなセリスを抱き起こし、自分の腕の中におさめた。
足腰立たないようにして、動けなくするつもりだったのだが…。
これでは目覚めたらすぐ行動してしまうだろう。
私はセリスを抱いたままベッドの中に横になった。
「すまない…セリス。」
さすがに罪悪感はあった。
セリスの咳き込みが聞こえた。起きたのか?
私は、セリスが逃げ出さないように、両腕でしっかりとセリスを抱いた。
3
朝の目覚まし時計は、ロックの焦った声だった。
「ん?ロックか。おはよう。どうしたんだ?」
まだ頭がはっきりしない。
「おはようじゃないよ!!セリスがいないんだ。まさかあいつ一人で魔大陸に行ったりしてないよな?エドガー、セリスを見なかったか?」
私は、自分の両腕を確認した。重みはある。
セリスは、布団の中にもぐる形で寝ていて、ロックには見えていないのだ。
「セリスなら、ここに…。」
私は、布団をはぐってロックに見せてやった。
ロックは、信じられないというように顔をゆがませた。ただ、目を大きく見開いている。
セリスはまだ寝ているようだ。
「ロック!!エドガー何か知ってたか??」
ロックの後ろから、セッツァーとマッシュが走ってきた。
ロックは黙って、こちらを指す。セッツァーも、マッシュも顔が崩れた。
そうか。一夜をともに過ごしたと言ってしまえば、そういうことになるわけだしな。
驚くのも無理はないだろう。
「エドガー!!」
ロックよりも先に言葉を発したのは、セッツァーだった。
相当怒っているようだ。そういえば、こいつもセリスを狙っているようだったな。
「まさか…無理矢理セリスを??」
セッツァーはただでさえ、恐ろしい顔をもっとゆがめて、こちらに歩いてくる。
「いや…無理矢理ではないな。」
意味深な言い方をしてみた。
ロックもマッシュもこちらに近寄ってきた。
セッツァーは、セリスの頬を軽く叩いて起こそうとする。
「セリス!起きろ、セリス!」
セリスはゆっくり目を開けた。いきなり目が合う。
「あ、おはよう、エドガー。」
セリスは少し寝ぼけているようだ。
「何もされてないか?大丈夫か?セリス。」
ロックがセリスの顔を覗き込む。
「何もって、何を?」
「セリス、唇どうしたんだ?」
セッツァーがセリスの唇に触れる。
「え?これは自分で噛んじゃったんじゃない?」
セリスは、まだ少し寝ぼけているようだ。
「うそはつくなよ。」
ロックは真剣な目をセリスに向ける。
「嘘じゃないよ。昨日の夜噛んじゃったもん。」
後ろのほうに控えてたマッシュを見ると、心配そうな顔をしていた。
セリスを心配しているのか、私を心配しているのか、いまいち解らないのだが。
「どうして自分で噛んだりするんだ?」
「ロック…。何でそんなにしつこくきくの?」
セリスは、眉をひそめる。
「だって、エドガーに何かされてたら大変だろ?ここにだって、無理矢理連れてこられた。違うか?」
「違うわ、ロック。私、自分から来たの。エドガーと話に。それに、私エドガーに何もされてないわよ。私が勝手にここで寝ちゃっただけ。」
セリスは、私をかばってくれているのか?
「いつここに来たんだ?」
セッツァーが、ロックを押しのけてきく。
「…みんなが寝静まってからよ。」
セッツァーもロックも顔が引きつっている。唯一マッシュだけは、表情を変えなかった。
「それって…セリス…。」
「そうよ、ロック。私…。」
私はあわててセリスの口をふさぐ。これ以上喋らせておいたら…。
「自分にとって、不利益なことを言われると思って、口を封じたのか?」
ロックは、私をにらみつける。
「いや、私というよりは、セリスにとってだな。」
私は、セリスの口を解放した。
「セリス、行こう。ここにいたらなにされるか解らないぞ。」
ロックはセリスの手を引っ張る。だが、セリスは動かなかった。
「私、まだエドガーと話したいことがあるの。だから、先に行ってて。」
セリスの言葉にロックは凍てついたように動きを止めたが、
やがてマッシュに促され、外に出ていった。
「御免なさい。セッツァーも出ていってくれる?」
セッツァーは無言で頷くと素直に出ていった。
「私…魔大陸には行かない。」
セリスは、私を見上げる。まだセリスは私の腕の中にいる。
「エドガーは、自分勝手な人じゃないものね。>私が嫌いだからじゃなくて、私のこと考えてくれてて、魔大陸に連れていってくれないんでしょ?だったら…。私、魔大陸には行かない。」
セリスは、優しくほほえんだ。私は、セリスを抱きしめる。
「セリス…、すまない。・・・前言った・・・君のことが嫌いだなんて、嘘だよ。」
「どうしたの?エドガー。」
セリスは、不思議そうな声を出す。
「それに…ロックのことを嫌いって言ったのも嘘だ。セリスのこともロックのことも、大好きだよ。確かに、ロックには嫉妬している。けど…。嫌いにはなれないんだ。昔からの友達だし。」
「エドガー……。」
セリスは、私から一旦離れ私の顔を覗き込む。
「セリス…、許してくれるかい?」
セリスは、セリスの胸に私を抱き込んだ。
「当たり前でしょ。仲間じゃない。私だって、エドガーのこと大好きだわ。」
不覚にも、涙が出てきた。
夜中に、あんな事をしたのにセリスは私を許してくれると言うのだ。
「セリス…。大好きだよ。」
「どうしたの?エドガー。それさっきも言ったじゃない。」
私はセリスの腕の中で首を振る。
「違うよ。仲間とか、友達とかそう言う意味じゃない…。」
セリスからの返事は帰ってこない。わかっているけど、言わずにはいられなかった。
「エドガーって…いつも気取った人かと思ってたわ。軽くて、お調子者で…。でも、違うのね。御免なさい。」
セリスは、私の涙を指でぬぐい取ると、私の瞼に優しくキスしてくれた。
この世界では、挨拶のキスだが…。それでも私は嬉しかった。
「行ってらっしゃい、エドガー…。気をつけてね。」
セリスは、私の頭の上でそう言った