DESIRE 2


「私はレイチェルさんの代わり?」 そう、セリスがロックに聞いてるのを盗み聞きした。本来なら、これは、ロックの得意技なのだが・・・。
どうしても二人が気になって、ロックに”行ってやりなよ”
と偉そうなことを言ったわりには、こうやってついてきてしまっている。
ロックは返事をしていない。ロックの様子は見えないが・・・・。 「セリス、オレちょっとエドガー達のとこに行って来る。すぐ戻ってくるから。」 ロックはそういうと、こちら側・・・オペラ座控え室の扉の方に向かってきた。
セリスの小さな相槌が聞こえた。私は、上手くロックの視界に入らないように隠れると、ロックと入れ違いに控え室の中に入った。 「エドガー!!立ち聞きしてたのか?」 セリスはびっくりしていた。
「立ち聞きというのは、正確じゃないな。座ってたから。」 セリスは半ばあきれたため息をついた。そんなやりとりにでさえ、喜んでいる自分を見ると、よほど子供なのだと自覚する。 「セリス、リボンのかたちちょっとくずれちゃってるよ。」 「え?ほんと?悪いけど、結びなおしてくれないかな??」 「そんなことくらい、自分でできないのか?レディのくせに。」
「仕方ないだろう?幼い頃から、軍人として育てられたのだから。」 リボンがくずれてるというのは、嘘だが・・・これなら少し接近できるし、もうちょっとここにいても変じゃないだろう。 「リボンの色、エドガーとお揃いだ。エドガー青いリボン似合うよね。」 「褒めてるのか?リボンが似合うのはレディのほうだろ?僕のは、ただ髪の毛をまとめるためだけにつけてるものだしね。」 セリスがふーんと頷く。ふと思いついて、私は自分のリボンをはずすと、セリスの髪に飾った。 「何やってるの?」
「こっちのほうが、綺麗だ。」 セリスは真っ赤になった。綺麗という言葉に反応したのか。
リボンが綺麗だという意味だったんだが・・・。
「馬子にも衣装って言葉があることだし。綺麗にしてステージに出た方がいいだろ?」 「馬子にも衣装なんて、失礼だな。ロックは、綺麗だと言ってくれたよ。」 「あいにく、僕はロックではないのでね。」
セリスは苦笑を浮かべている。 「よし、これでいいだろう。綺麗に結べたよ。」
「エドガーって器用だな。」 セリスは鏡に映る自分の姿をまじまじと見ている。 「こんなことくらい、誰にだってできるよ。レディのくせにできない人が一人いるけど。」 「どーせ、リボン一つも満足に結べませんよ。」
セリスは、そっぽを向いてしまった。 「エドガーってさ・・・私にはすごい非道いことばっか言うね。町とか行っても、”レディ”にすごく優しいのに。・・・私、エドガーの中じゃ”レディ”じゃないの?」
私はしばらく考えた・・・。
「ああ・・・君は”レディ”じゃないな。」 「そっか・・。そんなに私って女っぽくないんだ。レイチェルさんは、女っぽかったんだろうね。」 「また、ロックのことか・・・。」 いい加減嫌気がさしてきた。何かといえば、ロックなのだ。 「前にも言っただろ?オレは、ロックが嫌いなんだ。名前も聞きたくない。」 「エドガー、”最近のロックが嫌い”って言ってた。」
「最近のロックは、今のロックだろ?」
「でも、あんなに仲いいじゃない。」 「あんなのうわべだけに決まってるだろ?私は、フィガロの王だ。嫌いだからといって差別するようなことをしては、王としてふさわしくない。」 「だったら、民を愛することも、王様の仕事じゃない?」
「ロックは・・・・。フィガロの民じゃないの?」
セリスの平手が頬にとんできた。 「何するんだ、セリス。」
「エドガー、変だ。絶対変だ!」
「変変って・・・人を変人みたいに言うもんじゃないよ、レディ。」 「私・・・エドガーなんか、嫌いだ!!」 「光栄だな。私もセリスは嫌いだと、前にも言ったよ。」
「出ていけ!!!」
すごい興奮度だ・・・。 「言われなくてもそうするつもりだよ、怖いレディだな。」 控え室から出ると、ロックがこっちに向かってきていた。
急いで隠れると、ロックはこちらに気づかずに控え室の中に入っていった。
ロックは、私のリボンのことに気づくだろうか。


「なぁエドガー、セリスのところ行った?」
ロックは、席に戻ってくるなり、すぐ聞いてきた。セリスのリボンに気づいたのか? 「いや・・、行ってないよ。」 「ふーん・・・さっきセリスのリボン変わってたんだよな。エドガーのみたいのに。でもセリスにもきいたけど、来てないって言ってたな。だけどさっき、オレがここに帰ってきたとき、おまえいなかったよな。」 ロックが私の顔をマジマジと見つめる。 「オペラ劇場の中身とは、興味を引かれるモノじゃないか。あっちこっち見ていたんだよ。」 「そのついでにセリスのところに?」 「行ってないよ。」
横で私たちの会話を聞いていたらしいマッシュがため息をつく。
どうやら、マッシュは本当のことに気づいているらしかった。 「エドガーもセリスもそう言うんなら・・・・信じるけど。前のこともあるし。一応言っておく。セリスに手出すなよ!!セリスはオレが守るんだ!!セリスはオレのモノだ!!」
バカらしくて、ため息が出る。
「ロック、人をモノ扱いするもんじゃないよ。セリスのことをどうしておまえが勝手に決めるんだ。」 ロックは私に殴りかかろうとしたが、開演のブザーに遮られ、館外に出ていった。
またセリスのところか・・・。 「兄貴・・・オレ・・昔のこともあるし、兄貴のこと一応わかってるけど、仲間裏切るようなことはやめような。」 「裏切るつもりはないよ、マッシュ。」 どうせセリスは私のモノにはならないのだから・・・。わかってて、やっているんだ。
我ながらガキだと思うが・・・・。少しでも一緒にいたい。長く喋っていたい。
他の女性にそうするように髪をなでて、美しさを褒めてやりたい。
何故かセリスにはそれができないのだが・・・・。 ステージに立って歌っているセリスは、いつにも増して・・・綺麗だった。



「セリスは、帝国軍のスパイなんだよ。」
そのケフカの言葉に反応したのは、ロックだった。
ロックは、セリスを怪しむような表情で見つめ、後ずさる。 「ロック、お願い。私を信じて。」
「セリス・・・・。」
なおもロックは、セリスを信じきれてないようだ。 セリスは突然ケフカを捕まえると、
「ロック、これで私を・・・信じて!!」
と言って、ケフカと一緒に深い穴の中に落ちていった。
私は、それまでじっと二人のやりとりを見ていたが、不意に我に返った。 「セリス!!!!!」
私は穴の中に向かって叫んだ。セリスの姿もケフカの姿も見あたらない。 「クソッッ!!」
私は、自分も穴の中に飛び込もうとした。 「兄貴!!!!!」
マッシュのたくましい腕が、私の体を押さえつける。
「離せ、マッシュ!!!離せ!!」 「兄貴、落ち着けよ。セリスなら大丈夫だ。」 「そんなのが、何故解る!!!ケフカには情はない。もし殺されでもしたら・・・。マッシュ!!離してくれ!!」 私はマッシュを振りきろうとするが、マッシュの力にかなうわけがない。 「兄貴・・・。大丈夫だ。帝国はそんなにバカじゃないだろ?セリスを利用するために生かしておくに決まってるよ。あの穴だって、帝国のどっかにつながってなきゃ、ケフカが黙って一緒に落ちるわけないじゃないか。」 「それでも・・・もしもって事があるだろ?もう・・・もう本気で惚れた女性を失うのは、嫌なんだ!!」 一瞬マッシュの力が弱まった。 「・・・だけど、兄貴はフィガロの王なんだ・・・。兄貴の身勝手な行動で、フィガロの人たちを見捨てるのか?そりゃ、オレが自由を得るために、フィガロから出ていかなければ、兄貴は、王じゃなかったかもしれない。でも、お互いが選んだ道じゃないか。今は、兄貴はフィガロの王様なんだ!!!」 ・・・そうだ・・・。私はフィガロ国王。
いかなる時も・・・・フィガロの民を優先的に考えなければならない・・・。
今私がセリスを追いかけて、返り討ちにあったら・・・。フィガロは・・・・。
「マッシュ・・・すまない。離してくれ。もう大丈夫だ。」 私はマッシュの腕から逃れると、地に座り込んだ。
「エドガー・・・。」
ロックが私に歩み寄ってきた。 「エドガーやっぱりセリスのこと・・・。」 「うるさい!!!今はおまえとは、話したくない。顔も見たくない!!セリスを信じてやれなかったくせに。」
ロックの顔色が変わる。 「それは・・・。」
「頼むから、私の前から消えてくれ!!!」 「兄貴!!言い過ぎだぞ。」
ロックは、何も言わずに立ち去った


「兄貴さぁ・・・、まだあの人のこと引きずってるのか?」 「いや、そうじゃないよ。もう忘れている。」 心にもないことを口走っている。忘れてなんかいない。忘れるものか。
あんなにも大切に想ってたあの人の命を奪われた日を・・・。
そういえば、あのときも・・・思い人は別の男のモノだったな。 「あの人・・・・セリスにちょっと似てたよな?」 「口の悪いところは、あまり似ていないけどな。男勝りで勝ち気なとこは似てるかもしれない。」 でも、だからセリスに惚れたわけじゃない・・・・・
マッシュは解ってくれているだろうから、何も特に言わなかったが。 「仲間を裏切るなとは言ったけど・・・オレ兄貴にはセリスが一番いいと思うんだ。兄貴、セリスの前じゃ、本当の兄貴でいるもんな。オレ以外の人の前でそうなのは、ちょっと悔しいけどな。」
マッシュは大口を開いて、豪快に笑った。
私は、耐えきれずマッシュに抱きついた。
「兄貴??オレ、そーゆー意味で言ったんじゃないぞ!!」 何を勘違いしてるのか、この筋肉ダルマは・・・。 「私だって、そういう意味にはとってないよ。」 そりゃそーかとマッシュは笑う。 「マッシュは、頼りになるな。それに比べて・・・私は・・。」 「兄貴!!兄貴は立派だ。さっきだって、セリスについていこうとしたのは、ロックじゃなくて、兄貴だったじゃないか!!はっきり言って、ロックよりもセリスを想ってるのは、兄貴だよ。」 「・・・マッシュ。大好きだよ。」
「やめろよ!!他人に聞かれたら、疑われるぞ。」
そういいながらも、マッシュは嬉しそうだった。


帝国は、意外にも簡単に私たちを受け入れてくれた。何か・・・何かおかしい・・・。
そう思って、私はティナと、ティナを守る気らしいロックには、ついていかなかった。 やはり、私のよみは当たっていた。不本意ながらも、”レディ”を口説いて、色々吐いて・・・
いや教えていただいた。こんな事をしている暇はないんだ。
そのレディはこうも言っていた。”レオ将軍と一緒に、セリス将軍も行った”と。
やっと・・・やっと会えるんだ。はやる気持ちを抑えながら、サマサの村に向かった。 サマサの村には、目的を果たしたらしいロック達と、レオ将軍。それにセリスがいた。
私たちが村に着くとほぼ同時に、ケフカもきた。それからはよく覚えていない。気づいたら、レオ将軍が倒れていて、ケフカがいなかった・・・・。 私たちは、レオ将軍の墓を作り、花を供えた。
悲しそうな表情を見せたティナにはびっくりした。感情が戻りかけているのではないだろうか。 その夜・・・。
私たちは宿屋の同じ部屋にみんなで泊まっていたのだが、
私はなんだか眠れなくてずっと布団の中で起きていた。ふとセリスの方を見ると、急にセリスが身を起こし、宿屋を出ていった。女性の夜歩きは危ないじゃないか!!
当然つけていった。気づかれないように。 セリスは、レオ将軍の墓の前にいた。 「レオ将軍!!!」
セリスは、レオ将軍の墓に泣き崩れた。 「セリス・・・。」
セリスは、ビクッとして私を見上げる。 「セリス・・顔が涙でぐちゃぐちゃだよ。」 本当に涙で顔がぐちゃぐちゃで・・・・でもとても可愛い。 「レオ将軍が亡くなったのが、そんなに悲しいのか?」 私は、指でセリスの涙を拭う。 「エ・・エドガーァ!!!」 セリスから私に飛びついてきた。黙って、強く抱きしめる。 ・・・柔らかい、風が頬をくすぐった。 「レオ将軍・・・・帝国では珍しい今も昔も変わらない、いい人だった。私のこともとても可愛がってくれたし・・・。憧れてもいた。強い軍人になりたくて、必死にレオ将軍についていったの。」
私は黙って、セリスの話を聞いていた。
「レオ将軍は私に言った。セリスも女の子なのだから、冷徹な軍人になってはいけない”って。”まともな恋をしなさい”って。」 ”まともな恋”が気になるが、あえて黙っておいた。 「私が帝国に再び戻っていったとき、みんな私のこと疑ってたわ・・・。でも、レオ将軍は、”元気だったか?”って・・・私のこと心配してくれた!!戻りたくなかった帝国だけど、レオ将軍がいるから、何とか平常でいれたの。」 「戻りたくなかったって・・・帝国が悪いことしてるのわかってたから?」 セリスは、私の問いに首を横に振る。
「ちがうの。それもあるけど・・・。思い出したくないことだから、聞かないで・・・。」
しばらく沈黙が流れた。 「レオ将軍は・・・いつでも私を疑ったりしなかった・・・。いつも・・・優しくて、強くて・・・。」 ああ、そうか。セリスはレオ将軍のことが好きなんだ。過去形かもしれないが。 でも何故か、嫉妬する気にはなれない。
「ロックは・・・私のこと疑ってるよね。」 か細い声だ。
「・・・そんなことないよ。ロックは、君を信じてる。」 思ってもない、言いたくもない言葉を吐いてしまう。でも、セリスがもっと沈んでしまうのは嫌だから。 「ううん。ロックは・・・私を疑っていたもの!!魔導研究所で・・・ロックは・・。」
自然と私の腕に力が入る。
「そんなことない!!ロックもみんなも、セリスを信じてるよ。ほら・・最初に疑ってたカイエンだって、君のこと信じてる。」 「エドガー・・・・。いつもと違って、今日はすごく優しいのね。」 セリスは小さく笑う。私は、なんと答えて良いか解らず、黙っていた。 「ロックは、私を疑ってたみたいだけど・・・。あのときエドガーが、私の名前叫んでるのは、ちゃんと聞こえたよ。私のこと、嫌いでも信じてくれてたんだね。」
体が熱くなるのが解る。 「それは・・・・」
いいわけができない。
セリスの腕が、私の首に回された。
「エドガー・・・ありがとね。」
セリスが私の顔を見上げる。 「エドガーが、私のこと嫌いでも、私は大好きだよ。」 セリスは、そう言うと軽く私を突き飛ばし、宿屋に向かって、走っていった。
今のは、友情の大好きなのか・・・?それとも・・・・。 私は、セリスのことを嫌いと言ったことを、後悔した。

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