DESIRE 11



セリスは、当然のように毎日を私の部屋で過ごしていた。
寝るのも私の隣で・・・起きるのも私の隣。
食事をとるのも私の隣・・・。
皆の視線が痛いが、(特にロックとセッツァー)それはそれで幸せだと思える。
セリスも、笑顔で居てくれるし・・・。作っているのか、自然なのかはわからないが。
「エドガー、星が綺麗よ。」
夜、セリスはそう言いながらいつものように私の部屋に入ってきた。
「そう。君はどこにいたの?」
セリスは、微かに笑った。
「ちょっと・・・セッツァーと外にいたの。
セッツァーったら、飛空挺のこと長々と語ってくれちゃって・・・
寒くはないけど、さすがに体冷えちゃったわ。」
セリスはそう言うとベッドに座っている私に近づく。
「エドガーは暖かい?」
「今まで少し寝ていたからね。君よりは暖かいよ。」
私がそう言うとセリスは私の膝の上に乗ってきた。
「エドガー、鎧が邪魔だわ。外して。」
セリスの言葉通り鎧を全て外した。
セリスは、私が鎧を外し終えたところで、私の背中に腕を回す。
「うん。エドガー暖かいね。」
セリスが呟く。
「君は、冷たいね。風邪をひくよ。」
私はそう言って、セリスを抱き締める。
「・・・訊かないの?セッツァーと何してたのか。」
セリスが私を見上げる。
「訊かないよ。どうして?」
ううん。前なら訊かれたなって・・・。」
「訊いて欲しい?」
「じゃあ、セッツァーと何話してたの?」
「ヒミツ。」
セリスは、笑ってそう言った。
「仕方ない娘だね・・・。」
私は、溜息混じりにそう言う。
「ウソだよ。・・・あのね。ティナのこと話してたの。
ケフカを倒しに行く前に、ティナのとこにもう一度行ってみるか・・・
それともティナをそっとしておいてあげるか・・・。」
セリスが言った。
「そんな話をセッツァーと?」
「それだけじゃないけど・・・。後は・・・エドガーの話。」
「僕の話?どんな?」
セリスは、私の胸に顔を埋めると深い溜息をついた。
「本当にエドガーと結婚してもいいのかって訊かれたの。」
「そう。・・・で、君はなんて答えたの?」
「もちろん、即答で頷いたわ。」
背中に回されているセリスの腕の力が強まる。
「そしたら・・・セッツァーったらスゴイ剣幕で・・・。
”エドガーはフィガロの王だから、セリスなんかを嫁に出来るわけないだろう!!”って。」
「セリスなんかって・・・。セッツァーがそう言ったのか?」
セリスは頷いた。
セッツァーがセリスのことをそんな風に言うなんて信じられないが。
どうしてもセリスと私をくっつけたくないのだな。
「考えてみれば、そうだよね。一国の王様がタダの女と一緒になれるわけない。」
セリスが顔を押しつけている胸の辺りが湿ってくる。
同時に、セリスの微かな泣き声が耳に届く。
「そんなことないよ。私の国では、私が法律だ。」
私の言葉にセリスは微かに笑う。
「君が嫌だって言っても、誰が反対しても、君はフィガロに連れて帰るよ。全てが終わったら。だから、泣かないで大丈夫だよ。」
私がそう言うと、セリスは一層腕の力を強め、頷いた。
しばらくそうしていたら、泣き疲れたのか、セリスは私の腕の中で寝むってしまった。


夜中、何か胸騒ぎがして目が覚めた。
胸騒ぎ的中・・・横にセリスが居ない。
私は慌てて起きると、飛空挺内を探したが、セリスの居る気配はなかった。
「中には居ないのか・・・。」
私は、外を探すことにした。
飛空挺の外に出ると、案外簡単にセリスらしき影が見つかった。
それともう一つ・・・影がある。
「誰だ?」
目を凝らしてその影を見つめる
・・ケフカ?
私は、自分の目を疑った。
少し近づくと、二人の会話がはっきり聞こえた。
二人に感づかれないように、息を潜めて盗み聞く。
「約束通り、来てくれたんだね。セリス。」
ケフカは、そう言うとセリスを抱き締める。
セリスは、ケフカを突き飛ばした。
「和解するためじゃないわ。もう一度貴方を確認しておこうと思って・・・。」
セリスは、そう言うと常勝将軍セリスの顔をする。
しばらく見ていなかったので、忘れていたが・・・
月明かりに照らされて、いつになく綺麗だ。
「確認?なにを?」
ケフカが問う。
「ねぇ、ケフカ。もう、こんな馬鹿げたことやめてよ。どんなに人が死んだと思ってるの?もう、やめましょう。今なら、まだ間に合うから。みんなに、謝って・・・世界を元通りにすれば・・・。」
「もう・・・遅いんだ。セリス。」
ケフカの顔つきと、口調が明らかに変わった。
ほんの一瞬だったが。
セリスも、驚いている様子だ。
「ケフカ?」
不安と、喜びが混ざっている表情だ。
だが、ケフカはいつもの・・・私の知っているケフカに戻ってしまう。
「こんなに紳士的に言ってもダメか?私と一緒に来い、セリス。」
ケフカは、セリスに手をさしのべる。
「嫌!」
セリスは即答した。
「どうしても・・・考えを改めてくれないのね。」
セリスは、目を潤ませてそう言った。
「どうやっても・・・昔のケフカに戻ってくれないのね。」
セリスは、呟く。
「セリス、私と一緒に来れば、世界全てをお前のモノにすることも可能だよ。お前のためなら、この世界くらいくれてやろう。」
ケフカの言葉にセリスは首を横に振る。
「貴方は、世界を滅ぼすつもりなんでしょう?何もない世界なんて、要らないわ。いえ、たとえ何かあったとしても、世界なんか欲しくない。世界を誰か一人のものにしちゃダメなの。わかるでしょ?ケフカ。」
「わからないよ。」
セリスは深い溜息をつく。
「何を言っても無駄のようね。私、みんなの所へ帰るわ。」
セリスは、そう言うとケフカに背を向け、こちらに向かってきた。
「帰らせないよ。帰らせるもんか。帰らせるつもりなら、呼んだりしない。連れて帰るんだ・・・」
ケフカは、そう呟くと、後ろからセリスを両腕で捕まえた。
「やっ!!」
セリスは、ケフカの腕の中で暴れるが、ケフカの力にはかなわない。
「ヤダ!!!嫌だってば!!離してよ!!」
セリスは、ケフカ程度の力ならはね飛ばせるくらいの力で抵抗しているはずなのだが、
ケフカはびくともしない。
マッシュと同等・・・いや、それ以上の力で押さえ込んでいるはずだ。
「おとなしくしなさい!聞き分けのない娘だね。」
ケフカは楽しそうに笑うとそう言った。
「この悪魔!!ケフカを返してよ!!」
セリスが叫ぶ。
「悪魔とは心外だね。私は今も昔もケフカだ。」
ケフカは不気味に笑う。
その不気味すぎる顔に、私は体が動かなかった。
「私と一緒になると、言いなさい。」
ケフカは静かな声で言う。
「嫌よ。」
セリスの言葉に逆上して、ケフカはますます腕に力を込める。
「うっっ・・・」
さすがに苦しいのか、セリスが呻く。
「言いなさい。」
ケフカが迫る。
「い・・嫌よ。私・・・エドガーと結婚するって・・・約束したの。
エドガー、私をずっと愛してくれるって・・・。
だから・・・、もう・・・昔の貴方に未練なんかないの。
それにつけ込んでいるのなら、諦めた方がいい。」
セリスは、頼もしくもにやっと笑う。
「本当に、聞き分けのない娘だね。」
ケフカは、セリスを絞め殺すほどに腕に力を込める。
セリスの顔は、苦痛の歪みを見せた。
「ほら、苦しいでしょう?私と一緒になると言えば、すぐにゆるめてあげるよ。」
セリスは、深い溜息をついて叫んだ。
「エドガ―――ァァ!!!」
私の体は、その声に反応して、二人の前に飛び出る。
「エドガー?」
セリスが弱々しい声で呟く。
「邪魔をする気だね?」
ケフカは、幾分か腕の力を弱め言った。
「時期王妃を、勝手に連れて行かれては困るからね。」
おどけてはみたものの、勝てる見込みはないのだが・・・。
ケフカは、厭な笑みを見せる。
「無駄だよ。セリスは、僕のモノだ。」
ケフカは、高笑いをするとそう言った。
セリスがずるっとケフカの腕から滑り落ちる。セリスは、膝を立てて、呼吸を整えた。
「まぁ、いい。そのうちわかるからね。」
ケフカはそう言うと、闇の中に消えていった。
セリスは、ゆっくり立ち上がるとふらつきながら私に近づき、
そのまま倒れ込むようにして私の腕の中におさまった。
「エドガー・・・」
意識があるのか、ないのか、セリスはそう呟くと後は何も言わなかった。



翌朝、目が覚めると、セリスは私の顔に自分の顔を近づけてじっと私を眺めていた。
「どうしたの?セリス。」
セリスは、私の問いににこっと笑うと起きあがって言った。
「何でもないよ。早く着替えてみんなのとこに行かなきゃね。
私着替えるから、向こう向いててね。」
セリスはいつも、そう言って私の居る部屋で平気で着替えるのだが。
見られたくないのなら、元のセリスの部屋に行って着替えればいいものを・・・。
それだけ、信用してくれていると言うことか?
いつも通り私はセリスの方を見なかった。
いや、何故か今日は、見ていないフリをして見ていた。
セリスは、私に背を向けて着替え始めた。
セリスが上着を脱いだとき、私は目を見張った。
セリスの背中に斜めに刀傷の跡と、やけどの跡らしきモノがあった。かなり目立つ。
「セリス・・・その傷・・・。」
私は、思わず声を出す。
「見ないでって言ったでしょ。」
セリスが冷ややかな目で私を見る。
私は、セリスに構わずセリスを抱き寄せ、背中の傷を触る。
「いたっ!!」
セリスは、小さく声を上げた。
「新しい傷じゃないのに・・・痛むのか?」
セリスは、無言で頷いた。
「どうしてこんな・・・。」
セリスは、唇をかみしめ何も言わない。
「誰にやられたんだ?」
セリスは、私を突き飛ばすと、私の視界に背中が入らないように前を私に向けた。
当然・・・見えるわけだが、そんなことには構っていられなかった。
私は、セリスを捕まえると、無理矢理背中を見る。
痛々しくて、目も当てられない。
「エドガー、離して。もういいでしょ?」
「ケフカにやられたのか?」
私が問うと、セリスの体が凍てついたように固まる。
「ケフカじゃないわ。アレはケフカじゃない。」
セリスは、呪文のように繰り返す。
私は、背中からセリスを抱くと、背中の傷に唇で触れた。
「エドガー!何を?」
「傷が消えるおまじない。大丈夫。本当に効くから。」
私は、そう言うとセリスを解放した。
セリスは、しばらく動かなかったが、やがてちゃんと着替えて先に皆の所へ行った。
きっと・・・笑顔で

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