DESIRE 10 「エドガー?どうしたの?」 「あーっっ!!!なんでセリス、エドガーの指輪してるの??」 私の部屋に戻ると、セリスは深刻な顔で言った。
1
何も言わずに私の部屋に連れ込んだためか、セリスは不思議そうな顔をしていた。
「大切な話をしようと思ってね。」
私はそう言うと、私の愛用品であるオルゴール付きの宝石箱を開ける。
オルゴールが流れ始める。
「何?」
「大切な・・・凄く大切な話。君が了解してくれるなら、話すよ。」
「聞かなきゃわかんないわよ。」
「了解してくれないなら、言えないよ。」
セリスは困ったような顔をする。
「・・・わかった。聞かせて。」
「了解するんだね?後から、やめたはなしだよ。」
「わかってるわよ。」
セリスは苦笑混じりに言った。
「じゃ、目をつぶって。」
セリスは、言われたとおりに目をつぶる。
私は宝石箱から、一番高価な指輪を取り出した。
「左手、貸して。」
セリスは、素直に左手を差し出す。
私は、その綺麗な白い手の薬指にゆっくり指輪をはめた。
セリスは、目を開け指輪を見つめる。
「何?コレ・・・指輪?」
「そう、指輪。でもタダの指輪じゃないよ。」
「見ればわかるわ。高そうな指輪ね。くれるの?」
セリスは指輪をマジマジと見つめている。
「どうして君はこういう時にまでボケるかな・・・。普通の指輪じゃないってコトだよ。」
苦笑混じりに言ってやると、セリスは首を傾げた。
「わかんない。何か仕掛けてあるの?」
セリスは、指輪を外して上にかざしたり、くるくる回したりして観察した。
「あのね・・・・君、婚約指輪ってわかる?」
セリスはとたんに顔を赤くする。
「これ・・・そうなの?」
私は黙って頷いた。
「結婚しよう、セリス。全てが終わったら。」
「ダメ!!!こんなの頂けないわ!!」
セリスはそう言って、指輪を私に突き返した。
「どうして?やっぱり僕とじゃダメかな?」
「いえ、そうじゃなくて!!エドガーは、フィガロの王様なんだよ!!私となんか結婚したらダメだよ!!」
「僕は、君じゃなきゃイヤだよ。それに、了解してくれる約束だろ?」
私はセリスの左手に元通り指輪をはめる。
「でも・・・。」
「ロックみたいに、”守る”とか、”絶対幸せにする”とかさ、立場上言えないけど・・・。でも、一生・・・この命が絶えるまで君だけを愛してるよ。」
セリスが『愛されるコト』に弱いのを知っていて、『愛』という言葉を使ってみた。
「私で・・・いいの?後悔しない?」
「しないよ。するわけない。」
セリスは、指輪を右手で包み込む。
「さて、返事を聞かせて貰おうかな?」
「エドガー・・・。」
セリスは、笑顔で応えてくれた。
2
皆が集まる大広間に行くと、リルムがセリスに食いついた。
「あ・・・えっと・・。」
セリスは、口ごもって私を見る。
「約束したからだよ、結婚する約束。」
私は笑顔で答える。
その場にロックが居ることを意識して。
(と言うよりは、皆居るのだが・・・。)
「結婚????!!」
皆、椅子に座っていたのに立ち上がる。
「本当なのか?兄貴!!」
「ケッコンって何?食うモン?」
「・・・良かったでござるな。」
「・・・・・。」
「結婚・・・懐かしい響きじゃゾイ。」
一人、かなりふてくされたのが私を呪うような目で見ている。
そして、もう一人・・・呪うどころか、殺されそうなほどの眼差しで見ているのがいる。
「何か文句があるか?ロック。」
この際、ふてくされている奴は放っておいてもいい。
「いや・・・。エドガーはオレのいない間、どうやってセリスに取り入ったのかと思ってね。」
「ロック!そんな言い方やめてよ!」
セリスが言った。
「セリス・・・。」
ロックがセリスを悲しそうな目で見る。
私は、セリスの決心が揺るがないようにセリスの左手を強く握った。
「セリス、それで後悔しないのか?いいのか?好きでもない奴と一緒になって!!なんでだよ!!何が不服なんだよ!!なぁ、オレ悪いことしたか?だったらなおすから・・・。」
ロックは、かなり無気になっている。
「違うわ。ロックは悪くない。私エドガーが・・・・。」
セリスは、深く深呼吸した。
「エドガーが、好き。」
これが、セリスの本心だったらどんなに良かっただろうか。
当然、本心じゃないことはわかっているのだが・・・・。
ロックは、私の方にスゴイ勢いで歩み寄ると、私の左頬を思いっきり殴り飛ばした。
「エドガー!!!」
セリスがすぐ支えに入ってくれた。
「ロック、やめろ!!」
マッシュがロックを押さえている。
「ロック殿、頭を冷やすべきでござるよ。」
カイエンが言った。
「いいよ。気が済むまで殴ればいい。殴ることしかできないんだからな。」
私の皮肉にロックは顔を赤くしてますます怒る。
「マッシュ、離せよ!!!」
ロックがマッシュの腕の中で暴れるが、ロックの力ではマッシュにとっては、
虫ほどにも感じない。
「エドガーは、気が済むまで殴れって言ってるだろ!!離せ!!」
なおも、ロックは暴れ続ける。
「マッシュ、離してやれ。」
「でも、兄貴・・・。」
「ありがとう。でもいいから。」
マッシュはためらいながら、ロックを離す。
ロックは、それと同時に私に馬乗りになって何度も顔を殴った。
私は、抵抗しなかった。
「やめなさい!!」
不意に、セリスが私とロックの間にはいる。ロックの拳がセリスの横腹に当たった。
「セリス!!!」
慌てて飛び起きる私とロックの声が重なる。
「ロック、もうやめてよ。エドガーは本当に何も悪くないよ。」
セリスは、結構聞いたのか私の体に全体重を預けている。
ロックは舌打ちすると、何処かに消えていった。
「大丈夫?エドガー。」
「それはこっちのセリフだよ。」
「ゴメンね・・・。私がわがままなせいで・・・。綺麗な顔がこんなになっちゃって。」
セリスが私の顔に触れる。
痛みが退いていくところをみると、回復呪文でも使ってくれているのだろう。
「いや、君のせいじゃないよ。」
「セリスのせいだよ!!!!」
突然リルムが叫ぶ。
「リルム?」
皆が驚いた顔をしている。
「リルム知ってるんだから!!セリスは、ロックにも好きって言ったことあるよね!!そんで、エドガーにも言うの?ロックはどうしたんだよ!!」
「リルム、やめるんじゃ。」
ストラゴスがなだめに入る。
「おじいちゃんは黙ってて!!このままじゃエドガーが可哀想じゃない!!」
「リルム・・・。」
私は呟いた。
「セリスはねぇ!!セリスを愛してくれるんだったら、誰でもいいんだよ!!エドガーじゃなくて、そこでふてくされてるセッツァーだって、ムキムキマッシュだって!!おっさんカイエンだって!!」
皆、呆気に捉えて何も言えない。
「何で、セリスは愛されたがるの??何で自分から愛そうとしないの!!ロックは、確かにあんまり良いって言えるようなコトしてないよ。
でも、セリスのが悪いじゃん!!色んな人に気があるようなフリして!!結局エドガーに落ち着くんだ。一番セリスを”愛してる”もんね。
でもきっと、セリスはエドガーが何をしてくれても満ち足りないよ!!自分から人を好きになることが出来ない人が、幸せになれるはずないもん!!!」
リルムは更に続ける。
「ロックに惹かれたのだって、”守る”って言われたからなんでしょ?それも受け身じゃない!それでロックが本当に好きなのは昔の恋人ってわかったら、すぐ楽な方に逃げちゃうの?どうして、そのレイチェルとかいう女からロックを奪おうとか思わないんだよ!!・・・セリスって・・・ズルイよ。」
「リルム、言い過ぎじゃゾイ。」
やっと、ストラゴスがリルムを止めた。
「でも・・・確かに間違ったことは言ってないかもな。・・・もちろん、セリスがそんな奴でも、オレは好きだけどな。」
セッツァーはそう言うと部屋を後にした。
「リルム・・・。」
セリスが、ようやく口を開く。
「文句言っても無駄だよ。リルム間違ってないもん。」
「そうよ。間違ってないわ。」
セリスはにっこり笑ってそう答えた。
「リルムは・・・エドガーが好きなのね。」
セリスはリルムに近寄るとそう言った。
リルムは顔を赤くして俯く。
「・・・でもね。ゴメンね。私・・・エドガーと結婚するって決めたの。」
セリスはそう言うと、リルムに背を向けた。
「ありがとう、リルム。」
セリスは、私の部屋に向かって歩き出した。
私も、みんなに目をやり、セリスの後を追いかけた。
3
エドガー・・・。リルムが言ったこと・・・全部本当だよ。それでも・・・コレを私にくれるの?」
セリスは、婚約指輪を差し出す。
「当たり前だよ。・・・僕は、あんなコト全てわかっているから。」
「・・どうして、それで許せるの?私が許せないでしょ?言ってみれば二股・・・三股かけてるみたいなもんだよ!!!」
セリスは、興奮気味で私を叩く。
「ねぇ、セリス。君はどうして僕が君のことを好きか考えたことある?」
突然の問いに、セリスは戸惑った顔をした。
「ないわけじゃないわ・・・。でも・・・私にはわからない。」
「そう。」
私は、優しくセリスを抱き締める。
「セリスは、運命って信じる?」
「何を唐突に・・・。」
「真面目な話だよ。」
セリスは、しばらく黙った。
「そうね。良い運命なら信じたい。」
「そう。・・・私は、君を初めて見たときからずっとずっと想ってた。ロックのことを好きな君も好きだし、ケフカを好きな君も好きだし、もちろん、他の奴に惚れてても、必ず私はセリスが好きなんだ。可笑しいね。嫉妬だけはするくせに。」
セリスは黙って聞いている。
「セリス以外の・・・ティナとかに惚れてたらもっと楽だったかもしれない。いや、楽だったんだろうな。でも、絶対セリス以外に惚れるコトってないんだよ。」
「どうして?」
セリスがか細い声で聞く。
「僕にもわからなかったんだけど・・・。僕にとっては、セリスは完璧なんだ。セリスが何をしても、ゾクゾクするほど可愛く感じる。さすがに、拒絶されたときはショックだったが・・・。」
「アレは、エドガーを拒絶したんじゃ・・・。」
「わかってるよ。」
セリスは、小さい溜息をもらす。
「僕が君に出会ったのって・・・運命だと思わない?」
「うんめい?」
「そう。君が僕に出会ったのがそうでなくても。僕にとっては”運命の出会い”昔、父王が行ってたよ。この人だと思う人と出会ったら、”運命の出会い”という特別の出会いだって。小さい頃に教えて貰った話だけどね。」
私は、苦笑してセリスを覗き込む。
「だから、私が好きなの?」
「いや、セリスを一番愛してるから、運命なんだよ。」
「よくわからない。」
「僕にもよくわからないよ。」
私の口から笑みがこぼれる。
「エドガーって・・・。」
セリスが何か言いかけた。
「何?」
「・・・何でもない。」
セリスは苦笑した。
「あのね・・・。エドガーってクサイのね。言うことが。」
セリスのために言っているのに・・・とは思ったが、セリスが笑っているから、何でもいい。
「ありがとう。私やっぱりエドガーって好きだよ。」
セリスはそう呟いた。