サッサッサッ……。
俺の髪の中を流れる櫛の音だけが響く。
俺の髪を梳かしているシグ。
いつもの朝と何も変わらず、俺の支度を手伝ってくれる。
ただいつもと違うのは、俺もシグも一言も話していない事だ。
「出来ました、若」
「ありがと」
俺は立とうとした。しかしその肩をシグに押さえつけられる。
「若……」
俺は振り返らず、その手を払い除けた。
「皆が待っている…早く大広間へ行こう……」
「……はい……」
長い廊下を歩く。背後にはシグ。二人の空気は重かった。
早く大広間に着いて欲しかった。まったく城ってやつは無駄に広れぇな…。
大広間に入ると、大テーブルには全メンバーが揃っていた。
城の当主が座る席と、その補佐が座る席が空いていた。
俺は一通りシャーカーンとゲブラーから、アヴェを取り戻す事が出来た礼を述べる。
その後は全員で、第二のゲートの作戦会議だ。
俺もシグも何事も無かったように、皆に混じって発言を繰り返す。
そう何事もなかった。
なかったんだよ。誰も知りやしないんだし。
「早速ユグドラに戻って作戦開始だ!」
先生達をバベルタワーで下ろして俺達も碧玉の砲台を目指した。
目的地までの移動は多少の時間を要した。
シグは作戦に向かう俺とビリーに少し部屋で休んだ方がと促したが、
俺もビリーも部屋へは行かずに、ブリッジで待機していた。
ビリーは重大な任務に緊張が解れぬ様子だ。
俺は一人になるより、今はブリッジ(ここ)の喧騒の方が落ち着いた。
何も考えないで済むから。
「若……アンドヴァリの…片翼」
「いい…あれで! 修理する時間もねぇし!」
俺はまたシグの言葉を最後まで聞かずに遮る。しかも少し乱暴な返事だ。
「ええっ! まだ治ってないの? 不安だよ…」
甲高い声のビリー。
「大丈夫だって! お前はお前の事だけを考えてればいいんだって!
それに俺様の腕を見ただろ? シャーカーンのヤツをめちゃめちゃに…」
「だって、それはシグルド兄ちゃんもいたから」
「て、てめぇ! うるせぇな! シグの力はもう借りねぇんだよ!」
俺はちらっとシグを見た。
シグの瞳が微かに揺れたようだ。
「それに、シグはユグドラ(ここ)の事もあるし、そう簡単には出動できねぇんだよ。
大丈夫だって、俺の腕を信じろってぇーの!!」
と啖呵を切ったものの…。確かに安定感は悪いようだ。
「またお前えら、バカ二人のお相手かよ…」
エレメンツの漫才コンビが俺達のお相手だ。
「トロネちゃん、トロネちゃん…バカにバカって言われたよ!」
「お前がバカだから、こんなラムズ如きにバカにされるんだろっ! さっさと片付けちまうぜ!」
こいつら漫才(二人)の力の強さは教会発掘現場で知らされていた。
油断はならねぇ…が、やはり思うように動かせないのも事実だった。
アンドヴァリに乗り始めて、まだ間もない上に、片方の翼を失って不安定だ。
しかし、俺は敢えて翼を修復しようとはしなかったのだ。
「大丈夫ですか?」
流石に俺の異変にマリアも気づいたらしい。
「あぁ、大丈夫だっての!! あと一突きだ!」
エレメンツが止まった。
「今だ! ビリー撃て!!」
緊張の数分間。
「若……」
ユグドラからのシグの声。不吉な予感。そして的中……。
「ああ、失敗か!」
呵責にかられたビリーの声だ。
「気にすんな」
「バルト!!」
「落ち着いて狙うんだ」
「さっきの二人が復活しました」
漫才二人のギアが立ち上がった。俺は舌打ちした。
正直言って、燃料はあと僅かだ。掌が湿っているのが解かる。
「若! 大丈夫ですか!!」
いつもの…そうだ…いつもと何も変わらぬシグの声。俺を心配する。
しかしどうだ? 俺は昨日から妙にその声が煩わしかった。
「だいじょーぶだってぇの!! 俺ももうガキじゃねぇんだよっ!!
気が散るから黙っててくれ!!」
俺の返事や態度…シグを傷つけているのは、痛いほど解かる。
解かっているのに、何故俺はそうする?
まるで“あの日”と変わらないガキだよな…俺って。
「マリア、行くぜ!!」
二発目のビーム砲が発射された。
「ちぃ! ラムズふぜいが……!!」
「……ふぜーがー!!」
「お前は喋るなって言ってるだろーが! 引き上げるぞ!!」
尻尾を巻いて帰った漫才(ふたり)。
アンドヴァリの燃料とフレームのHPはエンプティ間近だった。
第二のゲートまでの破壊は成功。残るは一つ。
再びファティマ城大広間での作戦会議だ。
先日と同じ…あぁでもない…こーでもないと意見が飛び交う。
俺も普段と変わらずそれには参加していた。
ソラリスがどうのこうのって……。
先生とエリィ……そして…シグだ…!
彼らは嘗てソラリスとやらにいたんじゃねえのか?!
だが、早くも俺の思案を遮ったのはフェイだった。
「先生、エリィ……そしてシグルド……。
ソラリスの具体的な場所はどこなんだ?」
多重人格のお前! たまには良い突っ込みをするじゃん!
しかし、三人はそれぞれの色の瞳を翳らす。
「地上との具体的な関係は、かなり上の者、
司令官クラスの者以外には明かされていないのよ」
元ゲブラーであったエリィ。
あの猫瞳野郎め!!
つまりラムサスとその直属の配下エレメンツしか知らねぇって訳だな…!
アヴェ奪還失敗の暁にラムサス艦に囲まれた時だ。
絶望的な俺のユグドラ。
本来なら一撃で倒せただろうに…。
だがしかし…象牙色の髪をもつ優男は攻撃をしなかった。
それは……。
シグは俺がまだ、ほんの乳飲み子だった頃、
ソラリスに被験者として拉致され、薬物投与、
過酷な実験により、その精神が廃人状態となった。
偶然、今はゲブラーの総司令官である、ラムサスにその能力を認められ、
エレメンツとして抜擢されたが、
依然薬物投与による精神コントロールの支配下から打破できず。
時折自身を見失う事があったそうだ。
そして……ある時、たった一度の過ちとして、
あの……カールとやらを抱いてしまったと!
シグの口から聞いた…………。
たった一度の過ち…過ちか……。一度の……過ち………。
シグにとっては過ちだったかもしれねぇが…。
過ち……か……。
「行ってみましょうか、タムズに」
第三のゲートは深海にあると予想。ユグドラでは当然そこまで持たない。
俺達のギアでも。
タムズの艦長に力を借りる事となった。
皆が部屋を後にする。
残された俺とシグ。
「若…」
俺が席を立とうとすると、シグに呼び止められた。
「……若…すみません…」
俺はシグを振り返る。ふつふつと怒りが湧いてきた。
「何で謝るんだよ!!」
俺の怒りの瞳を見たシグは言葉を詰まらせる。
「後悔したのかよ……。16歳だった頃の俺をたった一度だけ抱いたのをさ!!」
最早シグからの弁解は聞けない程、俺は捲くし立てる。
「過ちか? あのラムサスとやらを抱いてしまった時と同じ…」
「若!! それは違います」
シグの心が傷つくのを彼の瞳の中に見た。それでも今の俺は止めれない。
「どう違うってんだよ! お前は俺が弟だと知ってて……」
「……」
「だから……罪滅ぼしで……俺に目ん玉くれたのかよ!!」
そして俺は更にシグに止めを刺した。
シグが俺に角膜をくれた事。
シグはそれを俺に隠していた。しかし俺は知っていた。
シグが隠したいのなら敢えて言わないだけだ。
シグは頭を垂れ、何も言わない。
俺もシグ哀しい表情(かお)は見たくなかった。
「……皆が待ってる…ユグドラへ戻ろうぜ」
「俺達ゃ、海の、男だぜ!」
タムズの陽気な艦長に会うと気分が晴れるぜ。
深海に潜れるようにギアに水中装備を頼んだ。
「なぁに、すぐに済むさ! ほれ、ビアホールで酒でも飲んで待っててくれ!」
「ありがとよ、艦長! おい、フェイ、酒飲もうぜ! 酒!!」
ちったぁ、俺も頭冷やさないとな。これじゃ、戦いにまで影響が出るぜ。
「若…飲み過ぎませんように…」
とシグ。
「解かってるって! フェイ行くぞ!」
「あ…あぁ」
「ひゃー! うまいっ!!」
俺はキンキンに冷えたビールを一気に飲み干した。
「シグルドが妙に落ち込んでいたぜ…。お前また困らせるような事したんだろ」
口数の少ないフェイが珍しく先に話して来た。
「した…」
俺はぶっきらぼうに答え、空いたグラスを差し出す。
「おい、飲み過ぎるなよ」
「解かってるって。ったく…シグもお前もうるせぇなぁ」
更にもう一杯、一気に飲み干す。既にフェイは閉口していた。
「あいつ…シグの奴にちょいと言い過ちまってよ……。
俺もどうすりゃいいのか、わかんねぇんだよ」
「と言うと?」
「碧玉だよ……」
「あぁ…シグルドがロックを解除した事か…」
まったくとぼけた野郎だな。
「親父の遺言を無事に果たして……。
遺言の続きも……兄貴……に言った」
兄貴……。俺は自分でその言葉を言っておきながら狼狽した。
フェイがようやく一杯目のビールを空ける。
俺は既に酔いが回ってきた頃だ。
「俺とお前が知り合った頃にさ、
シグルドにお前の友人になってやってくれ…って頼まれた事がある」
「あいつ……余計な事頼みやがって…」
「お前が背負ってるものを分ち合いたいと思っても、自分には共有できないとな」
「………」
「シグルドの方が…ずっと辛い思いをしてたんじゃないのか?」
フェイは無表情に言った。多くを語らないが俺を気遣ってくれている。
俺は自分が馬鹿みたいだった。
一人取り残されているようで。いつまで経ってもガキ。
俺はフェイに気付かれぬよう、小さな溜息をついた。
「そろそろ、行こう」とフェイが立ち上がる。
「あぁ…」
俺は心許ない返事をして、のろのろとフェイの後を追った。
タムズで飲みすぎた上に深海での戦闘。
俺はユグドラに戻って来た時、頭痛が酷かったから、少し休む事にした。
明日は一旦シェバトへ戻り、いよいよソラリスへ向けて出発する事となる。
俺は軽くシャワーを浴び、そのまま風に当たりに甲板へと出た。
月は蒼白く輝いている。
濡れた髪に夜の風は少し冷たかったが、それも心地よかった。
「シグルド……貴方らしくありませんね」
シタン先生の声だ。俺は咄嗟に物陰に身を隠す。
「碧玉の事で、若くんに異母弟だと知られた事ですか?
何だか貴方たち近頃、険悪なムードですよ」
「ヒュウガ……俺は……」
シグはいつになく不安定な声だ。
「貴方が…どんなに若くんを大事に思っているか、私にはよく解かります。
貴方がカールの元を去り、ソラリスを脱出する際、
自力で精神コントロールを打破したのには驚きましたからね。
当時まだ幼かった弟の若くん達の為に」
先生は知っていたんだと俺は驚く。
「それから、若くんに出会って、これまで共に行動をしてきて、
貴方と若くんの間には兄弟以上の何かを感じていましたよ、
とくにシグルド…貴方にはね」
「参ったな…ヒュウガ……。お前は何でもお見通しだな」
シグの銀の髪が月光に照らされて輝いている。
俺は自身の濡れたままの髪を思い出し、
寒さを感じたが、もう暫くシグの話を聞きたかった。
「心身ともに傷ついた若をシャーカーンの元から連れ出した時に、
この人を守ると誓ってずっと今まで側にいた。
たった一人の弟を心底愛しいと思っていた。
しかし日を追うごとに俺の中での戸惑いが現れ出してね」
シグは先生から目線を逸らす。
「何時の頃からか……俺は若に欲情していたんだ」
俺は息を詰まらせた。鼓動がゆっくりと大きな音を立て始める。
「シグルド……!」
「ヒュウガ…誤解しないでくれよ……。カールへの過ちとは違う」
また心臓が一つ大きく打つ。
「俺はずっと耐えた。時には彼の身支度をしてやるのも嫌になってね」
俺は胸が少しずつ締め付けられていく。
「いつものように若の髪を乾かしてあげていた…ある日……。
俺はとうとう自身の感情と欲に負けてしまったんだ」
俺の脳裏には2年前のその夜が浮かんだ。
「後悔したのですか?」
先生の問いに静かに首を横に振るシグ。
「若を抱いて…俺の弟への愛が覆された。
しかし、若はどうであろう?
いずれ私が兄だという事を知るかもしれない……
その時、若が苦しむのではないだろうかと」
「シグ………!」
俺は声にならない声でシグの名を呼んでいた。
(シグルドの方が…ずっと辛い思いをしてたんじゃないのか?)
そしてフェイの声が頭の中で繰り返した。
「貴方は……自分の気持ちを伝えるのがヘタですね。
ソラリス時代、ユーゲントの女の方達とはよろしくやっていたのに」
「……ソラリス……か…」
「ええ…。とうとうまた行くハメになりましたね。
これから未来(さき)は、私達もどうなるか判りません。貴方も後悔のないように」
ここはシェバト王都内で間借りさせてもらっている俺の部屋だ。
明日はいよいよソラリス。
俺の背後では、いつものようにシグが濡れた髪を乾かしてくれている。
「できました……。私はユグドラの方へ戻ります。何かありましたら…」
俺は椅子から立ってシグの手首を掴んだ。
「……今日は……ここへ泊まっていってくれ」
「! わ…か…!?」
俺は少し背の高いシグの首に両腕を回してぐっと顔を近づけた刹那、シグの唇に自分のを重ねる。
「!!」
シグの隻眼が揺れた。
俺はシグの背中に両腕を回し、シグの胸に自身の顔を埋めた。
「……俺は……傷ついたり、苦しんだり…そんなこたぁ…しねぇよ」
「若?」
シグの胸の鼓動が力強く鳴り響いている。
「ごめん……。昨夜の先生との話…聞いちまってよ」
「若!!」
シグが俺の両肩を持って、自身の身体から離そうとした。
俺はそれを拒否し、頑なにシグの背中に回している腕の力が強まる。
「もう暫く…このままで聞けよ」
俺は恥ずかしくてシグの顔が見れないのだ。
「俺……怖かったんだよな…。弟だと知っていて、お前は俺を……抱いた。
その後お前は……何事もなかったように振舞って……。
そしてこの間、兄弟だったと知ってさ……。
お前は俺を抱いた事を後悔していたんじゃねぇのかと……
そう思ってよ…だから、お前に辛くあたって……」
「………」
シグの鼓動のリズムが正しく俺の耳に届く。
シグは何も言わずに優しく俺を抱きしめ、俺の次の言葉を待っていた。
「…確かにさ、お前が兄貴だって知った時はショックが大きかったけどよ……。
まぁ、何だな……どのみちよ、お…男を好きになるなんざぁ、
最初から道に外れてるんだよ……。
で…さ、俺はお前が兄貴だろうが、何だろうがよ、お前が……
シグだから、俺が小さい時から、よく知っているシグだからさ……俺はお前を……」
俺は更に狼狽し、次の言葉がなかなか言い出せない。
俺の鼓動もシグの胸に届いているだろう。
言葉を詰まらせる俺をシグは力強く自身に引き寄せた、その腕に力が入る。
「愛してます……若……」
銀の髪と金の髪が混ざり合い、奇妙な色合いを出している。
俺はシグの髪に溶け込んでいる俺の長い金の髪を何度も梳いた。
「…若が、ご自分の髪を触るのは珍しいですね」
そういやぁ髪なんて、いつもシグにやらせていたから、自分で弄くる事は殆どなかった。
「ほら…お前と俺の色違いが混ざり合うと…綺麗だな…って思ってさ」
シグはぐいっと俺を引き寄せた。
シグの素肌は心地良い安穏を俺に与えてくれる。
「なぁ…シグ……」
「何ですか?」
「あの…お前のギア」
「ヴァルキリア……ですか?」
「そうそう……! あれってどうしたんだ?」
シグはそっと俺を離し、同じ色を持つ隻眼を見た。
「エドバルト様の……」
「俺達の親父か?」
瞬時シグの瞳孔が開く。
「……はい……。父上……から頂いた形見(たから)です」
シグのトパーズブルーが微かに潤う。
(シグルドの方が…ずっと辛い思いをしてたんじゃないのか?)
俺の中でまた、フェイの声が響いた。
シグは自身の立場と葛藤しながらも、
命をかけて俺を守り続けてきたんだと、改めて思った。
そして、長い年月の最中、血や境遇を乗り越えて俺の事を……
俺というヒトを愛してくれていたんだと!
「若?!」
俺のトパーズブルーも濡れて揺れだした。
「……お前……やっと……“父上”と…!!」
シグは限りなく優しい瞳を俺に向ける。
俺は堰きとめられぬ思いが溢れ出し、両眼から雫が零れる。
「俺……ご、ごめんな、シグ……。俺、ほんと何も知らなくて……」
涙で霞んでシグの顔が歪む。シグは大きな手で俺の涙を拭う。
「親父も……きっと喜んでいるぜ……お前のお袋さんもな」
そして俺は精一杯の笑顔を作って続けた。
「……でも…親父は複雑な思いかな?
お前が初めて、“父上”と言ったのが……弟のベッドだったとはよ!!」
シグは小さな溜息を付いた。そして俺も。
道ならぬ事だと知りながら、俺とシグの想いは誰にも止められなかった。
「そうですね……。しかし…貴方から遺言の続きを聞いて……私は、涙しました。
まだ年端もいかない、ましてやギアの操縦もできない私に、あのギアを下さったのですから」
「なんてーのかな…俺、ボキャブラリーが少なくて表現できないけどよ…美しいギアだよな」
シグは瞼を閉じた。
「…私にとっては…神のようなギアです」
シグの髪の色と同じプラチナの美しいギア。
俺はシグの母が心底親父に愛されていたのだと思った。
「ユーゲント時代にギアの操縦を覚えました。そ
して貴方とマルー様を救出の際、ヴァルキリアで応戦したのです」
やはりそうだったか! と俺は思った。
あのギアは幻ではなかったのだった。
窮地の俺を助けに来てくれた神(ギア)。
俺は幼少の頃から抱いていた俺の“幻の夢”の事は
敢えてシグにも打ち明けなかった。
それは俺の中だけの、子供の頃の大切な希望(ゆめ)だったから。
「しかし…最後に、シャーカーンに派手にやられてしまいましたね。
若達がソラリスへ潜入している間、アンドヴァリの翼を修理させておきますよ」
「いやだ!!」
俺の反応にシグは訝しげな瞳を向ける。
「若?」
「俺のアンドヴァリとお前のヴァルキリアは…
期せずして片翼を失ったかもしれねぇが……
それも運命(さだめ)だったと思いたい」
俺の真摯の眼差しに次第にシグの瞳が和らぐ。
「若……!! ニサンの言い伝え……“片翼の天使”……」
「だから……俺とお前は飛ぶときは一緒なんだよ」
明日がどうなるのかさえわからない苦境の戦い。
戦争を壊滅し、平和な星を築くために俺達は未来へ向かう。
俺とシグは同じ血とそれを乗り越えた絆で、共にその炎が消え去るまで飛び続けるだろう。
互いの欠けたものを補いながら。
羽柴秋海様よりこの小説のイメージ画像を頂きました
あとがき
キリ番でリクエストを受けて、やっと書き上げたシグ×バルです。
このストーリーは実は、ら・れーぬ・ど・アヴェなる者が
とあるサイトで(既にご存知の方も…と思いますが)
連載していた、シグ×バルの完結編にと温めていたものでした。
シグと若は私のゼノ好きのキーポイントです。
(もちろん、それだけではないのですが)
“あの日の事”や“カールとシグの事”等、
一部続きとなっております。
これ以前のも読んでみたいと…思われる、お心優しい方は
Adult's Novels を覗いてみてください。
またMIDIはへっぽこながら作成しました。
この曲は主にファティマ家、若・マルー・シグ達の事を
語る時の曲でした。ファティマ城のテラスで
若がシグに遺言の続きを言い渡す時ももちろんこの曲でした。
とっても大好きな曲です。
これをアレンジしたのがユグドラの曲でしたね。
2001.1.17 ルイマリー・ヨゼフィーネ・ダイム