Swingroove Review

June

Various "Marvin Is 60"

 今年は、マービン・ゲイの生誕60周年だそうです。あのセクシャル・アイドルだったマービンも、生きてれば「赤いちゃんちゃんこ」を着せられる還暦なんですね。(まぁ、日本の還暦は数え年ですが…)
 それを記念してモータウンから、R&Bスター達が大挙して参加したトリビュート・アルバムがリリースされました。参加シンガーは、エリカ・バドゥ&ディアンジェロ、ブライアン・マックナイト、ウィル・ダウニング、ジャネイ、ジェラルド・レヴァート、モンテール・ジョーダン、トニー・リッチ、チコとエルのデバージなど、ニューソウルから、クワイエット・ストーム系、ヒップホップ系まで幅広いソウルのアーティストが、「ユア・プレシャス・ラヴ」「愛の行方」「マーシー・マーシー・ミー」などのマービンの名曲をカヴァーしています。
 マービン・ゲイがいかに、それぞれのアーティスト達に多大な影響を与えたかがよくわかるのは、カヴァー・ヴァージョンの歌い方やアレンジがほとんど、オリジナルとそんなに変わっていないことです。新鮮さは、もちろんありませんが、マービンに対する敬愛や憧れの気持ちがストレートに伝わってきます。
 それぞれのヴァージョンについてコメントするスペースがないので、お勧めバージョンを一つ。やはりエリカ・バドゥ&ディアンジェロが歌う「ユア・プレシャス・ラブ」でしょう。ソウル界のニュースターによる共演は、新しい時代のソウルを実感させてくれます。
 また、選曲も超有名曲ばかりなのも、好感が持てます。最近、R&Bブームとかで、薄っぺらい「ソウル・もどき」が日米で横行する中、本物のソウル、R&Bの深みとかっこよさを実感出来ました。輸入盤では、1枚にはトリビュートのカヴァー曲を収録し、もう1枚には、その同じ曲順で、マービン・オリジナル・バージョンを収録した、限定2枚組みも発売されていますので、もし、マービン・ゲイという偉大なソウル・スターを知らないという方には、お勧めです。
 ウタダやTLCはまだしも、SPEEDや果てはコムロ系までR&Bなんていう人に、聞かせてやりたい1枚です。ジャンク・フードばかり食べてると、本物の味が分からなくなりますよ。

★★★★

Natalie Cole "Snowfall On The Sahara"

 ナタリー・コールの久々にジャズからすこし離れた新作が到着しました。
 アンフォーゲッタブル以降3作(クリスマス盤を入れると4作)続いて、スタンダード・ジャズ作でしたが、今作はブルースを中心にしたアメリカン・ルーツ・ミュージックにスポットを当てている感じです。とはいっても、カサンドラ・ウィルソンのようなドロドロとしたネイティヴなものでは無く、エンターティナーのナタリー・コールがやる訳ですから、もちろん都会的でゴージャスなものです。
 制作陣にはディヴィット・フォスター、フィル・ラモーン、ピーター・ウルフらが参加。曲もレオン・ラッセルの「ア・ソング・フォー・ユー」やレイ・チャールズ、ボブ・ディラン、ジュディ・コリンズ、タジ・マハールらのカヴァーが中心です。バックのミュージシャンも豪華で特に、収録曲の半数以上をしめるスティーヴ・ガッド=ウィル・リーのリズムは、本物のR&Bのグルーヴを聴かせてくれます。また、ネイザン・イースト、ジョン・ロビンソン、ジェフ・ミロノフ、ロブ・マウンジー、それに一曲で、バックヴォーカルの一員に、あのルーサー・ヴァンドロスも参加してます。相変わらず渋いコーラスワークです。
 レコード会社のコピーには「ナタリーがコンテンポラリー・シーン」に帰ってきた。」と大きく宣伝していますが、それほど、ポップではありません。T的には、ガッド=ウィルの渋いリズムを聴けるだけで、とりあえず買いですが、結構地味な作品です。

★★★

Stanley Turrentine "Do You Have Any Sugar?"

 マイケル・ブレッカーをはじめ多くのテナー奏者に多大な影響を与えたベテラン・テナー奏者 スタンリー・タレンタインの新作が、コンコードよりリリースされました。
 CTI時代には、ジャズ・ロックの名曲「シュガー」をブレイクさせた彼ですが、新作タイトルも、その「シュガー」をかけ合わせたもので、内容もCTI的な、ジャズあり、フュージョンあり、バラードありのバラエティー豊かなものになっています。基本的に2つのセッションになっており、一つは、エイブ・ラボリエル=ハービー・メイソンのファンク/フュージョン・セットと、レイ・ブラウン=メイソン=ジョー・サンプルのジャズ・セットに分かれています。その他、ギターにマイク・ミラー、キーボードにグレッグ・フィリンゲインズ、ケイ赤城あたりも参加しており、特にクインシーやマイケル・ジャクソンの懐刀、フィリンゲインズのピアノ・ソロは、レアで聴きモノです。
 タレンタインのテナーも堂々としたもので、黒光り的なドスの効いたファンキー・テナーを聴かせてくれます。全体の雰囲気は、新生ブルーノートでの作品である「ラ・プラス街」を彷彿されるものです。
 まぁ、人によっては、中途半端な印象を持つかもしれませんが、その大らかさは、タレンタインのキャラクターだと思います。本物のソウルがプンプン匂う1枚です。

★★★

Victor Wooten "Yin-Yang"

 エレクトリック・バンジョー奏者ベラ・フレックのバンド「フレックトーンズ」のベーシストで、全米で最も人気の高いベーシストの一人(日本で、人気のマーカス・ミラーやウィル・リーあたりは、バック・ミュージシャンの印象が強いらしくアメリカのベース小僧の人気はいまいちです。)ヴィクター・ウーテンの最新作が到着しました。
 半年ほど前にリリースされた、フレットレス奏者スティーヴ・ベイリーとの共演作を発表し、弾きまくり状態でしたが、今作は、正直肩透かしの1枚となってしまいました。「Yin-Yang」とは「陰‐陽」のことで、インストとヴォーカルナンバーそれぞれ1枚ずつ収めた2枚組みとなっています。全体の印象は、「B級のスムース・ジャズ」。インスト・サイドの1曲目なんて、「ディヴ・グルーシンのマウンテンダンスのパクリやんけ!」。その後も延々と印象に残らないスムース・ジャズ系のナンバーが続きます。所々ではいつものスーパー・スラップや超絶メロディ・ソロが聴けますが、ホント、所々です。ヴォーカル・サイドも散々で、インストにコーラスやヴォーカルを加えたもので、印象はあまり変わりません。
 同じような曲ばかりなのに何故2枚組みにする必要があったのでしょうか?はっきり行って自己満足以外の何物でもありません。辛口ですが、同じベースを弾く人間として、尊敬していたミュージシャンだけに、この中途半端な作品には納得出来ません。次回、どうしてもこの路線で行くのなら、ジェフ・ローバーあたりの強力なプロデューサーを入れて制作しないと、アーティストとしての価値を下げてしまいかねません。
 ウーテン・ファンは、残念ですが1回休みです。

★★

L.A. Jazz Syndicate "2"

 スムース・ジャズのユニット、LAジャズ・シンジケートの2枚目が到着いました。
 中心人物は、クレジットで見るとプロデュースもしている、ジョー・ウォルフというキーボード奏者のようですが、参加していないトラックもあるので、一種のコンピュレーションかもしれません。ジャケットには、カール・アンダーソン、ジェラルド・アルブライト、ポール・ジャクソンJR.、カルロス・リオス、ロブ・マリンズなど、有名どころが参加してるように見えますが、実際は所々で、少し参加してるだけで、基本はジョー・ウォルフをはじめとする無名ミュージシャンの打ちこみ中心のB級スムース・ジャズです。まぁ、そんな中、面白かったのは、フィル・コリンズの「アナザー・ディ・イン・パラダイス」のカヴァーで、オリジナルのフィルのヴォーカルをサンプリングし、コーラスにフィーチャーしたサウンドは若干反則技ですが、結構な出来だと思います。それ以外は「…」です。

★★

Paul Bollenback "Soul Grooves"

 初期のゲイリー・トーマスや、オルガン奏者でマイルスとも共演歴のあるジョーイ・デフランチェスコらとの共演で知られるギター奏者ポール・ボーレンバックの新作がオランダのチャレンジ・レーベルから到着しました。
 基本はボーレンバックのギターに盟友デフランチェスコのオルガン、ジェフ・ワッツのタイコで、ジム・ロトンディ、スティーヴ・ウィルソン、エリック・アレキザンダー、スティーヴ・ディヴィスらのホーンとブロート・ロイのタブラ!が加わる編成です。
 ボーレンバックのギターは、グラント・グリーン〜ジョージ・ベンソン/タイプの端正なもので、遊びの無さが若干気になりますが、イケイケのオルガン、デフランチェスコと今回の企画が、楽しさのエッセンスをプラスしています。
 その企画とは、R&Bの名曲をカヴァーするもので、S.ワンダーの「トゥー・ハイ」や、「エイント・ノー・マウンテン・ハイ・イナフ」、「ドック・オブ・ザ・ベイ」あたりが、60年代後半のブルーノート風のアレンジでオルガン・ジャズに仕立てられています。意外にタブラがいい味出してます。
 あくまでも、この作品のメインは、ボーレンバックを中心にしたギター・トリオなので、エリ・アレを含むホーン奏者のプレイに期待すると肩透かしをくらいます。とりたててずば抜けた作品ではありませんが、何故か愛着の感じる1枚です。なかなかいいですよ。

★★★

黄色のCDがBest Buy!です。

は1(最悪)〜5(最高)です。
感想を書きこんでいただければ幸いです。

Back

May

Home