Swingroove Review

October



Jimmy Earl "Stratosphre"

 チック・コリア・エレクトリック・バンドU(インパクト不足で短命に終わった可愛そうなバンド)出身のベーシスト、ジミー・アールのセカンド・リーダー作が、パシフィック・タイムというマイナーレーベルからリリースされました。
 私がこのジミー・アールの演奏を初めて聴いたのは、80年代後半のクルセイダースのライブで、クルセイダースらしからぬメタリックな感じのスラップ・ベースによる鋭い演奏に強烈なインパクトを感じました。その後、フランク・ギャンバレ(g)らが参加したファンク・ロック的な企画、マーク・バーニー・プロジェクトのプロデュースなどを経て、チックのバンドに参加し、幅広くジミー・アールというベーシストの名が知られるようになりました。
 とにかくスラップの上手いベーシストというイメージが強かったんですが、95年にリリースされた初リーダー作を聴いてその印象が少し変わりました。ジャコ的なメロディアスでグルーヴィーなプレイもホント上手いんです。特に激早のフレットレスによるソロにはびっくりしてしまいました。最近のスタジオ・ミュージシャンは皆そうなんですが、とにかくどんなスタイルの音楽でも、超ハイテクで無難にこなして行く、そんなタイプのベーシストです。
 さてこの新作ですが、裏ジャケに「ジャズをテクノやドラム・ン・ベースとミックスさせたかった」と書かれてる通りのサウンドに仕上がっています。ファンキーなスラップや、ジャコばりのフレットレスなど、聴き所はたくさんありますが、ベースに興味の無い人には、派手めなテクノ調のナンバーの中に埋没している感じがするかもしれません。ほとんどの曲は、ジミー自身がコンピューターとベースで作ったリズム・トラックに、ジョン・ビーズリーやミッチェル・フォアマン、デロン・ジョンソンらによる70年代っぽいフランジャーのかかったようなフェンダー・ローズがのっかかるような感じの曲が多く収録されています。確かにアレンジが、ドラム・ン・ベース的なテクノなアレンジですが、メロディーやフェンダーローズの音がフュージョンしてるので、個人的にはあまりぶっ飛んだ印象はありません。一時代前に流行した70年代フュージョンのテクノ・リミックスのような印象でしょうか。ただ、派手なベースソロがほとんど聴けないのは、彼のベースのファンとすれば少々不満です。
 フュージョン系のミュージシャンはリーダー作を制作するときは、いろいろ苦労があるようで、テクニック重視の作品を作れば、スムース・ジャズ系のFM局でオンエアされずセールスに響くし、かといってスムースジャズ系の作品を作れば、マニアックなジャズファンからブーイングを食らうなど、なかなか難しいようですが、このジミー・アールの新作は、そのどちらにも属することの無い第3の道を模索しているような作品です。サウンドの完成度はまだまだですが、何か新しいジャズ/フュージョンを生み出そうとする、その志は買いたいと思います。新しいかっこよさを感じる1枚です。
10.11 Update

★★★☆

Arturo Sandval "Americana"

 キューバ出身で、ディジー・ガレスピーの国連バンドへの参加がきっかけとなり、アメリカへ亡命を果たしたトランペット奏者、アルトゥーロ・サンドヴァールの"N-Coded Music"移籍第2作目となる新作がリリースされました。
 GRPレーベル時代には、ラテン・フュージョンあり、クリフォード・ブラウンに捧げたジャズあり、サルサありと、様々なフォーマットのサウンドにトライし、それなりの実績を上げている人ですが、個人的には少々中途半端なイメージも付きまといます。
 前作「ホット・ハウス」では、ビッグバンドによる強力なアフロ・キューバン・ジャズを展開し、久々にキューバ人ならではの熱さを感じさせるアルバムでしたが、今作は、再びフュージョン・テイストの作品となりました。
 タイトル通り全編アメリカン・ポップスをカヴァーしたスムース・ジャズ・テイストなソフトなサウンドとなっています。B・ジョエルの「素顔のままで」スティングの 「イングリッシュ・マン・イン・ニューヨーク」A・グリーンの「レッツ・ステイ・トゥゲザー」L・リッチーの「オールナイト・ロング」R・フラックの「やさしく歌って」シカゴの「イフ・ユー・リーヴ・ミー・ナウ」S・ワンダーの「可愛いアイシャ」などなど…、収録曲の全11曲すべてがカヴァーです。そして、彼のハートウォームなトランペットで、それらの曲を慈しむように演奏しています。そのアレンジも、L・リッチーのナンバーなどのもともとがラテン的なサウンド以外は、オリジナルのイメージを大切にしたもので、一歩間違えばスーパーのBGMみたいになりそうなものもあります。まぁ70年代のCTIサウンドの90年代版といった所でしょうか。
 サポート・ミュージシャンはキューバ系ミュージシャンが中心で、同郷のギタリストでソロ・アルバムも発表しているレネ・トレドや、この春コンコード・ヴィスタよりリーダー作を発表したサックスのエド・カレなどが参加しています。
 まぁ気持ちの良い作品ではありますが、正直インパクトは無く、アルトゥーロ・サンドヴァールというキューバ出身のホットなトランペッターの魅力の半分もアピール出来ていませんが、キューバ出身の彼がこのような作品を作る気持ちもわかってあげたい気もします。キューバ時代には、音楽をはじめとするアメリカの文化は敵国のものとして、厳しく制限されていますが、そんな中、サンドバールは、アメリカでの自由な生活や音楽活動を夢見て、アメリカン・ポップスやジャズを聴いていたのでしょう。そんな純粋な気持ちから、本当に好きな曲をセレクトして、アルバムにしたらこんな作品になったのではないでしょうか。
10.12 Update

★★★

Michel Petrucciani Steve Gadd Anthony Jackson "Trio In Tokyo"

 今年の1月6日に、36歳の若さでこの世を去った「ピアノの化身」ミッシェル・ペトルチアーニの遺作ともいうべき、97年秋のブルーノート東京でのライブ盤が9月15日にリリースされました。
 メンバーは、ペトルチアーニ自身「20世紀終盤のベスト・トリオ」と自負していたアンソニー・ジャクソン(b)=スティーヴ・ガッド(ds)を従えたトリオ。ジャクソンとガッドとは、「ボース・ワールズ」でも共演していましたが、ボブ・ブルックマイヤーらのホーン陣の参加がいまいちという意見もあり、純粋なトリオ作を希望する声が多かったのですが、その実現が主人公が死去した後のリリースとなったのは、なんとも残念な話です。
 このトリオのライブ演奏といえば、昨年、ドイツのシュツッドガルトでのコンサートの模様を収録したライブ・ビデオ/LDがリリースされていますが、今回のBN東京でのライブ盤は、それと比較してかなりエネルギッシュなものとなっています。ペトルチアーニのピアノも、いつもの粒立ちのよい品格を感じさせるサウンドながら、クラブ・ギグということで、エキサイト気味のガッドとジャクソンに対抗するかのように、テンション高めの演奏となっています。
 ペトルチアーニはなぜこんなに、ガッドとジャクソンのリズム・セクションに、こだわったのでしょうか?。ジャズのみならず、クラシックからポップスやロックにまで興味を持って自らの音楽をクリエイトしていたペトルチアーニにとって、コントラバス=ドラムという普通のトリオでは、自分の音楽を作り上げる上で限界を感じていたのではないかと思います。4ビートから16ビートまでこなせる、ガッドのドラムとジャクソンのコントラバス・ギター(6弦エレクトリック・ベースギター)のリズムは、とてつもなく広大で自由なペトルチアーニの「ピアノ・ミュージック」をクリエイトする上で必要不可欠な要素だったのでしょう。そういえば、ペトルチアーニのブルーノート時代の作品に「ミュージック」(フュージョン・テイストな爽快感いっぱいの作品でした。)というものがありましたが、このライブで演奏された曲の数々は、ペトルチアーニにとっては、「ジャズ」という枠を飛び越えた彼自身の「ミュージック」なのです。
  具体的な聴きどころとしては、ガッドの繊細かつ大胆なブラッシュ・ワークや、初回限定のボーナスCDに収録されている「A列車で行こう」での機関車のような豪快なドラム、また4曲目の「リトル・ピース・インCフォーU」での、ジャクソンのベースソロなど…たくさんありますが、どれもこれもがペトルチアーニの「ピアノ・ミュージック」を構成する一要素にすぎません。それぐらいここでのペトルチアーニのピアノは、圧倒的な個性とスケールの大きさを強く感じさせます。
 三位一体のピアノ・トリオの評価の基準は、今まではビル・エヴァンス=スコット・ラファロ=ポール・モチアンというビル・エヴァンス・トリオでしたが、このペトルチアーニのトリオは新しいピアノ・トリオの基準と成り得る作品です。特にギターの音域までカヴァー出来るジャクソンのコントラバス・ギターとペトルチアーニのピアノとのインタープレイは鳥肌ものです。
 主人公であるペトルチアーニは、残念ながら一緒に行くことは出来ませんが、この作品は、我々を21世紀の新しいジャズ・ピアノの世界へと一足早く誘ってくれるものです。ここまで創造的かつ魅力的なジャズ・ピアノは久しぶりです。是非皆さんもこの新しいジャズ・ピアノの世界を体験してみることをお薦めします。なお初回限定でガッド大活躍の「A列車で行こう」」入りの特典CD付きですので、ビデオアーツ盤の国内盤をゲットしましょう。
10.17 Update

★★★★★

Orrin Evans Trio "Grown Folk Bizness"

 ニュージャージー生まれでフィラデルフィアで育ったという若手黒人ピアニスト、オリン・エヴァンスのサードアルバムがCrissCrossよりリリースされました。
 1作目と2作目はオルテットという大きめの編成による作品でしたが、今作では、ロドニー・ウィテカー(b)=ラルフ・ピーターソン(ds)を従えたトリオがメインで、3曲に元OTBのラルフ・ボウエン(as)とサム・ニューサム(ss)がホーンで参加しています。
 マッコイ・タイナーからモンク、ハービー・ハンコックから、キース・ジャレット、レニー・トリスターノまで幅広いスタイルのジャズピアニストから影響を受けたというオリン・エヴァンスのピアノは、基本的にはタイナー〜ハンコック スタイルの黒人ピアニストのメインストリームを行くもので、ゴリゴリとした骨っぽいサウンドが特徴です。しかし今作では、1曲目に収録されているソロ・ピアノによるホーギー・カーマイケル作の「ロッキング・チェアー」やモンクの「リズム・ア・ニング」などを聴くと、かなりモンクを意識したようなピアノとなっているようです。またリッチー・バイラークの「エルム」もセレクトされており、ここではクラシック〜キース・ジャレットの影響を感じさせます。この作品でのオリンのピアノは、彼が演奏できる様々なスタイルをショーケース的に聴かせている感もあり、作品全体としてのイメージは散漫な印象です。
 正直、今作でのオリン・エヴァンスのピアノは、頭でかなり考えたような感じのテクニック志向な演奏であまり好きではありませんが、80年代後半、東芝のサムシン・エルス盤で一世を風靡した元OTBのラルフ・ピーターソンのパワフルで存在感のあるドラムが、この作品のバリューを高めています。(ラルフの東芝時代の名盤のタイトルナンバー「ヴォリション」も収録されてます!) 特に2曲目のシダー・ウォルトンのナンバー「ファーム・ルーツ」でのオリンのピアノと、ラルフのタイコのバトル的な演奏は、この作品の大きなハイライトといえるでしょう。
 ホーンの参加したナンバーですが、ボウエンは相変わらずボヤボヤした感じのサックスですし、ニューサムのソプラノは、ディヴ・リーヴマンの物真似的なプレイと、あんまり冴えたものではなく、全編ソロ&トリオでいったほうが良かった気がします。
 オリンのピアノを聴いて、「う〜んどこかで聴いたことがあるかな??」と少し考えたのですが、そうなんです、日本の大西順子に似ている感じがします。初期の大西順子のピアノが好きな方にお薦めするピアニストです。
10.19 Update

★★★

Michael Brecker "Time Is Of The Essence"

 GRP/ImpulsがPolygramに買収されたため、Polygramのジャズ・ディヴィジョンであるVerveからのリリースとなった、マイケル・ブレッカーの6枚目のソロ・アルバム「タイム・イズ・オブ・ジ・エッセンス」(「時は金なり」のような意味とか)が輸入盤(欧州盤)で到着しました。
 SJ誌のゴールドディスクに選定されたり、タワレコをはじめ大手レコード店でも店舗キャンペーンが行われるなど、レコード会社が異様に力を入れている作品ですが…。そんな大作かなぁ…。
 この作品のセールス・ポイントのひとつに、伝説のコルトレーン・カルテットの一員だったエルヴィン・ジョーンズ(ds)の参加があります(3曲のみ)。コルトレーン派の代表格のひとりであるブレッカーと、エルヴィンとの共演ということで、コルトレーンの音楽とこの作品を結びつけようとする宣伝やレビューが目立ちますが、ここでのブレッカーは、それほどコルトレーンをイメージするものではなく、全編ラリー・ゴールディングスのオルガンとの共演ということで、むしろ、ブレッカーにも大きな影響を及ぼしたサックス奏者スタンリー・タレンタインのイメージの方がむしろ強い感じがします。
 エルヴィンとともに、この作品のキーマンともいえるギターのパット・メセニーですが、これまた、オルガン・トリオにおけるギターの役割のセオリー的な演奏を展開し、これじゃ別にパットじゃなくても…といった感じです。
 オルガンで参加のゴールディングスは、かなり気合の入ったもので、やや平面的になりがちなオルガンでのバッキングに、立体的な陰影をつけた演奏となっています。またエルヴィン参加以外のトラックのドラムは、ジェフ・ワッツとビル・スチュワートが担当していますが、特にワッツは大活躍で、このアルバムのコンセプトからすると、全編ワッツでも良かったような気がします。
 このレビューのほとんどが苦言になっていますが、全体のサウンドはかなりカッコイイのも事実で、エッジの効いた60年代後半のソウル・ジャズというイメージで聴けばかなりのポイントが稼げる作品です。しかし、ステップス〜パット名義の「80/81」〜インパルスでのファースト・ソロ作…と、マイケル・ブレッカーの音楽を聴きつづけている私としては、どんどんブレッカーの味が薄くなってきている感じがしてなりません。この作品においても、所々ではかつてのキレのあるプレイは聴かせてくれるものの、全体的には、良い言い方をすれば「渋い」悪く言えば「ダル」なブロウがほとんどです。
 70年代〜80年代中期までのマイケル・ブレッカーが好きな私にとっては、ブレッカーの丸○ゲ状態の頭を見ても分かるとおり、彼も年をとったということなのでしょうか。マイルドなブレッカーのテナーを聴くにつけそう思います。この作品も、ソウル・ジャズ的でカッコイイかなとも思うのですが、マイケル・ブレッカーを聴いているという気になれず、CD棚からインパルスでの1枚目の「マイケル・ブレッカー」やパットの「80/81」を取り出して、CDプレーヤーにのせて「やっぱりブレッカーはこれや…」とつぶやくTでした。
10.19 Update

★★★

Fourplay "Snowbound"

 ボブ・ジェイムス(key)ラリー・カールトン(g)ネイザン・イースト(b)ハービー・メイソン(ds)という世界最高ランクのギャラを誇る?スタジオ・ミュージシャンで構成されたスーパーユニット、フォープレイの6枚目(3枚目まではリー・リトナーがギター)のアルバムがリリースされました。(ベスト盤を含む)
 この季節にリリースされたことでも分かる通り、今作はフォープレイ初のクリスマス・アルバムとなっており、「クリスマス・ソング」や「サンタが街にやってきた」のような定番ものから、ドナルド・フェイゲンの「スノウバウンド」ジョニ・ミッチェルの「リヴァー」トラディショナルの「アメイジング・グレイス」などの冬をイメージさせる曲まで、バラエティ豊かな雰囲気の作品となっています。あまりクリスマス一色のイメージに仕上がっていないので、長い期間楽しめそうな感じです。
 全編スムース&シルキーなフォープレイ・サウンドに彩られたもので、有名なクリスマス・ナンバーやトラディショナル・ナンバーまで、フォープレイのオリジナル?と聴き違ってしまうほどです。そんな中、聴きどころは、アルゼンチン出身のシンガーでWEAからもアルバムをリリースしている、ガブリエラ・アンダースがコーラスで参加したドナルド・フェイゲンのカヴァー「スノウバウンド」と、ゲストヴォーカルにエリック・ベネイを迎えた、故メル・トーメ作の「ザ・クリスマス・ソング」でしょう。特にベネイの歌う「ザ・クリスマス・ソング」は最高で、この曲の新しいスタンダード・バージョンにも成り得る素晴らしい仕上がりです。スムースなミディアム・テンポにアレンジされたこのバージョンに今年残念ながらこの世を去った作者のジャズ・シンガー、メル・トーメも天国で微笑んでいるのではないでしょうか。
 ボブ・ジェイムスの印象的なエレピやラリー・カールトンのギターもいつになくメロウで、クリスマス・シーズンを前に1人で聴くのはもったいないくらいのロマンテックなアルバムなので、2人の素晴らしいクリスマス・シーズンの前に是非ゲットして、その雰囲気を盛り上げたい1枚です。
10.19 Update

★★★★

黄色のCDがBest Buy!です。

は1(最悪)〜5(最高)です。
感想を書きこんでいただければ幸いです。

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