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Jim Beard "Ad Vo Cate" |
NYのコンテンポラリー・ジャズ・シーンの最も重要なブレーンのひとりとして知られるキーボード奏者ジム・ベアードの新作が、ドイツのESCレーベルからリリースされました。(邦盤はビクター) マイク・スターン(g)やマイケル・ブレッカー(ts)ビル・エヴァンス(ss)らのプロデューサーとしても有名なジム・ベアードですが、自らのリーダー作となると世界の民族音楽や劇場チックな音楽要素などを織り交ぜたおもちゃ箱的なサウンドでしたが、今作もその流れを引き継いだものながら、CDのジャケット(このアダムス・ファミリーみたいなジャケットを見てこれを買おうという人がいるんでしょうか?。)ほどのおちゃらけたサウンドではなく、かなりコンテンポラリー・ジャズしたサウンドとなっています。全体的なイメージは、ザヴィヌル・シンジケート的な民族音楽とコンテンポラリー・ジャズをミックスさせたようなサウンドとなっています。1曲目などは、ブラインド・フォールド・テストをされると、ザヴィヌル・シンジケートと聞き違いそうな雰囲気の曲です。またメロディーをとるベアードのキーボードの音色もザヴィヌルのサウンドを意識したようなものになっています。 しかし作品後半に収録されているコンテンポラリー・ジャズ的な雰囲気(特に9曲目)でのグルーヴィーなフェンダー・ローズのプレイもなかなかカッコ良く、さすがプロデューサーとして多くの実績を残しているベアードだけに、全体のイメージは統一しながら、個別のサウンドにはそれぞれ聴かせどころを作るという作戦は見事です。 基本的なサウンドはベアード自身のキーボードと、アル・ディ・メオラとの共演でも知られる打楽器奏者アート・タンクボヤチアンとザック・ダンジガーのループによるリズムで構成されており、アディショナル・ミュージシャンにボブ・マラック(sax)ジョン・へリントン(g)ジーン・レイク(ds)マシュー・ギャリソン(b→ジミー・ギャリソンの息子)らが参加しているという感じです。特にザヴィヌルとも共演していたマシュー・ギャリソンの21世紀のジャコといった感じのベースは、グルーヴィーです。 当たり前ですが、ジム・ベアード プロデュースの作品でのエッセンスの素を100%の濃度でそのまま詰め込んだような作品です。従って普通のコンテンポラリー・ジャズ・ファンには少々濃すぎるサウンドです。そのエッセンスを薄めながら投入してあるベアード・プロデュースのブレッカーやスターンの作品のファンがそのまま楽しめるサウンドではないような気がします。まぁザヴィヌル・シンジケートにような世界の音楽の
メルティング・ポット的な魅力が分かる人向きの作品でしょう。 10.23 Update |
★★★ |
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Kim Waters "One Special Moment" |
80年代後半のクワイエット・ストームの時代から活躍するスムース・ジャズ系サックス奏者キム・ウォータースのシャナキー移籍第2作目となる新作がリリースされました。 98年リリースの前作「ラブズ・メロディー」あたりから、ディヴィッド・マンやチャック・ローブといった腕の立つプロデューサーに恵まれるようになり、作品のクォーリティーが格段にアップしてきましたが、この新作でも、その流れを引き継いだものとなっています。今回のプロデューサー陣は、チャック・ローブ、ディヴィッド・マン、ブライアン・ブロンバーグ、そしてキム・ウォーターズ自身となっていますが、どのトラックもそんなに違いは無く、スムース&メロウに徹したスムース・ジャズ本流のサウンドに仕上がっています。 サポート・ミュージシャンには、グレッグ・クールキス(key)ウィル・リー、ブライアン・ブロンバーグ(b)チャック・ローブ(g,key)アンディ・スニッツァー(sax)らが参加していますが、基本的には打ちこみをバックにしたサウンドが中心です。 キム・ウォーターズのアルバムでの楽しみのひとつがカヴァー曲にあります。Warlockレーベル時代には、マライア・キャリーの「ヴィジョン・オブ・ラブ」やアイズレー・ブラザースの「フォー・ザ・ラブ・オブ・ユー」などをメロウなサックスでカヴァーしていましたが、今作では「アム・アイ・ザ・セイム・ガール」(スウィング・アウト・シスターのヒットで有名な曲ですが、もともとは、ヤング・ホルト・アンリミテッドがヒットさせた「ソウルフル・ストラット」というインストに歌詞を付けバーバラ・モリソンというシンガーが歌って60年代後半にヒットさせたバージョンがオリジナル)を、80年代のクワイエット・ストーム・ファンには懐かしいソウル・シンガー、メリサ・モーガンのヴォーカル入りでカヴァーしています。グローヴァー・ワシントンJr.が近作で、「ソウルフル・ストラット」としてカヴァーしているこの曲ですが、雰囲気はグローヴァーのヴァージョンに近く、キム&メリサのヴァージョンも原曲のイメージを大切にしたもので、なかなか気持ち良いカヴァーとなっています。 キム・ウォータースのサックスは、グローヴァー・ワシントンJr.あたりをルーツにした雰囲気のもので、別段の個性はありませんが、最近ではボブ・ジェイムスやチャック・ローブなどのスムース・ジャズ界の大物との共演により、そのサックスの存在感は高まっているようです。プロデュース・ワークの勝利ともいえるスムース・ジャズ・サックスのリファレンス・ブック的な作品。インパクトはありませんが、なかなか気持ちの良いアルバムです。 10.26 Update |
★★★☆ |
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Dominic Miller "Second Nature" |
スティングのアルバム「ソウル・ケージ」あたりから、彼のバンドに参加し、今では、この人無しのバンドはあり得ないほどにまで成長した、アルゼンチン出身のギタリスト、ドミニック・ミラーのセカンド作(多分95年リリースの前作「ファースト・タッチ」がファースト作のはず。)がRutisレーベルなるマイナーからリリースされました。 スティング・バンドでは、ロックスタイルでバリバリ弾きまくるドミニック・ミラーですが、ソロ作となると、アコーステック・ギターによる内省的なサウンドを志向していますが、この新作でも、コンセプトはファースト作を引き継いだものとなっています。ただ新作では、スティングやピーター・ゲイブリエルのサポート・メンバーして知られるマヌ・カッチェ(ds)や21世紀のポスト・ジャコの呼び声も高いベーシスト、ピノ・パラディーノ(b)、それに前作にも参加していた元レベル42のマイク・リンダップ(key)などUKのトップ・ミュージシャンが参加し、ほとんどソロ・ギター状態であったファースト作よりも、動きのあるサウンドとなっています。 特に、今年のモントルー・ジャズ・フェスにマヌ・カッチェ・バンドとして出演し、空間を生かしたカッコイイ、ジャズ・ロック・サウンドを聴かせてくれた、ミラー(g)カッチェ(ds)パラディーノ(b)のトリオによる演奏の空間を生かしたスペーシーなサウンドはスリリングです。 収録曲はほとんどがミラーのオリジナルで、前作同様、ジャズ的なよどみをまったく感じさせないもので、まぁベタな言い方をすればフォーキーな雰囲気なのでしょうがフォーキーというには、土の匂いを感じさせないという、不思議な魅力にあふれたものです。また1曲、スティングとの共作による1分少々の小曲も収録されています。ドミニック・ミラーのサウンドのコアには、スティングの「ソウル・ケージ」的な雰囲気を強く感じさせます。表面的には静かなサウンドながら内に秘めたとてつもない熱いものを、鋭いピッキングによるミラーのアコーステック・ギターから実感できるはずです。 スティングとの共演歴のあるギタリストということで、ポリスのアンディ・サマーズと比較したくなりますが、モノトーンな雰囲気で、どちらも空間を生かすタイプのギタリストという点では、共通するものはあると思います。でもアンディにある、ジャズ指向は、今の所、このドミニック・ミラーには感じれません。 結構地味なサウンドですが、今ハマっているCDとなっています。聴き様によってはニューエイジ・ミュージックともとれる音ですが、聴く者に聴き方を強制しない自由で感情豊かなサウンドは、言葉では言い表せない魅力があります。ジャズ/フュージョンファンにわかるような例えをすれば、パット・メセニー・グループのボーダレスな音楽の魅力でしょうか。アコーステック・ギターの雰囲気はパット的でもあります。 欧州系のマイナー盤なため、結構入手困難かもしれませんが、見つけた時には、是非お聴きになることを強くお薦めします。 10.30 Update |
★★★★☆ |
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TOTO "Livefields" |
カレッジ・バンドとして活動していた70年代後半に、ボズ・スキャッグス(g.vo)の好サポートなどにより頭角を現した「ジョージ・ポージー」や「アフリカ」などのヒットで知られるTOTO。そのグループ結成当時のヴォーカリスト、ボビー・キンボールがグループへ、リ・ユニオンした99年初頭にリリースされたアルバム「マインドフィールズ」に続く新作が早くもリリースされました。 「ライブフィールズ」と名付けられたタイトル通り99年春のヨーロッパツアー(多分フランス)の模様を収録したライブ盤となっています。 CDのジャケットが、前作「マインドフィールズ」をモチーフにしたものでも分かるように、このライブ盤は、「マインドフィールズ」のカヴァーツアー的な要素の強い内容となっています。ジェフ・ポーカロ(ds)の急死直後の93年にリリースされたライブ盤「アブソリュートリー・ライブ」は、ジェフへのレガシーを深く感じさせる選曲で、70年代後半〜80年代初期の名曲が多く収録されていますが、今回は、92年の「キングダム・オブ・デザイア」(ジェフ・ポーカロ在籍最期のアルバム)以降のナンバーが中心となっており、有名曲は、「ロザーナ」とボーナスCDに追加されている「ホールド・ザ・ライン」「ウォント・ホールド・ユー・バック」くらいです。 やはり今作の目玉は、「マインドフィールズ」からグループ復帰を果たした、ヴォーカルのボビー・キンボール入りの久々のライブということになるでしょうが、ズバリ端的にいいますと、たいしたことはありません。これならスティーブ・ルカサーのリード・ヴォーカルで十分といった感じです。かなりファットになったキンボールに、かつてのキレのあるハイトーンなヴォーカルは望むべくもなく、HRスタイルでシャウトしているキンボールには、期待が大きかっただけに正直「…」な印象です。しかし、リード・ヴォーカリストの参加により、スティーヴ・ルカサーの負担が軽減され、ギターに専念できてるようで、ルークのギターは、かつてないほどキレた素晴らしいものとなっています。 ルークの素晴らしさを引き立てているのが、ジェフの後を受けてグループに参加したドラムのサイモン・フィリップスです。もちろん、ジェフ独特のヒューマンなハネるビートはもうありませんが、ソリッドで細かくタイトにリズムを刻むサイモンのドラムは、ジェフのタイコに慣れ親しんだ古いファンには正直、違和感はありますが、「タンブ」〜「マインドフィールズ」とTOTOとして作品作りに参加するなかで、新しいTOTOのビートになりつつあるようです。特にルークとサイモンのコンビネーションは絶妙で、「キングダム〜」収録のインスト曲「ジェイク・トゥ・ザ・ボーン」での2人のタイトなプレイは、鳥肌モノのカッコ良さです。 このアルバムは、Tは欧州盤の輸入盤で購入しましたが、プロモビデオがPCで見れるエンハンスト・タイプのボーナスCD付きの2枚組というパッケージでしたが、11月上旬にリリース予定の国内盤はどんな形でのリリースなのでしょうか。「ホールド〜」や「ウォント〜」を含む3曲の追加ライブトラック入りのエンハンストCD付きのパッケージを欲しい方は、早めにこの欧州盤をゲットされることをお薦めします。(パッケージにはリミテッド・エディションとも書かれてます。)なおTOTOの故郷であるアメリカでのリリースは何故か未定で、今頃「マインドフィールズ」が新譜としてリリースされるようです。アメリカでは、あんまり人気ないのかなぁ…。そういえばAOR調のアーティストは日本と欧州の方が人気の高いケースが多いですよね。 10.30 Update |
★★★☆ |