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Bob Rockwell "After Hours" |
中堅テナー奏者ボブ・ロックウェルが1987年に故郷のミネアポリスで行ったライブCDが、ベン・シドランの主宰するレーベルGo Jazzからリリースされました。 ボブ・ロックウェルといえば、サド・メル オーケストラでの活躍や、フレディ・ハバートやトム・ハレルとの共演で知られるコルトレーン派のテナー奏者です。 1970年代後半から80年代初期にかけてNYのジャズ・シーンで活動した後、83年にデンマークのコペンハーゲンに拠点を移し、デンマーク・ラジオ・ビッグ・バンドに参加したり、ベーシスト、ヤスパー・ルンガートとコラボレートしたりと活躍しているようです。 個人的には、「ネジを一本緩めたマイケル・ブレッカー」といったイメージのあるテナー奏者で、正直、そんなにファンでもないんです。では何で、この作品をチェックしたか?ということなんですが、実はこの作品、以前にこのレビューでも紹介したピアニスト、ディヴィッド・ヘイゼルタインの「アフター・アワー」と同じツアー中に録音されたものなんです。当然サポートメンバーも、ヘイゼルタイン(p)ビリー・ピーターソン(b)ケニー・ホースト(ds)と同じとなっており(一曲のみ85年に録音されたものでピアニストが違う)、ヘイゼルタインのピアノ目当てで購入したんですが、これがまたイイ雰囲気なんです。 この「アフター・アワー」シリーズは、ヘイゼルタイン盤同様ギグが行われた後の深夜2時〜5時に収録されたもので、ずいぶんリラックスした演奏になっています。このロックウェルという人は、変にしゃか力になると、B級ぶりを発揮してしまうテナー奏者だと思うのですが、このような自分の故郷でのリラックスしたシチュエーションとなると、アドリブでの表現力が増し、円熟味を感じさせるものとなっています。ヘイゼルタインの温かみのあるバピッシュなピアノによるアシストも聞き逃せません。 選曲も、「ユー・ステップス・アウト・オブ・ア・ドリーム」「ラブ・ウォークト・イン」「リラクシン・アット・カマリロ」「ソー・イン・ラブ」といったスタンダードと、ヘイゼルタインやロックウェルのオリジナルを組み合わせたものとなっています。 ボブ・ロックウェルというテナー奏者のイメージを変えるような大作ではありませんが、ワンホーンによる雰囲気のいいジャズとしては、十分にレコメンド出来る作品です。特にヘイゼルタインの好きな方は必聴でしょう。 10.1 Update |
★★★★ |
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Seamus Blake "Stranger Things Have Happened" |
CrissCrossからリーダー作をリリースしていた若手白人テナー&ソプラノ奏者シーマス・ブレイクの新作が、スペインのリ・イシュー・レーベルとして知られるフレッシュ・サウンドから到着しました。 CrissCross盤でも、CrissCrossらしからぬ斬新なサウンドを披露してくれたシーマス・ブレイクですが、今作でも、なかなか新鮮で新しいジャズを聴かせてくれます。 サポート・メンバーは、ブラッド・メルドーのトリオや最近パット・メセニーのトリオにも抜擢されたベーシスト、ラリー・グレネディアーと、メルドーのトリオのドラマーとして知られるホルへ・ロッシー。それにギターのクルト・ローゼンウィンケルというものです。(1曲にジェシー・ハリスという人がアディショナル・ギター&ヴォーカルで参加) まずこの作品、グレネディアー=ロッシーのリズムが素晴らしい。ブラッド・メルドーのトリオでその素晴らしさは実証ずみですが、メルドー・トリオ以上の自由を与えられた感のある今作では、ジャズの基本である4ビートをベースにしながら、変幻自在にビートを変えながら進行してゆく、そのリズムは快感です。ほとんどの曲は、ブレイクのオリジナルでややもすると平板で退屈なものとなりがちなサウンドに、そのリズムは大きなメリハリを与えています。またギターのローゼンウィンケルも、ジム・ホール〜ビル・フリゼールのラインを彷彿とさせるサウンドで、ブレイクのサックスにまとわりつきながら、スリリングなサポートを聴かせてくれます。 ブレイクのサックスですが、別段の個性は感じられないものの、ジョー・ロバーノを思わせるイマジネイティヴなソロはまずまずです。 シーマス・ブレイクのジャズの個性は、サックスのみで表現するのではなく、作曲やアレンジなどに自分のサックスを加えたサウンド全体で発揮させるタイプのようで、今作でも、そのことが実感できるものとなっています。 一聴すると、少し難解なジャズのように聞えるかもしれませんが、よく聴けばジャズの伝統をしっかり踏まえた上で、新しいサウンドを創りだそうとする若いミュージシャンのエネルギーやパワーを実感できるはずです。21世紀を見据えた未完のジャズ。 10.2 Update
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★★★☆ |
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Brad Mehldau "Art Of Trio 4〜Back At The Vanguard" |
前作のピアノ・ソロ作に続いて早くもワーナージャズが誇る若手ピアニストのホープ、ブラッド・メルドーの新作が到着しました。 今作はホルヘ・ロッシー(ds)ラリー・グレネイダー(b)を従えた「アート・オブ・トリオ」シリーズの第4弾で、今年の1月NYのヴィレッジ・ヴァンガードにて収録されたライブ・アルバムとなっています。 ブラッド・メルドーというピアニストは、人気若手テナー奏者ジョシュア・レッドマンのグループへの参加をきっかけにして一躍ソロアーティストとしての人気を獲得しました。その後は、メルドー=ロッシー=グレネイダーの「アート・オブ・トリオ」中心の活動で、セッション活動や他のミュージシャンのサポートはほとんどやらず、ひたすら、このトリオの成熟に賭けていた感じがします。その成果は、このライブ盤でも十分発揮されており、この三位一体ぶりは、キース・ジャレットの「スタンダーズ」トリオにも匹敵するものだと思います。 がしかし、面白くないんです。上のシーマス・ブレイク盤でも書きましたが、ロッシー=グレネイダーのリズムは相変わらずの素晴らしさで、メルドーのピアノとのインタープレイは、トリオとしての成熟を感じさせるものです。問題はメルドーのピアノで、手先と頭で弾いている感じで、エモーションやソウルを全く感じさせてくれません。特に「オール・ザ・シングス・ユー・アー」やマイルスの「ソーラー」などの有名曲でそのことが顕著に感じられ、手先だけでただ単にアクロバティツクな演奏をしているだけのように聞えてしまいます。要は、このトリオで聴けるメルドーのピアノのスケールが小さいんです。 メルドーはこの「アート・オブ・トリオ」で何がやりたいんでしょうか?何か新しいことがやりたい、その気持はわかるんですが、自分が本当に何をやりたいのかが分からず迷っているような気がします。 ジャズ・ピアニストとしては、とてつもない才能を持っている人なので、ここはひとつベテランとの共演や多くのギグやセッションをやり、新しいエネルギーを得て、次のステージへブレイクスルーして欲しいです。このトリオでちまちまやってると、ブラッド・メルドーという素晴らしい才能を持ったピアニストもここまでで終わってしまうと思います。ファンゆえの厳しい意見ですが…。 10.2 Update |
★★★ |
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Pieces Of A Dream "Ahead To The Past" |
70年代半ばから活動を続けるフュージョン・グループ、ピーセズ・オブ・ア・ドリームのブルーノート第2作目となる新作「アヘッド・トゥ・ザ・パスト」がリリースされました。 BN移籍1作目となった前作では、ジョージ・デュークを初めとする豪華なゲスト陣との共演が話題となりましたが、新作では、インコグニートのヴォーカリストとして知られるメイザ・リーク(vo)やアシッドジャズ・ムーブメントの中登場したUKのギタリスト、ロニー・ジョーダン(g)の参加以外は、グループのメンバー中心の曲がメインのシンプルなものとなっています。 現在のグループメンバーには、オリジナルメンバーであるセドリック・ナポレオン(b)ジェームス・ロイド(key)カーティス・ハーモン(ds)エディ・バッカスJr.(sax)にシェリー・ミッチェル(key)を加えた5人となっています。 サウンドの方は、少し古めのブラック・フュージョンといった趣で、全編大変メロディアスな曲ばかりで、歌詞を付ければアニタ・ベイカーあたりが歌いそうな雰囲気です。ラムゼイ・ルイスを派手にしたようなキラキラとしたジェームス・ロイドのピアノ・ソロや、グループデビューのきっかけを作った同郷の(どちらもフィラデルフィア出身)恩師でもあるグローヴァー・ワシントンJr.にクリソツなバッカスJr.のサックスなど、グループの看板ともいえるサウンドの要は今作においても健在です。 またゲスト参加のナンバーですが、メイザ・リーク参加のナンバーは、今は無きフィリス・ハイマンを思わせるようなミディアム・ナンバーで、ロニー・ジョーダンは、すっかりアメリカのスムース・ジャズ・ギタリストになったようなようなシュアなプレイです。(ロニーは米ブルーノートと契約したようです。) デビューが70年代半ばですから、デビュー以来25年弱のキャリアを持つベテラン・グループとなった、ピーセズ・オブ・ドリームですが、デビュー以来ほとんど同じメンバーで活動しているのは、やはり凄いことで、その絆の重みのようなものも安定したサウンドの中に感じ取ることができます。それだけ長期間活動が継続できるということは、それだけ人気もあるということに他なりません。ジャズ的なテンションは低いですが、インストゥルメンタルR&Bとしてのスムーズさやグルーヴ感は、上質なソウル・アルバムに通じるものがあります。 80年代のクワイエットストームが忘れられない人には最高の夜のBGMとなることでしょう。 10.6 Update |
★★★ |
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One For All "Upward and Onward" |
エリック・アレキザンダー(ts)やジム・ロトンディ(tp)スティーヴ・ディヴィス(tb)ディヴィッド・ヘイゼルタイン(p)らを中心に、NYのジャズ・クラブ「スモールズ」あたりでのギグがきっかけとなって結成されたグループ「ワン・フォー・オール」のCrissCross第1作目となる新作が到着しました。 「ワン・フォー・オール」のメンバーは前出の4人に、ピーター・ワシントン(b)ジョン・ファーンスワース(ds)というリズムを加えたセクステット編成です。 以前はこのグループとしてのリリースは、「Sharp Nine」レーベルからでしたが、今作はエリ・アレやロトンディ、ヘイゼルタイン、ディヴィスなどの近作をリリースしているCrissCrossからのリリースとなりました。 「Sharp Nine」にしても「CrissCross」にしても芸風?が似たレーベルなので、今までの「ワン・フォー・オール」のサウンドとそんなに違いはありません。 そんな中、あえて変化を見出すとすれば、このユニットでは最年長であるピアニスト、ディヴィッド・ヘイゼルタインのリーダーシップでしょうか。エディ・ハリスをトリビュートした60年代後半を思わせるビートの曲である「ウィ・オール・ラブ・エディ・ハリス」やちょっぴりモーダルなスロウ・ブルース「ブルース・フォー・ジョー・ドン」という2曲を提供する他、他の曲でも、彼のピアノが全体の雰囲気を支配しているような感じがします。 多分のこのグループの目玉であろう、テナーのエリック・アレキザンダーですが、ハロルド・メイバーンとの共演作である8月リリースの最高のライブ盤を聴いてしまってるだけに、今作での印象は薄く、若干コルトレーン・ライクなテクニカル志向の演奏のように聞えました。 この「ワン・フォー・オール」というユニットは、50年代のような勢いのあるハード・バップ志向のユニットといった雰囲気を持っていましたが、今作では、リズムやアレンジに少し凝ったかなという印象もあり、以前の勢いのようなものは少し失われたかなと思います。しかし4ビートを基本としながらも、曲の中で60年代っぽい8ビートが登場するという感じのワシントン=ファーンスワースのリズムはやはり痛快です。 その他のメンバーも別段の個性は無いものの、ソロとアンサンブルに大活躍です。 「ワン・フォー・オール」としては、早くも3作目となる今作では、新たな一歩を歩み出そうとする変化の兆しを感じさせるもので、今までの屈託の無い50年代ハード・バップの現代版といった雰囲気を好んでいた人には、若干の違和感を感じるかもしれません。しかしまだまだ若いジャズメン中心のユニットですから、これからも様々な変化があるでしょうが、ジャズの基本がしっかりとしているミュージシャンばかりですから、来世紀にも21世紀バージョンの新鮮なハードバップを聴かせてくれることでしょう。 10.6 Update |
★★★★ |
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Adonis Rose "The Unity" |
人気トランペッター、ニコラス・ペイトン グループのレギュラー・ドラマーとして知られるアドニス・ローズのセカンド・リーダー作が、CrissCrossよりリリースされました。 ファースト・リーダー作となった前作のCrissCross盤同様、今作も、ニコラス・ペイトン グループのメンバーが100%そのまま参加したもので、ローズが、リーダーのペイトンをはじめ、他のメンバーの信頼をいかに獲得しているかがうかがえます。参加メンバーは前述のとおり、現在のペイトン・グループそのままで、アドニス・ローズ(ds)ニコラス・ペイトン(tp)ティム・ワーフィールド(ts)アンソニー・ウォンジー(p)リューベン・ロジャース(b)となっています。 ドラマーがリーダーの作品ですが、とりたててそのことを意識させるものではなく、ペイトン・グループの新作といっていいほどの上質なコンテンポラリー・ハード・バップ作に仕上がっています。ドラマーとしての個性はそんなに感じられませんが、パワーとテンションを上手くコントロールした緩急をつけたドラミングが特徴の器用なタイプのドラマーといった印象です。また、3曲のオリジナル曲のコンポーズも、60年代のショーター入りマイルス・グループ的な印象ながらなかなか見事なものです。ローズは、ウェイン・ショーターがお好きな様で、コンポーズ面で影響を受けるだけでなく、「ドロレス」(「マイルス・スマイルズ」に収録)や「アナ・マリア」などのショーター・ナンバーも、この作品の中でピックアップしています。 作品全体のイメージも、60年代のマイルスの黄金カルテットを彷彿させるものなので、ペイトンのトランペットがマイルスっぽく、ティムのテナーもショーターっぽく聴こえてしまいます。ウォンジーのピアノは、相変わらずの好調ぶりで、モーダルさとグルーヴィーなファンキーさを併せ持ったその魅力は健在です。若手黒人ピアニストの中では、エリック・リードと並んで次世代のジャズを背負う人物になることを確信させてくれます。 ラストに収録されている曲のタイトルが「スムース・ジャズ」。いや〜この面子でフュージョンかいな?と早とちりしそうですが、作者のウォンジーのラムゼイ・ルイスみたいなピアノが光る「サイドワインダー」みたいなファンキー・ナンバーでした。 現在のコンテンポラリー・ハードバップのひとつの理想形ともいえる上質なジャズです。無名のドラマーのリーダー作ですが、騙されたと思って一聴されることをお薦めします。 10.9 Update |
★★★★☆ |
Vol.One
Vol.Two
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Kenny Pore "Sessions Volume One" & "Sessions Volume Two" |
70年代後半より西海岸をベースに活躍するギタリスト&コンポーザー、ケニー・ポアーの作品が、新譜扱いで2タイトル登場しました。 タワレコ梅田店の店頭で見かけた時、ブランダン・フィールズ(sax)ラッセル・フェランテ、パット・コイル(key)ヴィンス・カリウタ、ハーヴィー・メイソン、ウィル・ケネディ(ds)ロベン・フォード、ポール・ジャクソンJr.マイク・ランドゥ、ハドレー・ホッケンスミス(g)ジョン・パティトッチ、ジミー・ヘイスリップ(b)エリック・タッグ、リック・リソ(vo)など等…の参加メンバーに引かれ、リリースされていた2タイトルとも購入しましたが…。実はこの作品は、70年代後半から80年代後半にかけて、TBAレーベルなどに吹きこんだリーダー作の中からピックアップしたベスト盤でした。新録だと思って買った私は少し残念でしたが…。 気を取りなおしてケニー・ポアーという1952年シカゴ生まれのギタリストですが、ギタリストでありながらギターを弾いていないトラックも多く収録されており、コンポーザーとしての側面も重要視したセレクションとなっているようです。収録されているナンバーですが、ほとんどが彼のオリジナルによる曲で、ちょっとウェットでマイナーなメロディー・ラインを持ったLAフュージョンといった感じのナンバーが中心です。ヴォーカル入りのナンバーは、日本人の考える所のモロAORといった感じで、その筋のファンにはたまらない出来です。 LAのフュージョン系ミュージシャンが一同に会した感のあるメンバーの中で、光っているのが、サックスのブランダン・フィールズ。メロウなメロディーラインを、少ししゃくりあげるようにブロウする独特のアルトサックスを堪能できます。また、まだ無名のスタジオ・ミュージシャン時代だった、ジョン・パティトゥッチ(b)やスティング・バンドで大儲け?!のヴィニー・カリウタ(ds)のフレッシュな演奏も聴き所です。 70年代後半の音源を含むベスト盤であることは、前述したとおりですが、上手くリ・マスターをしているのか、音がかなり良くなっているので、音楽のコンセプトは仕方ないですが、音質的にはあまり古さを感じさせません。まぁLAフュージョンが、20年ほど前と現在とでもあまり変化していないという事実もあるんでしょうが…。 結論的には、打ちこみが主流になる前のモロLAフュージョンなので、その手のサウンドの好きな人には、まぁまぁお薦め出来る内容です。特にブランダン・フィールズのファンの人は必聴です。ただ2枚とも買う必要があるかは、?で、個人的にはVol.1の方がお薦めなので、まずVol.1を買って、ムチャクチャ気に入った人はVol.2を買う、というのが賢明だと思います。 個人的には、この手のサウンドで育ったクチなので、まずまず気に入りました。夏よりも季節の変わり目の今頃聴きたい、ちょっぴりウェットなLAフュージョンです。 10.9 Update |
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