激怒の魔術師
WRATH OF WIZARD

四人の英雄達が集まる中、魔術師のスネカザル・ボワスレータは「彼らの側からある品物を取ってきて欲しい」と頼んだ。「魔法使いの苦悩は二つの存在に同時に引き裂かれていることから来るんだよ。神々と人間、生命と魂、痛みと快楽など。」

「本当にここに入るおつもりなのですか」
「そうですとも、五つの龍が叫び出す時までにはまだ時間があるようですからね」
スネカザルが暗闇の中に分け入ると、彼が知っている唯一の言葉を唱えた。この暗闇の中でもっとも強力な魔術師の名前を。すぐに暗闇の中から、金色の目を持ち、砂時計の目を持った細身の男が現れて、スネカザル(仮名)の傍に立った。
「ここにあなたが求めているようなものがあるとは思えないけど」一度聞くと忘れがたい官能的な囁き声。彼の着ている長衣はスネカザルの着ている青いものと違ってこの暗闇の中でもわずかな光をも吸収してしまう黒。彼が呪文を唱えると杖の先端に光が晧晧と灯る。
宝石を龍の爪で掴んだ杖が黒い長衣の衣擦れの音のもれる合間に垣間見られ、時折の喘息のひゅうひゅういう声と咳き込む音がその合奏を破る。
「ここにわたしはあなたの助言ではなくあなたの怒りと激情を求めに来た。復讐と正義を求める心を。」
「いや、しかし正当な復讐というのはなんでしょうか。」彼は黒い長衣の袖を持ち上げて見下ろし、苦い笑みを浮かべる。不意に身をこわばらせ、激しく咳き込む。口から赤い雫が落ちて磨き上げられた昏い床に王冠のかたちをした波紋を投げかける。
「僕は報いを受けたんですよ、明らかに。結局正当な怒りなどというものはこの世にはないんです。あなたが完全に己の身を譲って人を護ろうとしない限り、僕はこの罠に落ちたんです。」
「本当にそうお思いなのか。そうであったらあなたにあれほど共感し、あなたの姿を知るために夢中になった人々についてはどう説明されるつもりか。たとえ商業用の物語の中であなたの役割が潤色されていたにしても,全ての人が欺かれたと考えるのは早計だ。」
「第五の時代で僕が駆り出されるという話を聞いたときにはがっかりしましたよ。僕に比べたら大半の仲間は影絵のように色を失ってしまう。それは僕が一つの理念を現しているのに対し、彼らは不完全なところで象徴と現実の中間の姿に留まっている。ごく少数の例外を別にして。」…Jyouimahounotou, Ryuumonnnomukou

Go to Life of Raistlin and World of Krynn (By Margaret Weis & Tracy Hickman)
WATOKU'S ABYSS INSIDE:
http://www2u.biglobe.ne.jp/~ABYSS/
Dragonlance.com - Unofficial Fan Site for D&D Dragonlance
http://www.dragonlance.com/
夢見る都のほっそりした塔が紅蓮の焔に包まれる。一万年もの間、夕暮れの幻影と夢魔のみを残す焔を除いて、この都に炎が上ったことはなかった。しかし今や凄まじい熱気を放つ炎が膨れ上がって街路を呑みこみ、いまだ略奪を受けていない奴隷の逃げ惑う姿もたちまちの内に龍の舌にのみこまれ、消し炭だけが後に残る。
その塔、都の中でも特に優美を詠われた建築物の中の広間、高い階廊の交叉する踊り場で、一人の美しい娘がその愛らしさゆえに、その属する都を滅ぼすことになった顔を死相に染めて横たわる亡骸と周囲に奔る血潮、それらを燃える炎が高さと障害を威力によって制圧しようと周囲から試みている。もう間もなく炎がこの踊り場まで来て、彼女の火葬と時を同じくしてこの都の葬礼をなす事になるだろう。
龍たちが西の空まで出撃して裏切り者の皇帝を追う姿で、都が死んだ者と死にゆく者を除いて空になった頃、黒い吹流しを着たほっそりした人影が現れてその娘の亡骸を抱え上げ、火から救おうとする。彼は猫のようにしなやかな身体にやはり猫のような緑色の目をして、するりと昇れるはずのないところによじ登り、この女性の体からあるものを取ってから階上から姿を消した。アルモン(仮名)は、焼け落ちていく階段の間を敏捷に舞い落ちていきながら、この破滅を導いた男について思いを致した。「こんな人間が英雄であるわけはない」そう言いつつも、彼の美しさとその悲しみは遺体に残っていた思念からも感じ取れた。「しかし、この世界がもしあのロンドンの鏡像だとするなら頷ける。」
アルモンは塔が火を吹き上げる煙突のようになったのを尻目に、龍達が炎で夜空を真っ赤に染めているのを見て、言う。
「全てが暗く、空虚なら、全てが本能によって賄われる。」抱いたなきがらに目をやると、
「この人はこの悲しみに満ちた世界の誰にも汚されないところに埋めてあげたい。たとえそれが許されない行為だとしても」

Ryuunosimanometsubou, Sinosaitenn

Go to Life of Elric and World of New KIngdoms (By Michael Moorcock)
The Elric Saga
http://www.summitpoint.com/lindq/elric.html
Elric Timeline
http://www.dodgenet.com/~moonblossom/elric.htm
晧晧と白く輝く妖精の君が、白いマントを広がるままにして垣根の隙間を探し、石垣の暗くうつろな境界線を縫って、沈黙に満たされた暗い空間、灰と死者の国へと向かった。「こんなところで最後の戦いが行われたのか・・・目的地はどこだ。」白い光芒のようにルウ(仮名)が進んでいくと死者達の集団に出会った。こんなところではどんな声もしわがれて聞こえる。「多分悪しき魔法使いに召し使われていた残骸だろう。」ルウは一人一人の高貴な死者達に黙礼したが、彼らは彼の行動を無視して死者の沈黙のさらに深いところに戻っていく。
ルウは振り向いて、「確かに我々の思い出が行きつくところは所詮このようなところで、われわれは命を保つのに別の方式を求めなければならないのかもしれない。しかしそうするにはなんと勇気の要るところだろう。彼はここで魔力を全て失ったのだったか。英雄の資格というものが、我々自身によっても他者によっても判断されるべきでないとすれば、そのことを考えること自体無意味かもしれない。さあ、いくぞ。目指すものはもうすぐだ」黙って「喉が乾いた…」

恐るべき苦しみの黒い山脈と、涸れた川の溝の傍まで来ると、ルウはあの男が開き、彼が魔力の全てを注いで閉じた忌まわしい裂け目の隙間を探り、妖術師の引き裂けた長衣をふところに足早にその場を去った。
「早ければ早いほど良い。もしかすると創造者自身が飽いてこの世界を抹殺しようと企んでいるのかもしれないのだから。ままあることだ。」
ルウはひとりごちた。

・・・Sisyannokuni, Ryuutachinokunitoumiwokoete

Go to Life of Ged of Gont and World of Earthsea (By Urshla K. LeGuin)
Ged's Alcove
http://www.asahi-net.or.jp/~HS2T-TKG/s-ged0eng.html
The World of Earthsea
http://scv.bu.edu/~aarondf/earthsea/

「彼はここにいるらしい、「夢の森」で学んだ叡智を持つ人、この人がどれほどの意思をもっていたにしても力の指輪には敵わなかった。われわれが彼から学べるのが実在でないとしたら、我々はどこを向くべきなのだろう。」
四方に伸び広がる長衣に包まれて、その老人はメルギゼルの見出した高い崖の上の、いまだ遥か下より火と煙の立ち昇る場所に眠るように横たわっていた。彼の老いて節くれだった手と腕はいましがた終えたばかりの死闘でひどく傷ついていたが、メルギゼル(仮名)が場の荘厳さに気おされて沈黙している内に、彼の魂が外に浮かび出て西へと向いた。それに従い彼の亡骸は白く透き通って、青年時代の姿に変わっていった。「いけない」メルギゼルが駆け寄ると、
崖の上のさらに上空から影が飛来してメルギゼルの側まで来た。
「大丈夫です。彼はまもなく目覚めますよ。彼は大いなる試練を耐え切ったのですから。」
「しかし彼は疲れ果てています。赤い宝石の指輪がいかに強力であるといっても、彼はもう十分に年老いているのだ。」
「わたしは彼がなすべきことを終えるまで任務を放棄しないことは確信があります。そうでなければ「西方の王」は彼を派遣したりしなかったでしょう。」
「巧みなる者が失敗したのにですか?灰色の者と彼の違いは何ですか?」
「あなたはもう知っているのではないですか」
メルギゼルは口をつぐんだが「僕にはこれから何が起こるのか分かる。あなた方を救うものが、ただの偶然の産物であって、摂理の元になるものでも、知恵の元になるものでもないことを。しかし誰も聞いていないとき、森の中で木が倒れることを誰が証明できるだろうか」
「証明する必要があるのですか?」
老人の肩がぴくりと動いて、ゆっくりと蘇生していく身体に赤みが戻っていく。老人の表情は穏やかになり、筋骨たくましい身体に生気が宿り、大きく伸びをする。
「彼が目を覚ました。続きは地上で。」
…Mugennkaidannohate, Durinnnotounookujyou

Go to Life of Gandalf and World of Middleearth (By John Ronald Reuel Tolkien)
赤龍館J・R・Rトールキンの部屋
http://member.nifty.ne.jp/hobbit/tolkien/
About the Red Book
http://www.ryucom.ne.jp/users/fumi/jrrt/about.html
The Gray Havens
http://tolkien.cro.net/index.html
「みんなどうもありがとう。これから儀式を執り行うよ。君達の持ってきてくれたものを使って、この世界の圧制者達の力を削ぎ、我々の望みをかなえるために。」スネカザルは微笑んでその場を後にした。

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