異端審問官の城塞


黒い眉に黒いあご髭、顔に一切の憐れみをのぞいた表情で黒い法服を着た審問官は大理石の机を撫で回しながら、左手を愛読書である「魔女の鉄槌Malleus Maleficarum」に置き、彼にしか見えない天使たちの羽音と囁きに冷たい微笑を浮かべながら耳を傾けていた。天使たちは青白い光の輪郭と光輪に包まれて、審問官に向かって戯れの言葉をささやく。ウリエルがからかって審問官の頭の上から言うには、

「次に破門するページはどちらですか?「孫の社」ですか?それとも「宝物庫」?」

睨み返して審問官が南極の氷なみに冷たく答えて、

「教義にそぐわない下劣かつ堕落し、退廃的なサイトとその登場人物は全て破門される。これらの定義にはほとんど全てのTerra Incognitaの記事がその範疇に入る。天使どもよ、侮りの口を利くな。なんならお前たちをも中世の天使たちと同じく間引きしてやってもよいぞ・・・特にウリエル。」

ウリエルは彼の声の毒に当てられたかのように灰色に色を変え、審問室のはしにうずくまる。
大扉がノックされて、黒い仮面に黒い制服を着た拷問者と刑吏が顔を出し、

「貴婦人が面会を要求しているようですが・・」

「来たか、拷問部屋の控え室にお通ししろ・・・天使ども、元来た空の上の寒いところに戻るがよい」

天使たちは寒空に続く格子戸の隙間からすべり出て、姦しくしゃべりながら出ていった。

針金でできた格子細工などの置かれた物置のような部屋まで導くと、審問官は暖炉に火をつけもせずに、その赤い長衣を着た貴婦人を氷のように冷たくなった椅子に座らせた。部屋の端には天使たちが悪魔を征伐する精緻な場面が彫刻された扉があって、審問官はこの扉の向こうにあるものについて語らなかった、初めのうちは。

「歓待をありがとうございます。どうやら、わたしの用件はわかっていますね。宣告します。あなたが監禁しているこちらの囚人と封印した書物の引渡しを要求します」

審問官「もちろんお前には我々の持つ秘密と真実について理解はできないだろう。日本人とその支配する魔術にキリストの赦免の何が望める?その頭巾をあげて顔を見せろ」

魔法使いが要求に応えると、一瞬審問官は後ずさるが、右手に高く黄金の十字架を掲げると、

「神よこの冒涜者とその僕たちの所業に怒りの溶岩を注ぎたまえ。」

突然魔女の体の周りに火が燃え上がり彼女の赤く輝く魔力がその力に拮抗して煙を上げる。柴の燃えるような匂いの中で、

セアラ(仮名)「ここまで言わせるつもりですか。あなたがカラマーゾフの兄弟に出て、キリストみずからを処刑してからあなたは何人裁きを下してきたのですか?」

審問官「失せよ、邪悪なエルフの魔女め。キリストは死者から善人と悪人を弁別される。たとえそれがご自分であってもな。まことに正しき者の目には肉の世界と霊の世界との間に区別などないのだ。疑わしき者はみな殺せ。あのときわたしはわたしの信じるところを実行に移す権限が与えられたのだ。」

彼の目には狂信の熱が燃え上がる。

「知識は人間を堕落させる。魔女よ、お前たちの操る穢れた魔法でこの囚人たちを救ってみせろ。救えるにせよ救えぬにせよ、いずれにしても私の勝ちだ」

彼が拷問部屋の防音壁に開いた扉を開け放つと、中には体のすぐには死なないところを串に刺され、氷で責められている囚人たちがうめき声をあげる。セアラは一瞬ひるんだが、そこに駆け寄ろうとして拷問者たちに押し留められる。審問官は、串刺しにされた囚人の一人に向かって、苦しみと恐怖に怯える顔を手で持ち上げると、

「この程度の苦しみは地獄の業火に比べれば物の数ではないぞ。さっさと書類にサインして免罪を求めるがよい。そうすれば刑吏どもがお前たちを俗権に引渡し、安らかに主の許しを求めに逝く事を許すだろう。」

青褪めたセアラは大きく開いた扉のほうに目をやると、

「これほどの堕落と信仰が結びついているのには驚きましたね・・天使たちよ、これほどの悪行から無知な者たちを救っておくれ」

彼女の魔力で天使たちが実体化し、空の上に戻ったはずの天使たちが地上に呼び戻される。しかし扉にはもう一人の登場人物がいて、その者も実体化した。

「この伽藍を打ち壊して書物と囚人たちを助けなさい。」

ミカエルが、「できません、マダム。彼には信仰があり、この城塞には凄まじいばかりの力が潜んでいます。それに彼はいずれにしても我々の友人なのです。」

友人と聞いてセアラの目は丸くなるが、

「ではせめてこの男を打ち倒し、獄吏たちを眠らせてしまいなさい」

彼らが前に進み出ると審問官は後ずさりながらも前にうずくまる黒々とした生き物の方を見て、

「この主の名を汚す者どもに天使の名を与えたのは誰だ?やはりお前たちが中近東の悪魔であったことは間違いないようだな!悪魔よ、聖エリヤとヨブの名の元に命ずる。魔女を神聖なる場所より追放せよ。」

悪魔は驚くが、審問官の指に「ソロモンの輪」を見て命令に従う。
轟音が響き渡り、狂ったような鐘の音が鐘楼から響く中で閃光が迸り、あらゆる者が呑みこまれていく中でセアラは真っ赤に燃える悪魔が黄金に輝く歯を剥き出すのを目にした・・・

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