トルコとの戦争と血族
「なにかがおかしい。我々の常識がここでは通用しない。わたしはどんな人間も恐ろしくないが悪魔は別だ。」・・・二万人のトルコ軍の串刺し現場を目前にして、メフメト二世の呟いた言葉


(ムラド二世の息子、メフメト二世はコンスタンティノープルを最終的に占領、首都にしたスルタンである。彼は口数が少なく、峻厳な独裁者だったが、交易を盛んにし、文化を保護してオスマン朝をふたたび繁栄に導いたことで歴史に功績を残している。西欧の文化に理解のある君主でイタリアから多くの芸術化や学者が招聘された。(彼の肖像画も残っている。)彼の瑕瑾は「兄弟殺し(フラトリサイド)」の悪しき慣習を次世代に残したことであり、この後スルタンの息子は後継ぎ以外「聖典にのっとって」殺されるようになった。)

彼がダネスティ家のもっとも強力な支持者である「修道僧」ヴラド(同名の異人が非常に多いので注意)の乱を鎮圧した後の1461年、メフメトがいまだ青年の君主ドラキュラに使者を送りハンガリーとの同盟を破棄するように要請してきた。この当時のハンガリー王はヤンク・フンヤーディの息子、マティアシュ・コルヴィヌスで、トルコ軍との全面対決には及び腰だったのだが、それでもヴラドは「ターバンを脱ぐのをいやがる」使者を串刺しにして返答とした。メフメトはそれでもドラキュラの出頭と釈明を要求し、ワラキアとトルコはお互いの国境地帯を焼き払って相手に対する示威行為を行った。

伝説によれば、ドラキュラはスルタンに自分の不在の間、代理となるトルコ人の指名を要求し、メフメトは事態を甘く見て彼の要求に応えた。ドラキュラは凍りついたドナウ川を渡河して彼らを皆殺しにし、親衛隊達と共に彼らに扮してトルコ軍の陣営に入り、欺いて電撃的にあちこちの砦を燃やし尽くした。彼はまたスルタンの領土で狩猟を行う許しを求める使者を出し、続いてスルタンの領土内で人間の獲物を狩り、皆殺しにした。1462年3月、激怒したメフメトはこれらの知らせを運んできた宰相を鞭打つと、大軍を集めて小国ワラキアの息の根を止めるべく出征した。西欧連合軍の援助が期待できないことを知ると、彼は代々、家に伝統的な策略を取った・・・・焦土戦術である。ドラキュラは「斧隊」の前に全軍を集結させて、戦で傷を受けたものには莫大な報酬を、しかし逃げ出す者には串刺し刑を罰として与えることを伝え、作戦にとりかかった。

「ドラキュラ軍はドナウ渡河の際に大損害を与えた後、ゲリラ戦術を続けながら退却し、トルコ軍は焼け野原の中、略奪するものもなく軍を進め、夜襲に不意打ちを受けながら次第に士気を喪っていった。彼らの進んで行く都市は放棄されて、ドラキュラによって毒を投げ込まれた井戸を知り、住民は疫病にかかった農奴だけというありさまに兵士達はしり込みした。数少ない捕虜はスルタンの恫喝も慰撫もものともせずにドラキュラへの畏敬と恐怖からなにも話さなかった。補給品の欠乏と恐怖から逃亡が相次ぎ、スルタンは敵の首府であるティルゴヴィスタにたどり着くことのみに全力を集中した。

しかしティルゴヴィスタに近づいた時、ドラキュラは最大の攻撃をかけ、全軍はちりぢりになり、メフメトは危うく生命を失うところだった。次の日、疲労困憊した彼らがワラキアの首都に入ると、そこには串刺しにされたトルコ軍の二万人のまだ生きて身悶えている姿があった。最早、現実を理解せざるを得なくなったメフメトの決断は総退却であり、彼は残る全軍の周囲に深い塹壕を掘ってその恐怖に満ちた夜を過ごし、その後黒海の沿岸へと落ち延びた。」(彼がメフメトの陣地の近くまで進んだことは確かであり、歴史に「もし」があれば大きくここで流れが変わっていただろう。)ドラキュラは捕虜をグール化して苦しむ時間を長引かせる方法をしばしば選んだらしい。トルコ軍に協力していたアッサム教団の血族もおなじはめにしばしば陥った。)

ドラキュラは勝利し、彼の声望は新たな十字軍戦士として広がり、トルコによって奪われたヨーロッパの領土の復帰を望めるようになり、スルタンによって征服されたセルビア、ブルガリア、ギリシアなどの諸国も重い貢納を逃れる光をドラキュラの存在に見出し始めた。「しかしそうはならなかった。彼の兄弟にしてスルタンの走狗である、ラドゥが兄にとって代わろうと企て、私欲しか考えない小貴族たちが彼に協力した。」(Transylvania ChronicleとChildren of the Inquisitionでは大分ドラキュラの描写に違いが見られる。前者では彼は勝利を得るためにあらゆるものを投げ出し、彼の愛する妻リヴィアですら前途を悲観し、河に身を投じて自害したことになっている。しかし後者ではドラキュラはあらゆることを計算し、スルタンは名前すら出てこない脇役として、彼の勝利の栄光を引き立たせる役割を果たしているに過ぎない。実際の歴史もおそらくこうなのだろうが。)



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裏切りと陰謀