闇の海に浮かぶ黒い影、いつもの通り冷静な「友人」の声は、幾星霜を経て磨き上げられてきたもの。ジェノバの「監視者」ドンディーニDondinniはこれだけ長い付き合いなのに、まだ物蔭にかくれてわたしに顔を見せてくれない。アンコニュのヴァンパイア達について彼が詳しく語ることはないけれど、私が彼に抱いている「友情」のお返しはこのような形で返してもらうしかないらしい。いまさら彼の顔かたちなどはどうでもよいのに、彼がノスフェラトゥだからというだけでは説明しきれないことだ。
「君を欺きたくはない。」彼は言う。「それともカマリリャの連中のように仮面をつけてみようか?それは退屈な遊びだよ。君が思っている以上にね。」
「話を進める前に、言っておくことがある。君も知っている通り、ヴァンパイアには生前から残っている「人」としての側面のほかに「けだもの」の側面があるけれど、もう一つの忘れてはいけない側面があるよ。「死体」としてのさ。ヴァンパイアは魔力で動いているけれど、昼間は死体に戻ってしまう。ゲヘナとはテクノロジーによるわれわれのつまらない秘密の暴露である、とはよく言われるよね。しかし実際には死に対する尊厳がなくなってきたことに君達が思うような悲劇やら神秘やらはないんだよ。それをわすれないでおくれ。」