のっけから不謹慎な話で恐れ入りますが 道鏡の巨根伝説というのがございます。河内の弓削道鏡が、女性でありながら二度も皇位につかれた孝謙天皇の寵愛を受け、位人臣を極めるどころか宇佐八幡の神託があったとして天皇の位にまでつこうとして結局は和気清麻呂の再度の報告によって阻まれたという話は戦前は小学校の教科書に必ず乗っていた事実。そこからいろいろな伝説が生まれたようでございます。 まあ表の話としましては万世一系の皇祖を守った大忠臣和気清麻呂と皇室のお噂でございますから滅多なことは申されなかった訳でございますが、裏ではそれこそ男と女の話として面白おかしく語られたようでございます。 そこで出て参ったのが「まぼろしのたまご」でございます。 以前はきちんと歴史年表にも出ておりましたが、たまごは朝廷によって食用を禁じられていたようでございます。それと時期的に合致するかどうかは判りませぬが、その理由といいますのがたまごは古来滋養強壮のもと、国を治めるものにとって一番こわいのは何といっても謀反でございますからムラムラっとした気を起こさせるような食い物はご法度にしたという訳だそうでございました。 まあそのような立場にありますたまごと、ひときわ誇り高く権勢を極めた女帝を篭絡して天皇にまでなろうとした精力絶倫の怪僧の、冒頭申し上げた巨根伝説とは切っても切れない文字通りたまごとベーコンのような関係らしゅうございます。 道鏡はと申しますと何せお相手の称徳天皇が、時の権力者仲麻呂をはじめ回り中をバタバタとなぎ倒して重祚されたような激しい女性でございますから、そのお相手としての精力を保つのは並大抵の努力ではおぼつきません。さりとて現今のように便利なサプリメントや況んやバイアグラなどという重宝なものはございません。よってひたすらたまごに頼るわけでございます。 おしなべて薬効のあるものは副作用もございます。道鏡というお方は一方では大変な教養人であったらしゅうございますからその辺のことは重々ご承知と見えて薬効あるというものもすべて鶏の腹を通してたまごとして召し上がったようでございます。さらにもっと大切なことは単純な料理法でもあきが来ないようにたまごの味に変化をつけることでございます。昔は秋味、冬味というように季節により鶏が啄ばむ餌が変ることによってたまごの味も変化することが広く知られておりました。道鏡の伝説もさることながらもう一度昔の季節感のある卵を再現させたい、そんな思いから限定して生産してきたのが昭和50年ごろ命名した昔翁ありきと後にお菓子用としてつくりだした鹿鳴館でございます。 全国を歩きますと黄身返しのような奇をてらったもの以外に、たまごに関してもまぼろしになった言い伝えを持つものが結構ございます。そのほとんど全部が驚くほどの低カロリー飼料によるもので現代では再現不可能です。本当はそうすることによって嫌でもたまごの味に変化が出てくるのですが…。 お粗末な一席でございました。 |