『卵の常識 (その2) 昔の卵、今の卵』



前回の話にも出たとおり、昔は完全な保存食だった卵が、今や生鮮食品で、日配品として売り場に並ぶようになったが、今回は卵自体は昔と今とどう変わったか考えて見た。

世界に冠たる長寿の日本人も一歩国外に出るや、現地の人がびくともしない弱い菌に、たちまちやられてしまう。昔だったら問題にされない雑菌まで、今では抗生剤の効かない恐ろしい菌だと報道され国民はそれを鵜呑みにして排除しようとする。昔は「貯金、貯金」の日本人がすっかり「除菌、除菌」になってしまった。ほとんどの人が傷があれば放って置くと化膿するのは、雪印で大騒ぎしたぶどう状球菌が皮膚に普通についているからで、傷のない健康な皮膚なら問題は起きないはず、日常生活では傷が膿まない様に手当をして菌が産生するエンテロトキシンを口から取り込まないようにするだけのこと。

本来、傷の消毒だけで済んでいたものが抗生剤を使ったりしたから、メチシリンの効かないマーサで大騒ぎすることになる。海外協力もいいがエルトールコレラぐらいでビクともしない抵抗力を作るのが先(お医者さんの話)

ここでさっきの健康な皮膚になぞらえられるのが卵の殻。過日もあるGPで鈍端のザラついたのや薄い殻のたまごが多く昔はこういうのはなかったという話があった。こういう卵をパック詰めすると時季によって一日でカビが薄皮の間に入る。ひびのある卵と同じだという。健全な殻だったら本来中に入ろうとする細菌など受け付けない卵が簡単にカビなどの侵入を許してしまう。鶏の飼養環境の変化で、そういう卵も多くなり、庭先で巣に就いた雑鶏に、なぐさみに抱かせたら転卵で鈍端に皆穴を明けてしまった。木箱でバラ積して輸送していたころの卵とはまるで違う、と云う。実際に傷のない卵で腐るのはこういう卵で昔はほとんど無かった。これは断言していい。

昔、種卵を個体孵化するとき、上から見やすいように鈍端にえんぴつでデータを書いたがよほど弱った鶏が産まない限りそこがゴソゴソになる卵は無かった。そして卵重は二年目が一番あり三年目は小さくなった。たしかに今の一般的な飼い方では鶏の経済寿命のまえに殻がだめになる。昔とくらべると餌のカロリーも個体の生産性も二割も上がったが、卵の味とともに自然への抵抗性も失しなわれて来たとすれば、卵も日本人そのものもまったく同じ歩みをしてきたことになる。

確かにエンテロトキシンもベロトキシンもこわいのは確かだがもともと我々自身が宿主である大腸菌、厠というとおり川のうえに厠を作り、それで魚が育ち、それをまた人間が食らう。O−157のような反乱者やジストマなどの自然の危険を計算しての自然回帰でなければ、いたずらに敵を作るだけで、なまじ自然などと云わない方が身のためといいたくなる

(つづく)
篠原 一郎 (文責)



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