「あーっ、あーっ」ゆうべから酔払って、そのまま炬健で寝ていた後藤が、例のすっとんきょうな声をあげた。「炬燵がいぶって居るぞ−っ」 焼かぬ干物に半煮え飯に なまじ命のあるそのうちは こらえきれない寒さの焚火 煙いはずだよ生木がいぶる 一郎が面自がって歌い始めた。なんのことはない、生木がくべてあるのである。 ここの炬燵にはやぐらが無い。大谷石のかまちの上に簀子が乗って居るだけだ。先ず、真ん中に火種を置き、周りに生木をならべて灰をかぶせる。やがて生木がいぶりだし、遂には真っ赤に焼けた炭になるしかけである。当然のことだが、掛けてある布団は、うっすらと黒ずみ、木酢酸がしみて、すっぱい匂いがする。小泉は、これを屋外にしつらえ、焼けた炭だけを取り出しているが、それならいぶりくさくない。 「ああ驚いた。なんでそうしないんだ」と言う後藤に 「このほうが風情があっていいよ。」 差し込む朝日に、いぶっている煙をみて、澄ましている一郎だった。 縁側の脇の薮に、雄のメジロが来て、見事な胸の金線を光らせチヨッチヨッ、と鋭く尻上りに鳴きながらながら、へくそかづらの実をついばんでいる。「ヘくそかずらとは又、いまにも匂い出しそうな名だが、メジロにとっては くさやみたいなもんだろう。それにしても良いメジロだなあ」感心したように一郎が言う。「ところで、メジロやホホジロがビイチクパーチク鳴くことを、ここでは『さえる』と言い、三角さんの方では『くでる』、群馬では『高音を張る』と言うそうだが、君のほうじやあ何て言うんだ?」と聞いた一郎に「俺の方にばメジロなんていねえよ、さしずめ『ぐずる』だんベ」後藤は笑いとばした。 澄子が『ぐわんざん』の樽柿を出してきて後藤に勧める。 「あれっ、ちっとも種子がないんだねえ」と感心したように後藤が言うと、 「種子のある『ぐわんざん』は、甘いから樽柿にはしないんてすよ。」 当然だとばかり澄子が答える。 「種子の有る無しはどこでわかるんです?」 不思議がる後藤に、澄子笑って答えずだった。 庭の片隅に洋梨の形をした『きんこうじ』が、鈴なりに実をつけている。あまりうまくないのだが、後藤は、これが好きだと言って、自分で箱に詰めている。今度の来熊も、それが主目的だった。寒いこの時季は、さすがに省エネ・カーではない。50CCのエンジンでは、暖房までは無理らしい。 「ソーセージの旨いのが出来てるよ」 「からいもはどうだ?」 「今度のチーズは出来がいいぞ」鶏小屋から呼び掛ける一郎に、 「何でも、もらって行くぞ」とご機嫌な後藤だった。 |