『ベーコンと卵』

先日、テレビ4チャンネルニュースプラス1で卵の特集をやった。卵博物館の○○さんなども出てきて幻の卵を求めて東北に出向くなど面白く拝見した。

ただ面白番組だからと言ってしまえばそれまでだが、番組の中で卵の黄身につまようじが何本立つかを品質の一つの目安として競わせていたが、卵屋のなれのはてとして見ていてこれはどうも頂けない。

卵のうまさの一つに半熟の黄身のとろみがある。黄身をかたくつくると、このとろみが失われてしまう。以前、これもテレビのコマーシャルで『黄身が箸で持ち上がる』と宣伝していたことがあるが、これなど言語道断だ。

脂質をかためる性質のある飼料に綿実粕、コプラミール、木酢酸とそれを使った添加物などがある。昔はそういう卵は”スポンジ卵”として嫌われたものであるが、卵のみてくれでなく真のうまさを追求する場合、絶対避けなければならないことの一つである。

1950年代のアメリカ映画に、ジーン・ケリーとデビー・レイノルズが主演した”雨に唄えば”というなつかしいミュージカルがある。その中で卵とベーコンのように切っても切れない関係というセリフがある。トロリととけ出したあつあつの半熟の黄身をベーコンにからめて食う。シンプルなアメリカ料理の傑作だった。だからこそそんなセリフも生まれたのだろう。

尤もうまいベーコンと卵があった時代の話であり、ベーコンにしろ卵にしろ今ではとても望めそうにない。半熟は駄目、黄身はかたくつくれの時代だからである。

つくづく変な世の中になったものと思う。

平成13年5月7日記 篠原一郎 (文責)



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