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鹿友会誌(抄) 「第四十一冊」 |
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△亡友の思ひ出 月居忠悌 …亡友逸事彙… 一、阿部守己君 仁侠の人阿部守己君、逝いた早くも墓木拱せんとす。当時鹿友会員にして、学業に学費に 順境にある者は、大里武八郎氏に集まり、徒らに国士気取りの貧乏書生は、阿部守己君の傘下に 集る傾向あった。実に君は、自己を棄て仁侠を以て任ずるの慨あり、君を月並的の成功論より 見れば、失敗の人とも称す得べきも、人を評価する強ち功名を以てのみすべからず、心友の多き君の如き 又稀れなるものあった。君を誤りたるは、雅楽を修めて道草を採りたるにありと称する者あるも、 君の真意は維新以後、欧米崇拝熱に依り、日本固有の芸術其の他の衰頽滅亡するもの多きを 慨嘆し、就中雅楽の廃滅せんとするを中興して、国家に奉公せんと発願し、一身一家の繁栄の 如きは眼中になかりしものなり、此の大志を遂げ得ずして、業半ばに郷里に引込まねばならぬに 至りたるこそ、是非なかりしものなり、幸に君は志を遂げ、日本雅楽を既倒より中興して、 日本芸術史不滅の人物となり居らば、敢て高等官や重役ならずとも、男一匹の面目十分に 躍如せしめてあろうと思ふ。 二、青山守太君 米櫃を年中空乏にして、両親妻子弟妹等を金欠病に苦しめるも、終始一貫して鉱山業に 邁進して悔ひず、志士国事に奔走して、妻子を顧みざるの慨を以て貫きたるものは、青山守太君 であろう。君の鉱山に関する薀蓄の深きを以て俸給生活者たらんとせば、一鉱山の山長たる 敢て難きにあらざりしならんに。五斗米に腰を屈して、自得驕色あるが如き君の最も潔と せざる所、君仮令陋巷に窮死するとも、君の霊や恨みなかるべし。失敗の英雄とも称すべきは、 君を評するの言葉なるべし。素志に終始する男性的の気概こそ、後世に伝へたき貴重のもので ある。千百人に一人位は、米櫃を超越し、幸福安全観念を無視し、係累に煩はされず、始終一貫、 倒れて悔いなき人物の輩出は必要かも知れず。今日の無限の国益を以て貢献しつつある全国幾千 の大小鉱山の発祥の歴史は、恐らく青山君の如き不死身の人物の開拓せるものかも知れぬ。 此の一事、現代教育の方針の上に参考すべきでなかろうか。 |