沙耶の唄
(ニトロプラス)
<ストーリー>
交通事故で瀕死の重傷を負った主人公、匂坂郁紀は、
その後遺症(?)で、「世界が狂って視える」ようになってしまい、
いつしか他人を避け、孤独の殻に閉じこもるようになった。
異変に気付いた友人達は、なんとか以前の郁紀に戻れるよう、様々な救いの手を差し伸べるが、
郁紀は心を開くどころか、ますます「狂った世界」を拒絶し、孤独の殻に閉じこもっていった。
そんな郁紀の前に、ひとりの少女が現れる。
狂気と嫌悪の世界の中で、ただひとり郁紀にとって「正常な形」を留める少女、沙耶。
彼女との出会いをきっかけに、郁紀の知覚する「狂気に侵された世界」は、
少しずつ狭間を超えて「現実の世界」を侵し始めてゆく…。
「吸血殲鬼ヴェドゴニア」「鬼哭街」「機神咆哮デモンベイン」などの
やたらにド熱いバトルシーンで有名なニトロプラス製作の18禁ホラーノベルです。
内容はいたってシンプルで、選択肢も本当に数えるほどしかありません。
総プレイ時間は計6時間強といったところでしょう。
これを物足りないかどうかと見るのはプレイする人しだいでしょうが、私はかなり楽しめました。
シナリオにムダがなく、非常にテンポよく、それでいてはしょりすぎでもなく、密度の濃い内容であったと思います。
世の中には「プレイ時間が長い=内容が濃い」ゲームであると思っている方もいらっしゃるようですが、
冗長なだけのテキストをダラダラ見せられるよりは、短くまとまった内容の方が私は好きなので、
この作品の文章構成には非常に感心させられました。
私もこのようなシナリオを書けるようになりたいものです。
さて、この作品、サスペンスホラーアドベンチャーゲームと銘打たれているだけあって、内容はけっこうグロいです。
耐性の低い方は途中でやめるかもしれませんし、内容についていけないかもしれません。
もっとも、ホラー物というジャンル自体、プレイする方を選びますから、こういう評価は的外れなのでしょうが…。
とは言え、クトゥルー神話大系についての知識がない方にとっては、
「ハァ?」と首をひねりたくなる内容かもしれませんので、
できればその方面の予備知識を仕入れてからプレイした方がずっと楽しめると思います。
ただ、多分にクトゥルー神話的な内容を含んでいるとは言え、
救いようのない、ただ怖いだけ、ただダークなだけの内容ではありません。
いや、救いようのない内容ではあるのですが、その中に、何か考えさせられるような、微妙な感情を喚起させられるのです。
誤解されるのを承知で、あえて言いましょう。
この作品は「純愛物」です。
どうしようもない異形の狂気に侵された。
狂気に侵食された世界で生きることを強制された男と、孤独な世界で生きることを強制された異形の者。
そんな二人が織りなす、異形の愛の物語。
それがこの作品だと思います。
ま、序盤であんだけ濃厚なHシーン見せといて純愛ってのもどうかと思う方もいるでしょうが、
パラサイト・イヴだってあのくらいやってたんだし、
別にいいのではと。
おまけ:登場人物紹介