鹿友会誌(抄)
「第二十七冊」
 
△關さんの「思ひ出」
 噫、もう關さんは去ってしまはれたのだ。
 その日のやうなその日のやうな春は再び廻って来
 その日のやうなつつぢも再びさいたのに
 關さんは帰ってこない
 關さんはもう帰って来ない
 無心に咲く花も、無心にきこゆる鳥の音も
 みな故人の思ひ出を誘ふては悲しませる。
 噫、若葉は無心に広がってゆくのみだ。
 
 わたくしの畏敬して郷党の一人としての、忘れがたい思ひ出は、次から次へと胸に泛んで来る。
 關さんにたいして言ひかけたい言葉も、わたくしの胸には少からず秘められてある。
 しかしたゞ、わたくしは、あゝした先輩の歩まれた道をうけついで、精進をかさねつゝ、その遺された ものゝ一部にでもあたる仕事をして、その御心に添ひたいと思ってゐる。
 眼をつぶると、大崎の二階にあった關さんのお顔が、ハッキリ泛んで来る。
 けれども、それはあまりにかなしい思ひ出のカメラである!。
 
 では、關さん
 
 どうぞ、御心静かに、とこしなへの眠りを、つゞけて下さい。
(若葉の薫る東中野にあって)

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