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鹿友会誌(抄) 「第二十六冊」 |
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△天然紀念物 小坂噴泉堵(小坂噴泉塔) 小坂 小野進 − 石灰華塔カルカリヤス・シンター・コーン − 一昨年、我が郷土なる小坂の奥に、学術的至宝が発見されました。 それは地質学上の用語で、噴泉塔と言はれて居るものであります。又はその形状と性 質とからみて、小坂鉱山の諸井信明氏は、石灰華塔(カルカリヤス・シンター・コーン) と呼んでゐます。郷土の珍奇なる天然紀念物を御紹介致したいと思ひます。 △位置 小坂駅から西北に約二里半、小坂川の一支流、相内川を遡る所に、湯の岱と呼ばれる 台地があります。「明治十四年、湯の岱に炭酸泉発見」と吉田東伍氏の地名辞書に見え てゐますが、村人には早くから、湯の岱に湧く湯が、皮膚病や痔に特効があることや、 噴出瓦斯のために鳥獣が斃れることで、不思議な土地として知られてゐました。然しこ の湯の岱の上にある小山の様なものが、世に珍しい噴泉塔であることは、一昨年の夏、 東京高師の佐藤教授に依って発表される迄は、誰にも気がつかなかったのであります。 爾来、諸新聞紙上に報道されて、世人の注意を惹き、昨年九月には内務省史蹟名称天然 紀念物保存委員井上禧之助博士の実地踏査があり、今や指定保護の決定を見やうとして 居ります。 △外観と構造 塔の数の明に見られるのは九個、形は皆富士山型で、高さは二尺から五六尺内外であ ります。而も点々と並び、小さい火山脈でもみる様です。各塔頂には噴孔があり、その 直径は最大(二号塔)一尺七寸、深さは一寸杭をさしても十五六尺は測ることが出来ま した。そして五号塔と六号塔は、噴孔から四尺位下にC三十度位の炭酸水が間歇的に湧 きます。又、炭酸瓦斯の噴出のために、蝋燭の火などは二尺位さげると消えます。殊に 、二号塔と四号塔では、噴孔が土や芝生で塞がれて居るのに、現に蛇や小鳥や無数の昆 虫が瓦斯のために死んで居ます。又炭酸瓦斯の噴出孔は塔の西方にも一個所あります。 塔の全部が石灰華であることは、一号塔の露出に依って知ることが出来ます。 △附近 塔の西方一帯に、四ケ所の湯口と、乾固した幾多の湯口の跡を見ることが出来ます 。湧出する清澄な炭酸水を汲み、砂糖を加へれば、上等の天然サイダーが飲めるわけで す。噴泉塔を見るにいらしたなら、コップと砂糖とを忘れない様にして下さい。渓流に 臨む断崖面には、石灰華や鍾乳石、小石灰洞が出来てゐます。且、石灰岩は純粋の炭酸 カルシウムから成り立つ事は稀で、必ず不純物(鉄の水酸化物)を混じてゐまから、溶 解が進むに従って、炭酸瓦斯は地表に発散し、是等の物質が表面に沈殿し、酸化して赤 褐色の土層となって残ります。これを「オーカー」と言ひます。「オーカー」は雨水の ために洗ひ流され無いので、直ちに厚く生じます。之は塗料の原料となります。又、水 は伏流となって、地下を流れ、突然地表に流出して、渓流に注いでゐます。 △成因 第三紀末の火山運動(造山運動)の名残りが、吾が鹿角に於ては、床となり、温泉と なって居ります。而して湯の岱に於ては、火山作用(湧泉)がこの地盤たる石灰岩に作 用したのであります。勿論、石灰岩の形成は、この地方の造山運動が終ってから後のこ とでありますから、湯の岱に於ける温泉作用も火山活動の終末期に行はれたのです。湧 泉の低温もそのためです。塔が出来たのは、炭酸泉の湧出と共に、炭酸石灰が沈殿した 結果であります。言はゞ、湯アカの堆積と言ふべきものです。 尚、地形からみても、地質からみても、この地に於ける地殻の弱線の位置や方向を察 知することができます。 (九月十二日) 小野さんは、小坂元山小学校に出て居らるゝ篤学の士です。発見以来、全力を尽され てその紹介、宣伝に努められました。今回、内務省の保護の下に立たうとしてゐるのも 、全く同氏の御尽力の賜です。尚、本会員小坂町長鼓動茂太郎氏を会長とする小坂町区 会も応援して下さってゐます。 絵端書や案内所を発行してゐますから、御希望の方は御申込みなされたら宜しいでせ う。会員諸君、小坂にいらしたら、是非御覧になる様に御勧め致します。
(佐々木彦一郎)
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