モル日記10

 

また、やってる!

門の外まで聴こえる、大きな声で

叫んでいる。

「何やってんだ!」

帰ってくるなりこれかよ!

「お前達は、寄ると触ると喧嘩か?!」

「いい加減にしろ!うるさい!」

「いいじゃない!やらしといたら?」

嫁が台所から言った。

「でも、うるさい!」

「良いから、こっち来てお茶にしたら?!」

「いや、コーヒーだ!」

「どっちでも良いから、こっち来て!」

テーブルに出ていたお菓子をつまんだ。

「何でやってんだ?」

「さぁ〜!?」

居間との境の引き戸を閉めた。

少しだけだが、

静かになったような気がした。

コーヒーを入れながら、

タバコに火をつけた。 

「先生、なんだって?」

「うん、補助者のNISI君が、

明日休みだから

手を貸して欲しいんだって、

その打ち合わせ」

「じゃ、現場?」

「そう、川原、この前やった分筆の向側」

「ほぅ〜!そりゃ〜!でっ、また分筆?」

「いや、境界確定だよ」

「立ち会いをやるから、来てくれってさ、

資料を見て、

大体の打ち合わせをしてきたんだ」

「それより、なんでやってるんだ」

「さぁ〜!?」

「本当に知らないの!」

気になるが、奥さんに叱られるから、

コーヒーを飲んでいた。

「風呂は?」

「そろそろ、良いんじゃない?」

「見てくる!」

風呂おけに手を入れてかき回した。

チョッと緩いが、こんなもんか?!

「良いねっ!」

「おい!そろそろ、やめて、

風呂に入るぞ!」

ありゃ!もう、喧嘩してないのか?!

なんだよ!拍子抜けだ!

「だから、放っとけばって言ったでしょ!」

まっ、良いか!

「ほれ!風呂!」

先に入っていた。

いい加減に暖まっても来ない。

「おぉ〜い!早くしろ!」

のぼせちまう!

ガチャガチャ、何か持って来た。

二人入ると、一人出ないと無理だ。

蒸れたヒゲを剃りながら聞いた。

「何でもめてたんだ?」

「・・・・」

お互いに顔を見合わせて応えない。

「何でもめたんだ?!」

「にちゃんが、・・・」

「お前だろぅ〜!」

「違わぁ〜い!兄ちゃんだ!」

浴室の中は響く!

えぇ〜い!やかましい〜!

「おぉ〜い!」

「よし!!」

「じゃ、お前が答えろ!」

「何でもめてたんだ?!」

兄の方に聞いた。

「此奴が、勝手に名前付けたんだ!」

「兄ちゃんだって!」

「はぁ〜!?」

「違う!俺は、自分のを呼んだだけだ!」

「俺だって!」

「何の事だ!?」

「モル!」

二人でそろって答えた。

「えっ!?モル!」

「なに言ってんだよ!あれは俺んだぞ!

俺がもらってきたんだから、俺んだろ!」

「とうちゃんにはチビが居るじゃん!」

むっとして居る。

「チビはチビ、モルはモルだ!」

「ずるい!」

ちびも言う。

何で、俺がもらってきた物を

こいつ等が奪い合うんだ!

「良いか!

あれは俺がもらってきたんだから、

俺んだ!」

「違わぁ〜い!」

「何が違う!」

「うるさぁ〜い!」

風呂場の戸が開いて、嫁が叫んだ。

「いい加減にしなさい!

早く洗って、出てこないと夕飯抜くよ!」

「とうちゃんのせいで、怒られた!」

「良いから、さっさと出ろ!」

「洗わなくて良いんか?」

「サッとで良い!」

「かあちゃんに怒られるぞ!」

「じゃ!ちゃんと洗って、

早く出て来いよ!」

出て行くと、嫁に言われた。

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