日本にはいろいろな「バケモノ」や「物の怪」や「妖怪」の伝説伝承が
ありますが、「河童」と「きつね」は、特によく親しまれていて、
しかもどちらかというと、バケモノと言うよりは「神さま」に近い側の生き物(??)です。
河童は川の精霊みたいですが、水の神さまでもあって、
稲作に必要な「水」を左右できるらしい、なかなか力のある生き物のようです。
人間のいない場所に密かに棲む妖怪のたぐいではなく、
人の生活エリアに重なった場所にいるようで、
河や沼で泳いでいる子供を深みに沈めて死なせたりする恐ろしい存在ですが、
生のきゅうりが好物で、相撲をとるのが大好き。
頭の皿の水が干上がってしまうと、
神通力が弱まってへろへろになってしまったりする愛嬌のある存在で、
よく地上に上がってきて、河の側や村の近くを歩いてたりしたようです。
容貌は場所によって多少違いますが、
小さい痩せた子供のような人の姿である事が多く、
身体は緑色や黒みがかっていて、頭にお皿、背中に甲羅、
手に水掻きがある姿が多いようです。
人間の娘さんと結婚したがる河童の話や、
悪戯をして坊さんに手を切られてしまう河童の話など、
日本中に数え切れないほどの民間伝承があるようです。
私の生まれたすぐ近くには
「淀川」 という大きな川が流れていたのですが、そこには 「がたろ(
おそらく ”河太郎” の転移した呼び名)」 が棲んでいると言われていました。
「ひとりで水の側に行っちゃイカン。 がたろに引っ張り込まれるぞ」
と注意されたりします。
河の近くに行くと、水辺で バシャ! とかいう水音が聞こえたりするのですが、
その音が 「がたろ」 なのか、ただ魚の跳ねた音なのか、
何かの聞き違いなのかがわかりません。
そして、わからない時にはみんなは 「”がたろ”かもしれない、
もう夕方だ、気をつけて早く帰らなきゃ」 などと思うのでした。
「珍見異聞(1)」には、河童の短い話が入っています。
若い女に恋心を抱いた河童の話。
近所の悪戯好きの河童の話。
人間の知恵者の話。 の3つです。
さて「きつね」のほうですが、こちらはもともとお稲荷さんの「眷属」で、
いわば稲荷大明神のお供というか、お使いというか、神族の一部らしいのですが、
なぜか「たぬき」みたいに人間を化かしたりもするという、
ちょっと悪戯っぽい性格を持った、獣と神さまの間のような、
中間的で不思議な存在です。
なお、
神さまのお使いをしてくれる山の動物として他にオオカミ(大神)がいて、
山の神社に参詣した帰り、自宅まで無事戻れるよう後をつけてきてくれるのを
「送りオオカミ(女性を送るわけではないらしい)」
というようです。 日本のオオカミは日本犬に近い見かけでもあって、
あまり怖くないようです。
私の子供の頃(けっこう大昔!)だと、「きつね」にあぶらげ盗られた人やら、
「たぬき(音便がついて たのき と呼ばれていました)」
に化かされた人やらがまだ大勢いまして、
さすがにリアルタイムで 「昨日、裏の家の**さんがキツネに・・・」
という時代ではありませんでしたが、それでも 「**さんちの人がむかし、
隣村の結婚式から帰ろうとして自転車で夜道を走ってたら、
堤防で自転車をひっくり返されて、荷台にくくりつけてあったお祝いのお重の
あぶらげと天ぷらを盗られた」 という話を、
けっこうリアルに聞かされたりしました。
「あそこの堤防のあたりは、夜に狐火が、ポン、コロコロ、ポン、コロコロ、
と転がって走るから、あのあたりに巣穴があるらしい」
という説明でした。
うちの祖母なども、 「娘時代、夜遅く家に帰ろうとして、
蓮池(蓮根畑らしい)のまわりを一晩中ぐるぐるまわってて、
早朝に蓮根を穫りに来た農家のおばさんに ”なにしてるねんな?” と、
ポンと背中を叩かれるまで気がつかなかった。
池の近くの**さん(神社)のキツネに化かされてたんやな」
などと言ってたので、当時はわりと普通の事だったようです。
狐はマヌケなエピソードの多いたぬきと違い、多少頭がキレてずる賢く、
人間の女に化けても美しいようで、一度恨みを買うとかなりしつこく祟りそうです。
(桂小南さんの十八番、上方落語の”七度狐”は、狐の仕返し話の大傑作です!)
九尾の狐あたりになると、もはや人間ではタチウチできないくらいの
凶悪な大妖怪で、並の人間ではちょっと相手にできません。
転じて、いったん味方になると神通力もあり、
かなり心強い存在になるようです。
「珍見異聞(1)」には、
有名な狐と人間の結婚話 「葛の葉」 を下に敷いた話が入っています。
阿倍晴明が出てきますが、
「陰陽師」のファンの方、怒らないでくださいね。