この潮漫画文庫 「坂田靖子セレクション」 には、
巻末にいろんな方が解説を書いて下さっています。
私はこの「解説」というものを読むのが大好きなのであります。
「おお、こうやって書いてもらうとよくわかる」 というのがあったり、
「そうだ、こういう視点もあるっ!」 と感動したり、
「あっ、描き方を失敗した!」 と発見する場合もあります。
ちなみに自分で”あとがき”や”解説”を書くのは、
あまり楽しくなくて、堤中納言物語のような
「この時代の生活ミニ事典を入れておかなくちゃ」というような、
明らかに”独立したミニ作品”を1つ追加する場合はまた別ですが、
そうでない場合は、もうマンガをめいっぱい完成させてるので、
自分では何も追加するテイストは残ってなくて、
たとえば、クリームパスタを作って皿に盛りつけてチーズとパセリ振って、
完全にできあがった状態になってるのに 「お客さんに出す時、
もうちょっとサービスに何かしてよ」 と言われ、
「もうこれ以上かけるもんないのだが・・・」 と冷や汗をかきながら
必要のないタバスコ振るような感じで・・・
自分では、もう収録作品に対して描くものは全部描いてしまってるので、
それ以上、何を足していいかわからないので、
けっこー困っちゃうのであります。
で、どなたかに 「解説を書いていただく」 場合はこれとはまったく別で、
他の視点から見たコメントが入っているという点で、
本の構成としてもとても楽しいし、テイストも変わって刺激的なんですね。
さて、文庫「カヤンとクシ」の、発行少し前の話です。
編集者さんから連絡が来て「今回の解説は小野耕世先生にお願いしたのですが、
物語のベースになった民話のタイトルや、
どの国が舞台かなどの設定があったら教えて欲しいという問い合わせが
小野先生から来てるんですが」 と言われ、ものすごくアセりました!
「アジア変幻記」のシリーズは「アジアの民話風」な話ですが、
大半は「原話」なんてないのであります。
(つまり、勝手に思いついたものを描いてるだけ・・・)
ここで、素直に「すいません、ほとんどデッチアゲで、
テキトーに描いただけなんです・・・」 と言えばいいんですが、
相手が超大御所の小野耕世先生! さすがに正直に申告しにくて
(おいおいっ) 「特に設定していないので、読者の方が、
このへんだと思ったあたりだと思って読んでいただくと言う事で・・・」
と、冷や汗をかきながらごまかして連絡してしまいました。(おいおいおいっ!)
そのあと、「困ったなー、あんな返事じゃ解説の書きようがないかもしれない
・・・」 と、いよいよ冷や汗百斗状態になっていると、
発売になった物はそれを見事に逆手に取ったコメントになっていて、
「さ、さすがにベテランの先生は違う・・・!!」 と驚愕しました。
(解説がどうなっていたかは、「カヤンとクシ」 の巻末をごらんください)
やっぱり、文章や解説を書き慣れている方は、
事態への対応スキルが違うのであります。
(コメントのプロなんだから当然といえば当然なのかもしれませんが、
でもやっぱりスゴイです!)
それから「珍見異聞(2)」のほうに、
テレビなどでよくお見かけする泉麻人さんが解説を書いて下さっているのですが、
「初めて読んだからよくわからないな」 といいながら、
とんでもなくドンピシャのコメントを入れて下さったので、
私はすっかり感動してしまいました!
都会育ちらしい泉さんが、
取材か何かで田舎のバス停にいて、雨に降られる話が書かれてあって、
「なんか、こんな感じのする話だ」 とコメントしてくださっているのですが、
「珍見異聞」は、本当にそれを描いた話なんです。
(すみません、この部分の話が見えない方は、
泉さんの文章を私が書き写すわけに行きませんので、
本屋さんで泉さんの解説をのぞいてくださいね。)
ちなみに、私は学生時代の夏休みなどに、
よく東京の先輩宅に長期居候させていただいてました。
友達や知人はたくさんいるし、あちこちでいろんな催しがあるしで
とっても楽しいんですが、人為的な刺激以外のモノがほとんどないので、
日常生活が平坦になって、長い日数になると、とても困ったおぼえがあります。
・・・困ったというより、1日という時間を過ごすのに退屈し始めたというか、
自分が必要とする刺激が足らないので、飢えてきてしまったんですね。
ちょっと話がややこしくなるのをかまわずに書きますと、
私が何かを描くときのベースになる刺激や情報は、
人為的なものと非人為的なものと2種類とも必要なんです。
で、私は石川県の金沢という小都市に住んでいますが、
お住まいの方はご存じだと思いますが、”弁当忘れてもカサ忘れるな”
と言われるくらい気象天候のメチャクチャに変化するところで、
夏は蒸し暑く、冬はドカ雪が突然降り、
しかも雪雷が鳴って停電して電気ショックでパソコンがパーになります。
山があって海があって川が2本流れていてその間に都市があるので
ものすごくしけっています。 朝晴れていたのに昼前には大雨になり、
突風が吹いて物置の屋根が吹き飛んだかと思うと、
大陸から黄砂が来て、世界が黄緑色に染まる・・・という具合。
興味のない人にはこの極端な気象変化は迷惑なだけですが、
おかげで異様な雲と、とんでもない夕焼けと、しょっちゅう出続ける虹と、
雨の後の降るような星空には事かきません。 そして私は、
そういう刺激に1日中さらされて、
洗濯機の中の洗濯物のようにひっかき回されていないと、
創作活動に必要な刺激そのものが足りなくなるようです。
(ちなみに、生鮮食料品がウマイ という刺激もあります。
こちらはちょっと抗しがたい、魅惑的な刺激なんですが・・・)
その後、まんが描きになってから
「坂田さんは東京に行って仕事しないんですか?」 と、
いろんな人に質問される事が多かったのですが、
「情報量と刺激が足りないので東京での創作活動はムリなんです」
−−−と説明しても意味が通じないだろうし、いったいどうしよう・・・
と、けっこう説明に困ったおぼえがあります。
(ちなみに出版社はたいていは東京にありますが、
「原稿」 が出版社に行けばすむ話で、
私本人が出版社の近くにいても意味がないんですけど、
これも、この仕事を知らない方には説明が難しい話です。)
話が横道にそれてしまいましたが、そんなわけで、
泉さん(話が文庫の解説に戻っております)は、
日中の田舎のバス停で、遠くから夕立がやってきて、
木立の枝や葉に雨の当たる音がし、雨足に叩かれてほこりが舞い上がって、
雨の匂いがしていっせいにカエルが鳴き始める・・・
というような事に遭遇して、
「こういう時なら、何かいても不思議じゃない気がした。
坂田靖子のマンガを見てその時の感覚を思い出した。」
というような事を書いて下さったのです。
「何もいなくても不思議じゃないし、いてもかまわない」
みたいな、自然に対する存在と信頼感みたいなもの(・・・かな?!)
と思うんですけど、(私は不自然なことは苦手ですが、
自然の中に何があっても何が起きても人間の知らないことがいっぱいあっても、
別にかまわないタイプです。)こういう解説を書いていただいた時なんか、
「やっぱり、誰かに解説をもらうのってスゴイ事だなぁ!」
と思ってしまうのでした。