だいぶ前の事です。「春日権現絵巻」だったと思いますが、主人公がお堂にお
参りし、そこで眠り込み、目が覚める、という3つの時間を1画面に描き込ん
であるものを見た事があります。
解説によると「主人公が3人いるように見えますが、これは3つの時間を1つ
の同じ画面の中に組み込んだもので、物語の流れを描く事を主眼にした絵巻独
特の表現です」と描いてありました。
「うーーーん」と私はアタマ抱えてしまいました。
こんなのアリなんだろうか? 普通、時間の流れを画面の中で描く場合は、
コマ割るか、頁を繰るか、フィルムのコマを変えるかして必ず時間を分離する
じゃないの・・・
1つの画面の中にたくさんの時間が入り込んでしまうことなんて、第一不自然
だし、ムリだぞ・・・
しかし、なんというか、その方法は異様に魅力的だったのであります。
日本の絵画の手法には時々こういう、見たトタンにひっくり返るような
ものがあります。
「薄野の中に月が埋もれていてはいけないという理由は何だ?」とか
「ぞんざいな丸を2つ描いただけで菊と言ってなぜいけない?」とか、
この絵巻のように「同じ画面に違う時間を同居させてはいけないと誰が決めた?」
とか・・・
言うところの「グラスの底に顔があって何が悪い」状態(知ってる人いるかな??)
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「他人の考えつかないタブーに挑戦」というテーマの伝統でもあったんでしょうか?
日本以外でこの手の「発想の転換」に、
こんなにまで固執して挑戦し続けた所はないんじゃないかと思うくらいです。
で、ワタシはしばらくこの「1コマにいくつもの時間」というアイデアにとりつかれていて、
自分でも描いてみる事にしました。流れのあるストーリーの中に突然ダブった時空間が入り込むのは
妙ですが、私のマンガはもともと妙なところが多少あるので、まぁ不自然になってもいいか、
と思ったわけです。
下に載せた絵は、主人公が牛を追いかけて川に入っていくところですが、牛は固定で、
主人公だけが3ポーズという構図になっています。なんかセルフ撮影の証明写真みたいですけど・・・
これの元が絵巻だなんて、誰も思わないような状態になっちゃってますが、
成功したかどうかは別として、自分ではけっこう楽しんで描いてしまいました。
「タマリンド水」より
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さて、絵巻の手法の中で、私がずっといいなぁと思い続けているものがありまして、
「画面が切れずに連続してつながっていく」・・・という、あのスクロール技法です。
私はもともとクロッキー帳なんかに留め描きをする時、コマを割らずに描いていくクセがあります。
で、原稿になると、1コマづつコマを区切るわけですが、
たまに「コマ割りで区切らずにずるずるっと描いて行きたいな・・・」と思うものがあるわけです。
しかし雑誌でそれをやると、紙が横長につながっているわけではないですから、
ちょっとムリなので、「まぁ、ちょっとなぁ・・・」なんて思っていたわけです。
しかし最近気がついたんですよね・・・パソコンの画面だと、
横長の画像が表示できるという事に・・・
そんなわけで、ためしに1つ作ってみました。まったくの試作品です。「まぁこんな企画なのよ」
っていう感じですね。パソコンなので左から右へ進みます。
・・・というわけで、スクロールバーを動かしながらご覧下さい。(とっても短いですよ)
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手作り絵巻 (22kb画像)
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おまけ 「図案・省略と抽象化」
この頁で使用した画像は以下の書籍を基礎にしています。
「石山寺縁起」(日本の絵巻16・中央公論社刊)
「日本文様事典」(河出書房新社刊)