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人でなしたちの恋 -sympathizer- | ||
このまま解けて一つになってしまえたら
そう思ったのは、どちらだったのだろう
凶悪な気の塊が霧散していくのを見届けて、どさり、とほぼ同時に地に倒れ伏した。
いつの間にか、共有していたはずの身体は分離していて二人分の荒い息だけが無機質な空間に響く。
体のあちこちは傷だらけ痣だらけで、道着は見るも無惨にあちこち擦り切れていている。
関節がみしみしと軋むのに気づかぬ振りをして
はぁ、とひりひりする喉から息を吐き出し、悟空はぼんやりと空を見つめる。
ここはどこなのだろう
闘っている内に落ちて来てしまったその空間は、普段の閻魔界とはかけ離れた様相をしていた。
先程の戦闘による轟音や大地の振動が無くなった今、生き物の気配のしない、
見渡す限りに広がった大地はねじ曲がるように隆起しており、戦いの名残で焼けた砂が、時折舞い上がっているだけである。
あちこちに浮かぶ色とりどりの奇妙な球体が上空を覆い尽くしていて、本来あるはずの閻魔の館が見当たらなかった。
天国と地獄、そして現世の秩序が乱れたと、大界王は言っていた。
死人が甦り、怨霊と化した地獄の魂達が跋扈し、天国の魂達が道を失ったのだと。
だから
…そうだ。
今更ながら思い至って、悟空はぎぎ、と首を回す。
横を見やれば、己と同じように地に背を付けた男の姿。
だから、彼が現れたのだ
肉体を失い魂だけの存在となって地獄を彷徨っていたはずの男、ベジータが。
手が届く程の距離に転がった彼は自分と同じようにボロボロで。鋭い目で空を睨み付けていたが、視線に気づいたのかわずかに身じろいで
少し、ほんの少し、こちらに顔を傾けて
「……なんだ。」
小さく、しかしはっきりと返してきた。
悟空は目を細めると、静かに微笑んだ。うん、と頷いた後、一瞬視線を泳がせて口を開く。
「あのさ……」
『悟空、悟空!聞こえるか?』
刹那、雷鳴のようなだみ声が響き渡り、悟空はどこか慌てたように言葉を切った。
彼らしからぬ、その様子に気づいたベジータがいぶかしげに眉根をよせる。
その姿を目の端に捕えつつ、悟空は上空に向かって声を張り上げた。
「あー、閻魔のおっちゃんか?」
よいしょ、となんとか上体を持ち上げながらべったりと座り込むと再び、がなるような声が降って来た。
『おお悟空。ベジータもいるな。お前達、本当にご苦労だったな。』
閻魔大王の話によると、閻魔館を覆い尽くしていた結界はジャネンバが倒されたと同時に消滅し、迷える魂たちも徐々にあるべき場所へ還り始めたそうだ。
しかし、生じた混乱があまりにも大きかったために、全てが元に戻るまでに幾分か時間がかかるということだった。
言われてみれば、悟空達二人の今いる場所も、ジャネンバの出現に伴い変質した時のまま、変わったところが見受けられない。
世界の秩序というものは、一度乱れてしまえば元に戻すのがなかなか大変なのだそうだ。
全ての魂が閻魔大王が決めた行く先…天国か地獄に戻らない限り、世界は変容したままなのだという。
「んー、じゃあ、ベジータが地獄に戻るんも、いつになるか分かんねーんか?」
『そうじゃな。すまんが、いつまでには、とはっきり言えん。』
「おう、分かった。そんじゃそれまでオラ達ここにいっからよ。それとおっちゃん、パイクーハンがオラ達のために戦って、やられちまってよ。治してやってくんねえか?」
『おお、もちろんじゃ。それではな、ワシはとにかく今から大量の天国行きと地獄行きの書類を確認しなおさなければならん。』
忙しい忙しい、というごちるような言葉を最後に、ぷっつりと閻魔の声は途絶えた。
二人から少し離れた場所に倒れていたパイクーハンの身体がやがて光に包まれて、キラキラと上に上昇しながら消えて行った。
閻魔の元に飛ばされて行ったのだろう。
再び静寂が辺りを支配する。
空を見上げたまま悟空は、急に二人きりなのだと自覚させられた。
ここは閻魔界と地獄の狭間。生命の息吹も感じられなければ、わずかな風の気配も感じられない。
魂たちは追い出され、この場を総べていた鬼達もどこへ散ってしまっている。
荒涼とした平原に、たった、二人。
「……おい。」
「え。」
先に口を開いたのは、ベジータだった。
思わず顔を向けた瞬間、視線がぶつかって悟空は少し動揺した。
「さっき、何と言おうとしたんだ。」
切れ長の目の奥、吸い込まれそうに深い黒い瞳は、まっすぐに自分だけに向けられていた。
動揺したというか、心臓がきゅう、と締め付けられるような、そんな気がしたのだ。この目に見つめられることが、久しぶりだったから。
悟空は内なる変化を悟られまいと、んん?とわざと、とぼけるような振りをして、そしてゆっくりと微笑した。
「勝ったなぁ、って思ってよ……」
ベジータはぎゅっと眉根を寄せる。
確かに自分達は敵を倒した。超サイヤ人3でも歯が立たなかった、恐ろしい怪物を。
「フュージョン、しちまったなぁ。」
えへへ、とどこか照れたように言った悟空に、ベジータはさらに眉間の皺を濃くした。
あの誰が考え出したのかよく分からない妙なポーズをさせられて、そして自分たちは融合したのだ。
「……妙な言い方をするな。」
何が妙なんだよ、と言いかけて悟空は閉口した。
そう言われて、どうにも気恥ずかしいような、むず痒い感覚が、お腹の底辺りで燻っているような気がしたからだ。
あれは、不思議な感覚だった。思考も肉体も一つになって、自分が自分でなくなる感覚。
体中に溢れる強大なパワーと、えも言われぬ高揚感。
そして、融合していた時に共有したもの。
離れた今でも、それが身体の奥に残っているような気がして
ベジータの一部が残っているような気がしていて、悟空に気恥ずかしさを感じさせたのだ。
それはベジータも同じようで、彼は悟空をしっかりと見つめてはいるが、照れというか気まずさを隠せない顔をしていた。
あの時、悟空はベジータで、ベジータは悟空だった。
トランクスと悟天はよくフュージョンをするが、それは二人そろって一緒に同じことに没頭するためのもので、彼等にとっては遊びの延長であるようなものだった。
だが、悟空とベジータの場合は勝手が違った。
「あの…お前ぇ、さ……オラのこと……」
「もういい、黙れ。」
つっけんどんに悟空の言葉を遮りながら、ベジータは自分も上半身を起こし、体中についた塵だの埃だのをおざなりに払った。
離れた視線は、彼が生前にもよくそうしていたように、遠い彼方へと向けられている。
悟空はしばらくその横顔を眺めていたが、やがておそるおそるといった感じで這うようにその横に身を寄せた。
腕と腕が触れるか触れないかというほど近くに身を寄せても、ベジータは何も言わない。
「ベジータ。」
かさついた頬に手を伸ばしても、何も言わなかった。
分厚くて大きな手にすっぽりと収まってしまいそうな顔は、意外と簡単に方向を変えた。
節くれ立った指が、細い顎をなぞり、こめかみに達しても、彼は無言のままだ。
「なぁ…オラ、言ったよなオラの気持ち……お前ぇは」
「うるせぇ…もう、分かってるだろ…」
ベジータが何も言わないのは、諦めているからだ。自分の胸の内は、すべて知られてしまった。
嘘をついても虚勢もを張っても意味が無いから。
「だって…だってお前ぇ…」
融合して共有したのは、かすかだか確かに感じ取れる、互いの感情だった。
「オラのこと…」
「……くそったれ…」
聞き慣れた暴言が、どこか弱々しく響いた。
あれは、フリーザとの戦いの後…
ヤードラット星で修行していたという悟空が地球に帰って来て、未来から来訪したトランクスが三年後の人造人間の襲来を告げ…約一年が経った時だったと思う。
なりゆきで地球に留まる事になったベジータは、ブリーフ博士に造らせた重力室で一人、修行に明け暮れていた。
来るべき人造人間との戦闘にそなえて、というのもあるが、彼に取ってそれは修行の大した動機付けにはならなかった。
カカロットに追いつきたい
カカロットを追い越したい
ただそれだけが彼を突き動かし、どんどん修行を過酷なものへと追い立てて行った。何度も傷つき、気を失うことも少なくはなかった。
それでも超サイヤ人になれない。カカロットとの差は開いて行くばかりのような気がした。
強さへの渇望。焦りと己への失望、怒り。
精神的にも肉体的にも擦り切れていた、そんな日々を送っていたある日のこと。突如として、CCに悟空が現れたのだ。
重力装置を起動する前の重力室の中で、いつも通り修行をしていたベジータの目の前に文字通り、瞬間移動を使って現れた。
何の用だといらつきを隠しもせずに言い放ったベジータの態度をものともせず、悟空は至極自然な風に淡々と言い放った。
「好きだ」
と。
当然のごとく、ベジータは激昂した。
精神状態はギリギリで、しかも自分を苛立たせる元凶である男がわけの分からないことを言って来たのだから。
どう返したかは覚えていない。とにかくあらんかぎりの罵声を浴びせ、汚く罵った気がする。
何しに来た。超サイヤ人になれない俺を笑いにでも来たのか、と。
その時、ベジータがもう少し冷静になれていれば、悟空がもう少し上手い言葉を知っていたら、何かが変わったのかもしれない。
ベジータは悟空が人を見下したりしないような人物だとは分かっていたはずなのに、ただただ頭に血が上っていて悟空の言葉を素直に受け止めてやることができなかった。
悟空は自分の得体の知れない感情に振り回されて、ただただ思いを口に出すことしか頭になかった。
プライドの高いサイヤ人の王子の目が、ただひたすらに自分だけに向けられている事がいつしか快いと思うようになってしまって。
強さ以外のものに、初めて心惹かれた。
彼にとって、生まれて初めての恋だったのだ。
だが、そんなことを悟空が上手く説明できるはずもなく、頭に血が上っていたベジータはつれなくその告白を一蹴し、重力室から追い出した。
その後しばらく過ぎてから、多少落ち着いたらしいベジータから悟空の方に会いに来て、とつとつと告げたのだ。
お前のその感情は、サイヤ人の本能的なものからくるのだと。
わずかに残った同族への近親感、種の保存本能、戦闘後の興奮…それらが好意にすり替えられて、そんなことを感じるのだ。
つまりは勘違いなのだ、とベジータは無情にも言い放ったのだ。
悟空は不満そうだったがそれ以来、あけすけな好意を口にすることはなくなった。
何も無かったことにする……はずだった。
しかし、その後二人は何度かこっそりと逢瀬を繰り返すこととなる。
ベジータの言ったように、戦闘後や満月に夜に沸き起こる興奮を収めるため、
遠慮無く性欲をぶつけ合える相手が、頑丈で同族であるお互いしかいなかった、というのが建前上の理由だった。
男と寝たことのなかった悟空に、面倒くさいから俺が下になってやるとベジータが妥協してやってからずっと、ベジータが受け入れる形で二人は身体を重ねた。
甘やかな睦言も愛撫もない。本能のまま混じり合う獣のようなそれ。
一度始めてしまえば、もう取り返しがつかなかった。
快楽だけを求めるその行為に違和感を感じていなかったといえば嘘になる。
最中ベジータはずっと声を噛み殺していて、その違和感に知らないふりをしていたし、悟空はたとえ身体だけであっても自分が惹かれている相手に触れられることが嬉しくて、感情の読めないベジータへの不満に気づかないふりをしていた。
関係は惰性で続く。
互いの心中から目を背け、本心を欺き続けながら日々は過ぎていった。
やがて、終わりはあっけなく訪れる。
予告通り来襲した人造人間。脅威の生命体セルの出現。
セルゲーム開催という死の予告。
その前に与えられた猶予の10日間が半ばを過ぎた時。
セルゲームに備えて一人修行を続けていたベジータの前に、悟空が瞬間移動で現れた。
超化したままながら穏やかな目をしている男は、そっけなく追い返そうとしたベジータに動じることなく短く告げた。
「やっぱりオラ、お前ぇのこと好きだ。」
今でもベジータは思う。あの時、このたった一人の同胞は、己の末路が見えていたのではないかと。
一方的に言い放ち、返事も待たずに再び消え去ったその男と、まともに言葉を交わしたのはそれが最後だった。
狡いヤツだ。思い残すこともないような顔をして、最期まで。
自分はその後七年も、その戯れ言に縛り付けられることになるのだ。
「もっかいさ…お前ぇに会いたかったんだ。」
掌に収めた顔からは、どこか非難めいたまなざしが注がれている。
何を今更、と言いたいのだろう。だが、悟空は知っている。己が不在であったにもかかわらず、この男が自分を追い求めていたことを。
一日だけ生き返った日に痛感させられた。
かつても今も、この男の目は自分だけに向けられている。
「会って、勘違いでも間違いでもない、って言いたかったんだ。」
「勝手な野郎だ。」
吐き捨てるように言われて、悟空は息を詰めた。
乾いた風が首筋をなで上げていく。沈黙が苦しいと感じるなど、悟空は初めてだった。
融合して互いの感情の裏の裏まで共有したというのに、総てをさらけ出してしまった今でも、拒絶の言葉が怖い。
これまでどんな強敵と対峙しても、期待と興奮こそしたものの、こんなにじっとりとした不安に襲われたことなどなかったのに。
「…きさまは」
びく、と頬に添えられた手が強ばるのをベジータは無視して視線を落とす。
「貴様はいつだって振り返らない。そのくせ俺が求めても何も応えないくせに、俺には一方的に好き勝手言うくせに!今更俺に何を言えというんだ!」
「ベジー…」
「…勝手に…死にやがって……」
悟空が息を詰めたのと、小さな水滴が地に吸い込まれるのは同時だった。
「ごめん…」
手を肩に移動させて強引に引くと、意外と簡単にその身体は悟空の懐に倒れてきた。
背に腕を回すと、ベジータの手はだらん、と地に滑り落ちる。
「ごめんなぁ、ベジータ…」
自分の肩に顔を埋めたまま呻くように名を呼んだベジータの頭を、悟空はゆっくり撫でた。
触れたところがじんわりと暖かかいのに、悟空はこっそり安堵する。自分も彼も、死んでいるはずなのに。
還ってきた肉体の中で、確かに心臓が動いている。
「勝手に置いてっちまって…」
「…ゆるさん…」
「ごめんな。」
「…しかも…変なポーズ取らせてやがって…」
「ごめんな。」
「……仕舞には、もう、会えねえってのに、好きだの何だの言いやがっ……!!」
叫ぶようなその言葉を言わせまいとするように、悟空はその自分より一回り小さい身体を抱き込んで、唇を重ねた。
突然の行動に、バランスを崩したベジータと一緒にそのまま地に倒れ込む。
「…カ……っ…ん…」
先程の触れるだけのものではなく、深く深く、食べてしまうようなそれ。
無遠慮に押し入ってきた舌にベジータは目を白黒させてもがくも、みっしりと鍛え上げられた筋肉に押されてほとんど意味のない抵抗になってしまっている。
「な…ん……」
唐突に唇が解放される。若干ぼうっとしているベジータの肩口に悟空は顔を埋めた。
「離したくねぇ。」
「カカ……ット…?」
「離れたくねぇよ、ベジータぁ……」
こごもった声が肩から伝わって鼓膜を震わせる。
たった二人の同胞。無意識下の郷愁、滅びへの焦燥、孤独…互いへの欲求がそれらに起因するものではないと、どうして言えようか。
しかし、ベジータの心はそこで氷塊した。何の飾りも技巧もない悟空の言葉に、最後の砦はあっけなく壊されてしまったのだ。
自分もこの男も死んでいて、もう二度と会えないかもしれないという状況にほだされて、ある意味、諦めに近い心境だったのかもしれない。
それでも、もう虚勢を張っていることが苦しくなってきていたのも事実だった。
「ほんとうに…勝手だな…」
おずおずと、悟空の胴にベジータの腕が回される。
「ごめんな…」
抱き合ったまま、二人は地にうずくまる。うずくまって、再びどちらともなく唇を合わせた。
傷だらけの腕が交差する。
「……ッ!!」
さっきはいきなり口づけられたから、無意識にもがいてしまったのだが。
ぬる、とねじ込むように差し込まれてきた舌の熱さを、背に回る腕の堅さを、認識した瞬間、ベジータは腰のあたりがずしりと重くなったような気がして身震いした。
同時に脚がひく、と跳ねたことに悟空は気づいたらしい。頬を舐め上げながら、背中から太ももにかけてのラインを無遠慮に撫で擦る。
長い長いキスから解放されて、ベジータは潤んだ目で悟空を睨み上げた。
「お…い…何しやが……」
「だって…」
非難がましい声を上げられても悟空は身体をまさぐる手を止めず、膝はベジータの股間をやんわりと押し上げている。
じりじりと痺れて霞がかっていく思考を必死に引き戻しながら、ベジータはなんとか身を離そうとする。
「…ベジータ…だって…だって、もう…会えな…」
「言うな。」
吐息だけでそう言い返したベジータの。悟空の腕を掴む手に力が込められる。
自分の言ってしまったことに悟空は内心しまったと思ったのか、はっと唇を噛み締めた。
「言うな……」
「う…ん。」
永久の別れかもしれないのは分かっているのに。口に出してしまうと、その事実は妙に胸を締め付ける。
お互いに柄ではないと自覚はあるのだが。フュージョンで互いの心をさらけ出してしまった今、悟空はどうしても、ベジータに触れたくて仕方がなかった。だがそれは、独りよがりの欲求ではなかったようだ。
うなだれた顔をしている悟空の頬に、ベジータは口元を緩めて手を伸ばした。
「分かったから…来いよ……」
「…うん……」
悟空は頬に添えられた手を取り、何度目かのキスを目尻に落とした。それから、鼻や頬、まぶたに唇を落としてから耳朶を食んだ。そのまま耳の中に舌を入れて舐め回す。
再び唇に吸い付いた。深く深く貪って、舌を吸い、頬の裏を舐めて唇を噛む。
唇が離れて、ベジータが荒い息をついているその間に悟空の手はベジータの上半身のウェアを乱暴に抜き取った。両手のグローブを歯で噛んで抜き取り、そして露になった胸に唇を押し付ける。
新しい傷を一つ一つなぞって、乳首に食べてしまうように噛み付いた。
「ん…ん、…ぁ…」
ぺちゃぺちゃと唾液まみれにして吸い付くと、ベジータの身体が小さく震えて、身をよじろうとするのを悟空は離すまいと回した腕に力を込めた。
舐めて、かじって回りを丁寧になぞっていると、胸のそこはすぐに硬くなっていった。
悟空の動きは性急だった。長くそこに留まることなく、そのまま唇を下へと移動しながら、ちゅ、ちゅ、と吸い付くようなキスを落としていく。
同時に両の手は脇腹や太ももを行き来して、全身余すことなく触れていった。かさついた無骨な手が、胸の突起をかする度に、ベジータは息を詰めて呻きとも喘ぎともつかない声を上げる。
悟空は夢中になってベジータの身体を味わう。
「ベジータ…」
夢にまで見た肉体が、ここにある。
本来、性に対して淡白であるはずの自分を煽った、肉欲の味をしめさせたベジータの身体が。
引き締まった腹筋を越えて、舌はたどり着いたへそをぐるりとひと舐めすると、悟空は伸び上がって首筋に吸い付いた。
「ぁ…あ……」
ベジータは抵抗しない。それどころか身体の力を抜いて、すべて悟空のされるがままに熱い息を漏らしている。
そして汗と、それに混じるベジータの匂い。それだけで興奮して、悟空は脳の芯がじりじりと焼き切れそうになる。
悟空がウェアの下を下げようとすると、ベジータがわずかに腰を上げてやりやすいようにしてくれた。
余すことなくさらけ出された身体。そこから発散されている雄と欲情の匂いに、悟空は理性を飛ばしそうになった。
このままがつがつと獣のように犯してしまいたいという欲望を必死に押さえ込んで、ベジータの性器に手を伸ばす。
「う…ぁ…っ…」
立ち上がりかけていたそこを緩やかにしごくと、内股が引きつるように揺れた。
ゆるく、強く、竿を行き来させて、時に先端をぐり、と押しつぶす。その度にベジータはん、んぅ、と声を漏らしながらも口に手の甲をあてて必死に声を噛み殺そうとしている。
その様子にふっと笑みを浮かべて、悟空は扱く手はそのままに、ずるずると身体を下りていく。
しっとりと汗で濡れた脚の付け根に顔を近づけて歯を立てる。太もも、内股と意図的にそこを避けて鍛え上げられた筋肉を濡らしていった。
カカロット、と弱々しい声で呼ばれたが、悟空は止まらなかった。今や完全に立ち上がっていたベジータの性器を、ゆっくりくわえる。生暖かい粘膜に包み込まれて、ベジータは、ああ、と声を上げた。
興奮で頭と下半身にどくどくと血液が送られていくのを感じながら、悟空は丁寧にそこをしゃぶっていく。浮いた血管をなぞって鈴口のくぼみも刺激する。口の中で、ベジータのものが脈打ちながら硬くなっていく。じわじわと塩辛い先走りが流れてくるのがはっきりと分かる。
「ふ…ぅ…っ、カカ…」
玉の裏から先端まで何度もしゃぶりたてられてベジータは震えながら喘いだ。たまらない声で。
その声がもっと聞きたくて、悟空は夢中でベジータの性器をしゃぶりたてていた。
もう出る、やめろ、と咎めるように言われても離さない。そして一気に口で扱きあげると同時にじゅう、と吸い上げた。
ぐん、と背中を反らせてベジータが声を上げる。
「カカロッ…、は、あ、あアッ!!」
びゅく、と口内に吹き出してきたものを悟空はとっさに飲み込んだ。
がくがくと内股が痙攣して、放出はまだ続いていた。こぼすまいときゅ、と搾り取るように口をすぼめて受け止める。
やがてそれが終わると、ごくり、と飲み干した。
はぁー、と目をつむってまま長い息を吐いているベジータの額にかかる、汗で落ちた髪をかき上げてやる。
こんな緩やかに、じっくり表情を確かめながら愛撫したことがあっただろうかと、悟空はふと思った。
生きていた時は、暗闇の中で顔を見る事もなくがむしゃらに、ただ互いの欲望を叩き付け合うようなセックスしかしてこなかったような気がする。
気持ちよくしてやりたい、と思った。
気持ちよくして、いずれ闇へと還ってしまうベジータの身体に自分の記憶と熱を刻み付けたいと思った。
「カカロット……?」
息を整えたらしいベジータが、ただ髪を撫でているだけの悟空を怪訝そうに見上げた。
射精の余韻でとろん、とした目に上気した頬。内股は悟空が飲みきれなかった精と汗でべったり濡れている。
悟空の、下で。
最高にいやらしい眺めだった。
「早く…お前ェん中、入りてぇ……」
低い声に、ぞわりと肌が粟立つのをベジータは感じた。自分とて、この男を求めていたのだ。
いつだって言えなかった。太陽のようだと称されるこの男の欲望を引き出すことが出来ることに愉悦を覚えていたことを。
性欲処理だと言って聞かなかったが、他の誰かでは駄目なのだということを。
「じゃ……早く、しろ……」
ぶっきらぼうに言いつつも、腕をゆっくり悟空の首に回して引き寄せる。ベジータの膝が悟空の股間をかすめた。あまりの熱さに思わず身を引いてしまう。だが自分の媚態を見てこうなっているという事実に、ベジータは表にだすことのない独占欲が満たされるのを禁じ得なかった。
うん、とゆっくり笑った悟空はこめかみにまた一つキスを落として、ベジータの奥まったところに手を伸ばしていった。
先走りと溢れた精をまとわりつかせた指は、それでもなんとか硬いそこに押し入った。滑りがよくなくて痛いのだろう、ベジータはぐっと歯を食いしばっている。
それを見た悟空はまたずるずると下がって、片足を持ち上げた。そして形の良い双丘を左右に広げて、まだ一本の指しか飲み込んでいないそこに舌を這わせた。
「な…に……ひっ…ア、んん!!」
目を剥いて逃れようとするベジータの脚を押さえ込んで、悟空は唾液をそこに送り込む。
入れていた指も動かして、ゆっくり舌を侵入させて中を濡らしていった。
ベジータは耐えられないというように、腕で顔を隠して震えていた。こんなこと、したことがなかったから当然だ。
本当なら、すぐに入れてしまって籠った熱を解放してしまいたいだろうに、悟空はそれをしない。
ベジータが痛くないように、苦しくないように、じっくりと解しているのだ。
指が二本、三本と増えるごとに、萎えてしまっていたベジータの性器も徐々に立ち上がってきた。
中で指が曲がると、そこはぽたぽたと先走りを垂らす。ゆるく出し入れをすると、ベジータの口から濡れた吐息が漏れるようになった。
腹の方にあるしこりをそっと押すと、ひゅ、と喉が鳴った。それを確認した悟空はベジータの中から指を引き抜いた。
「なあ…」
ベジータのそこは、てらてらと濡れていて誘いこむようにひくついている。
息が荒くなって、喉が焼けるように熱い。
「もう…入れて…いい?」
「……聞く…な」
腕で顔を隠したままベジータが応える。悟空は必死で急いた気を押さえながら腰帯を解く。
道着の前をくつろげて、痛いくらいに張りつめて天を向いたそれを取り出した。
先端を押し付けるとぬる、と入り口は迎え入れるように収縮した。
悟空はそのままベジータの細い腰を掴んで、ぬぷ、ぬぷ、と怒張を奥に飲み込ませていく。
「あ……、…あ、あ、あぁぁ……!」
「ん……ぅ…んっ…」
柔らかく解したはずのそこは、悟空の侵入を許した瞬間、熱く絡み付いてきた。
すぐに持っていかれそうになって、悟空は呻いて耐える。何とか奥まで達して、必死で息を整えた。
「ベジータ…顔、見せてくれよ…」
顔を覆っていた腕を外して地に降ろす。目の端から、小さな水滴がすう、と流れた。
目は閉じられているが、それは決して拒絶ではない。彼も悟空と同じように、過ぎた快感をやりすごしているのであった。
二人とも胸の奥がきゅう、とわしづかまれたように締め付けられるのを感じた。どうしてか、ものすごい、充足感があった。
指をしっかり組み合わせて、両手を地におしつけて、悟空はゆるやかに腰を動かし始めた。
ずるずると引いて、そして離れまいとする内壁に吸い付けられるように押し戻る。
「はぁ……、は、ータ……ベジータ……!」
奥の奥まで突きつけて小刻みに揺すってやると、腕が拘束されて塞げない口からは、ひっきりなしに吐息と声が漏れ続ける。
「……ああっ!……ん……あ、ぁ、ぁ……」
抜けそうなところまで引き抜いて、ずぶずぶと押し入れるように入っていくと、悟空より一回り小さな身体は面白いように跳ねた。
「んっ、ん、んぅっ……!カカロ……ット!」
何度も何度出入りする悟空のそれにベジータの中はぴたりと張り付き、入り口は締め付けるのを止めない。
ぐちゃくちゃと悟空が腰を動かす度に液体が漏れる粘質な音が響く。
「ひっ、あ……や……め……あああっ!!」
先端がしこりに触れて、ベジータが一際高く喘いだ。悟空は気を良くしてその体勢のまま、何度もベジータの良い所を突く。
「あっ!!…うぁあ!……あっ、……カカロ……ッ!!カ……ロット!!や……ぁ!」
「ベジータ………はぁ……きもち、イイ……?」
「ん、んッ!!」
「なぁ……?」
腰を振りながら悟空はぺろ、と滴る涙を舐め上げる。張り付く柔壁は、いっそ凶悪なくらい気持ちいい。
熱くて熱くて、背筋がびりびりと電流が通っていくように感じる。
「オラ……すっげぇ……気持ち………い!」
緩んだ口から溢れた唾液をすくいあげて、そのまま唇を合わせた。
掴んでいた手を離して、背中と地の間に差し入れて抱きしめる。そうすると、ベジータも腕を回し返してくれた。
「好きだ……」
離れた唇から漏れ聞こえた言葉に、ベジータは顔を上げる。
切羽詰まった男の顔が、そこにあった。悩ましげに眉をひそめたその表情に、ベジータは繋がったところが疼いたのを感じた。
「好き……好きなんだ……ベジータ…………」
「んっ……!」
そのまま悟空はぶつけるようにキスをしてきた。舌を絡めたまま、腰を打ち付けると、悟空の口の中にベジータが喘ぎ声が飲み込まれる。苦しくて逃れようとするも、悟空の腕がそれをゆるさない。
やっと解放されて、ベジータはぼんやりと悟空の顔を見つめた。背に回していた両腕を解いて肩肘をつき上半身を起こした。
そして片方の手を頬に添えて、自分の姿を写した黒い瞳をのぞき込む。
「………も……だ……」
「え?」
「おれ……もだ……カカロット…………」
うっすらと微笑を浮かべた顔でそう応えると、悟空の目が驚きに見開かれる。
悟空は、ぎゅう、と目をつむった。
ああ、もう、限界だ。
「ベジータ……!」
叫ぶように名前を呼んで、悟空は繋がったままのベジータの身体を地に引き倒した。
そして驚いたようなその顔を横目に、力いっぱい腰を叩き付けた。
「なっ……い、ぁ、あああああああ!!」
悲鳴のような声に構わず、悟空は腰を掴み上げて上からのしかかるように突きこんだ。
「ひ、あ!!ん、あっ!!ーーッあ、あ……!」
突如与えられた暴力的な快感に、それでもベジータは悟空を締め付けてしまう。
前立腺を先端に叩き付けられて、押しつぶされて、意識が飛びそうになる。肉を打つ生々しい音がよけいに興奮を煽っていく。
悟空の大きなものに後ろを犯されながら、ベジータは涙をぽろぽろ零しながらがくがくと全身を震わせる。固い腹筋に擦られて、前も涎を垂らしながら悦んでいた。
「あっ、ああァッ!……カカッ!あああ!ん、んあ、あ、カカロッ…ーー…ト!!」
「ベジータ……は、はっ……ベジータ!!」
快感で気が狂いそうだった。二人とも、脳髄を切られた魚のように口を開けて苦しそうに喘ぐしかなかった。
解けてしまればいい、とそう思った。
さっきのフュージョンのように。頭から足まで、すべての肉が、骨が、心臓が、解けて一つになってしまえたらいいのに。
焼き切れそうな高揚感の中で、そう思ったのはどちらだったのか。無意識の内にお互いに、離すまいとしっかり抱き合っていた。
「カカ、ロット…!もう……ッ!!」
「あ、あ……ッ…ベジータ……ッ!!」
悟空がベジータの身体を抱き込んで、一層深く腰をグラインドさせた。
「あ、う、あぁ………あっ、んんんっ!」
「……んん……っ!!」
ベジータの奥で、悟空のものが痙攣して一際大きく膨らんで、射精した。
頭の中がスパークして真っ白になる。
放たれた熱いものを感じて、背をぐんと反らしてベジータも吐き出した。
射精はまだ続いていて、注ぎ込まれる感覚にベジータの脚ががくがく揺れた。
全部出してしまって、ふと目が合う。どちらともなく口づけた。
がっついた、激しいものだったのに、優しいセックスだった。
こんなにも満たされた気持ちになるのは初めてだった。
そのあと二人は回した腕を離す事なく、随分と長い間、互いの唇をむさぼっていた。
世界のすべてが元に戻った時、二人は地獄の片隅…血の池のほとりに立っていた。
先程の情事のあとを、池の水で洗い流している時、都合良く閻魔大王から世界の秩序があるべきものに戻されたという通達があったのだった。
血の池といっても、水が血なのではない。地獄に落とされた罪人の身体から流れ出る血で赤く染まるから、“血の池”と呼ばれるだけで。水自体は、定期的に浄化されるのだと、知っていたのは地獄の住人であるベジータだった。
自分達の逝く先は、違っている。
破れたウェアを身につけているベジータの目に、地獄への恐れも迷いもなかった。
彼は静かに、自分の運命を受け入れている。
「カカロット」
「ん?」
「俺は……絶対に貴様を倒すからな。」
凪いだ水面を見つめたまま言うベジータに、悟空は見えていないと知りながらも頷いた。
「……ああ…」
素直でない彼の、精一杯の再会の約束なのだと分かっているから。
向けられた背中に抱きついて、悟空はもう一度、キスをしたかった。
だが、その欲求をなんとか押しとどめて、ベジータの横に並ぶ。
本当なら、今すぐこの身体を抱き潰してしまいたかった。
キスをして、身体をあばいて、食い尽くして…さっき抱き合っただけでは足りなかった。もっともっと、ベジータを感じていたかった。
世界の秩序なんか無視をして、いや、世界なんぞ全てぶち壊して、このまま二人でどこかへ行ってしまいたかった。
それを出来るだけの力が、今の自分達にはあるのだ。
なけなしの理性でそれを押しとどめている。
フュージョンして、身体を重ねて、自分達は心を交換した。記憶も思いも、互いの心臓に刻み付けた。
だから、たとえ長い別れだとしてもきっと大丈夫だと言い聞かせて。
時が来たのをどちらからともなく悟って、二人は向き合った。
「また会おうな、ベジータ…」
「フュージョンは二度とごめんだ。」
最後に見たのが穏やかな顔で良かったと悟空は思う。
ベジータの身体はふうっ、と、風に煽られるように霧消していった。
「また、な…絶対だぞ……」
予感がした
いつかまた、自分達は相見えることになるだろう
そして、その時はーーーーー
やがてくるその未来を想像して、悟空は思わずベジータに伸ばしかけてしまった手を握りしめた。
必ず。必ずだ。
恐れるものは何もないはずだ。フュージョンのように
自分達は心も身体も、間違いなくひとつになるのだから。
END
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