臺湾出張記1

(1998/7/27〜1998/7/29)


1998/7/27 Mon.

今回の台湾出張は、本社の雇われSEとして現地日系企業のグローバルネットワークシステム構築の工事監督とベンダへの技術支援をするための、着工前打ち合わせである。打ち合わせは午後であるが、自宅から福岡空港まで乗り換え含めて一時間弱、福岡〜台北間が直行便で2時間、台北中正空港から台北市内まで一時間弱なので、普通に朝家を出てもどうにか間に合う。これが本社の人だと成田まで2時間、成田〜台北間が4時間と倍くらいかかる。アジアに近い九州でホントに良かった。

それはさておき、福岡空港でCathay Pacificの搭乗便にチェックインしようとすると、係員がちょっと困ったような顔をしてごそごそやっている。なにか不備でもあったのかと心配していると、なんと「エコノミーが満席ですのでビジネスクラスにアップグレードさせて頂きます。」とのこと。やたっ!海外旅行過去10回のうち一回だけは新婚旅行でハワイに行くときにビジネスクラスだったが、本来の仕事でビジネスクラスに乗るのはこれが初めてである。しかも豹柄シャツにジーンズと、どう見ても仕事ではなく遊び人風に見えるのに。今回は何となく幸先が良いぞ。

<ビジネスクラスの搭乗券>

ビジネスクラス専用の待合室で、無料サービスの飲み物とお菓子をつまみながらゆっくり搭乗時間を待って搭乗口まで案内される。搭乗してからが本番で、ビジネスクラスともなると席は広いしTVはついているし、機内サービスも全然違う。乗り込んで席につくや否や、離陸までのひとときを過ごすための飲み物がサービスされた上に、「Mr.Kawakami, what would you like to drink for lunch?」と名前を呼びかけて食事の際の飲み物を聞かれる。待合室で既に結構コーヒーやジュースを飲んでいたので腹はガボガボである。機内食がまたすごくて、まずテーブルにナプキンが敷かれた上に、エコノミーのように全部一つのトレイに詰め込んで持ってくるのではなく、チャンと陶器の皿に盛って、前菜、メインの順に運んでこられる。そんなこんなで、あっという間の退屈しない2時間であった。

<座席に備え付けのTV>

<前菜のサーモンマリネ>

<メインのステーキ>

TVを十分いじるまもなく無事台北中正(蒋介石)空港へ到着し、入国手続きを行う。

<台北中正(蒋介石)空港>

夏休みということもあってかイミグレーションは中華系の家族連れなどでかなり混雑している。30分以上待たされてようやく順番が回ってきた。国交のない国への入国ははじめてなのでちょっと緊張する。パスポートを読み取り機にかざしてかなり念入りにPCのディスプレイでチェックしていたようであるが、偏光フィルターがつけられていて私の位置からは画面の内容を覗きこむことは出来なかった。待たされはしたものの何事もなくパスして空港内の銀行で両替し、ガイドブック通りうるさい客引きを完全無視して正規のタクシー乗り場へ向かう。タクシーの運転手へホテルの住所と名前を書いた紙を見せると知っているらしくすぐ発車したので、とりあえずは一安心する。空港から市内までは片側5車線ほどの高速道路を使って行くのだが、台湾も大陸同様結構運転は荒い。頻繁に車線変更するし、場所によっては「制限速度80km」と書いてあるところを140kmくらいで飛ばすし。

そんなわけでガイドブックでは一時間弱とあった行程を30分くらいで走り抜けてあっという間に中山北路二段(つぉんさんぺいるぅあーるとぅわん)にあるホテルに着いてしまった。ホテルは本社指定の「老爺大酒店」(らおいぇだぁちょうでぃえん)である。日航系でRoyal Taipei Hotelという英語名もついている。台湾のホテルはどこも英語名と中国語名を持っていて、中国語名は大抵英語発音の当て字のようであった。欧米のホテルは格付けに星の数を使っているが、台湾では梅を使う。因みに老爺大酒店は5つ梅で、安い割には設備も良く、こじんまりとしてアットホームなくつろげる良いホテルであった。念のために言っておくと、「酒店」と言ってもけして酒屋ではなく、中華圏ではホテルのことを「酒店」(ちょうでぃえん)とか「飯店」(ふぁんでぃえん)とか言うのである。

<ホテルの部屋>

<ベッド>

<梅のマーク>

面白いのは仕事机に、ノートPC接続用の110V電源コンセントがあり、電話にもチャンとデータポートがついている点である。流石世界のマザーボードの8割を供給している電脳立国である。

<「電脳専用」のコンセント>

到着するとすぐにWelcome Fruitsとしてバスケットに盛ったバナナ、キウイ、パパイヤなどが届けられる。台湾バナナと思って期待して口にしたのだが、まだ十分に熟れておらず青臭くてちょっと硬い上に、保管場所の暑さのせいか生暖かかった。ここで一つ思い出したが、台湾の建物、乗り物はどこも高度成長期の日本みたいにガンガンに冷房を効かせていて、半そでだとちょっと寒いくらいである。屋外は非常に蒸し暑くむっとするので、気温差が激しく、注意していないと冷房病になりそうである。

ほどなく待ち合わせ時間になったので、ロビーに降りて本社メンバを待つ。実は本社からはTe氏、S氏、Ta氏の3名が来ると聞いていたのだが、誰一人顔を知らないし向こうもこっちの顔を知らない。日航系のホテルらしくひっきりなしに世界で活躍するジャパニーズビジネスマンがやってきては誰かと待ち合わせしている風なので、結構落ち着かない。やっと会うことが出来て、挨拶もそこそこに実際に工事を施工してもらうベンダの元に向かって着工前の打ち合わせを行う。打ち合わせしてみてびっくり。詳しい話は差し障りがあるので割愛するが、この工事ベンダは技術力というよりは会社間の政治的事情で選定されたようなもので、今回行うような工事は全くの初体験であるとのこと。全面的に工事監督であり技術支援で来る筆者に頼りきっている様子なのである。「こりゃババを引かされたかな」と、途中から暗い気持ちになってしまった。よほどしっかりと下準備をして乗りこんでこないと、とんでもない苦労をしそうである。着工前打ち合わせでそれがわかって、準備のための執行猶予をもらっただけでも良しとしなければなるまい。

打ち合わせ後、我が社の現地事務所へ向かいスタッフの皆さんと挨拶を交わす。工事中はここを拠点に行動するわけだし、事務所側としてもはじめて手がける本格的なビジネスということで、お互いにねんごろに挨拶を交わす。そうこうしているうちに頃合も良くなったので、事務所近くの四川料理店へ行って夕食を共にする。四川料理ということで辛い料理の数々を想像してちょっとびびっていたが、ごく普通の中華料理ということでおいしく頂いてお開きとなった。この日はそのままホテルへ帰って、ゆっくり風呂に入り、早速「電脳専用」コンセントとデータポートにWindowsCE機のCASSIOPEIAを接続して、デジカメで撮った写真を添付した報告メールを職場と知人数人に送る。Mobile Computing環境はきわめて良好である。これだけでもずいぶん気が楽だ。一心地ついてから、もらった膨大な基本設計書をレビューして、不安と、それだけにチャレンジングであるというやりがいを感じながら寝た。

1998/7/28 Tue.

朝から本社のメンバと待ち合わせて事務所へ寄り、現地お客様との打ち合わせである。工事の内容、スケジュール、施工区分などを説明し簡単な現場調査を行う。現場調査の結果、情報系の配線などは既設利用で事足りそうなので少し安心する。あとは回線や電源の開通がスムーズに行って物品さえきちんと納入されれば、自分たちの領分で何とか出来そうである。再び事務所へ戻って昼食を摂ったあと簡単な打ち合わせを行って、15時頃一旦事務所を辞する。このままどこかへ(できれば電脳街へ)情報収集に行きたかったのだが、18時から所長と夕食をご一緒することになっているのでそうも行かない。工事の際などに足りない物品があったりすると買出しに行く必要があるので、この情報収集が結構重要なのである。本当は水泳マニアの筆者としてはホテル屋上のプールで一泳ぎしたかったのだが、外は南国特有のすごい豪雨で、激しい雷も鳴っているのでそれも叶わない。しかたなく資料の整理やレビューをしていたらあっという間に時間になってしまったので、言いつけ通りに本社の人達とホテルのロビーで迎えを待っていると、事務所の皆さんがバンで迎えに来て、ホテル近くの梅子(めいつー)という台湾料理店に連れて行っていただいた。店内に案内されて円卓に座り、最初に小さなお猪口が配られて、それに老酒が注がれると、乾杯してせーのでそれを飲み干す。ちょ、ちょっと待ってよ、アルコールはNGなんだってばと思ったが、その場の流れには逆らえない。仕方なく飲み干すが更に追い討ちをかけるように、お客さんはもてなす側一人一人とこの方式で杯を交わさねばならないという。しかも、食事中でも目があったら即、この乾杯を交わすのが礼儀だそうだ。途中で事情を話してそれ以上は勘弁してもらったが、円卓なので顔をあげると目が合いそうで、終始伏せ目で食事をすることになってしまった。食事の内容は全編これ台湾料理という感じで、蛤のスープ、ゆで蟹、その蟹の食べた残りを炊き込んだ炊き込み御飯、ビーフン、海老、小龍包、デザートにパパイヤと、龍眼とか亀プリンとか言われている黒砂糖風味のゼリーみたいなものなど盛り沢山である。また、デザートとして杏仁豆腐も出され、これでフランス出張依頼の懸案だった「杏仁豆腐南方中華説」が実証されたわけである。それから、忘れちゃいけない台湾名物「からすみ」。以前長崎で食べたときはそれほどおいしいとも思わなかったのだが、今回薄くスライスしてあるのをねぎと一緒に食べると結構いける。めったに口に入らない高級料理だからと、10切れ近くぱくついてしまった。しかし前半の乾杯攻撃が効いて途中から気分が悪くなり、料理全体をあまり堪能できなかったのが残念である。台湾の人がもてなす場合は、全部平らげると足りなかったのかと心配し、沢山残すとおいしくないのかと心配するということで、もてなされるほうもなかなか気を使うのが難しい。おなか一杯になったのと少々気分も悪くなったので、速攻で帰りたかったのだが、2次会へ行く組とは別に、事務所のOさんが電脳街へ連れて行ってくれるということで、早速それに乗った。

行き先は日本でも有名な八徳路(ぱーとぅーるー)である。最近はオウム真理教関連のPCショップの仕入れ先としても有名である。行く道々、道端で小さなナッツみたいなものを売っている屋台が沢山出ていた。これはビンロウと言って覚醒作用のある椰子科の赤い実で、台湾の人達はこれをガムみたいに噛んで道端にペッと吐き出すので、そこかしこにカスが落ちている。試してみないかと勧められたが、食べなくて良かった。99年7月10日付の朝日新聞に、このビンロウは口腔癌になる危険性が高いと言うことで台北市当局が禁止することになったという記事が出ていたのである。さて八徳路に着いてみると、なるほど秋葉原のように非常に小さな間口の店が多数並んでおり、さまざまに雑多なPC関連商品を売っている。但し、最近の秋葉原のようにLaOXやSofmapのような大型店が台頭しているわけではなく、町全体がラジオデパートとでも言うのか、とにかく小さな店がひしめき合っていて、どの店も同じような品揃えである。残念ながら一番店の密集度とバリエーションの豊富な「光華商場」は既に閉店していたので、2〜3件のパーツ店を見て廻って、特に安かったRJ-11の巻き取り敷きモジュラケーブル、小さなジャンパケーブルでRS-232Cのピンアサインを自由に変換できるアダプタ、RS-232Cケーブル数本、9ピン<->25ピン変換アダプタ、RS-232Cコネクタなどを買いこんだ。これらパーツは総じて日本で買う価格の5割〜7割であり安い。レジで「ふぁーぴゃお、ま?(領収書は?)」と聞かれたところを見ると、日本から仕事で買い付けにくる人も多いのだろう。その後Oさんに連れられて、CD-ROM店に行く。品揃えはゲームCD-ROMと怪しいアプリで半分、残りはVideoCDである。これらがいずれも日本円で\1,000円〜\2,000円くらいである。ゲームの大半は日本のCD-ROMゲームの海賊版らしく、中にはパッケージに堂々と「要日文Win95」(日本語版Win95が必要)と書いてある。VideoCDの内容は、洋画(ビデオ未発売のはずのTitanicも既にあった)、香港映画、日本のアニメ、そして日本のアダルトビデオである。特にアダルトビデオの充実ぶりはかなりすごい。しかも3枚セットで\1,000円くらいのものからあるので、レンタルビデオよりお徳である。そんな中、Oさんが面白いものを勧めてくれた。日本に来る前のビビアン・スーが台湾時代に出演してヌードも披露していた「天使心」という映画のVCDである。さっそく一つ買い求める。この頃には、良い買い物が出来てすっかり気分の悪いのも直っていたので、意気揚揚とホテルへ引き上げた。

1998/7/29 Wed.

昨夜の老酒が効いたのか、すっかり起きるのが遅くなってしまった。ここだけの話だが、実は今日はなにかあった時の為の予備日で、昨日までの打ち合わせで不備や問題があったときのためにとっておいた日なので実質フリーなのである。もっとも、昨夜の所長との会食ははずせないイベントで、それが終わってからその日に日本に帰るなんて無理なので、仕方ないのだが。そこで、眠気ざましも兼ねて、念願のホテル屋上のプールへ泳ぎに行く。流石にウイークデイの午前中なので他に客の姿はなく、南国特有のぎらつく太陽の元、貸切での遠泳を満喫する。上がる頃に母親と娘の2人連れがやってきたのでちょっと期待したのだが、おそらく大陸から来たのだろう、恐ろしくカットの角度の緩やかな(殆ど水平!)地味なワンピース水着だったので、がっかりして早々に退散した。

<ホテル屋上のプール>

一旦チェックアウトしたが、出発前に早めの昼食を摂っておいたほうが安心なので、荷物を預けてとりあえずホテル周辺を見て廻る。こんなにのんびりしてていいのかなと一瞬罪悪感が脳裏を過ぎるが、一応来月は工事で一ヶ月ここで暮らすわけだから、生活のための足場固めとして周囲の環境を把握しておかなければと自分に言い訳する。土産も買わなければならないので、ホテルの近くの新光三越(しんごんさんゆえ)へ行く。ここは地元財閥新光グループと、日本の三越の合弁のデパートである。前回行った上海、前々回行ったパリに続き、ここにも三越がある。すごいことである。初めて街中を歩いたが、行き交う若い女性が当時日本でも流行っていた肩出しキャミソールやアニマル柄を着ていて、かなり日本の影響を受けているという印象を持った。そして三越へ着いてびっくり、内部は日本のデパートと殆ど変わらないような感じなのである。ファッションや電化製品、雑貨は勿論のこと、書店も3割くらいは日本の書籍である。何と少年ジャンプまである。また、CDショップは半分くらいが日本のアーティストのCDで、しかも安い、アルバムは\1,000くらいである。台湾へ行く直前にB'zのPleasureを日本で買っていたのだが、これも\1,000であったのでちょっとがっかりしてしまった。また、日本で売っていないような、シングルだけを集めてアルバム風にまとめた「単曲集」なるものも売られていて、結構お買い得のようである。音楽CD何枚かと、EvaのTVシリーズ1話のVCD、それから知人に頼まれていたBlack BiscutsのTimingの台湾歌詞バージョンのシングルCD(何故かシングルは\800円と、日本とあまり変わらない)を2枚購入する。ビビアン・スーの属するBlack Biscutsは、地元台湾でも「黒色米餅」の名前ですごい人気であり、「時期」(Timing)は平台の目立つところに山積されていた。日本文化進出の極めつけとして、三越の催し物会場で「くれよんしんちゃん」のイベントがあっていたことを付け加えておく。次に三越に来た時はもっとすごいことになっていたのだが、それはまた別の話。

<「くれよんしんちゃん」の看板>

時間もなくなってきたので昼食を摂らなければならないのだが、三越で時間を食いすぎてしまったために手っ取り早くマクドナルドに行く。何を食べるか、というよりどこで食べるかに毎回頭を悩ませていた大陸とは全く異なり、資本主義の浸透している台湾では、多数のファーストフード店やコンビニがブロック毎に存在しており、ちょっと歩けば気軽に食事にありつける。実にありがたいことである。ファーストフードは、マクドナルド、ロッテリア、モスバーガー、吉野家などが、コンビニはローソン、セブンイレブン、ファミリーマートなどがあった。コンビニはそのものずばり便利商店、ファミリーマートは全家便利商店である。分かりやすいなぁ。コンビニの店内にはさまざま商品が並び、日本のお菓子なども結構並べられている。ウィダーインゼリーが\150円と、日本で買うより\50円も安かったので、2回目の滞在のときはかなり買いこんで栄養補給に愛用させてもらった。

<ウイダーインゼリー台湾バージョン>

(一見日本版と同じだが裏は中文)

また、コンビニによっては店内に犬が寝ている店もある。最初のうちは入ってみてギョッとしていたが、実は台湾では犬は商売繁盛のマスコットみたいなもので、多くの店が店頭で犬を買っているそうだ。日本の招き猫みたいなものか。セブンイレブンには日本と同じくおでんも販売されていたが、おとなしくその傍で寝そべっている。おりこうさんである。ファーストフードやコンビニのみならず、色々な店が軒を並べて看板を出しており、夜ともなるとネオンサインがきらびやかで、しかも日系企業の大きな看板が多いため日本に居るかと錯覚してしまうほどである。やっぱり資本主義の国はいいなぁ。

<マクドナルド>

<ロッテリア>

<モスバーガー>

食事を済ませてホテルに戻り、預けていた荷物をピックアップしてタクシーで空港へ向かい、行きと同じCathay Pacificのカウンターでチェックインする。何とおいしいことに帰りもビジネスクラスへアップグレードしてもらえた。出国審査も難なくクリアし、期待せずに免税店を見て廻るが、聞いていたとおりブランド物は安くない。適当に会社へのお土産のお菓子を買って機上の人となり、ゆったりしたシートと料理を満喫して帰国した。総じて良い出張だったといえるが、次に行くときの本番の工事の苦難の数々を考えると嬉しさも半分というところか。

To Be Continued.


Written by Y1K