Kilimanjaroの気象
Weather of Kilimanjaro

1.キリマンジャロ周辺の気象概況

キリマンジャロはアフリカ中部のほぼ赤道直下(南緯3度04分東経37度21分)にあり、麓から標高5895mの山頂に至るまで、熱帯気候の熱帯雨林やサバナから、地球温暖化の影響で年々縮小しているが巨大な氷河が見られる頂上付近の氷雪まで気候が変化する

右図はFAOとAGROMETの資料を基に作られた区分図(14区分)によるキリマンジャロ周辺部のケッペンの気候区分である。(クリックすると拡大図が出ます) 麓はアフリカ中部の大部分を占める熱帯であり、その中でも雨季と乾季があるサバナ気候(Aw、図のピンクの部分)に属する。ナイロビから登山口に移動する途中、ケニア・タンザニア国境付近が乾燥地帯のステップ気候(Bs、オレンジの部分)の地域を通る。

キリマンジャロ周辺の気候として、ケニアのナイロビ(標高約1600m)、登山口のマラングと同じ1500mに位置し少し西にあるムウェカの月間降水量と気温を示す。ムウェカの気温は不明であるが、標高がほぼ同じなのでナイロビと同等と見ていいと思う。ナイロビ、ムウェカとも雨季と乾季がはっきりしているサバナ気候であり、3月から5月が大雨季、10月から12月が小雨季となっている。キリマンジャロ登山にベストのシーズンは、1月、2月、9月であり、それに続いて7月、8月、12月もよい。

尚、サバナ気候の雨季と乾季は次のメカニズムでできる。地球の南北方向の循環(大規模な大気の流れ)に赤道から順番に、ハドレー循環、フェレル循環、極循環の3つがある。赤道付近でハドレー循環が収束して(風が集まって)上昇流ができ雲ができやすい熱帯収束帯(ITCZ)が形成され、ハドレー循環とフェレル循環が出会うところ(緯度20〜30度)は反対に下降流となっていて亜熱帯高圧帯を形成している。地球の自転軸の傾きの関係で、赤道付近の地域であれば、春・秋は熱帯収束帯に入るため雨が多く雨季、夏・冬は亜熱帯高圧帯に入るため乾燥し乾季となる。キリマンジャロ周辺は赤道の少し南にあるため、春が大雨季、秋が小雨季となる。

出典 ナイロビ:気象庁HP 1971-2000年平均データ
    ムウェカ:AFRICAN WILDLIFE FOUNDATION 1980-1986平均データ
          (近年は地球温暖化の影響により、もっと降水量が少ないかもしれない)
    名古屋:気象庁HP 1891-2006年のデータを平均

 
2.キリマンジャロの気象


キリマンジャロ登山道の植生・気候としては、大きく5つに分けることができる。
  標高 気候 年間降水量 マラングルート上の位置
@低地 800-1800m サバナ気候 500-1800mm 〜マラングゲート
A樹林 1800-2800m 熱帯雨林気候 2000mm マラングゲート〜マンダラハット
B荒地 2800-4000m 温帯〜亜寒帯気候 1000mm マンダラハット〜ラストウォーター
C高地砂漠 4000-5000m 寒帯気候(高山気候) 250mm ラストウォーター〜キボハット
D頂上 5000m以上 氷雪気候(高山気候) 100mm以下 キボハット〜頂上
        (出展 AFRICAN WILDLIFE FOUNDATION)

キボ峰とマウェンジ峰の鞍部サドルには、日射による地面の温度差で起きる谷風の上昇流が収束するため、上昇流が強くなり地形性の降雨が発生しやすいようだ。たとえ日射がなくても、南東貿易風の流入があれば、鞍部に風が収束するため、やはりサドル周辺は天気が崩れやすい。しかし、サドルは4000mを超える高地のため、大気中に含みえる水分量が少なくなるので、強い降雨(降雪)になることはないと思われる。

ちなみに、高地で大気が乾燥しているのは、高度に従って気温が下がるため飽和蒸気圧が低下し水蒸気が凝結して水(雲⇒雨、雪)になるので水蒸気量が少なくなるからである。要するに仮に相対湿度(=蒸気圧/飽和水蒸気圧)が同じでも、低温のため飽和水蒸気圧が低下、すなわち大気中に含みえる水分量が低下するので、水分量(=蒸気圧)が少なくなり、大気は乾燥するのである。

この事実は高山病予防の重要なポイントの一つである『水分補給』につながる。乾燥大気のため、呼気から水分が消失し脱水症状になり、血液の粘度が上昇する結果、酸素の循環が悪くなり高山病が悪化する。意識的に水分を補給して、せっせと排尿するのがよい。排尿回数が減るのは危険信号と思っていい。

キリマンジャロは、南緯3度と赤道に非常に近いのでコリオリの力が弱く、渦の原動力が小さいため、中緯度の温帯地域のように低気圧、高気圧ができず、大気の温度差(=密度差)による高圧部、低圧部ができるのみと考えられる。従って、天気が崩れる要因としては、日射か南東貿易風かであるが、後者の南東貿易風は2006年12月〜2007年1月までの2ヶ月間、850hPa(1500m)の下層風をウォッチした限りはキリマンジャロ周辺ではそれほど顕著ではなく、残るは日射の影響によるものであるが、前述の通り高地では含みえる水分量が減るため、サドルまでで雨となってしまい、それより上での降雨・降雪は稀であると思われる。

気温は、一般的な気温減率-6.5℃/kmにて計算すると、4000mで(下界−26)℃、キリマンジャロ最高点の5895mで(下界−38.3)℃となり、ナイロビ(1600m)で20℃ならば最高点で-7.9℃、ナイロビ15℃なら最高点で-12.9℃となる計算である。ただし、これは地面からの長波放射(全て赤外線)がないとした場合の話で、太陽が昇る前はそうだが太陽が出た後は太陽の短波放射(可視光線+赤外線)により地面が温まるため、温まった地面からの長波放射により、気温はもっと上昇する。いずれにしても、頂上アタック日は真夜中なので、-10℃以下を覚悟して暖かい服装をしていたほうがよさそうである。

3.06年末のキリマンジャロ気象解析

旅行社の情報によると、06年末から07年始にかけて降雪があり、キリマンジャロは冬山のようだったとのことです。特に12/28には吹雪となり、現地ガイドが道を見失うほどで、ギルマンズポイントから先の登頂を断念したほどだったらしい。CNNが提供している天気図によると、06.12.22〜07.01.16の間、タンザニアの南東に位置するマダガスカル島にサイクロン(アジアの台風に相当)が停滞し、周辺地域に悪天をもたらしたようです。詳細は、キリマンジャロ(不)登頂記:kenpuさんの旅行ブログ参照。

当日の高層天気図を解析すると、例年の如く吹く北東の貿易風の他に、西から暖湿気を帯びた風が流入しており、キリマンジャロ付近で収束しているように見える。恐らく、これが極めて珍しい頂上付近での大量の積雪をもたらした原因と思われる。つまり、キリマンジャロ南面に熱帯収束帯の高温高湿の西風が吹き付け、ハドレー循環に伴う北東貿易風との間で収束を起こし活発な対流雲が発生して、近年にない吹雪の悪天となったようである。『横なぐりの吹雪』という証言が、両側からの風を裏付けていると思われる。

なぜこの時期に西風が吹いたのか、はっきりしないが、推定として、@マダガスカル北東のサイクロンが西風を引き込んだ。Aよく見るとアフリカ西海岸にも低気圧性の循環があり、これが西風を送り込んだ、ということが考えられると思う。いずれにしろ、頂上付近が吹雪になるほどの現象は、極めてまれと考えます。

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