八久和の夏

− 山形県 八久和川 −



 ついに夏休みがとれた!!
でも正確にいうと休みをとったのではなく、ずっと忙しかった仕事がちょうどが谷間になり、
会社にいても仕事が無いなら有給を使って順番に休めという業務命令に近いものだったのだが...
本当に会社とは勝手なものだと思ってしまう。(^^;
それでも私にとっては夏にまとまった休みがとれたのは実に四年振りになる。
夏にまとまった休みがとれたら北アルプス、北陸、東北といった本格的な渓に行ってみたいと常々思っていた。
しかし、それも思っているだけで終わっており、この三年間は夏だからといって特に遠出するということもなく、
なんとなくさみしさを感じながらもホームである山梨県を中心に土日を使っていつものように釣り歩くだけであった。
最近ではそれが当たり前になりつつあり、夢に見ていた渓への想いも忘れかけていたというのが正直なところである。(^^;
ところが休みがとれることに決まってからは「よし、遠征だ!」と妙にやる気が出てきた。
久しぶりに冒険心をかきたてるようなわくわくした気持ちがよみがえってきたのである。ちょっと大袈裟かな?(^^;
それにしてもずっと休みがもらえなかったことなどすっかり忘れ「会社よありがとう!」と感謝している自分がちょっと情けなかった。(^^;

 さて釣行場所であるが、もちろん候補はたくさんあったのだが、せっかくなのできるだけ遠くに行きたかった。
夏といえば当然イワナである。それにやっぱり大物のいる渓がいい。
ということで以前より行きたいと思っていた渓の中から八久和川に行くことに決めた。
休みは直前になって決まった為、これから情報を収集してじっくり考えて場所を決めるというわけにもいかなかった。
その点で八久和川は有名河川というこもあり、雑誌などの記事で見たり
実際に釣行した人達からも話しを聞いていたのであまり迷わずここに決まったのである。


【7月26日】 1日目

 休みは7月25日からであった。
やる気になっていたわりには休みの前日になっても何一つ準備してなかった。(^^;
しかも、今年はテント泊をまだ一度もやっていない。
装備などは全て部屋の押し入れに投げ込まれたままで、どうなっているのか全くわからない状態だった。
買い出しやら装備の点検などを1日かけて行い、準備が終わった頃にはすっかり夜になってしまった。
東北方面の天気予報を気にしながら出発を翌日にするかどうするか迷ったが、
貴重な休みを2日も無駄にするのはもったいなかったので、そのまま直ぐに出かけることにした。
目標は高く「目指せ八久和の潜水艦!」である。 ←これってお約束なんでしょ?(笑)
ということで期待を胸に21時半に自宅を出発したのである。
今回は単独釣行なので行動は自由だが、とりあえず3泊4日という予定にした。

 東北自動車道に入ってしばらく行くと雨が降ってきて、時折、強く降ったりしたが
西那須野塩原を通過するともう雨が降った様子もなく雲の切れ間から月が時々顔を出すようになった。
そして山形自動車道に入ると濃霧で視界が悪くなったが、
笹谷トンネルを抜けると嘘のように霧が晴れて目の前に月が飛び込んできた。
山形市内の夜景も見える。「ついにきたぞ〜っ!」ちょっと感動的な瞬間であった。

山形1  西川インターで降りてからは地図を確認しながら行く。
そして大井沢の広場に2時半過ぎに到着した。
てっきり着くのは明るくなってからだと思っていたが、
予想以上に早く着いてしまったのでこれにはちょっと驚いてしまった。
自宅からだと5時間ちょっと。近いんじゃん!山形!(笑)
本当にその気になりさえすればいつでも来れそうな感じである。(^^;

 広場には既に2台の車(宮城、山形ナンバー)が止まっていて人はいなかった。
「釣りだな...」そう思った。これは釣り師の直感である。(笑)
でも平日ではあるが登山者なんかも含めて人はもっといるのかと思っていただけに少し意外だった。
月はすっきりせず、ぼやっと光っている感じだが月明かりで辺りは明るい。
不思議な月の表情にちょっと見とれてしまうが、後から人が来ると嫌なのでさっさと出発の準備にとりかかる。 この辺はやはり釣り師の性だろうか?(^^;
準備を終えるといつもならヘッドライトをつけてすぐに出発するところだが、
初めてのところだし、結局、明るくなるのを待つことにした。


 明るくなってくると山々もだんだんはっきりと見えてくる。
あのずっと上まで登るのか...などと思いながらも、とりあえず天気が良さそうで安心である。
「さて出発だ!」とばかりにザックを担ぐとガックリくる。
ちなみにザックの重さは22kgオーバーである。やっぱり重いよ...(^^;
今回は3泊4日の予定だが念の為に食料は少し多めに持ってきている。
それに途中に水場があるかどうかもわからなかったので水も多め入れてあった。
また私はこれまで山越えをする場合でも軽量化の為にいつも渓流シューズで歩いていたが、
万一、足の指先でも痛めてしまったらせっかくの釣行がだいなしだと思い今回はトレッキングシューズにしている。
この辺が荷物を重くしている要因であった。(^^;

山形2  やれやれと思いながら林道を歩き始めるとすぐに林道終点になる。
ここにはバイクが1台止まっていた。
もしかしてこれも釣りか? でも山越えの装備でバイクでくるか?
などと推理したりする。 この辺もやはり釣り師の性なのだろうか?(^^;
ここから登山道に入るが、入口には何の案内も無い。
こっちでいいんだよな? ちょっと途惑いながら進んでいく。
すぐに登山道は急な登り坂になった。
まだ森の中は薄暗いのでゆっくりと道を確認しながら歩いていく。
少し行くと道は平坦になりしばらく歩くのは楽だったが、
急に霧が出てきて森の中はちょっと薄気味悪い雰囲気になってきた。
更にしばらく行くと登山道は尾根筋に移って急な登りになり、さすがにきつくなってくるが
「あわてることはない。時間はたっぷりある。」と自分に言い聞かせながらゆっくり登っていった。
それにしても深い霧でまわりの景色は何も見えない。
というか今にも雨でも降ってきそうな雰囲気である。
いったいどうしちゃったの?(^^;


山形3  時々、休みをとりながら高度をかせいでいくとだんだん空が明るくなってきた。
しばらくすると急に青空が広がった。霧の上はちゃんと晴れていたのである。

 その後も延々と急な登りが続きなかなか疲れる。(^^;
「水が足りるかな?」と少し心配になってきた頃、途中、登山道が尾根からそれて小沢を渡る所があった。
あまり地図をよく見ていなかったので登山道はずっと尾根筋だと思っていたが水場はちゃんとあったのである。
ここで水の補充を行なうことができ一安心する。


山形4  道がまた尾根に復帰するとまたしばらく平坦になり歩きやすくなる。
しかし、この辺で体の方はだんだん疲れてきていた。
確かに泊りでの釣行は今年初めてだがそれにしてもおかしい。
やけに息が切れるし、休むと眠くなってしまう始末である。
というか30分ぐらい寝てしまった。(^^;
寝ていないのが原因なのか、とにかくあまり調子が良くないというのは自分でもはっきりわかった。


山形5  それでもそんなことはたいしたことではない。
イワナのためならこれぐらいの疲れも我慢我慢である。
高度が上がったせいか、次第に景色の良い所なども出てくる。
時折、見える周囲の山々を楽しみながらゆっくりしたペースで歩き続ける。
それからここの登山道だが、水はけが悪い感じでぬかるんでいる所などが結構あり、本当に歩きづらくて嫌になる。(^^;


山形6  やがて稜線近しの雰囲気になってくるのだが、
いつまでたってもなかなかたどり着かない。
稜線はまだか...まだなの? ねぇ、まぁ〜だ〜?
本当にそんな感じであった。(^^;


山形7  すると突然、開けた場所に出る。
「やっと稜線か?」と思ったのだがそこは雨量観測所のある場所だった。
無情にも登山道は目の前の山を登っているのが見える。
おいおい、まだ登るの? もうかんべんしてよ。(^^;
どっと疲れが出てしまい休憩をとるが辺りにはもう高い木々は無く、
直射日光が容赦なく照りつける。
暑い...めちゃくちゃ暑い。(^^;
ちっとも休んでいる気にならないのである。
「こりゃたまらん!」ということでさっさと出発する。(^^;


山形8  目の前の山にとりつくが、道は雨で削られ深い溝になっていた。
そのまま普通には歩けないので溝をまたぎなが登っていくのだが、
これがまた疲れた。本当に最後のトドメってヤツだったかも。(^^;
それでも登りきって道が平坦になると、いよいよ朝日連邦の山々が見えてくる。
所々に雪の残る山々はじつにゆったりしていた。


山形9  すぐに天狗小屋が見えてきた。
天狗小屋は稜線から少し下ったところにポツンと建っていた。
小屋の上にはまだ雪が残ってる。
後で釣り師に聞いた話しだがこの雪が消えてしまうと、水が無くなってしまうこともあるそうだ。
とは言っても少し下れば水は出てくるみたいである。


山形10  この先、雪が少し残っているところなどもあり、道はあまりよくなかった。
それでも歩いてようやく稜線の登山道に合流した。
稜線伝いに行くと天狗小屋がだんだん近づいてくる。
近くまでくると天狗小屋は2階建ての新しく立派な建物であることがわかった。
最近、新しく建てなおされたと聞いた。
もちろん天狗小屋にはぜひ寄ってみたいと思っていたのだが、
降りてからまた登るのが大変そうなのできっぱりあきらめることにした。(^^;


山形11  そしてようやくウツボ峰への分岐点。
そういえば稜線に出るまで案内などの標識はひとつも無かった。
距離や時間が全くわからないというのはなかなか辛い。(^^;
それにここまで誰とも会わなかった。
やはり人の多い東京近辺の山とは違うんだなという感じがした。


山形12  ちょっと登ると360℃の景色が広がった。
ここからは朝日連邦の山々を見渡すことができた。
目の前の谷はもちろん八久和川である。
西俣沢と中俣沢もはっきりわかる。
そして、ちょうど足元に入っている沢がウシ沢である。
ウシ沢下降が近いという話しも聞いていたので頭には入れてあったのだが、
ひどいヤブでいったいどこから下降していいのやら検討もつかない。(^^;
もうずいぶん疲れていたのでヤブこぎをする気もなく
登山道を岩屋沢に向かって降りることにした。
自分で言うのもなんだがこれは賢明な選択だったと思う。(^^;


 登山道をしばらく降りていくとまた木々が出てくる。ようやく日蔭が出てきたので大休憩をとる。
しばらく休んでいると下から人が登ってきた。挨拶をして話しをすると八久和川で釣りをやってきたとのこと。
「どの辺まで入ったんですか?」と聞くとオツボ沢までだという。
ずいぶん近い...これは意外な答えだった。
理由を聞いてみるとオツボ沢出合いのゴルジュが巻けなかったらしい。
踏み跡は確認できたがどうしても下降点が見つからなかったそうだ。
「恐かったのであきらめましたよ」と言っていた。
結局、釣ったのは岩屋沢からオツボ沢で大きいのは出なかったということだった。
「上までもう少しですよ」と私が教えてあげると元気が出たのかその人は張りきって登っていった。
う〜ん、それにしても山越えでくるような気合いの入った人でも突破できない場所があるとは...
八久和川はそんなに難しい所なのか?(汗) 話しを聞いてちょっとびびってしまった。(^^;
でも行ってみなきゃどんなことかわかんないし、今から心配しても仕方がないのである。

山形13  下り道はかなり急でこれまた疲れた。
滑らないように注意しながら慎重に降りていく。
下りになったので少しは楽になるかと思ったのだがあまり変わらない感じだった。
それにしても直射日光にあたっての稜線歩きがかなりきいたような気がする。
せめて頭にタオルぐらい巻いて歩くんだったと後悔した。(^^;
ゆっくりゆっくり降りていくと途中で八久和川の流れが遠くに見えた。
遠くから見る限りとても穏やかに流れているような感じである。


山形14  どれぐらい歩いただろうか。
だんだん水の音も大きくなりやっと流れが目の前に現れた。
ついにきた! あれが八久和かっ!
すげ〜 かっこいい!(爆)
この時ばかりは本当に喜んでしまった。(^^;


山形15  あせる気持ちを押さえながら降りて行くと青いシートが目に入った。
あれ? 誰かいるのか!?
途中で会った釣り師からは誰もいないということだったが...
降りてみるとちょうどそこは岩屋沢のテン場だった。
誰もいなかったのだが青いシートは張りっぱなしにされていた。
しかもテン場には水汲み用のタンクがあり、米までデポされてるではないか。(^^;
さすがにテン場はずいぶん使い込まれている感じである。
ここ数日間は人が使った気配は無かったので、途中で会った人はどこか別のとこに泊ったみたいだ。
テン場は高台にあり、増水の心配は全くない。
しかもすぐ横は岩屋沢で水にも困らないし、本当に絶好のテン場である。
ここまでくるのに8時間以上かかってしまったがまだ昼過ぎである。
今日の予定は広河原まで行こうと思っていたのだが、
すっかりここが気に入ってしまいここをベースにすることにした。
シートを固定してあったロープは一部切れていたので持参のロープで張り直す。
「もうちょっと綺麗に使えないのかなぁ」と思いながら目立っていたゴミを集める。
そして設営を終え、やっと落ち着いたのだった。


山形16  あらためて八久和川の流れを見るがやけに水量が多い。
というか多すぎである。(^^; 高台のテン場から見てもそれがはっきりわかる。
この辺はずいぶん上流になるので、水量もそれほどではないと思っていただけにさすがにちょっと驚いた。
この様子だと遡行も苦労しそうである。(^^;
そんなことを考えたが、でもまだ時間もたっぷりあるし、目の前に川があればやることは決まっている。
とりあえず飯を食べたら早速、竿を出してみることにした。(^^)
ところが飯を作りながらつい酒を飲んでしまい、そのままつい宴会モードに入ってしまった。  「楽しみは明日にとっておこう!」などと余裕をかまし、結局、その日は釣りをすることはなかったのである。(^^;
酔いがまわったのと疲れから、まだ明るい6時前に寝てしまった。


 寝ていたらガサガサと音がしてはっと目が覚めた。なんだろう? 獣かな?
それともクマでも出たのか?(汗) しばらく静かにしていたがもう音はしなかった。
時計を見るとまだ真夜中の12時である。
恐る恐るテントの外に出てみると月が実に綺麗に光っていた。
私はタバコをふかしながらしばらく月を眺めた。
明日も天気がよさそうだし、何事もなかったのに安心したのかまたすぐ眠りについたのである。

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