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引っ越しをするスズメバチ


キイロスズメバチとモンスズメバチの2種は,初期の巣(元の巣)を閉鎖空間に作りますが,働きバチの羽化後営巣場所が手狭になると,より広い場所を求めて引っ越しをする習性があります.ただし,天井裏などの広い閉鎖空間に営巣した場合は,引っ越しをすることなく,そのまま営巣活動を継続します.また,この2種のハチに社会寄生するチャイロスズメバチも引っ越しをする習性があります.

引っ越しの時期は7月〜8月で,キイロスズメバチの場合,働きバチが建物内に入り込んだり,営巣候補地に集団を作ったりして時々相談が寄せられます.営巣場所が決定すると,多数の働きバチが一斉に巣作りに参加するため,今まで何も無かった場所に急に巣ができて驚かされることがあります.軒下などの開放空間に作られる巣は全て引越後の巣です.

元の巣は新巣から数m〜数十m程度の距離にある場合が多く,引っ越しの時期に新しくできた巣を取り除いても,元の巣から飛来した働きバチによって何度も巣が再建されることがあります.働きバチは,全ての幼虫が羽化するまでの1ヶ月間位,新らしい巣と元の巣の間を行き来して子育てを行い,全てのハチが羽化すると新らしい巣に移動します.再営巣を防ぐためには,元の巣を見つけ出して一緒に取り除く必要があります.以下に典型的な相談事例を紹介します.


1ヶ月間に次々と3回も巣を作られました.駆除(1度目は業者に頼み,2度目は自分で駆除)すると別の場所に作るといったイタチゴッコです.昨日駆除したら,今日また近くに巣を作り始めました.昼間は20匹位がひしめき合って巣の土台をつくっていますが,夜になると4〜5匹が残っているだけです.営巣場所は2階のベランダの屋根です.(原文のまま)


元の巣からやってきた働きバチによって何度も巣が再建されていることが分かります.夜間には元の巣へ帰る個体もあり,巣に止まる働きバチの数が減る様子も観察されています.次に2003年に経験した典型的な再営巣事例について少し詳しく見てみましょう.



7月17日に1回目の巣の除去を実施しました.巣は3層の巣盤からなり,育房数は252個,成虫数は37頭でした.営巣場所や巣の状況から,引っ越し後の巣であることが確認でたので,元の巣も探すように担当者に伝えましたが,発見できませんでした.3日後の7月20日に現地調査を実施した際には,10個程度の育房と数頭の働きバチが確認されたのみでした.

その後,再度巣の除去依頼があり,1回目から12日後の7月29日に,2回目の巣の除去を実施しました.この時には巣盤数3層,育房数314個,成虫数7と,1回目よりも規模が大きく,元の巣で羽化した多数の働きバチが新しい巣にやってきたことが分かります.

さらに23日後の8月21日に3回目の巣の除去を実施しましたが,巣盤数2層,育房数162個,成虫数18頭と前回よりは小規模の巣でした.これ以後除去依頼はなく,その後の現地調査でも営巣は確認されませんでした.

この事例から分かるように,引っ越しは1ヶ月以上に亘って行われます.元の巣で羽化した働きバチが次々と新しい巣にやってきますから,元の巣を探し出して同時に巣を取り除く必要があります.


7月20日(1回目の除去から3日後) 7月29日(2回目の除去) 8月21日(3回目の除去)

2008年7月19日に,新潟県弥彦村で22人がスズメバチに刺される被害が発生しました.TVニュースの画像から間違いなくキイロスズメバチであることが確認できました.新聞記事の内容から,引っ越しに伴うものであることが分かります.


トンネル入り口付近の天井(高さ約3メートル)に,スズメバチのものとみられる巣( 直径約10センチ)があるのを駆けつけた村職員が発見,駆除した.巣は 数日前に公園の管理人が駆除したばかりだった.(毎日新聞の記事より一部を抜粋)